転生愉悦部の徒然日記 作:零課
華奈「・・・・・はぇ?」
アルトリア「ふむ・・・? まぁ、いいですがその前に今日の枠割分担の会議からです。それと朝ごはんはどうしましょうか」
ストーム1「おーうそこの美人さんらよ。取り敢えず昨日作っておいた干し肉とテールスープ、それとマスターの部隊の奴らがサラダと野いちごのジュース作ったらしいから食おうぜ-」
~しばらくして~
藤丸「んぐ・・・っふう・・・また美味しかった・・・」
華奈「カルデアだと本当に採りたてとは行きませんからねえ。使ってない場所を畑にできれば色々出来るのですが。種もいくつか準備していましたし」
ジャンヌ「えーと・・・では、今日の予定でしたっけ?」
クー・フーリン「敵にそのまま突貫するんじゃねえのか?」
アルトリア「そうは行きませんよ。取り敢えず今から話していきますので」
「分担作業?」
朝の朝食を終え、二日目のフランスでの朝を迎えたカルデア一行とジャンヌ。敵性勢力を一気に蹴散らしてそのまま勢いのままに攻め込むことはせずに抑えと別働隊に分かれるという華奈達の提案に首を傾げる藤丸達。
「そうです。相手の戦力がわからないことと、相手の残った戦力も何やら油断できない様子。一度相手が尻込みするであろうタイミングで一度こちらも戦力、第二、第三の矢を手にしておきたいのです」
「それと、ストームのライフルスコープで相手の英霊のヒント、外見、武装からクラスののヒントも探せないかと思いまして」
「ヒント・・・ぁあ、確かに・・・」
アルトリア達のヒントに藤丸もなるほどと考える。英霊。古代の英雄たちには確かに外見が特徴的な人がいたりする。わかりやすいところだと三国志の劉備玄徳は呂布に「長耳野郎」と言われるほどに耳が大きかったらしく、武器に関しても有名所の聖剣、魔剣。そうでなくてもその武器で勇名を馳せた英霊なら予想も付けやすい。
「まーそれに、敵は英霊だけではなく化物まで追加と来たもんだ。それを抑え込む人でも欲しいならわかる。がよ・・・そっちはそれでいいのか? 姉ちゃん達三騎、それにそこの聖女の姉ちゃん足しても相手は油断ならないんだろう?」
「それならご安心を。銀嶺隊もここにまだ700騎残していますし」
「俺も設置型の武器ならいくらかある」
「私もまだまだ面白いものを用意しています。ちょっとやそっとの物量に押し負けるものではないです」
問題、心配をあっさり大丈夫と言ってのける三人。もとより寡兵で戦場をひっくり返し、戦略にも影響を与えかねない暴れっぷりを披露した英雄に加えて既にここ自体が簡易式の砦とも言える状態になっていることもあり、そこに関しては問題がなかった。
「では、私達は各地の戦力、いるのなら英霊に防衛、もしくは助力を申し出る。私は先輩の守りになり・・・」
「俺が斥候。そんで牙というわけか・・・へへ・・っいいじゃねえのそういうの」
盾を見やり気合を入れ直すマシュに槍を遊ばせながら目を光らせるクー・フーリン。守りならかのエクスカリバーでさえ受け止めた守りを持つマシュは魔術師と言えないほど未熟な藤丸を守るにはこれ以上無いほどに頼もしく、クー・フーリンは歴戦の戦士。機動力に富んでいる上にその朱槍の一撃は敵からすれば恐ろしい牙。シンプルながらに役割がはっきりしていることからしても藤丸自身も指示が混乱しないですむだろう。
『しかし、せっかく合流できたのにまた別行動かぁ・・・周辺のワイバーン、怪物はあらかた退治して調理したとは言え、少し危険なんじゃないかな?』
「俺は賛成だぜ? マスターやアルトリア、俺の攻撃のせいか、やっこさん、壁を敷きやがった。それを叩く戦力がほしいし、壁になるほどの数、若しくは質を置いているということはこちらが相手を監視しやすいんだ。こそこそ動かれるよりも、互いに牙向けながら見合いが出来る方が今はありがたい」
『うーん、確かに・・・それにそこまで警戒してくれているのなら今のうちに戦力確保・・・妥当だなあ』
『決まりね。では、華奈、アルトリア、ストーム1、ジャンヌは待機と同時に敵への抑え役。藤丸、マシュ、クー・フーリンは現地での英霊との合流、市民への避難勧告と鼓舞。軍と合流できれば市民の護衛を第一に伝えること。いいわね?』
オルガマリーが手を叩いて回りに役割を伝え、それに反対するものはいない為にその場は解散。それぞれの役割をこなすために動き始めた。
「・・・で、私達に聞きたいことでしたか? 貴女ほどの戦果を上げて、たった二年で歴史に名を残した方がなんで私なんかに。アルトリア様ならともかく」
「姉上。相変わらずですが・・・その謙遜は、美徳であり、姉上ほどの人物なら同時に嫌味ですよ・・・で、ジャンヌ、警戒態勢のままでいいならどうぞ?」
藤丸たちを見送った後、華奈たちは銀嶺に作らせておいた瓦礫の山にカモフラージュされた櫓に少々砂と草木にまみれた状態で上り、ストームから借りたスナイパーライフルのレンズ越しに相手を観察しながらジャンヌに今朝聞かれた憧れやら、話を聞きたいということに応えることにした。
「は・・・はい。その、私は神の声を聞けたということ、その使命や王、ジルの後押しがあって戦場に立つことができました。けれど、アルトリアさんは子供の頃から修練を積んで王となり、大国の圧力に屈さず島を統一してみせました。湖の乙女にも認められて、多くの武器を携えて・・・女の身でも騎士の頂点に立てました。その強さ、器に小さい頃から憧れまして・・・どんな心でいたのか知りたくて」
同じ櫓の中に入って嬉しそうに話すジャンヌ。敵国の物語と言えどもアーサー王伝説の物語、騎士たちの戦いは村の大人たちから聞かされるのを楽しみにし、自分の国の騎士も同じように勇敢に戦っているのかと思いを馳せることがあった。
それがこうして生きている本人に会えて話をしているということがたまらないのだろう。ニコニコと笑みを絶やさず、ほんのり紅潮した頬、輝く目。
「ぁ・・・あ~まあ、その確かに私は王になり、ブリテンの平和を願い、戦いましたが、正直、弱い人間ですよ? 王になるにもマーリンやケイ、多くの騎士たちに支えられてようやく。仕事も休んではっちゃける日だってありました。理想の王なんかではなく、その仮面をかぶって政務を務め、その分を姉上のところで発散していた。フツウの女です」
その眩しい視線、純粋なファンの期待に視線をそらしながら自身の身の丈をぶっちゃけるアルトリア。自身も後で思ったことだが、華奈に会う前の自分は所謂理想に縛られた社畜であり、人としての時間を手にしてから社畜からどうにか普通のOLになれたんだと思い返しては微笑んだ。
そして、社畜のままなら楽しい時間を知らないまま理想の王という仮面の社畜のまま終わる可能性を考えてゾッとしたことも付け加えておく。
「結局。ただただ、みんなが今日よりもいい日を。そう思っただけの女が王になれた。その思いがちょっと強いだけのね? ですから、神という大きなものを背負った貴女は本当に私に負けないくらい凄いのですよ。それに・・・私にアルトリアという時間をくれた、ブリテン、オークニーを救った姉上のほうがもっといいですよ。救いのヒーローです」
「え? 今度は私ですか?」
アルトリアの独白が終わり、いきなり振られたことに驚く華奈。思わず持っていたスナイパーライフルのライサンダーZを落としそうになるもどうにか持ち直し、ジャンヌに視線を向ける。
「はい。お願いします。アルトリアさんも素晴らしい、想像以上の王様でした。今度は華奈さんのことを教えてください!」
再びキラキラした視線を向けるジャンヌにこそばゆくなる華奈。目からそのキラキラしたものが飛んできそうなほどに光らせた目とその思い頬が赤くなりつつもライフルをアルトリアに渡してコホンと咳払いをしてから一呼吸置く。
「ん~とは言いましてもねえ。私のこともおおよそ知っているでしょうし・・・私も本当にやりたいことをしていただけなんですよ。気に入った人が楽しくいてほしい。楽しい生活がしたい。美味しいものが食べたい。お風呂に入りたい。ビクビク怯えない生活がしたい。優しく、のんびりした時間と私がやりたいことを求めていった結果ですかねえ・・・」
「その結果、円卓に負けないほどに濃すぎる部隊になったのは笑いましたけどね~男も女もオカマもオナベも好き放題なとんでも軍隊。部隊ごとに最早別物でしたし」
「ですねえ。どうして今でもああなったのか」
昔を思い出してクスクスと微笑む円卓の姉妹。今もこうして防備に務め、カルデアの雑用をこなしている軍の色々と濃ゆい日々を思い出して笑みをこぼす。
「まあ、私は結局欲に従った結果ああなった。俗物なんですよ。その欲が傍から見たら清廉に見えるだけで。ジャンヌ様ほど大層な使命なんて背負った瞬間に私はぺちゃんこです」
「・・・意外です・・・けど、そうですね。身近なものを守るために大きなことをする・・・そういうものなのかもしれないですね」
狼の騎士の俗物発言にジャンヌ自身も胸に手を当て思い返す。神の使命、自身の故国であるフランスの救済。大きな使命を胸に秘めていたのは事実だし、ジャンヌをジャンヌたらしめる大きな柱だろう。けど、その戦いの果に自身の故郷のみんなの安心した笑顔。ともに戦場を駆けた騎士たちの勝利に喜ぶ顔。これを見たくて、励みにしていた部分もあるのは事実。
あの伝説となった騎士たち、その女騎士も、騎士王も自分と変わらない。何だか面白く、雲の上のはずの英雄が身近に感じて嬉しく思う。ジャンヌも柔和な笑みがこぼれ、不思議な面白さを感じる。
「・・・そこの女子会開催中のお三方。今ん所、二騎の英霊が見れる。一騎は・・・ケモミミの美女。もう一騎は騎士っぽいんだが、わかるかい?」
その空気にストーム1からの横槍が飛んで空気を一変させる。たちまちほのぼのした空気は霧散し、戦場のそれに切り替わる。
「私の部隊は召喚はできない・・・私自身が座の本体から出てきていますし、もしできても確率は低い。となれば」
「私、ジャンヌの知り合いの可能性が高いですね。どれ・・・ストーム1。姉さまと一度情報をすり合わせて貰っていいですか?」
「了解」
アルトリアはスコープの調整を行って騎士を探す。華奈は櫓から降りてストーム1と一緒にカルデアと連絡を取り始める。ジャンヌはアルトリアの側に寄り、すぐさま代われるようにしていく。
「しかし・・・武器は弓。アーチャーですか。あの女性は。同じアーチャーの視界に、スコープがあったとは言えよく気づかれませんでしたね」
「それがよ。どうにも少し様子が変というか・・・バーサーカーの狂化だっけか? あれをかけられているみたいでなぁ」
ストーム1の言葉の意味を確かめるために華奈も自身のライフルのスコープを覗くが、騎士の後方で待機する女の射手の目は確かに何らかの異常、それに抗わんとする感情を感じ取れた。
『ふむ・・・もしかしたら、相手は英霊を召喚出来る手段があって、その際に召喚した英霊を意のままにするためにそういった術式を刻んでいるかもしれないわね。いくら英霊でも、召喚する際の細工には抵抗できる者も少ないでしょう』
オルガマリーの推察になるほどと納得する華奈、ストーム1。英霊を召喚する術式の細工、そういった魔術があってもおかしくない。そもそも英霊を使い魔のように呼び出す術式なのだから、改造、変更をできる相手が居てもおかしくはない。
「しかし・・・弓、美貌、獣の耳、しっぽ・・・うーん? 獣の皮をかぶったというのなら、人狼の戦士結社、熊のバーサーカー、日本なら赤星隊・・・は別でしょうし・・・近現代はなし。しかもどれも男子結社ですしねえ・・・・」
「古代ならアタランテじゃないか? 獣なら猪との戦い、弓とか色々ピッタシじゃないか? あれで野郎ならマスターの予想であっているだろうしよ」
弓なら近代でも戦果を上げた軍人なら思い当たるが、獣の耳をしたようなコスプレは聞いたことがない。役者の英霊が何らかの変装をしているとも考えられるが、スコープ越しからでも感じる空気はとても演じているものではない。
取りあえずはこの線で行こうと考えていき、今度は騎士の方に意識を戻す。
「?・・・あの黒い鎧・・・ん・・・? あの剣・・・え? うーん・・・もしかして、あれ、ランスロットですかね? でも、黒い鎧というよりも彼が着けていたのは紺、白・・・それに、狂化等の何らかの術式を含めてもあの纏う空気は本当に発狂しているような」
一方で騎士の方を見ていたアルトリアも騎士に正体におおよその予想がついたが、まさかの正体に疑問が浮かぶ。けれど、何度も近くで見た鎧、手にしていた剣も見間違える筈はない。
「え・・・? あのランスロットですか・・・? でも、あの方にそんな逸話、無いですよね?」
それに驚いたジャンヌがスコープを見ようとしたのでアルトリアはとっさにライサンダーZの安全装置をつけておく。ジャンヌは借りたそのライサンダーZのスコープを覗いてその黒騎士の容貌を見る。ジャンヌもランスロットの話は知っているが、狂うような話は聞いたことがなく、困惑する。
「あ~・・・・・・・・・もしかして『鏡は横にひび割れて』の後日談ではないですか?」
『・・・テニスンの詩の一節でしょう? 確か、ランスロットに恋をした姫の呪い、悲恋、死、そしてひび割れる鏡。でも、なんでそれが今の黒騎士・・・ランスロットのクラスの話に?』
「まず、『鏡は横にひび割れて』はシャーロットの姫がランスロット様に恋をします。あの方は姫のいる城に挨拶した折に、散歩しつつ歌を口ずさんでいました。その見事な歌声、そして素敵な容貌。騎士として全てを手にしている名声。たちまち姫は虜になります。けれど、姫は呪いを宿していました」
華奈の口から紡がれるはアーサー王伝説の最高の騎士と謳われた男と、それに恋をしてしまった姫の悲恋の物語。詩となって今尚知られ続けている悲しい話。
「姫は外の世界を見ることを禁じられており、ランスロット様を見るために、歌声に惹かれて外の世界を覗けばたちまちに呪いは身を蝕み、死に追いやるでしょう。それでも彼を見たくて、恋心を抑えきれずに外を見た。その時、鏡は横にひび割れ、死の呪いが降りかかる。・・・鏡は横にひび割れて。それは命運が尽きる瞬間。命の帳が降りる時。最後に姫は小舟に身を横たえ死んでいく。この後も色々あったんですが・・・シャーロットの姫様の死後、執り行われた葬式でまた問題が起きました」
そしてここから紡がれるはその時代を、物語を生きた人物から紡がれる後日談。白き鎧の騎士が、黒い鎧を纏って現れた所以の憶測。
「シャーロットの姫様は、その美しさ、呪いによる悲劇のこともあって民からも愛され、話題になっていました。それ故に亡くなったときの嘆きは大きかった。かの姫の葬式にはブリテンからも代表としてランスロット様も参列しましたが、そのときに姫様の死因だと誰かがランスロットを非難した。そこからの一種の集団ヒステリーというのか何なのか・・・みな姫を殺した犯人だと怒りを向け、更にはその場にいたギネヴィア様もランスロット様がシャーロットの姫様に向けた言葉を知ったことで怒ったので・・・政治的問題、自身の命の危機、更には恋人からそっぽ向かれかけているという・・・重責が一気にくるわ、さらに自身の行動が招いたことだと何重にもプレッシャーが掛かり・・・」
「発狂したと」
「はい・・・その後は剣や鎧も土や灰で汚して黒くして森の中を駆け回り、鹿の番を見て我に返ったところで城に戻り、熱狂も覚めた葬式の参列者も非を認め、ランスロット様も謝罪したので手打ちとして終わり。へんてこな話ですが、これが恐らくバーサーカーの側面になったのではないかと・・・」
『・・・・・・・・えぇ・・・もう、どこから突っ込んでいいのやら・・・・』
悲恋からの集団暴動、発狂、逃亡のシリアスブレイクな顛末にモニター越しに頭を抱えるオルガマリー。騎士の鏡とされたランスロットの悪い意味での一面を知れたジャンヌ。こんなバーサーカーに危険だと警鐘を鳴らしたのかと微妙な気持ちになるストーム1。なんとも言えない空気が場を包み、アルトリアは苦笑い、華奈もため息を付いてどうしたものかと考え込む。
「ついでに言いますと、この発狂した時とっさに剣と木の枝、そこらにあったもので騎士や暴徒を鎮圧したという話が上がっていたので、多分ですが技量自体は衰えていないでしょうね・・・」
「あの時代のブリテンの最強、頂点の一人の技量はそのままで理性だの何だの余計な枷がない状態・・・面倒ですね。実際彼の才覚と練習量は狂っても衰えないほどに体に染み込んでいたでしょうし」
先程のふざけた物語はともかくとして、ブリテンの騎士の頂点が壁として立ちはだかり、おそらくは名うての狩人、それも予想通りなら神代の時代を来た狩人が後方から襲い来る。シンプルながらに強力な布陣。それに加えてワイバーンも加わる。相手の戦力はまだまだ油断ならないものだということが実感できる。
どうやって崩していこうかと考えていた傍ら、通信が響き、空中に半透明の画面が一つ浮かぶ。
その直後に
『す、すいません! 何だか英霊と合流できたらしいのですが俺のことを想い人だの言い寄って来る和装の女の子の清姫とアイドルだとか何だと言ってくる・・え、エリ・・・うぉぉあぁ耳がぁあ!!』
藤丸の悲鳴に近い報告、そして響く声とトンデモない声の武器、英霊すらも倒れ伏す音波兵器。後ろではマシュが盾を構えながらも左の手は耳をふさぐようにし、その和装の女性とアイドルと言ってる女性の仲裁に走ったであろうクー・フーリンはその音波を至近距離で聞いたせいでしゃがみこんで唸っている始末。
「なんじゃあこりゃぁあ!!」
「っぐぉ・・・・!?」
「っぅうぅう・・・・・!」
火器の発砲音をシャットアウトするヘルメットを装備しているストーム1、竜などの凄まじい声を発する幻想種と渡り合い、多少の声などなら慣れているはずのアルトリアでさえこの咆哮じみた何かには思わず耳をふさぎ、少しは距離があったことで耳をふさげたジャンヌも表情は青い。オルガマリーは既に通信を切ったのか反応はなかった。
「!!!??ッッッッッッ~~~~~~!?!?!・・・・・・・・・」
そして藤丸の通信を聞いて即座に周辺へ音を聞こえないようにする遮音の指輪を使ったせいで自身の対応が間に合わず、一番近くで獣にも負けないほどの鋭い聴覚でこの音声をダイレクトに聞いてしまった華奈は意識をほとんど手放して倒れ伏してしまう始末。
「っうく・・・姉上!!?」
「ちちっ・・・・っておいマスター!」
あちらもあの声を生で聞いているせいだろうか通信どころではなく、両者しばらく通信が途絶えてしまったのは言うまでもない。
~少し時間は前に~
「ふぅ・・・まさか使者の人と会えるなんてね。運がいいや」
「はい。この戦い・・・竜の魔女との戦いの助力、指示を仰ぐために移動していたとは・・・幸先がいいです!」
戦力増強、情報確保と避難勧告のために別行動を取っていた藤丸らはその道中昨日に配られた檄文、その送り主に連絡を取るための使者に会い、あちらから街を守護しているという代表者の聖人に会ってほしいと頼まれて移動していた。
使者が言うには聖人であり、街を守護。既に一度は先頭に立ってワイバーンも退けたというその人物。英霊ではないかという予想がついた為に快諾し、更にはロマニの方でも英霊の反応が一騎あるという情報で益々確信へと近づく。連絡を取ろうと動いていた聖人たる人物は英霊だと。
「しかしまぁ、幸先が良いのはありがたいが、一緒に来てくれるかは別だな。あちらも街がある以上。むやみには動けねえだろうし、連絡を取るために使者を用意したというのは、街を離れたがらない女子供、老人がいたのかもなあ」
『あんまり言いたくはないけど、避難するのも大変なものだ。寧ろここのほうがいいと残った人もいるのかもね・・・死に場所というか・・・』
「ドクター、流石にそれは言わないほうが・・・」
その英霊が動けない理由を戦争の経験からなんとなく察していたクー・フーリン、可能性の一つを出したドクターの言葉をマシュが遮る。十分に有り得る話だが、暗い話で後ろ向きに構えるよりはいい方向で考えたい、想像したくないという気持ちの現われだろう。ロマニもすぐに咳払いをして気持ちを切り替え、観測の方に再度力を入れていく。
『う・・・ごめん。流石にそれ以上は言わないよ・・・ん? しばらく先にエネミー反応。それと・・・英霊? の反応がある。こちらには興味がなさそうだし・・・もしかしたらここに呼ばれた英霊のほうかも知れない。様子を見て合流してほしい』
「了解です。まずはエネミーから倒しに行こう」
指示に応えた藤丸も銃を構え、マシュたちに魔力を回すように意識を回し、戦闘態勢を整える。そして、クー・フーリンの槍の一撃、それに貫かれた音と同時にエネミーたちとの開戦のゴングは鳴った。
時間にして10分も無い時間だろうか。エネミーは軒並み殲滅をし、一段落となる。マシュたちは怪我もなく、クー・フーリンは準備運動にもならないとぼやく始末。
藤丸もその際に獣人に牽制ではあるが銃を放ち、立ち回った。生物に向けて放ったこと、何度も練習で的に目がけて引き金を引いたことで身体に走る反動も慣れたもののはずなのに、生物に向かって放つことで感じる重圧だろうか。銃を握る右手はかすかに震えていた。
「っふぅ・・・・・・・はぁー・・・・みんな有難う。怪我とかはない?」
深呼吸をして気持ちと身体を落ち着かせ、みんなの状況を確認する藤丸。それに応えてマシュも盾を抱えて走りより、死んだふりの相手がいないか確認していたクー・フーリンもエネミーの死体を一瞥してから歩いてくる。
「大丈夫です。傷も無し、先輩の援護射撃とクー・フーリンさんのお陰ですそれと・・・・」
「この程度じゃあ何の面倒にもならねえや。けどよ・・・」
二人共かすり傷もなく、元気であることを見せてくれるが、それとは別に少し浮かない顔を見せながらまだ続く戦闘音の咆哮に顔を向けて、益々表情が沈む。
『戦闘お疲れ様・・・それと、うん・・・どうやら先程の英霊二騎が戦闘しているようだ。タイミングからしてこちらの戦闘が火を付けたみたいだね。なんだろう、因縁のある英霊同士なのかな・・・』
「・・・あっちも戦闘しているみたいだね・・・ドクター、本当に敵性反応はないのですよね?」
もう少し先のほうで起きていた戦闘。さっきは一緒にいたはずなのに今では戦っているという、これまた摩訶不思議な状態。敵ならこのタイミングで襲ってくるはず。味方、あの檄文を読んでいるものならこちらに加勢してくれてもいいはず。それをせずにまさかの英霊同士の戦い。
『ない・・・というか、こちらの戦闘も戦闘のゴング、きっかけくらいで我関せずくらいじゃないかな? だって、10分位の戦闘時間。英霊ならすぐにここに来て問題ないレベルの距離だもの』
「俺たちの戦闘はきっかけ。味方になるとは思えないのでスルーしたいんですがドクター・・・」
さっきから火球やら地面をえぐる激音。それに加えてなにか聞こえてくる女性の声。どちらもきれいな声なのだが、それが嫌悪感を丸出しでいがみ合い、敵意をぶつけ合っている声なのだからなお怖く聞こえる。
たちの悪いことにそれが徐々にこちらに近寄ってくるから益々嫌な状況。逃げても感づかれる可能性はあり、味方になるかもしれない英霊ならここで戦力増強の機会を逃すことになる。かといってこのかしましく危険な喧嘩を仲裁し、なだめるほど女性の扱いも経験も藤丸にはない。
そもそも英霊になるほどの女性の扱いなど平々凡々な人生を送ってきた藤丸の経験にはない。
「・・・よし、まずは聖人の方に会いに・・・」
結果、英霊の喧嘩? は同じ英霊、それも聖人に任せるべきだろうという結論を出した藤丸は遠回りになるがこの防風を避けて通り、合流を目指すのだが、そうは問屋が卸さない。藤丸たちが移動しようとした先を予測していたかのように先程から鳴り響く爆音の発生源はものすご勢いでこちらに近づき・・・
「!!!ッ~~!? ッッ!!」
「!!!!!!! ッッ!! ッ!」
その発生源が目視できるレベルまで距離を詰めた。争っていたのは二人の女性。いや、少女と言う方が正しいだろうか。
「このっ! このっ・・・このっおぉお!! うーーーっ! いい加減しつこいのよこの泥沼ストーカー! うざったいのよ!」
変わった形の槍を持ち、黒と白のドレスに特徴的な赤に近い色の長髪。角をはやし、ぎゃいぎゃいと凄まじい声という名の破壊音波を口から放ちながら腰から生えているしっぽや槍を振り回してもうひとりの女性を打ちのめそうと振り回す。
「ストーカーなどという下卑たものではありません。『隠密的にすら見える献身的な後方警備』です。この清姫、愛に生きる女です故に。ド変態フェチのエリザベートさんにはわからないでしょうけど」
そのもうひとりの女性は黄緑の色素を薄めたような色合いの長髪にこれまたエリザベートと呼ばれる少女には及ばないが立派な角を持つ。白と薄い緑を基調とし、金糸で縁取りをした和装に身を包み、扇から焔を放って牽制し、上手いことエリザベートの攻撃を潰して猛攻をしのいでいる。
「あぁあああぁぁっ!!! うるさいうるさいうるさい! 取り敢えず殺すわ!」
「返り討ちにさせていただきます!」
「「たぁああぁぁあああぁぁあ!!!」」
その喧嘩、ないし殺し合いの勢いは止まることがなく、ヒートアップする一方。かしましいことこの上なく、しかも英霊というほっておけば被害は広がり、しかもこちらが求めている戦力。竜の魔女の勢力に与するものでもなさそう。
そんな二騎の英霊が事情は知らないが勝手に喧嘩を始め、自分たちの邪魔にもなっている。そのことを思い返し、感情のこもらない息を一つ吐き出す。
「・・・・・・・」
先程全弾撃ち尽くした銃に藤丸は再度装填を行い、空に向かって全弾撃ち切る。
「はいはいはーい! ストップ! ストッーーーーーープ!!! 喧嘩止め! 通行のじゃまだから! それと今のこのフランスの状況理解しているのか二人共!!」
銃声に意識が向いた二人にそのままありったけの声を張り上げ、喧嘩の仲裁役を自ら買って出る藤丸。正直言って、英霊の脅威を知る彼ならこの行動は普通は取らない。けど、正直なところ彼は苛ついていた。
ジャンヌが自身の力を発揮できずともワイバーンに襲われている民衆、フランス全土を覆う恐怖を払おうと戦っていること。華奈達の偶然とは言え爆発騒ぎで敵方の英霊に損失と警戒、監視しやすい状況をもお受けて行動しやすい状況を作り上げ、檄文で避難勧告と連絡まで出せるようになった。更には自分のようなガキですら銃を持ってエネミーと戦い、一刻を争う状況で勝手な喧嘩で足止めを食らう。
皆が特異点を攻略しようと頑張っているさなかに突然現れて邪魔なだけではなく、こうもギャーギャーと毒音波を垂れ流して騒がれては怒りも湧き、先の戦闘での疲れも重なった結果引き金を引き、英霊、それも少女に怒鳴りつけるという状況が生まれた。
「何よ! 私達の邪魔をする気!? わたしはこのトカゲ女と決着を付けなきゃいけないの!」
「言ってくれますね。エリマキトカゲの分際・・・で・・・」
それに対して好戦的な様子で返すエリザベートと呼ばれる少女。対して清姫と呼ばれる少女は藤丸を見るや先程まで口から火を吹きそうなほどの戦意を収め、じっと藤丸に熱のこもった視線を投げかける。
「???」
「これは・・・成功したのでしょうか?」
「イヤーな予感がするぞ・・・・」
こちらに意識が向いたことで我に返れた藤丸もまさか清姫があっさり静かになるとは思わず、あっけにとられ、マシュも一段落も飛ばした片方の鎮静に驚き、クー・フーリンは清姫の変化に嫌な予感を感じ取り、マスターへの哀れみの視線を向け、心の中で手を合わせておく。
「はい・・・この清姫、はしたない真似をしました。この場はどうか退きますゆえ。お許しくださいませ。そして・・・これからの旅路に加えてもらえませんか? 英霊ですので、戦力にはなるかと」
言うが早いか清姫と呼ばれた和装の少女は頭を下げて藤丸らに謝り、自身の名前、英霊であると明かし、その上で契約を頼んできた。
この変わり身の速さには皆あっけにとられ、特につい先程までケンカ相手だったはずのエリザベートは鳩が豆鉄砲喰らったような顔になり、少しの停止期間をおいて再起動。
「ちょ・・・ちょっとトカゲ女ぁ!? 私との決着はどうしたのよ! さっきの勢いとかはどうしたのよ!」
「あら・・・? 忘れましたわそんなこと。ささ、マスター。契約を結んでくださいな。小指を出してゆーびきーりげんまんうそつーいたら・・・・・・」
決着をつける相手がまさかの戦線離脱。目の前で喧嘩の仲裁を乗り出した少年と指切りげんまんで英霊としての契約を結ぶというわけのわからない急展開、清姫の変わり身の速さにもやもやとした気持ちになりはっきりと決着をつけようと煽るも清姫はどこ吹く風。あっさりといなされ、無事に契約が結ばれた。
「・・・・え? 契約・・・?」
「ふふ、はい。これで私は
実に満面の笑みで嬉しげに契約によって魔力のラインが繋がったことを確認して益々喜ぶ清姫。藤丸は何がなんだか分からずに思考がまとまらない。
「~~~~!!!! ああ、喧嘩はそっちが始めたくせに勝手に抜けてんじゃないわよ電波トカゲ馬鹿! ・・・ふん、そんな大したことない子ジカをマスター? 私みたいなアイドルはもっと上の、理想のマスターをマネージャーにしてアイドルになるの。せいぜいそこの子ジカで満足してないさい」
「・・・私のマスターを大したことない・・・? 馬鹿な絵空事を描くメキシコドクトカゲは。頭が日本晴れ過ぎて目もくらんだのでは?」
「なんですって~~!!!?」
「・・・何か?」
ふたたび始まる舌戦。有毒極まりない口撃の応酬に状況の変わる速さに理解が追いつかずもうどうしようもなく、華奈たちにSOS。応援を求める。
「す、すいません! 何だか英霊と合流できたらしいのですが俺のことを想い人だの言い寄って来る和装の女の子の清姫とアイドルだとか何だと言ってくる・・え、エリ・・・うぉぉあぁ耳がぁあ!!」
「さ・・・さっきよりも近い分音が・・・・っ!!?」
「やっぱりかよぉおおおおおっっ!! ぬぉお!!?」
助けを求めようにもその行動を止めるほどの喧嘩と音波が藤丸たちを襲って動きを止め、それが華奈たちにも伝わった直後に通信は途絶。
こうして、望んだ英霊の戦力増加は、色々と被害の大きい始まりとなった。
黒ジャンヌ「・・・何かしら。変な声が聞こえたような・・・?」
バーサーク・アーチャー「・・・何やら、相手のほうが倒れたか・・・」
ランスロット「■■■■■・・・・・・・・・・」
黒ジャンヌ「・・・アーチャー、もう一度確認を。そのうえで同じようなら・・・殺しに行きましょう・・・」
ランスロットの話はランスロットのエピソードをいくつか組み合わせてオリジナルのネタを入れたものです。これ以外にも多くの女性とのフラグを立てている辺り、本当にランスロットは色男ですよねえ。実力も性格も素晴らしいですし。ただ、女難の相は本当に凄まじい。
清姫の恋に走ったときのゲージの振り切れ具合は見ていて大好きです。ただ、これをまともに受けたら混乱、思考が定まらないと思うんですよね。
そして気絶した華奈、更にそこに追撃。結局しまらない状態での行動開始。エリザの破壊力はどれくらいまで引き上げていいのか不安ですがこれくらいでもいいかなと。英霊ですらダメージがはいるっていろいろ規格外すぎます。
最後にUA 68483件 お気に入り 482件 しおり 169件 応援ありがとうございます。そして更新が遅れてしまい申し訳ありません。拙い内容になりましたが、精進しつつまたすぐに出せるようにがんばります。どうぞお願いします。
それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。