転生愉悦部の徒然日記 作:零課
クー・フーリン「はーしかしまあ、聞くだけでもやべえ状況からよくもまあ立て直したもんだ」
藤丸「うん、カルデアの皆のお陰だよ。取り敢えず今は職員の個室の改築や嗜好品、漫画とかの娯楽品の提供を始めているんだって」
クー・フーリン「あの姉ちゃんの騎士からだろ? しかもその品も姉ちゃんやその家族。俺らの時代にはなかったが、ええと・・・そう、あれだ。今は戦争中みたいなものだから慰問袋? ってのを貰っているみたいだなあ。俺もさっきタバコと飴をもらったし」
藤丸「それとは少し違うような・・・? 早いね~俺は何を貰えるのかな? あ、そうだ俺華奈さんから呼ばれているからもう少ししたら離れるね」
クー・フーリン「了解だ。じゃ、俺はそのときゃ何処かで一服するさ。釣り堀に畑も作っているみたいだし、いい暇つぶしにならぁな」
~所長室~
オルガマリー「そう、貴方の真名はエミヤ・・・で、一瞬だけだったけど冬木で見たあの変わった矢に映像で見た剣は貴方の魔術と」
エミヤ「種明かしはしまいがね。まあそんなものだと考えてくれマスター。それとだ、華奈から頼まれたもので渡しておきたいものがあるそうだ。これなんだが・・・」
(陽炎のコピーを渡す)
オルガマリー「こ、これって陽炎!? 華奈の聖剣の一つじゃない!」
エミヤ「私の能力で作った模倣品さ。とは言え、効果は発揮できるし、この刀は魔を祓う力があるそうだ。護身用にいいだろう? 許可さえ貰えればこれをカルデアの各所に設置して、起点にメディアの魔術のとの連携を取り入れた防衛体制を整える案も出来ている。検討して欲しい」
オルガマリー「・・・そうね。考えておくわ。その前に改めてカルデアの全容を再チェックね。隠し倉庫も含めて・・・」
エミヤ「ああ、ところで何だが、ここのキッチンの設備も食料も素晴らしい。マスターさえ良ければ元気のつく食事でも一つ如何だろうか?」
オルガマリー「そう言えばバトラーがどうとか言っていたわね。お願いしてもいいかしら。今は確か良馬がいたはずだから彼に聞けばいいと思うわ」
~メディアの個室~
メディア「ああ、最高! 文字通り王族で美少女! あのアーサー王と銀嶺騎士団の魔術師で幼いまんまの魔術師アンナ。最高の子たちが来て幸せだわああ! あのオルガマリーも弟子入り志願していたし、その合間に・・・!」
アルトリア「・・・どうしてこうなった?」
(メイドの衣装を着せられて激写されている)
アンナ「さぁ・・・? でも、まさかこの環境でおしゃれできるとは思わなかったし、楽しんだほうが良いと思うわよ?」
(黒のゴスロリ衣装。同じくシャッターの嵐)
メディア「かわいいかわいいかわいいかわいい! 銀嶺の中にも美少女はいたし咲ちゃんもうふふふふ~♪」
アルトリア「・・・取り敢えず別世界に行ききってしまう前に抑えるということで」
アンナ「了解」
アルトリア「(しかしまあ、あの子もいたなんて・・・一応手段は用意しましたが・・・マシュがそれを了解するかですね)」
アンナ「(電力は私の増幅装置の杖で解決できるし、フラムとダ・ヴィンチがさらなる魔力、電力に関係する手を打っているそうだし・・・どうなるかしら?)」
~射撃場~
ストーム1「うーし、じゃあ、マスターのことだから皆こっそり経験しているだろうが、これから火器の取扱、チーム編成を考えるぞ。取り敢えずAFシリーズの取扱、スナイパーライフルの扱い。それと個人でそれぞれ二つ気に入った武器を選んでくれ。清掃と分解も並行するぞ」
銀嶺隊「「了解!」」
ストーム1「さて・・・うーん・・・20名づつ射撃訓練。解体清掃。その後に教育係で更に大規模な訓練、上手く行けばショットガンやバウンドガン。変わった部類の武器も教えてくるとして・・・予備は腐るほどあるが・・」
冬利「あーちょいちょいストーム1さん。俺も使えますぜ。銃。武装集団や魔術使いとの戦いで少し」
良馬「私も出来ますよ。ちょこちょこ付き合わされてそれなりですが簡単な撃ち方くらいなら」
ストーム1「ああ、そりゃありがたい。取り敢えずエアーブラシも準備してくれねえか? あとカメラも。俺がいねえ時の教材ビデオを作りたい」
「マシュ、少し話があるのですがよろしいですか」
英霊が召喚され、各々が華奈やオルガマリーに頼まれた仕事をこなしながらカルデアを楽しんでいる最中、マシュはカルデアの現状トップ技師の一人になったフラムに声をかけられる。
「はい。どうかしましたか?」
その事に少し意外に思いながらマシュも応える。マスター適正さえあれば間違いなくAチーム入り確定だった魔術に造形の深い褐色の美女。華奈の「家族」ということで色々と装置や機材の管理に開発を行っているそうで今もそれをいくつか準備してカルデアの復興に尽力している一人だ。
「新しい機材の操作でしょうか? 私には機会修理はできませんからその手伝いとかは難しいですが・・・」
一応のオペレートも出来るのでそれなりに質問や他愛ない会話を重ねたことはある。けれど名指しで呼ばれたことはなかったので少しキョトンとしながら思い浮かんだ話をふると苦笑しながら手を横にふる。
「うーん、半分正解ですね。私が操作する機械に少し付き合ってほしいのです。マシュにも必要なものなので」
「必要なもの? ですか・・・・?」
機械の操作に付き合って欲しい。新しい機材の使用許可はオルガマリーに聞くべきだし、何故かそれの許可が自分に聞かれ、更には自分に必要。なんだかトンチンカンな話に聞こえて頭に?マークが浮かぶ。
「ドクターにも許可はとっていますので、行きましょう。そこで話したほうが色々早いでしょう」
そう言いながら背中を向けて何処かへ歩き出すフラム。自分に必要なもの、許可はとっているので後ろめたいことはない。好奇心がすぐにマシュの中で上回り、フラムの後をついていく。
「これですよ。分かりますか?」
フラムについていった先は一つの個室。そこにぽつんと置いてあるコフィンによく似た物が置かれ、何かの液体で満たされている。
その液体は魔力、神秘に溢れていることがすぐに分かり、人がなかで寝そべるためのクッションもあることで人に何らかの作用を及ぼすものだというのがなんとなくだけども理解出来た。
「コフィン・・・ですけど、何かの装置ですか?」
「ええ、これはいわゆる医療用のポッドとでも言うのでしょうか? それをよりアップグレードして、貴女のために華奈がカルデアの技術版のトップに頼んで準備したものです。・・・・・・・分かるでしょう? マシュ、貴女の体のこと」
「・・・・っ・・・」
マシュ・キリエライトの身体は普通の生まれではなくデザイナー・ベビー。れっきとした人間ではあるが、そのマスター適正とAチームに入れるほどの魔術回路の調整に力を入れたことで寿命はさほど長くなく、せいぜいが18年程度。それを超えれば活動限界となってマシュの身体の寿命は尽き、生を終える。
「貴女の身体、貴女の人生。華奈に付き合っているせいでしょうね。もし満足がいく、悔いが残らない人生なら私はマシュが18年の寿命で終えても問題ないと思っているわ」
「・・・はい、私は、生まれて、出会いがあって、短いですが友達も、英霊にも出会えました。得難い経験をたくさんできたと思います」
そう、短いがAチームの皆にロマニ、ダ・ヴィンチちゃん、オルガマリー、華奈、そしてその家族に英霊。多くの出会いを果たした。経験があった。けど、それでも何処かフラムの言葉には引っかかりを感じ、何かムカムカする感覚をマシュは感じてしまう。
「そう、出会い、その出会った大切な人たちの未来を取り戻すための戦いに私達は身を投じている。けど、そのまま戦うとね・・・マシュ、貴方が一番先に脱落するわ」
「!!? そ、それは一体・・・」
フラムの口から紡がれるその言葉はマシュにとっては死刑宣告を下されたときのように重くのしかかり、目の前が一瞬暗くなるように思えた。その言葉が頭の中で何度も反響しては大きくなり、思わずたたらを踏んで視界が揺らぐ。
「考えてみなさい・・・超人でもない、華奈みたいな受肉した英霊でも、今も生きているアーサー王・・・アルトリアみたいな英霊の力。運動音痴で逆上がりが出来ない貴女も分かるでしょう? あの馬鹿げた力を身に宿して戦うことの負担の大きさ・・・エクスカリバーを受け止める膂力。あの巨大な盾を振り回してブレることのない体幹、それを抱えて長時間動き回って疲れることのない足腰、戦場を知らない貴女でも英霊の殺気をその身に余すこと無く受け止めて尚毅然に振る舞える精神性・・・オリンピック選手でも真似できない肉体レベルの再現に酷使、マシュの寿命が削られないわけ無いわ」
「た、確かにそうですけど・・・」
「マシュの英霊が負担を受け持っても感じる疲労。表に出ないだけでそれは確実に進行している。メディアにロマニにも見てもらったけど・・・冬木と同じ時間の英霊化で半年、それ以上の数日間の英霊の力の発動と維持では更に半分の三ヶ月。そこから宝具を数度使用、連戦などの負担も考えると・・・まあ、二ヶ月が山でしょうね」
考えないわけではなかった。英霊、おおよそ人の可能性の極限の一つ。世界に名を刻んだ傑物、偉人。そんな彼らの力をふるい、暴れて身体に負担が来ないというのはおかしい。少し前に運動でいつもよりも多めに運動したことがあったが後日筋肉痛に襲われたり、疲労で睡魔と戦ったこともある。
そんなものとは比較にならないほどの運動量、精神負担、魔術回路の使用。どんなに優れた治療魔術で治してもその爪痕が完全に消えるかと言われたら問題ないときっぱりとは言えない。そもそも自身の活動限界も残り二年。普通の人間で当てはめればとっくに老人の粋だ。そろそろ身体にガタが来て、壊れていくのもおかしくはない。
「そうなると・・・マシュがこの何時まで続くかわからない戦いの途中で命を落とせば、残される藤丸くん、冬木での戦いぶりを見て希望を貰ったカルデアの皆に来る悲しみや絶望は大きいものになる」
「せ、先輩を残して・・・? ぁ・・・・ああぁ・・・・・・」
そうだ。英霊の力を得た自分はもう戦力の一人。誰かに任せるだけじゃない。任されて、背負う立場に立っていること。そして、自身が先輩と呼び慕う藤丸 立香。自分を信じて、あの炎の中で手を握ってくれた優しい男の子。彼との戦いも、過ごす時間もすぐに無くなってしまう。
そして、それが特異点のさなかで自分が倒れたら? 複数の英霊と戦っている時にそれが起きたら?
思えば思うほどに絶望は深く、これからの旅路に恐怖の色は深く染まり、自身の体を恨めしく思う。
「正直・・・脅しに近い発言なのは承知。けど、せめて・・・せめてこの戦いの中だけでも生きるための手段を掴んでほしいわ。それがきっと貴女のためにもなるし・・・多分、素晴らしいものもたくさん見られるはずよ」
苦虫を噛み潰したような表情で話すフラム。フラム自身も自分の言っていることがマシュの選択肢を奪っている、誘導していることは分かっている。けど、それでもマシュに生きていてほしいと思う部分はあるし、事情を知っているだけに見てほしかった。
カルデアだけではない、映像だけじゃない。外の世界を、あんな冬木のような地獄だけが、カルデアの外の寒い真っ白な世界だけじゃないと。彩を知ってほしいと。
「それは・・・確信があるものですか・・・?」
「悪いけど・・・女の勘かな。でも、意外と当たるものですよ?」
一瞬の間を置いて微笑むフラム。それに釣られてマシュも思わず笑い、後ろにあるコフィンに歩み寄る。自分がずっと戦えるために。藤丸の側で守るために。
「これでいいのですか?」
それから専用の衣服に着替えた後に専用のポッドに入り、身体を浸す薄緑の液体に体を委ねる。最初はひんやりとした感触に少しの不快感を抱いたが、それもすぐさま薄れていく。
むしろ液から身体に充足感、隅々まで活力を補充され、身体が生まれ変わったかのような感覚すらも覚えるほどであり、心地よさと活力にあふれるその時間は心地よいものだった。
「ええ、取り敢えず二時間位は入って欲しいわ。それはマシュの体を癒やすと同時に内部の修復と身体をより強いものに作り変える、英霊の力をふるいながらも人並みの寿命を手にすることが出来るようにと作ったものなの」
数千億は下らないほどの資金、資材、道具を用意して作り上げた最高レベルの医療ポッド。そこらの錬金術、ホムンクルスのレベルを超えるためにカルデアの技術と頭脳を注いで完成した代物。
更にこれにメディアの魔術。アルトリアのアヴァロン、華奈のかつて妖精から貰った道具の中で治療、回復関係のもの。クー・フーリンの医療用のルーンを詰め込みまくった結果数十ものアップグレードを実現させ、僅かな時間の使用で済むようになった。
「これで一応の身体の回復とより頑丈な身体に・・・」
「運動音痴は英霊の方から感覚を学ばないと逆上がりは難しいと思うけどね?」
自分の寿命とそれからくる戦える時間の短さ。それを解消できると希望が湧くマシュに少し茶々を入れておどけるフラム。それに少し頬を膨らませて抗議するマシュを尻目に別の端末を準備し、ポッドにつなぐ。
「取り敢えず、治療用でずっと目が冴えるでしょうから、暇つぶしにこれでもどうかしら?」
それから端末をいじるとマシュの目の前のガラスに映像が写り、音声も流れ始める。
「これで映像作品が見れるから、色々見ましょうか。取り敢えず・・・シャーロック・ホームズの作品、見る?」
「は、はい! えっと・・・全作品あるのですか?」
「勿論、実写、アニメ、事件も冒険から帰還までなんでも何が良い?」
その言葉に前からホームズファンだったマシュの表情は輝き、フラムの取り出したDVDに目を走らせていく。
「では、6つのナポレオンで! 久しぶりに見たいです!」
「了解。じゃ、入れるから少し待ってね」
その後は二人でホームズの映像作品を鑑賞し、終わった後に感想の言い合いで賑やかなものであった。
「さて・・・始めましょうか」
トレーニングルームの一室。そこにカルデア職員の服ではなく和服に身を包み、ぼんやりと天井を見つめる華奈。彼女は藤丸を呼び、ゆったりと待っていた。聞こえてくる足音から彼が来ていることを感じ取り、同時にこれから起こす、もしかしたら彼を廃人にする可能性もある荒行をしようとしていることに少し後ろめたく感じる。
間違いなく必要なことであり、生存率、勝率が増える。だからこそ必要、しかし危険。劇薬をぶち込むようなものだとため息を一つ吐く。
そんな華奈の心情とは逆に足音は近づき、扉の前で停まってから足音の持ち主は扉を開く。
「おまたせしました。それで、要件とは?」
開いた扉の先から現れるのは藤丸 立香。カルデアの正規マスター最後の一人。すでに特異点一つを解決した実績の持ち主。その中性的で優しい顔立ちは既にカルデア、英霊に馴染み、過酷な戦いへの緊張もいい意味でなれたのか気負いがない。
「ええ、一つ私から訓練をしようかと思いまして」
「訓練? でも、俺運動がすごく得意というわけでも・・・・・」
円卓の騎士直々の訓練と聞いて両手を振って少し後ずさる藤丸。軍人、それも世界でも有名な部類の軍人からのシゴキには幾ら何でもと驚きと戸惑いが現れているのがよく分かる。
「ふふ、私もいきなり私達のレベルに合わせはしませんよ。子供の教育係もやっていましたから段階を踏むことは出来ます。無事にやりきれたらプレゼントも差し上げますよ」
華奈は藤丸の方に歩み寄り、手元に一振りの木刀を渡す。藤丸の方はいきなり女性、それもかなりの美人が遠慮もなく近寄ったことに年相応の反応を示して慌て、そして握っていた木刀を落とさないようにしっかりと握る。
その間に華奈は数歩歩き、数メートル離れて二人が向かい合うような形を作る。それから何をするまでもなくゆったりと自然体で立つ。
「その木刀を構えて、三十分立ち続けてください。ああ、痒かったら頬をかいてもいいですからね? どうでしょう。時間、ありますか」
「はぁ・・・・・・・・それくらいなら」
思った以上に拍子抜けすぎる訓練内容。素振りや昔漫画で見た木々の束をひたすらに打ち付けるものかと考えていたのだが、ただ棒立ち、もどかしかったり、痒かったら頬をかけばいいという緩いもの。寺の座禅のようなものだろうと剣道部の同級生の構えを思い出してぎこちないながらに木刀を華奈へと向ける。
「では・・・・・・・・耐えてくださいね?」
「?・・・」
直後、部屋の空気が一気に氷点下まで下がった。そのように藤丸は感じた。
「!・・・・・・・・・・・」
息ができない、吸い込めない。吐き出すことだけしか出来ない息は鉛のように重く、ドンドン身体が苦しくなる。冷や汗が止まらず、心臓が早鐘のように鳴り響き、耳が馬鹿になるほどに大きくなる。目は大きく見開き、華奈から目が離せない。
心臓を鷲掴みにされ、首に鋭利な刃物を突きつけられているような感覚を味わいながら歩いてくる華奈に反応できず、何も言えないまま
貫手で胸を穿たれ、真っ赤な鮮血を吹き出した。それを見た後に藤丸は意識を手放し・・・
「あら、どうしたのですか藤丸様。もしかして足がしびれましたか?」
尻餅をついたところで意識を取り戻す。すぐさま穿たれたはずの胸を見ればそこには服も傷はなく、血の跡もない。華奈も最初の位置から一歩も離れてはいない。ただ先程と同じように立ち、尻餅をついて倒れた藤丸を不思議そうに眺めている。
「あ、え・・・・・・? そんな・・・俺、血・・え? あ?」
「ふぅ・・・・・・情けない。マシュ様がいなくばこの程度ですか」
華奈は呆れたような表情に変わり、ため息を吐く。華奈は何もしていない。自分も傷一つ無い。戸惑いや恐怖が溢れ、流れる冷や汗は止まることがない。
「ただ殺気をぶつけただけですよ。冬木で何度も経験したでしょう?」
そのことでようやく合点がいく。恐怖、その根源と最近感じた感覚。対峙した英霊がから、化物から放たれ、向けられる殺意。それを直に受けたせいで倒れたと。ただ、今の藤丸にはそれを理解できるだけでやっと。
「は・・・・え・・い、いや・・なん・・・」
「さ、立ってください藤丸様。まだ始まって二分も過ぎていないですよ?」
眼の前で立つように促す華奈の言葉にも身体は動かず、手足が震えているだけだ。あれだけの英霊や怪物との戦闘を経験して尚あっさりと華奈の殺気に倒れるか。その理由は単純。傍で支えた元、常に先頭に立って盾となったマシュによる支え、殺気を薄めてくれたフィルター。それがいない状態での一人のみ、薄れない、紛らわせるものがない状態では経験があれども藤丸も幾重も研ぎ澄まされた華奈の殺気にはただの年相応の凡人になる。
「っ・・・く・・そ・・・」
それでも藤丸は震える手で太ももを何度も叩いて活を入れ、立ち上がって木刀を構える。それでも手はなお震え、目には恐怖が強く移り住み、華奈を直視できずに目をそらしてしまう。
「目をそらさない!」
「ッ!!」
華奈の怒声に足がもつれてまた倒れ込み、後退りをしそうになる。もう目の前にいるものが優しい女性には見えない。英霊、円卓の武官だと、逃げたいと本能が警鐘を鳴らして鳴り止まない。
「・・・藤丸様、今回の冬木。英霊で戦った頭数、覚えていますか?」
「・・・・・・・4騎」
「6騎です。私が倒したものを含め、そして敵陣営も暴走を含めて動かせなかったワイルドカード。そして私達は私にストーム1、マシュ様、メディア様の4騎。頭数はあちらが上。それが一気に来たらどうします? 少なくとも2騎は私達という盾がない状況で英霊と向かい合い、殺気に晒されるその上で英霊に自身が指示をしなければいけない」
ぽつぽつと告げられる思った以上の冬木の過酷さ。もしかすればあれ以上の状況が起こっていたのかもしれないと考えるだけでも恐ろしく、それを噛み砕きながらどうにか、どうにか藤丸はまた立ち上がる。
「マスターは英霊を留める楔だけではない。精神安定剤の部分もあります。特にマシュ様は貴方を頼りにしています。だからこそ、毅然とした、はっきりとした指示を貴方は出さないといけない」
マシュ。最後にカルデアに来た新人の自分を何故か先輩と呼び慕い、頼ってくれる変わった女の子。英霊の力を持ってもその優しさは変わらず、自分たちのために戦い抜こうとしている。その彼女のために指示を出さないといけない。あの化物同士の戦いとしか言えない、入り込む場所などないはずのところにも必要と言われた。聖杯戦争を経験している英霊から。
「これから起こる特異点攻略の戦いは、文字通り予測不能です。狂った時代。それは何が原因で狂ったのか。そしてそはどんな輩が起こしたのか、どんな奴らが敵になるか。わかりません。そんな中で放り出され、わけも分からずまともな指示も出せないまま死ぬ。それはあまりにも悲しすぎます」
話す華奈の表情はかすかに眉根が寄り、瞳が悲しげに沈んでいるように見えた。それも一瞬であり、すぐにまた無表情に変わり
「だから今慣れなさい。殺意を受け、それでも歯を食いしばって立って、英霊に、敵味方に見せてやりなさい。自分はまだ倒れない。まだ行けるんだぞと」
「は・・・・・い・・・!」
厳しい要求、激励、そして発破を受け取って藤丸はまた立ち上がって木刀を構え、華奈に泣きそうな瞳で見据える。それをみて華奈は一瞬だけ、ほんの一瞬だけ優しい笑顔を見せ。
「よろしい。では残りの20分ちょい、耐え抜きなさい」
再び殺気が部屋を埋め尽くす。
「・・・・・・・・はいそこまで。お疲れ様です」
「あ、有難うございました・・・・・っ・・・・・・・・」
殺気に晒されて二十数分。石にかじりつくような姿勢でひたすらに殺意にさらされた藤丸は華奈の言葉で糸が切れたように倒れ、床に頬が着いた後すぐに意識を失う。涙も汗も垂れ流し、いつの間にやら床が濡れ、どこかアンモニア臭くもなっている。
「クラーク。藤丸様を運んで風呂場にお連れしなさい。私はここを清掃してから私自身の鍛錬に入ります」
木刀を握ったまま離さない指を一本一本外しながら声をどことなくかけると相変わらずの強面に清掃員の服に身を包んだクラークが現れ、彼に藤丸を華奈は渡す。
「了解です。清掃用具はこちらにあるのでどうぞお使いくださいませ。しかし、華奈様もこの訓練はお疲れでは・・・休んだり、一度寝たほうが」
用意していたのだろう。清掃用具を置き、藤丸を受け取った彼は少し気まずそうに言う。華奈もこの訓練はやっていて気持ちのいいものではなく、心を鬼にして行ったもの。精神負担からも一度藤丸の体を洗った後に自分が清掃もやろうかというと華奈は首を横に振る。
「藤丸様にも言いましたが、マスターは英霊の精神安定剤、精神的支柱の一つにもなります。私も簡単に倒れないようにしなければいけませんからね。気分転換も兼ねて体を動かしますよ」
そう言ってはにかむ華奈を見てクラークはもう何も言わずに藤丸を担いで風呂場に直行し、起こしてやって体を洗う。勿論あの強面が目が覚めて眼の前にいた藤丸は驚いてまた意識が飛びそうになり、華奈は改めて基礎訓練からやり直して気を引き締め直した。
~翌朝~
藤丸「くわぁ・・・つ・・・疲れた・・・ためになる訓練だけど・・・これをやるのは・・ん?」
(枕に小箱と手紙)
藤丸「なんだろ・・・・」
「手紙」藤丸様。訓練お疲れ様です。あの訓練をどうにか最後まで成し遂げたのは大したもの。私も嬉しい限りです。もし時間がある、気概があるのならまたおいでください。私の技術を教えましょう。
そして、約束のプレゼントです。気にいるかはさておき、力になるものです。取り敢えず、気に入らないのであれば申してください。取り替えもしますので。
華奈より
藤丸「・・・なんだか、嬉しいな・・・どれどれ・・・」(箱を開ける。包みと手紙)
「手紙」ただし、これは必要なものかもしれませんが危険なものでもあります。取扱には気をつけてください。どんなものでも使い方次第。悪用はせぬように
華奈より
藤丸「??? 何を渡そうとしているんだろう?」(包みを解いてみると銃と弾丸、手紙)
「手紙」この銃はS&Wレディスミス22口径、セカンドモデル。せっかくですのでカスタムを施してあります。22口径の小型弾を大型のフレームで扱うので反動も小さく扱いやすい、ただしリボルバーはフレームに合わせてあるので装弾数は増量して多めの8発まで装填可能。シリンダーマガジンも予備含めて3つ用意しました。極力使わないほうがいいのですが、万が一の時は使うように。訓練は私やストームが出来ます。もしこれを扱えるようにしたいのであれば呼びつけてください。
華奈より
藤丸「・・・・・・・・・・・・取り敢えず、銃弾は全部しまってから聞きに行こう」(全部箱にしまってカバンに突っ込んだ後に射撃訓練場に移動)
今回はマシュと藤丸の二人の準備。この二つは多分かなり必要じゃないかなと思っています。英霊と向き合って話すシーンとかも多いですし、慣れや胆力を手にする下地は今のうちに準備しておいたほうがいいかなと。
マシュもよりギャラハッドの力を引き出して行けば行くほどに負担が大きいでしょうから早めの医療ポッド設置。アルトリアにメディア、クー・フーリンがいてくれたのは嬉しい限り。ソロモンに引けを取らない英霊の力を引き出して耐えられる。ギャラハッドの気遣いもあるでしょうがそれでもとんでもないですよね。
次回は幾分おちゃらけます。かなりふざけられるようにがんばります。
最後にUA 61774件 しおり 157件 お気に入り 448件 応援ありがとうございます!
それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。