転生愉悦部の徒然日記 作:零課
無事にカルデアに生還できたカルデアメンバーを待っていたのは生き残ったカルデア職員からの称賛だった。
素人で魔術の魔の字も知らなかったような藤丸がマシュ、キャスターの二騎を率いて戦い抜き、訓練もレクチャーもなしに見事な指示でアーサー王を倒す一手を放つ。
逆上がりすら出来なかった運動音痴のマシュが英霊として勇敢に戦い抜き、あのアーサー王にすらも毅然と立ち向かってエクスカリバーすらも受け止めて切ってみせる。
英霊の扱い方が非効率、レイシフト適正の低さから冷や飯を食わされていた元は的確な指示で皆の支えとなり無茶なレイシフトで消耗した身体でありながら気絶するまで助け続けた。
オルガマリーもまだ右も左もわからずに一人で地獄に放り投げられ、混乱しつつも所長として振る舞うことを忘れず、最後はキャスターの補助で自身も戦い、失った肉体を取り戻して生還を果たす。
華奈は英霊としての正体、銃も刀も自由に扱い、皆の支えをして最後には爆破テロの元凶を打ち取り、所長が生還するための手段を教えてレイシフトした一行を無事にカルデアに帰還させる。
混乱の中で始まった偵察から一気に特異点を攻略。しかもその探索も満足なサポートが受けられない状況でありながら誰ひとり死ぬことがないという快挙。
そしてこれらを助けた英霊というかつて世界で暴れた英雄たちの超越した力。これを使い魔と見下して行使しようと考えていた面々は肝を冷やすと同時に考えを改め、素直にその力の危険さ、彼らもまた一人の人間だと考えるようになった。
何せ、生きた英霊が十年もカルデアにいてふざけた財政手腕を振るう。しかも本来は武官であるはずの人間がだ。武力以外の経験もないわけではないことを思い知る。
クラスに関する認識もセイバーに比べたら貧弱と思っていたキャスター、アサシンもその恐ろしさ、強さを見たことで認識不足を痛感したのだろう。
そんな意識の変革のきっかけ、このカルデアに降り掛かった災厄を払い除けたメンバーは・・・
「ZZZ・・・・・・・・」
「所長! しっかりしてくださーい! 所長ー!」
「ストーム、どうしますこれ?」
「大丈夫だろこれくらい。お嬢ちゃんは少し仮眠をとっただけだ」
「・・・・・・・・・」
気絶、爆睡、医療必死の患者、この状況に慌てふためく、死体ぶら下げてこの状況に少し麻痺とグダグダな様子だった。
「お帰り皆! まさか一回の調査でここまでするなんて・・・? あれ・・・? あの、大丈夫かい・・・・? ああ、所長が泡吹いている!? な、何を見たって・・・!うぁわああああ! 人の腕だあ!!!!」
そのメンバーを労い、メディカルチェックと休憩を言い渡そうとしに来たロマニはその光景に驚き、更に華奈が持ち帰っていたレフの死体を見て更に驚くことに。
「あ~・・・・・・・もう。取り敢えず気絶、就寝しているオルガマリー様、藤丸様はメディカルチェック、休憩のために医務室に。マシュ様も同行して休息と待機を。で、ロマン様はその処置を。後で話がありますのでダ・ヴィンチ様も呼ぶように」
取りあえずは称賛を受けるよりも労いと休息をという指示を頭をかきながら伝える華奈。疲れが溜まっているのは事実。それに今は何よりも重要な懸念を伝えなかればいけなかった。
「はぁ・・・これで大丈夫だ。うん、取り敢えず皆異常がない。元君も極度の疲労だけだし、数日で目を覚ます。これは大丈夫・・・で、早速なんだけど・・・」
「カルデアをめちゃくちゃにした黒幕をああも愉快な方法で倒したのはいいけどさ―、まさかその死体を持ってくるなんて思わなかった。って所かい? 私も同感だ。ネクロフィリアでもないだろう?」
戻ってきた面々の医療チェックを済まし、人払いを済ませたところでロマニ、ダ・ヴィンチを医務室の一角に呼びつけ、更には万が一に備えた霊薬をこしらえたメディア、ストーム1も加えての密会。敵の死体を持ち帰ってくるといういきなりの行動、それに怪訝な顔を浮かべるロマニ、ダ・ヴィンチの両名だがそれを意にも止めずに持ってきたレフの死体を手術用のベッドに寝かせる。
「メディア様・・・ストーム」
「この部屋にも何重にも結界は貼っているわ。それに貴女の刀が封じている。魂も術式もないからもうそれはただの肉塊よ。断言する」
「何時でも暴れられる。ま、どーんと構えてな」
頼もしい二人の声を貰い、包みを外してレフの死体を明かりのもとに晒す。それを見たロマニたちは思わず息を呑む。
人の形はしている。だが、ところどころ出ている人の体の一部とは思えないパーツ。それに封印、魂や魔術の行使も完全に塞がれて後から罠も仕掛けられない、仕込んでいた魔術の痕跡もない。もうただの肉塊なのはロマニ、ダ・ヴィンチも確信できるが、その回路、魔力の痕跡から理解できる。これは人のものではない。別の、そう・・・魔神、悪魔。そうとしか形容できないものだと。
「・・・・・・・・・これは、思った以上に強烈なニュースだ。何だい? レフは悪魔だったってことか? 傑作・・・じゃないな・・・興味深いネタだが、これを相手にするというのはいささか危険すぎる」
「いや、あり得ない・・・・・・なんでこんな・・・こんな・・・・嘘だろう・・?」
平静を装うとするが冷や汗を流すダ・ヴィンチ。そして、相手の正体に行き着いたのか頭を抱えてぶつぶつと何かを呟くロマニ。両者の様子が一段落するまで待ち、華奈は口を開く。
「どんなに酷い真実であろうがこれが現実。私がこれを持ってきたのは一つは相手を知るため。そして、もう一つはこれを調べてほしいからです。データを取り、調べ尽くしす。技術者であり、現在のカルデアでは最高ランクの技術者であり責任者のお二人だからこそのお願いです。いいですか? 恐らくですが、これをやらねば私達はこの先も勝てない。勝っても最後で躓くと思っています」
悪魔、魔神だったことはまだいい。ただ、この調査が勝ちをつなぐものになる。それはここにいるかなを除いた全員が理解できなかった。油断をしていたとは言え、華奈、ストーム1の準備であったさりと倒された相手。それを何故くまなく調べることが? といった考えが頭に浮かぶ。
しばらくの静寂の後にその意見に対する答えを見つけ出したメディア、ダ・ヴィンチが聞く。
「レフと同じような輩がまだいるといいたいのかい? 華奈は」
「この悪魔が使い魔、もしくは量産されているといいたいのかしら・・・あの顔、言い方は何度も聞くと考えるのは勘弁したいけど・・・」
「その通り。第一、あれがすべての黒幕ならもう事件は解決。カルデアには爆破の情報を察知した方々の何らかのコンタクト、アクションがあるはず」
「まぁ~それにぃ? もしあれが重鎮、相手の引き出しがあの場所だけなら奴さん血眼になって増援出すだろうよ。けど相手は縮こまって出てこねえのか俺らの帰還にも無反応。その死体を回収も、罠を仕掛けようと活用すらしねえ。ってなるとだ。あれで全ておしまい、そうじゃなきゃあ敵さんはまだ手札を残しているかこっちを兵糧攻めするつもり・・・・・・・そっちでもなんかあったんだろ? 厄介事が」
一度対峙し、討伐してからの敵の反応の薄さ、悪魔と呼べるほどの存在が殺され、聖杯という特異点一つ作って見せるほどの物を取られて尚追手を差し向けずにカルデアに帰ってこれた事実。このことからおおよそアレは敵の威力偵察、いや、斥候にもなるかどうかというくらいの存在だと考えていた。
更には華奈達が爆弾テロに巻き込まれてから特異点で過ごした時間は少なく見積もっても数時間。今の人工衛星からでもカルデアの情報は外部程度なら情報を調べられる、生き残った職員が特異点解決のニュースとその問題などを外に連絡しない、いや一切行っていない。このことから華奈たちも感づいていた。あの騒ぎを引き金になにかが起こっていたと。
その予想はあたっていたようで華奈の予想に青くしていた顔を更に青くしているロマニの重い口からカルデアで観測していた事実が話される。
「カルデアスが真っ赤に染まり、未来・・・観測されない・・・世界・・・いや、人類史そのものが焼き尽くされたという結果が出た・・・・・フラムにも頼んでシバを修復させてみると、その中からいくつかの観測できる部分が見つかった。朧気だけどね・・・」
それを語る表情はとても重く、死刑を待つ罪人。いやそれ異常。心が壊れる寸前まで追い込まれた人間のそれだった。
「反応は先程華奈たちがいた場所、冬木と同じ反応。つまり・・・」
「世界の時代、場所を超えて特異点が観測された。それが相手の余裕でいる根拠であり・・・」
「敵が罠を張って待ち構える拠点でもあるというわけね」
その言葉通りなのだろう。此方を一度見て、泣きそうな目を細め、そらすように顔を横に向けてまた喋りだす。
「今回は冬木という街だけだった。けど、それが今度はどんな場所なのか? 時代なのか? 今回は人がいなかった。けれど今度は人がいる場所にも行くかもしれない、その時代の人が敵になるかもしれない。さっきの冬木よりもひどい状況かもしれない・・・そこに・・・もし、もし戦うというのなら・・・・・・・・・君たちを僕は送り出さないといけない・・・あれ以上の地獄に! 自殺の片道切符を渡すかもしれない指示を出さなきゃいけないかもしれない! 悪魔!? 騎士王!? あんなのを掃いて捨てるほど、痛くも思わない程抱えているような敵と戦わせなきゃいけない!! それが怖いんだ・・・!」
声が詰まり、頭を抱えて机に突っ伏すロマニ。これからの状況に絶望し、どうしようもないと嘆いているのだろう。希望はあるかもしれないが、それも解決するにはレイシフトが出来る人間を送り込んで解決してもらわないといけない。
それは、藤丸、マシュのようなまだ若い彼らにその重責を負わせるということ。他のマスターは皆動けず、正規のマスターは彼らだけ。そんな状況にどうしたらいいのか思考が追いついていないのだろう。何度も同じことをつぶやいては頭をかきむしる。
「更に言うとだ。人類史が焼き尽くされたということはこのカルデア以外全てが焼き払われた。言ってしまえばさっきの冬木のような人っ子一人いない外は死だけの世界。人類は私達を除いて全滅。星の支配者があっという間に絶滅危惧種に早変わりというわけだ。だから外からの応援も補給もない。ここにあるだけのもので我々は戦い抜く、若しくは絶望しながら最後を迎えなければいけない。最悪の二者択一を迫られているわけだ」
「じゃ、カルデアは最後の人類を載せたノアの箱舟。炎に包まれた世界を漂う漂流船ってわけか」
「それがゴーストシップになるか、希望を載せた方舟になるかは私達次第。まさしく壮大な航海、船出。幸いなのは羅針盤が壊れていないこと、と」
補足された事実はさらなる絶望。半壊した施設に人員の補充もなし。あんまりにも手詰まりな状況にメディアは何も言えず、他の世界に現実逃避していたロマニも耳をふさぐ。そんな状況で尚ストーム1、華奈は笑ってみせる。
「その通り。このボロボロな船で狂った歴史、世界に飛び込まなきゃいけない。恐らくこの特異点は過去の歴史を聖杯やレフみたいな奴らで狂わせてこの人類を焼却した世界を継続する楔に準備したものだろう。それをどうに・・・」
「じゃ、行きますか。難しい話は藤丸くんが来たときにでも一緒に話そう。小難しい話だとどーにも子守唄に聞こえてしょうがねえ。要はこのくだらんショーを回って幕を下ろしてやりゃいいだろう? 何時も通りだ」
「私はこの施設の復旧ですね。さーて、頑張らないと。あ、お二人とも解析とデータの件は頼みましたよ? はてさて、へそくりの鍵は何処にしまいましたかねぇ?」
ダ・ヴィンチの話を最後まで聞かずに席を立つ華奈、ストーム1。まるで気負いもない、日常生活を過ごすかのような仕草に、態度にさすがのダ・ヴィンチも固まり、ロマニも我に返る。
「怖くはないのかい!? 聖杯を惜しまず使い! 悪魔や英霊をあったり使い捨てるような相手なんだよ!!? それにもっと恐ろしい戦場になるかもしれないのに・・・」
「この天才でも分からない未知の、狂った世界への戦いだ。それも我々だけの負け戦、詰みも当然のね。ロマニの言うことをそのまんま言うけど、怖くはないのかい? 二人は」
声を張り上げ、押しつぶされそうな自分とは対極的な二人にいくらかの嫉妬、恐怖も交えて半ば八つ当たりに近い態度で叫ぶロマニ。この絶望的状況に動じていないように見える二人のことを頼もしく思うと同時に不思議に思うダ・ヴィンチ。部屋を出ようとしていた二人はその事を聞いて一瞬の間を置いた後に。
「カッコつけるのが大人の仕事です。それにまだ終わったわけじゃないでしょう? 戦い続ける限り決定的な負けにはなりません」
「たしかに怖いさあ。だが俺は危ない目に会えば会うほど口元が緩んでくるんだ」
そう言い残し、明るく笑った後に部屋を出ていく。
「・・・・・・馬鹿な奴らね。あの二人も」
メディアの何処へ向けたのか分からないつぶやきが部屋に響き、少しの時間を置いて何かを叩く音、作業を行う音がなり始めた。
「あ~・・・困りましたねえ・・・そう言えば、損傷状況もそうですが私のしたいことするためにはオルガマリー様の許可も貰わなきゃ・・・勝手にすることもそうですが、テロと思われるのも・・・」
「ほう? まーたなにか考えているのかい?」
部屋から出てこのカルデアを立て直そうと一案を持っていた華奈だったが、早速その許可を取り付ける最高責任者であるオルガマリーが気絶したこと。しかもそれが自分の持ち帰ってきた死体であったことに頭を抱える。
ロマニからの情報に対処するための最低限の準備のためには今すぐ動くことが必須。けれどその手段は今まで以上に許可の重さが違う、その方法のために勝手にできない。やろうものならそれこそ裏切り者扱いされるのがオチと言ったものだった。
現在でオルガマリーに次ぐ責任者のロマニに連絡して動こうか、医務室で寝かされているオルガマリーを起こそうかと考えていると通路の反対側からコツコツと靴が床を叩く音が聞こえてくる。
その音は此方に近づき、緩やかなカーブを過ぎたところでその足音の正体が姿を見せる。オルガマリー・アムニスフィア。丁度華奈が話したかった女性だった。
「あ、か、華奈! あの死体は一体どういう! ・・・・・・・・じゃなかったわ・・・ん、んんっ・・・」
オルガマリーも華奈たちを確認するやいなや立ち止まって先程の死体騒ぎを追求しようとして、止めた。それから咳払いをしてしばしの時間逡巡し
「・・・私の不手際で、不徳のせいで危険な目に合わせたわ・・・今までの冷遇にも耐えて、支えてそして今は私の命の恩人・・・いえ、カルデアも救った大恩人・・・今更なのは承知しています。けど、有難うございます。こんな私についてきてくれて・・・そしてご免なさい・・・私が・・・レフを見抜けなかったから・・・こんな・・・・ひどい状況に・・・!」
頭を下げ、感謝と謝罪を述べていく。その小さな身体は細かく震え、声もたどたどしく詰まる部分がある。今まで素直に人に頭を下げることがなかったことからの不慣れもあるのだろう。少しぎこちなく、不恰好なもの。
けれどそこには隠そうという気持ちは微塵もなく、素直に気持ちを伝えたいという想いが詰まっていた。
「まぁ・・・オルガマリー様が頭を下げる必要はありません。もっと違う手段でレフを告発しなかった私にも落ち度があります。顔を上げてくださいませ。私への言葉よりも、新しい身体はどうですか? 不調や、違和感、その他は?」
肩に優しく手をおいて顔をあげるように誘導し、お辞儀を終わらせるオルガマリーにニッコリと優しく微笑む華奈。オルガマリーも釣られて微笑むもその顔は涙で濡れており、青ざめていた。理解したのだろう。短い時間ながらにカルデアでの惨状。職員たちの声を耳に入れながら華奈たちを探し、合間に情報をつなぎ合わせて今のカルデアが置かれた状況をいくらか理解、目に入れていったのだろう。
それでも、その目には自身の死が直前に迫っていたときとは違って微かに光が灯り、まだ何処かで諦めていないことを伺わせる。
「あ・・・そうね・・・少しカルデアを回ったけど、前よりもずっと調子がいいし、羽のように軽いわ。魔力回路を起動させても問題ないどころかとんでもないレベルで向上したし・・・聖杯も既に出して格納したけど不調はないわ・・・」
聖杯で復活を願う時に何処かで理想の自身。若しくは共に戦ったメディア、華奈、カルデアにいる英霊のダ・ヴィンチでも想起したのか
「ヒューッ! 正にワンダーウーマン! いいねえ。美人で更に強くなったなんてモテモテのバラ色人生だ」
茶化すようにその復活に賞賛を送るストーム1に表情が微笑むも、最後辺りにはまた沈んだ表情に戻ってしまう。
「そ、そう・・・・じゃなくて! 人生・・・そう、人・・・私達の置かれた状況は周りの声とカルデアスでなんとなく理解できたわ・・・私達・・・これからまた冬木、それ以上の特異点に行かなきゃいけないのよね・・・? 補充もない、ここにいる皆だけで・・・」
「ええ、そうですね。人類を滅ぼした状態を維持するために打ち込まれた特異点の除去。できるのはこれくらいで、残るはここに閉じこもるだけです」
はっきりと事実を突きつける華奈の言葉に言葉が詰まり、泣き出しそうになるオルガマリー。絶望の中で拾った希望と命。けれどそのくぐり抜けた先はさらなる絶望と地獄。そこに転がり落ちずに針の上でどうにかバランスを保って揺れているだけの状況。
残酷でひどすぎる事実。逃げ出したいのにその逃げる先すらもない。逃げた先は寧ろより惨たらしい最期が待っているかもしれない。
「だがまあ俺達は所長さんを灰かぶりで、悲劇で終わらせる気はないぜ?」
そんな悲観を、嫌でも感じてしまう恐怖を知ったことかと聞こえる軽い、でも頼れる声。
「ええ、確かに私達の目の前には面倒ごとの一個旅団。絶望の一個師団があるでしょうね。けど、それは一度に襲ってくるわけではない。馬鹿な相手はそれを分散させて逐次投入させる腹積もり。なら、各個撃破は簡単です」
絶望を殺し抜き、問題はないと言い張る優しい、落ち着く声。
「さて所長さん、いやシンデレラ。俺たちはアンタを今の灰かぶりから素敵なお姫様にさせたいと願う魔女と道化だ」
「願えばその願いに応えてカボチャの馬車でもガラスの靴でも素敵なドレスでも用意しましょう。けど、用意はできてもその本人が舞踏会に行く気がなければそれも意味がない」
その声の持ち主達は冬木で自分たちを助けたときと変わらない表情で優しくこっちを見てくれている。
「アンタが本気で立って、進むというなら例え神様だろうとぶん殴ってみせらあ」
「悪魔が来たって、私が守り抜きますよ? オルガマリー様と皆を」
また泣き出しそうな自分を優しく見つめ、主と認めてくれている。これからの過酷な道も進んで見せると心から言ってくれる。ついさっき信じ切っていた人に裏切られた。また同じように裏切られるかもしれないと思っている部分だってまだある。けど、けれどそれでも目の前にいる二人を、地獄から助け抜いてくれた二人を無条件に信じたかった。
「信じていいのね・・・? 本当に、あなた達を───────────」
「かわい子ちゃんの期待には応えたくなるってもんよ」
「勿論です。私もここでおとなしくする気はないので。さぁシンデレラ様、王子様をぶん殴りに行く心の準備は出来ましたか?」
目を一度強くつぶり、目頭を押さえて気分を同時に変える。開いたオルガマリーの目にはさっきまでの弱気や恐怖の色は薄れ、しっかりとした強い意志が灯る。
「では・・・これから改めてカルデアの所長として、その責務を果たします。カルデアは人理継続保証機関・・・人類の未来を手を保証するためのもの。奪われたのなら取り返して再び保証するまで! そのために戦わなければいけない!! それが・・・私の、オルガマリー・アムニスフィアのするべきことだから! だから力を貸して! あらゆるものを打ち倒す、戦うだけの力をこのカルデアに! くじけない誇りと希望をこのカルデアに! そして・・・」
薄れた恐怖は何度も蘇ろうとあがくがそれを必死に抑えきる。今すぐにでも吐き出して、泣いて逃げ出したい。眼の前の二人のようになりきれるなんて不可能。どこまでも小心者の根っこは拭えない。
「そして・・・・・・私達の望んだ明日を・・・苦難だろうと何だろうと・・・焼き尽くされた人類全てにまた見せるために戦い抜いて! 華奈! ストーム1! かつて二国を大国から最後まで守り抜いた銀の狼! 世界を異星の侵略からはねのけた不屈の戦士! この私、オルガマリー・アム二スフィアに、このカルデアに残された皆のために力を貸して!」
けど、それでもここだけは譲れない。先祖から譲り渡された大切な場所、拾った命で成したいこと。勢いのままに燃えたぎるままにやってしまおう。死ぬはずだった自分ですらいつの間にか起死回生の手段を手に入れていた。意地と矜持を持って抗うことは無意味ではないはず。
今一番自分の中で渦巻いていた心の炎を二人にぶつけたオルガマリーの表情は確かに上に立つものとしての風格が漂い、覚悟を決めた者だった。
「了解。言質、貰いましたよ? この中にもバッチリ♪・・・さて、では早速行きましょう。リフォームと再建築には時間が命。ストーム、リバースシューターを準備。私は宝具を使います」
「あいよ。じゃ、早速俺の宝具が発動している部屋に行ってくる。この馬車をピカピカにして頂戴」
その意志に応える形で拱手をし、戦意をたぎらせた目を見せる二人。言うが早いか早速何やら自動発動していた宝具から新たな武器、ではなく災害時用の宝具? を持ってくるために移動するストーム1。胸ポケットから小さな棒状のものを取り出してスイッチを切り、何か恐ろしい単語をぶちまけていた華奈。
行動の速さに感心していたあまりに反応が一瞬遅れ、慌てふためく頃にはもう手遅れ。華奈の宝具発動のための準備は既に来出来上がり、今にも発動しようとしていた。
「・・・あ! ちょっと華奈! さっきのってまさか・・・!」
「第三宝具開帳・・・『共に在りしは銀の牙也』!!!」
「な、きゃっ・・・!」
ボイスレコードを取り上げようと華奈に近づくも宝具発動の魔力の奔流に足元がよろけて姿勢を崩してしまうオルガマリーは、はたして転ぶことはなかった。背中に当たる金属の感触、そしていつの間にやら気配が周囲に増えている。
不思議に思い背中の方に振り向けばそこには銀と木の鎧で身を包んだ長身の男性。他にも女性、狼、イノシシと共通性は見られず、人間を見ても年齢も性別もバラバラ。ただ共通として全員が自分でも分かるほどの覇気を纏い、指示を待っているようだった。
オルガマリーを受け止めた男性はそっと倒れないように背中を押して体勢を直し、微笑む。この突然の人と獣の集団にまた思考回路が止まりそうなオルガマリーは固まった表情で微笑むしか無く、当然ながら引きつった笑いを浮かべてそのまま固まる。
「随分と久しぶりだな大将。ここまで緊急事態、強敵なのか?」
その中から一人、ツナギのような服を着けたちょいワル風の伊達男が華奈のそばに歩き、何食わぬ顔で話しかける。
「ええ、かなり。取り敢えずまた皆で戦いますよ。いいで・・」
「華奈! これは一体何ですか! 突然イノシシや狼、それに人が突然現れたのに何の危害も・・・・・」
この騒ぎにいの一番で駆けつけたフラムは人の波をかき分け、先程聞こえた声のことで元凶であろう華奈に問いただしに来て、一人の少女に目を奪われる。
それは前世での家族の一人、大人びた雰囲気をまとい、いつも冷静で微笑みを絶やさない素敵な少女。華奈と同じくアーサー王伝説の世界で戦い、銀嶺の部隊長の一人。
「あ、んな・・・・?」
「あら、フラム久しぶりね。また会えて嬉しいわ」
アンナその人との再会、この世界に転生してずっと会えず、もう会うこともないかもと思いかけていた再会にフラムの心が歓喜と興奮、混乱で彩られる。
「は、はい・・・はい・・・・! 私もまた会えることが・・・で、でも・・・」
「・・・再会を祝したいのは山々ですが、フラム様、緊急用のスピーカーのマイク、ありますか? 貸してほしいのですが」
「え、あ・・・分かりました・・・・・それと華奈。後で話が・・・」
嬉しさで満ち溢れた表情から一転、怒りを滲ませた冷笑を讃えながら技術チーム、その中でもトップレベルのメンバーが持たされている機材、メカのトラブルの際に避難、警告用で渡されていた小型のマイクを華奈に手渡す。
「・・・お手柔らかに」
それを手に取り、微笑みながら額に汗を一筋流した華奈はスイッチをいじり、一呼吸置いてよく通る声でマイクに声をぶつける。
『カルデア職員全ての方に通達します。現在カルデアの中で見かけぬ武装集団、獣たちを見かけた、遭遇した人もいるでしょう。これは私の宝具によって来てくれた銀嶺騎士団です。これからこのメンバーたちの力を使って今尚傷が癒えぬカルデアの設備を復旧していきます』
マイクを通してカルデア中に響く華奈の声。それを聞いた職員らは安心したのか徐々に増えていた悲鳴や怒声が収まり始めると同時にまた歓声が上がり始めた。
『それにあたって良馬様はカルデア全体の修理状況の報告、被害の大きい所への指示、案内。冬利様はまだ館内洗浄が終わっていない場所、そこから先の死亡した職員の遺体を回収と館内の破損状況の報告、回収班の先導。咲様は私が残しているとっておきの鍵を渡しますので銀嶺の皆様と開放、各設備に補充を。フラム様はカルデアスやシバ、動かすための発電機の修理を。2,3日で終わらせますよ。他の職員の皆様はその場で休憩と待機を。もし不安なら私のもとに』
伝えたい内容を全て言い切るとマイクのスイッチを切り、フラムに渡す。それから既に移動の準備を始めていた銀嶺騎士団の面々の方に強い語調で声を掛ける。
「ヤマジは工兵、大工のメンバーで冬利様とカルデア内部の破損箇所の完全修復! アンナ様は魔術師、錬金術の使えるメンバーでフラム様のサポート! ダンカンはヤマジと同行して遺体回収、館内清浄に加えて殺菌処理と遺体も冷凍保存室に入れて防腐加工、棺の準備を。これを渡しますからヤマジとは別行動、良馬様と適宜連絡をとって行動を。クラークは咲様と一緒に物資の運搬、及び修復の際に出る瓦礫やゴミの撤去と整理。ああそれと・・・マシュ様の事は皆様分かっていますね?」
カルデアの家族同様に銀嶺騎士団にも命令を伝え、同行することになるメンバーの写真、若しくは写真の入ったタブレットをヤマジ達に渡していく。
「はい解散! 私は倉庫、へそくりの備蓄、損傷具合を確認してカルデアの余力を調べます。あ、ヤマジ。後からストーム1がそちらに来ますので合流して修復を」
「銀嶺騎士団・・・・・アーサー王物語でも最強の一角と知られた部隊・・・それが・・・宝具?」
あっという間に動き始めた銀嶺、流されるままにアンナに連れ去られたフラムがいなくなり、華奈と自分だけの状況になったところで再び思考回路が回り始めるオルガマリー。第三宝具、銀の牙、銀嶺、そして先程の光景。数人のかつての友、部下、使い魔を呼び出すケースは聞いたことがある。けれど軍団そのものを呼び出す宝具は聞いたことがない。
そんな規格外をするとなればそれこそかつて征服王と呼ばれた王や世界各地に散らばる超弩級、英霊の中でさらに頂点の一角に立つ者だけだろう。
「はい、25人前後と数匹。そこから始まり最後まで馬鹿騒ぎして楽しんだ友達であり、部下であり・・・誇れる戦士たち、その絆と思いが形になったものです。全員が意思を持っているので会話もできますから当時の魔術の勉強にでも如何ですか?」
それを事もなげなにこなしてしまう。覚悟を決めて戦うとは言ったがそのための土台はまだ完全に修復は済んでいない。修復をしようにも人手が足りない、爆破からの傷が癒えていない職員もいるというのが現状。戦いの前準備に華奈が打った一手はそれらを解消できるかもしれないものだった。
「それは後にするわ・・・それと、へそくり・・・? 華奈、貴女私に内緒でお父様と何を準備していたのよ・・・・? しっかり話してもらうからね・・・・・・ごめんなさい・・・」
この後華奈と一緒にカルデアの資材、食料を華奈のこっそり作っておいた倉庫の備蓄を確認し、自分の預かり知らぬものを作っていたことにまた癇癪を起こしそうになったオルガマリーをなだめることと確認に追われる華奈。
カルデアの修復作業に向かった銀嶺騎士団の無駄に濃ゆすぎる面々に色々と疲れるやら明るさに、ついさっき自身らに降り掛かった災難を一時忘れるカルデア職員と銀嶺の喧騒がカルデア中に響いたそうな。
因みに、あの覚悟の声を録音した録音機の件は結局有耶無耶にされ、大量の確認作業に忙殺されてしまったオルガマリーは華奈から録音機を取り上げることを忘れてしまったとかなんとか。
取りあえずはこれで爆弾テロによる施設のダメージを回復、そして隠して溜め込んでいた資材の開放による食料、燃料諸々の補充。
次回は人事になるかと。
ストーム1が一度部屋に戻って武器を変えに行ったのは宝具ですね。自身の拠点と決めた場所でのみ武器の変更ができる。ゲームで言うところの武器選択画面。それがカルデアの一室に武器弾薬満載の部屋に変わったとでも思えば。
華奈の第三宝具はブリテンでの華奈を語るうえでは欠かせない魔獣も入った騎士団銀嶺を自由に呼び出すもの。冬木で呼び出した栗毛もこの宝具で呼びました。
モードレッドはまだ妖精郷で生きているので呼べず、ギャラハッドは英霊としての格が高すぎるなどの理由で呼べません。二人のもとにいた部隊は呼べますが。
最後にUA 56091件 しおり 154件 お気に入り 422件、いつも見てくださり有難うございます!
それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。