転生愉悦部の徒然日記   作:零課

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~左翼~

オルガマリー「・・・私は軍を動かすべきだと思うのだけど・・・どう? アンナさん・・・」

アンナ「一度私の雷で戦場を揺らしてからね。敵の弓隊が集まっているあたりを・・・はいそこ!」
(白雷を落とす)

オルガマリー「今だわ! クラーク隊もアルトリアの後ろに随行! そのままアルトリアが敵の中で孤立するのを防いで!」

エミヤ『いい指示だ。マスター。私のほうの射撃は必要かな?』

オルガマリー「客将の・・・筋肉もりもりマッチョマンの笑顔の仮面が張り付いたような人がずっと味方の盾になったり、被害を防ぐために前に出すぎているわ。援護できないしら? もう一人のほうはジャンヌが抑え込んでいるし、クラークとアルトリアはさすが円卓。互いに息ぴったりで問題なさそう」

エミヤ『了解した・・・む、マスター少し待ってほしい。クラークの突撃で到達地点に最初攻撃を仕掛けた部隊が何やら驚いたり怯えたりで少し前線が崩れている。そこ援護してからにしよう』

アンナ「あー・・・私らや円卓の兵はともかく、慣れないとそれは仕方ないわよね・・・あ、魔猪隊が敵の重装兵を粉砕したわ」

紫式部「いい人なのですが、鬼よりも迫力があるような気もします・・・・・・はわわわわ・・・」

オルガマリー「何かしら、こう、なんか慣れてきちゃうと・・・客将の変わり具合や銀嶺の変人度合いが目に付くわ・・・」


軍団パズル

 「報告します! わが軍の左翼、大将のダレイオス三世様は死亡! どうやら敵のほうの増援で倒れたようで、今は備えていた軍で穴を埋めようとしています。が・・・いかんせん正当ローマのほうもどうやら増援を送っているようでして・・・後方の城、野営地、砦から援軍を捻出したほうがいいのではとの声が・・・」

 

 「備えていた軍だけにしておけ、今はここにあの1万の軍を破った軍がこちらに来ないことが第一。砦の守りを厚くし、備えの軍で時間を稼いで今日を凌ぐ。備えた軍はわが軍の横に合わせて展開。必要であれば離脱も考えておくので索敵を左翼に多めに割り振っておくように。どの道大軍が来たとの報告は来ていない。で、あれば砦から兵を出してあの軍を打ち破るほどの精鋭に野戦で打ち負かされる。被害を出すほうがわが軍には痛い被害だと捉えよ」

 

 連合ローマの中央軍。その本陣に駆け込んでくる伝令の切迫した報告。あの左翼が、かの大王の軍が倒れた。しかも増援も来るというのはまだ正当ローマにも余力があるということを知り、幕僚、高級武官のだれもがざわめく中、一人の男は冷静に指示を飛ばし、面倒くさそうに息を吐き捨てる。

 

 「ハッ! では、そのように指示をいたします。失礼しました! ではこれにて」

 

 面倒くさそう、やる気も感じられない。ただ、飛ばす指示は的確。戦術も一級品。彼の指示なら間違いないだろうと伝令も新たに受けた指示を頭に叩き込みその場を離れていく。

 

 (とりあえずは気づくことが出来たか・・・この軍団の弱点を。後はどう動くかだが・・・正解を引くことが出来るか・・・? 正当ローマの将ら、そして皇帝よ・・・)

 

 けだるげに戦場を見渡し、こちらに一直線に切り込んでくる一つの部隊。赤きバラのような皇帝とその周りを固める装備も装いもバラバラ。自分と同じ存在も多くいるであろう部隊に意識を傾け、男はあごに手をやり思考をこねくり回し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふっ・・・ふっ・・・ふっ・・・・!!」

 

 「先輩! 大丈夫ですか!? 私の後ろに・・・清姫さんと一緒にいてください! ハッ!」

 

 「うむ! よい動きである! これならすぐにでも本陣に駆け込んで敵将の首を取れる。相手が何か策を打つ前にこちらで相手を倒すぞ!」

 

 『今のところヤマジのおかげで前線は崩れず、うまく押し込んでいけている。もう少し耐えてくれ、藤丸君!』

 

 藤丸ら中央軍はネロの部隊を先頭にマシュ、ジークフリートが盾となり、ネロと藤丸を重点的に護衛。信長とジャンヌオルタが両脇を固め、藤丸のそばは清姫が守り、本営はヤマジが総指揮を執る。

 

 クー・フーリンはもう一部隊の先陣を務めてネロらが孤立しないように隣を並走。常に互いの動きを確認しながら爆走。敵の陣を4割ほどまで進んでいた。

 

 「ふむ。第三隊はもう少し前に出てくれ。魔狼と魔猪の部隊で粉砕して一息つかせるぞ。第五はネロ陛下らが離れた部分をフォロー。ケツをしっかり絞めてやれ」

 

 中央軍の数と士気、巧みに軍の隙間を縫って進行する戦法はヤマジが本陣に残り、軍の隙間に銀嶺を少数ながら配置していくことで対処。側面、背後に即座に回り込める魔獣の機動力とパワー。その動きに呼応できる銀嶺隊の連携でかすかにではあるが時間を稼ぎ、その間に正当ローマの兵士らが建て直して抑え込む。

 

 もとより少数、20数名で始まった銀嶺には少数での戦いは慣れたもの。ましてや今回は士気も装備も最高潮、練度も悪くないローマ兵と来たものだからヤマジの策は予想以上に刺さり、ここ数日の不利が嘘のように中央軍はかみ合って連合ローマ相手に徐々に有利に動かし、前にと進めた。

 

 (俺は少数の部隊のつなぎ目を扱うだけにしていたが・・・必要となれば即座に俺に一部の軍の動きも与えてくれるとはローマの兵隊らもいい男が多いじゃないの。おかげでクー・フーリンにも一隊を任せて並走できているし・・・後は・・・大将か。相手の動きも早い。頼んだぞ。沖田、ダンカン、ストーム1・・・)

 

 しかし、それでも相手も決して崩れはせず、ネロ達の爆走による部分を除けばほかは大きく揺れ動きはせずに大きな一撃は使えない、見込めないのが現状。相当に部隊長同士の連携がうまい、かつこの状況にあっても本陣が崩れないという信頼からだろう。

 

 とりあえずはネロ達が無事に本営にたどり着いて最低でも中央軍を壊滅。将の首も取れれば今後の動きが楽になる。特にこちらの兵士らの心をへし折り、篭絡して連合ローマに寝返らせた将軍の口のうまさ、宣伝のうまさは特になくしておきたいものだ。

 

 戦局はやや優勢。この状況からいつでもヤマジ自身も援軍に加われるように予備兵の数をチェックし、盤面に意識を注ぐ。

 

 

 

 

 

 (これが・・・これが戦場の真っただ中・・・息が重いだけじゃない・・・何もかもが・・・ひどい・・・)

 

 ネロとともに敵本陣を目指す藤丸らカルデア一行。目の前に映る景色。戦場の中に入るということの過酷さに藤丸は顔をしかめ、汗を滝のように流して惨劇に目をつぶりそうになるのを、吐き気を必死に抑えていた。

 

 血の霧のせいで息が苦しく、排せつ物と臓物、血の悪臭が鼻から口から入り込んで気分が悪くなる。人を刺す、斬る音が腹の底に響き渡り、銃を構える手の震えが止まらない。

 

 イカれている。何もかもが・・・藤丸の知る世界も、映画の世界でもこうも細かには見れない戦争の光景が目に焼き付いて離れない。フランスでの戦いよりも身近で、だからこそ堪える。

 

 それでも耐えきり、進めるのは今までの経験、カルデアでの鍛錬。マシュというある意味同世代、同じ時代の人間が自分らの盾になって頑張っているのにへこたれたくないという小さなプライド。そして、この中に一人放り込まれたら死は免れないという直感。

 

 自分を守ってくれる英霊らの心強さ、守りがあるからこそここまで無傷でいられるのだとわかる。突撃を始めた際に飛んで来た連合ローマの投げ槍で盾を砕かれてほほを、あごを砕かれて顔の形が変わったもの。頭を射抜かれて、心臓を射抜かれて動けなくなったもの。比較的軽く、あるいはしのぎ切れた兵士も負傷した身で連合ローマの兵士らにぶつかって死んだ者、矢で体中がハリネズミのようになったもの。矢傷で倒れたところを抑え込まれ、槍で、ナイフで殺されたもの。そこら中にあらゆる死に方が、悲劇が転がっているのだ。

 

 「うぅう・・・くっ・・・そ・・・お! うえっ・・・おおおぉあ!!」

 

 遮二無二に吹っ切れて、今は走ることでしか意識を紛らわすことしかできず、叫びかどうかもわからない声をあげながら本陣にめがけて足を進める。早く敵将を倒してこの地獄を切り抜けたい、生き残りたい。その一心で体中に活を入れ、周りの足に負けないと踏ん張る。

 

 「・・・藤丸! 生き残りたいのなら周りを見るんじゃ! 人は撃てなくても盾を撃て! それならできるだろう!? 生きたければお前も走るだけでじゃなくて戦え! マスターらしく男を見せい!」

 

 「そうよマスター! どうせこんな事いくらでも今後あるのだもの! 生きたければ私たちと一緒に戦いなさい! 私はマラソンランナーと契約した覚えはないわ!」

 

 「お二人とも、ますたあに失礼ですよ。シャアッ!! 私が守ります。ですからますたあはどうか前だけを・・・!」

 

 信長、ジャンヌオルタ、清姫らはそれぞれがそれぞれに藤丸にはっぱをかけ、できる限り血を見ない方法で対処し始めていく。

 

 信長は火縄銃、スレイドで連合ローマ兵の頭をかすめるように撃ち、その衝撃で気絶。そうでなくても動きを鈍らせたところを銃で殴り、あるいは蹴り飛ばして押し返し、先へと走る。

 

 ジャンヌオルタ、清姫は炎で矢を撃ち落とし、時に大きな炎を出現させて炎の壁で相手を突き放し、あるいは周辺の空気を奪い、昏倒を狙う。下手に殺すよりも無力化したほうがいいだろうとの判断からでもあったが、結果的には藤丸の精神を和らげるのに一役買う。

 

 「わかった・・・分かったよ! 俺も頑張るから、生きてやるからもう少し助けてくれ!」

 

 藤丸もその言葉に応え、引き金を引いて銃弾を盾に命中させてのけぞらせることに意識を向け、無理やりにでも意識を変えようとしていき、ロックソルトの弾丸を次から次へと撃ち、ネロや自分から兵士を遠ざけていく。

 

 「後もう少し・・・後もう少しなんです・・・! なのに・・・遠い・・・っ!」

 

 「後方の予備隊をつめて陣を分厚くしているな・・・これでは・・・時間がかかりすぎてしまうぞ・・・!」

 

 顔をしかめ、苦しげながらにも盾を振り回し、矢を受け止めて先鋒を務めるマシュ。大剣をふるい敵を吹き飛ばすジークフリート。マスターの精神負担や体力もそうだが、相手の守りがうまい。もう7合目まで来ているはずなのにまだ遠く感じる。敵本陣の距離はつめているのだが、そこに行くまでの一歩が遅くなる。敵防衛陣地の分厚さによってとなりのクー・フーリンの部隊も勢いがやや鈍ったか、全体的に動きが遅くなっている。

 

 「この好機を逃すわけにはいかん! もう一押しするのだ! わがローマの勢いを、輝きをここで見せつけて勝たねばローマの名折れよ! 亡霊の連合がなんだ! 今を生きる余らの、今を輝くものが負けてはいかんのだ! 進め兵士よ! ここが勝負の分かれ目と心に刻め!!」

 

 『いや、これはやばいぞ! みんな。敵の予備隊が後ろから広がって・・・包囲を始めた! しかも本陣は後ろに下がるつもりだ! ここで一度引かないと取り残されてしまうよ!!!』

 

 ネロ自身も檄を飛ばして疲労の色が見え始めた正当ローマの背を押し、再び勢いを盛り返そうとする。が、相手はその勢いの一転押しをとうに理解していたか、本陣は後ろに下がり、予備を広く広げ、ネロ達は愚か、前線に押し上げようとしていた軍の半分までもを喰らおうと動き始めていた。

 

 「そんな!? 先輩だけでもここを突破は・・・!!」

 

 「私の宝具で竜になればどうにか・・・でも、この兵士たちを一体どこまで・・・!」

 

 「む・・・! 右翼の敵兵・・・まずい。おそらくは右翼の予備兵だったかもここに殺到しておる。数はわからんが・・・2000は確実か・・・よし!」

 

 ネロ達の部隊は敵の本陣近くまで食い込めている。それはいわゆる敵の奥深く、包囲されれば逃げ延びるのが困難な場所。焦るマシュ、清姫らをしり目に信長、ネロは笑みを深める。

 

 「おいお前ら! チャンスだ! 一気に攻め入るぞ! 包囲する兵力がこっちの守りに充てられないなら相手も守りにはさほど力は割けねえ! 包囲されることにビビるよりも相手の喉元食い破ることに意識向けろ!」

 

 「クー・フーリンの、ケルトの勇士の言うとおりだ! 者ども! いまこそ動くべきぞ! 大丈夫だ! これも想定のうちよ!」

 

 クー・フーリンは朱槍を掲げて自身の兵士を鼓舞し、ネロもかつて戦ったケルトの戦士のことをフレーズに入れ尚更進む。これに部隊が無理やり進み、なおも前進していき、敵兵も驚きつつもよく守り、進行速度は少しにぶったまま。

 

 「・・・ここまでか。包囲を狭めよ。勢いだけ、あの勢いだけでは届かぬことを理解できないのか。確かにいずれここに届くであろうが、それまでにこちらが退けばいいだけ。此方の左翼を崩したのは見事だが・・・」

 

 あきれた。そう言いたげに包囲に本腰を入れるよう指示を入れ、もったいなさそうに二つの部隊を見てどうしたかと思った矢先

 

 「急報です! 敵兵500がここ本陣目掛けて爆走! 左翼の包囲を切り抜けてこちらに来た模様! なお、皇帝も一人討ち取られ、左翼の兵は一部混乱しているようです!」

 

 「急報! 敵兵は500を100と400に分けて、こ、ここの目の前にすぐに来ます! 左翼は既に半壊! ダレイオス三世を討ち取った敵将らも今包囲をする左翼の兵士たちに襲い掛かっており、は、歯止めが効きませんっ!!!!」

 

 伝令の立て続けの連絡に本陣は一瞬静まり返り、直後に地響きとともに現れる魔獣に乗った銀の兵士ら。

 

 「間に合ったようですね!」

 

 「沖田ちゃん! 僕らは敵の後ろに回って遮断をする! 大将はネロ陛下らの支援に回るみたいだ、敵将を逃がさないようにここが踏ん張りどころだ!」

 

 「了解です! 私は切り込んで楔としますのでダンカンさんらはサポートお願いします!」

 

 ダンカン、沖田らの部隊400が連合ローマの背後に回って後ろに逃げることを防ぎ、沖田は馬を降りて持ち前の俊足とそのふざけた剣技で馬を切り捨て、兵士の腿を切り裂き、落馬した兵士の腕を刈り取って前進。同じ地面の殴り合いでも鎧ごと。あるいは隙間を縫って刀を突き立てて兵を倒す。

 

 華奈の部隊100はすぐさまネロ達を包囲しようとしている部隊の背後を襲い、切り伏せていく。もとより盾と槍をメインにした密集陣形を得意とするローマ兵では一気に素早く方向転換することが難しく、しかも背後となれば背中、無防備な横腹を食い破られ、牙で砕かれ、槍、剣、斧で壊されていく。

 

 「いいタイミングで来たな! よし! 彼らに続け! この包囲を突破するぞ!」

 

 「やっぱ華奈はいい感じに動いてくれるぜ。喰らいな!『突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)』!!!」

 

 ここぞとばかりにクー・フーリンもあえて使わなかった魔槍の力、自身の技術を用いた宝具を解放。ネロと自分の出口になるであろう場所目掛けて朱槍を投擲。するとその槍は無数に分裂し、敵の一人二人といわずに部隊丸ごと吹き飛ばしてしまうほど。

 

 華奈の支援、クー・フーリンの一撃で大穴が開いたところを一気に押し進み、無事にネロ、カルデアの面々は敵本営に到達。あともう一息というところにまで追いつめた。

 

 

 

 

 

 

 「よくぞここまでたどり着いた。ローマの皇帝。そして将たちよ。暴風を潜り抜けての側面攻撃。その機動力。そして中央からのこの統率の取れた中央を破る勢、武力。すべてが正解であろうよ」

 

 敵本陣。そのなかでどっしりと構える真紅の衣装と黄金の鎧に身を包んだ黒髪の男性。兎にも角にもふくよかな男。見事な装飾の剣を腰に下げ、少し気が楽になったと言わんばかりの目でこちらを見渡す。一見やる気のなさそうな男だが、瞳の奥の色は鋭くこちらを見定めするかのように見ており、華奈たちも油断のできない男と即座に判断。油断なく構え、意識を向ける。

 

 「でしょうね。いくら何でも、強いとはいえあのバーサーカー・・・ダレイオス三世だけで片翼を任せるというのは一歩間違えばそこから進撃できます。索敵範囲から離れるか、受け止め切れる相手を用意してその間にすり抜けてしまえば奥に行ける」

 

 「じゃが、その奥に進んでも砦や大樹の城に止められるし、何よりもそれができるほどの数の軍を動かせば必然バーサーカー、もしくはそちらが気づいて指示を飛ばして餌食にされる。・・・だから少数で奥に行くのではなく側面を狙いつぶす。まあ、この速度を出せる銀嶺だからできた作戦じゃが」

 

 華奈たちの作戦は中央に多くの英霊たちを集めて敵陣に進撃。その間に右翼でダレイオス三世をストーム1、2で足止めして別動隊で本陣を狙うために右翼から中央目掛けて移動。伏兵に関しても魔獣の嗅覚や聴覚で察知してかいくぐり続けてその速度で敵がネロ達をすりつぶす前に援護、敵本営を遮断して逃げ場を一時的でも防ぐこと。

 

 もちろん英霊の索敵能力は油断できないが、そこは敵の部隊がバーサーカー。一度暴れれば見方を巻き込みかねない。しかも軍団規模となれば連合ローマもできる限りダレイオス三世の暴れる範囲には兵を設置しなかった。だからこそ報告も一息遅れ、ストーム1にくぎ付けになることで華奈たちの進軍を許し、連合ローマの兵士たちが華奈たちを止めようにも後方に設置していたせいで華奈たちを止め切ることが出来ずこうして中央本陣の奇襲を許したことになる。

 

 (こちらの左翼を狙ったことといい、いい戦略家、実行できる実動部隊が来たか。これで面倒なこの召喚と役割をはたしておさらばできるな・・・)

 

 (しかし、どうにも腑に落ちませんね。予備兵も多かったですが、もう少しうまく設置出来た部分もあるでしょうに、変に甘かったんですよねえ。何かこの軍は変な感じがします)

 

 「まずは貴殿らの勇猛さを、そしてこの戦場でなお輝くものを持つ美しきものらを称えよう。そして、名乗りをあげよ。敵将の首を取るために剣を交えるのだ。雄弁であり、勇猛でなくてはいかん。それとも、黙することが当代のローマの在り方なのか? そこにいる遠くの時を超えてきたものらもだ。この軍に対しての働き、称賛するべきものである」

 

 「ふ、藤丸・・・はっ・・・立香です・・・ぜはっ・・・はぁ・・」

 

 「うむ。若き新兵。いや、将官の卵か・・・? 勇気を振り絞ってここに来る根性は見事。3年もすれば面白いことになるかもしれんな」

 

 弱々しくも藤丸が手をあげ、息も絶え絶えながら一歩前に出て声を振り絞る。汗まみれ、血の霧と走り続けたせいでで少し赤い顔、疲労困憊。戦場を歩いた経験のない細い少年がここまで踏ん張ってこれたことに素直に男は称え、頷く。

 

 「マシュ・キリエライトです。先輩・・藤丸先輩の専属サーヴァント、護衛役です!」

 

 「美しい。その肢体、瞳の輝き。すべてがよい。後生大事にしておけ。想い人に捧げておけるようにな。下らぬ男にけがされるのは耐えられん」

 

 マシュに関してはその体、不安と勇気の混じった瞳を称えて若い少女の未来に少し想像を入れたか優しい表情になる。

 

 「船坂 華奈。まあ、この狼の軍の指揮官ですね」

 

 「なるほど。この速度、こちらが本陣を抜けない粘りを見せた兵士の主か。その銀の美しい体。男が欲しがるであろうものに、個、軍の強さか・・・思わず私も誘うかもしれん」

 

 「御冗談を。私よりも気にかけるべき御方がいるでしょう?」

 

 まさかの高評価に華奈は苦笑し、同時に瞳で視線を投げる。たかが一武将よりも言葉を交わすべき相手がいるはずだ。と。

 

 「ああ、そうだな。さて、美しき薔薇の皇帝よ。名乗ってもらう」

 

 「心して聞くがよい! ふくよかな皇帝よ! わが名はネロ・クラウディス! 真なるローマを守護し、ここに立つ皇帝なるぞ!」

 

 大剣を高らかと掲げ、男に切っ先を向けるネロ。凛とした、よく通る声での名乗りに男も満足したかしきりに頷き、瞳を鋭く光らせる。

 

 「それでいい――――語りは終わった。では、こちらも名乗らせてもらおう。我が名はガイウス・ユリウス・カエサル。・・・本来ならこのような役などすることはないはずだが、さあ、臆せず進もうではないか。互いに賽は投げられた」

 

 「っ!? それは・・・皇帝以前の支配者の・・・ええい! それがどうした! 我がローマを守るためにカエサル、覚悟!」

 

 ネロとカエサル。かつての統治者と今のローマを統治するものがぶつかり合うことで今日一番のターニングポイントは幕が上がり、激しい剣戟が一つ多く戦場に響き渡り始めた。

 

 「僕らは・・・後ろの兵たちがここに来ないように守ろう! 必要ならジャンヌオルタがネロの援護に行ってあげて! 敵がどう動くかわからないし!」

 

 藤丸らはそのまま走り抜けてきた背後の敵軍。それがなだれ込んでカエサルを守ろうとする前にこちらから向き直って倒すまでの時間稼ぎを決行。マシュ、清姫、ジャンヌオルタらはそれを良しと考え、早速魔力をみなぎらせ、臨戦態勢を整える。

 

 「ふむ・・・ジークフリート様。援護を。私は幕僚を狩りに行きます」

 

 「了解した。くれぐれも無茶はしないでほしい。マスター」

 

 「その時はこっちに逃げますよ。では!」

 

 その様子を見て華奈はジークフリートをネロの加勢に行くように指示を飛ばし、自身はダンカン、沖田らが対処している本陣の兵士らを刈り取るために再度栗毛を走らせ、100騎とともに戦場を駆ける。カエサルというビッグネームもそうだが、歴代の皇帝がいるという連合ローマはそれ以外の兵士、幕僚も油断できないもの。

 

 軍事に秀でた皇帝らの知識を生の声で聴いて、吸収した高級武官、幕僚らがここで逃げ延びて対策、何かを手を打つのも嫌なもの。もしスキピオを逃がしたハンニバルのような結果はごめんだし、何よりもここで敵に大きな打撃を加えなければおそらく次以降の戦場を見るに削るのが少なくとも今の銀嶺では難しい。

 

 ならば守りに秀で、おそらくはあのカエサルでも完封できるであろうジークフリートに任せるのが幸い。クー・フーリン、信長らは既にこちらの意を理解しているか敵陣に切り込んでいき、藤丸らをかばうようにしつつ戦闘を開始。

 

 「鋭いものよな。よく戦を分かっている。大将だけでは戦は勝てない。その場の創意工夫。戦術指揮を取れるものがいてこその軍。数と士気だけでは同じレベルならまだしも、何か優位なものが出ていればたちどころに崩れるというものよ・・・・」

 

 「よそ見している場合か!? そこだッ!」

 

 自分を袋にするのではなく、包囲はしつつも周りから刈り取っていく。その動きに関心するカエサルに怒るようにネロが正面から剣を振り下ろすが

 

 「甘い」

 

 そのふくよかな身体に見合わぬ動きでカエサルは後ろに下がることで回避し、その勢いを殺さぬままにネロの左側面に回り込み、黄金の剣を抜いて切り上げを振るう。

 

 「むっ・・・!? な、んの!」

 

 その一撃を剣の腹で受け止めたネロは吹き飛ばされるもその反動で思いきり地面をけって高く飛翔。くるんと体を一回転させてからの大上段をお見舞いしようとするがカエサルはそれも見切っていたようで。

 

 「焦りが見えるぞ、皇帝よ」

 

 即座にネロの落下地点から横に逸れて直撃を免れ、大剣と自身の重量を乗せた一撃で地面に深く刺さった剣を抜こうとしたネロの首目掛けて突きを放つ。が、ネロも剣を手放して身をかがめて対処し、立ち上がる反動で剣を引き抜いて後ろに飛びのく。

 

 「ちぃっ・・・見た目に似合わぬ動きをするな。カエサルよ」

 

 「人を見た目で判断するというのは誠恐ろしいものよ。特に、宮廷内で過ごせばそれはわかるであろう? 私とて武人の側面も、戦の経験など数知れず。多少剣を扱うくらいたやすいことだ」

 

 「確かにそうだろうな。すまないが、この勝負、俺も参加させてもらおう。この勝負。長引かせるわけにはいかないからな」

 

 互いに剣を構えなおし、再び攻撃に動こうとするさなか、ジークフリートがその中に割って入り、2対1の形が出来上がる。

 

 「頼む。今は武人の誉れよりもローマの勝利と栄光。そして、あの偉大な先人には強者が必要である」

 

 「任された。マスターからの命もあり、微力ながら力となる」

 

 「連携も戦の花よ。では、これはどうかな!?」

 

 2,3合の斬り合いで普通にやっては何が起こるかわからないと判断したネロもジークフリートの加勢を了承。カエサルも一騎打ちとは思っていなかったのですぐに受け入れて戦闘を再開。大剣を振るう上にただならぬ気配を感じるジークフリートに対して全力で踏み込み、左からの袈裟懸けを行うが・・・

 

 「・・・無駄だ・・!」

 

 あっさりとジークフリートの剣に阻まれ、膂力で今度は逆に押し返される。その距離を即座に詰めてジークフリートの右に左にと振り回す剣戟の嵐にカエサルも振り回され、受け流しても次が飛んでくるせいで体を揺らされる。

 

 「余も負けていられるか! 勝って必ず失地回復と連合ローマを倒して見せる!」

 

 ネロも負けん気でその斬り合いに加わり、カエサルを一気呵成に攻め立てる。流石にこの二人の攻撃にはカエサルも受け止め切れずに鎧や体のいたるところに切り傷、鎧や服に傷がついていき、先ほどまでの優位性は一転。追い詰められる側に回ってしまう。

 

 「むぅ・・・これならいいかもしれないが・・・まだ試させてもらおう・・・! 私は来た! 私は見た! ならば次は勝つだけのこと。『黄の死(クロケア・モース)』!!!」

 

 このメンバーなら任せてもいいだろう。ただ、そのまま引き下がるのも、出し惜しみをして図り間違えるのも、癪だとカエサルは宝具を解放。必中の初檄をジークフリートに放ち、その後に幸運による判定を行い、黄金の猛撃を放つ。その速さ、威力たるや周辺の剣戟の音が聞こえなくなるほどであり、剣戟は全てがつながっていると思うほどの猛追。

 

 「・・・・・これで俺は・・・倒れん・・・っ・・・!」

 

 しかし、その宝具も放った相手、ジークフリートに使ったのは悪手だった。ジークフリートの持つ常時発動型の宝具、『悪竜の血鎧』。Bランク以下の魔術、物理攻撃を無効化し、それ以上の攻撃ですらBランク分の攻撃力を差し引いた分の威力しかもらわない。これだけでも強力なのだが更には正当な英霊の攻撃はB+での防御数値にまで上がる。カエサルの放つ黄金の連撃は強力。だがランクはB+相当。完全に攻撃全てをシャットアウトし、その連撃の切れ間にジークフリートはその剣を振るってカエサルの一撃をはじき返し、あの猛撃を受けて尚も無傷である肉体を見せつける。

 

 「・・・これは、負け。かな・・・いやはや、このような猛者がいるとは、大したものよな」

 

 「敵将カエサル! 勝負を諦めたのであれば、その命、このネロがもらい受ける!」

 

 己の持つ切り札も通じなかったことで剣を鞘に納めたカエサルは両手を広げて空を仰ぎ、自身の負けを認めたカエサルに引導を渡すべくネロも自身の剣でカエサルに左からの袈裟懸けを振るい、見事に霊核まで届かせた。

 

 カエサルもそれで英霊としてこの場にとどまることが難しくなり、反応が弱まって光の粒へと徐々に変わっていく。

 

 「さて・・・軍団の主としてはこの敗戦の責はいささか重いものがあるが、同時に美しきもの達に倒されること、そしてこの茶番を終わらせられること、慣れない仕事から解放されることに感謝だ・・・」

 

 「ふぅ・・・これでよしと・・・ネロ陛下、ジークフリート様。カエサル討伐。お見事でした」

 

 自身が負けて去ることに何の心残りもないと言わんばかりの笑顔で退去し始めていく。既に日が傾き始めている空を眺めていたが華奈の声に意識を向け、思い出したと表情を変えて華奈に向かって声をかける。

 

 「そうだ、そこの銀の麗人よ・・・貴様らが欲しがっているであろうもの・・聖杯。だったか? あの輩が何度も吠えていたので覚えているが、そちらはそれが欲しいのであろう? 私に勝った褒美だ。それは連合ローマの宮廷魔術師。確か・・・レフというやつが持っている」

 

 「あら・・・生きていましたか」

 

 『なんだって!? あの惨劇と、しっかり検死はしたのに!!?』

 

 今回の特異点を作った聖杯。その持ち主がまさか華奈がセントリーガンでハチの巣にし、地蔵で頭をつぶしたのちに爆破したレフだということに一同驚き、同時に連合ローマをより確実に倒す必要性が出てきたことに少なからず気持ちを引き締めていく。

 

 「ネロ・・・そこにいるのはお前もきっと驚く相手であろうよ。あの方に会い、どのような選択を選ぶか。ゆっくり見させてもらおうか・・・・・・」

 

 くつくつといたずらっぽく。けど、本当に楽しみだという顔で笑いながらカエサルは退去。それを見た連合ローマの士気は崩れ、以降は正当ローマの追撃戦に移行。

 

 「かの名君カエサル。余は先へと進む。ローマの輝きをこの手に戻すために、屍を踏み越えていく」

 

 その戦場でネロはカエサルのいた場所に頭を下げ、すぐさま指揮を取って戦線復帰。日が暮れる少し前まで追撃と右翼の兵士たちへの追撃を行うことで中央、右翼は完全に正当ローマの大勝となり、ガリアまで奪還を成功。左翼はカエサルが倒れたとの報を聞くや巧みに退却を行い後方の野営地、城に戻り兵力の温存に尽力。

 

 この一日で連合ローマの前線の第一陣は見事に打ち砕かれることとなり、正統ローマの大勝利を物語る。この勝報にローマは沸き立ち、ネロとその将兵たちすべてを称えた。




カエサルも無事に討伐完了。あの人が手を抜いていだけで多分連合ローマは本当にえげつない強さだと思います。

今回は難しいが一ひねりすれば逆転できる陣地をあえて構築。クリアできる力量、知力、胆力があれば進めるという、ネロ達を試した形になります。

華奈たちはこれに対して中央からのごり押しと側面に少数精鋭で斬り込んで狙い討つという形でチャレンジ。成功した感じです。

ジークフリートさんの鉄壁具合は本当にえげつないです。これに加えて更に対魔力で魔術の搦め手も難しいうえに殴り合いも強い。キャスターからすればアルトリアレベルで嫌な相手ではないでしょうか。

次回は少し小休止。いろいろローマを練り歩いたりしていると思います。そしてまあ、少し古代ローマの問題点も出てくるかもです。

それでは皆様また次回まで、さようなら。さようなら。
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