見事に仲間入りしたゲロが神妙な面持ちで悟空に歩みよる。
ダーブラはゲロを信用しており、笑顔で見ているが、まだ信用してはいない亀仙人やクリリン、ヤムチャなどは気が気でならない様子である。
「ん、なんだ?」
悟空の目の前に来たゲロに対し、悟空はふんわりと問いかける。
悟空は通常運行である。
「すまなかった」
「!!」
皆が目を見張る行動をゲロがとる。
頭を直角に下げ、深々と頭を下げたのだ。
「いったいどうしたんだ?」
「孫悟空、お前には謝っておきたかったのだ」
依然としてゲロは頭を下げたまま話続ける。
悟空はそんなゲロを見て、困ったような表情で頭をかいている。
「おらはおめえにはなんにもされたことはねえぞ」
「確かにレッドリボン軍に属していたとはいえ、お前とは直接関係したことはなかった。しかし、私はレッドリボン軍が潰え、私の欲望を叶えることが出来なくなったために、孫悟空、お前を逆恨みし、あまつさえお前を殺すためにあらゆる手を講じていたのだ」
ゲロの独白は続く。
「その一端が、先ほどダーブラ様が見たあのカプセルの―――なっ!!!」
ゲロが頭を上げ、視線を横に移した直後、驚きの声をあげ、まるで時間が止まったかのように、ゲロの動きがピタッと止まる。
ゲロの視線の先では、笑顔のダーブラがカプセルを力付くで開いていたのだ。
「お、お止めくださいダーブラ様。そやつは地球を滅ぼしかねません!!」
悟空への謝罪を急遽切り上げ、ダーブラに待ったをかける。
「なに言ってるのよゲロちゃん。この子がそんなことするはずないじゃない。こんなに心根の正直な子がねぇ」
「それはそやつに内蔵された―――遅かったか…」
カプセルの抉りとられた蓋の部分を持ちながらクネクネと話すダーブラを見て、ゲロは絶望に満ちた表情で崩れ落ちた。
カプセルからは白い煙のようなものが吹き出し、そしてカプセルの端に手をかけ、中の人造人間が起動を始めた。
白い煙の中から現れた男は見上げるような大男であり、見事なモヒカン、鎧のような緑のジャケットを着込み、ジャケットの下には黒いタイツを着こむという、異様な様相である。
「俺は……」
「うん、綺麗な目をしてるわあ」
ダーブラは手を組んでピョンピョンとジャンプを繰り返し喜んでいる。
「ねえゲロちゃん、この子の名前はなんていうのかしら?」
ダーブラがゲロに尋ねるが「おしまいだ」と地面に腕をつき、ガタガタと震えている。
「もおゲロちゃんは」
ゲロの姿を見て深くため息をつくと、ダーブラは男に尋ねる。
「おはよう。あなたの名前は?」
「俺は16号だ…」
「16号かぁ。可愛くないわねぇ。いい名前はないかしらぁ」
ダーブラは首をかしげて考え始めた。
16号はダーブラから回りに視線を一週させる。
「この男はデータなし。しかし、かなりの戦闘力だ。あの男もデータなし。だがあの男はたいして強くない」
「貴様、どうやら死にたいようだな」
見下されたと判断したラディッツが戦闘体勢に入る。
「ダメよラディちゃん、この子は仲間になるんだから、先輩らしくしなきゃ」
「はは、ダーブラ様。貴様命拾いしたな、ダーブラ様に感謝するんだな」
ラディッツのことなど意に介さず16号は続ける。
「あの老人は97%の確率で武天老師と判断できる。あの禿げ頭は――」
「俺は禿げじゃない。剃ってるんだ!」
段々突っ込み役が定着してきたクリリンが瞬時に反応し突っ込みを入れるが、華麗にスルーして続ける。
「クリリンと判断。
あの噛ませ顔の男はヤムチャと判断」
「俺は噛ませじゃねえ!!」
悪意はないが、辺りの雰囲気をぶっ壊しながら16号は突き進む。
「あの男は―――!!!」
16は視線を釘付けにされたようにある人物を凝視し、動きを止めた。
「おらがどうかしたんか?」
「孫悟空!!殺す!!」
言うや否や16号は腕を振り上げて悟空に襲いかかる。
しかし、その動きのあまりの速さに誰もついてはいけない、襲われた悟空さえも16号の動きは全く見えていなかった。
「死ね孫悟空!!」
空を切り裂きながら降り下ろされた豪腕は、悟空まで残り数センチという所で止まっていた。
「いきなりダメじゃない16号ちゃん。悟空ちゃんはこれからあなたの仲間になるのよぉ」
頬に手を当て困ったような顔をしながらダーブラは諭すように話しかけていた。
悟空も今になって漸く気づいたように目をぱちくりさせて驚いている。
当然であるが、ラディッツ、亀仙人、クリリン、ヤムチャも声を失い、驚愕に顔を染めていた。
「放せ俺は孫悟空を殺さねばならん!それが俺の存在理由なんだ!!」
16号はダーブラの腕を振り払おうともがくがダーブラはびくともしない。
まあダーブラ様だから当然のことではあるが。
「ねえゲロちゃん、これどういうことぉ?」
「16号には孫悟空を殺すように、わしの憎しみを全てインプットしているのでそのような行動をとったのです…」
「解除できないのぉ?」
「はい…一端起動してしまったらもう……」
眉間にしわを寄せて苦しげにゲロは話す。
「困ったわねぇ」
ダーブラは依然としてガッチリと16号の腕を捕らえたまま考え出す。
16号もなんとかして振りほどこうとするが、全く効果はなかった。
ダーブラは考えつづけ、16号は抵抗を続け、二、三分後のことだった。
「いいことを考えついたわあ!!」
「本当ですかダーブラ様」
ラディッツが一番に声を上げる。
「ええこれ以上はない作戦よ」
「それはいったい?」
「皆は知っているかしら。仲が良くない二人がどうすれば仲良くなれるか」
ダーブラは仲間を見回す。
ラディッツは首を振り、亀仙人やヤムチャも同じく首を振る。
しかし、クリリンがまさかといった表情で身を硬直させている。
「クリちゃんは分かったようねぇ」
ダーブラは愉快そうに口元を緩めると、宣言した。
「夕日が落ちる川辺でガチで殴りあいをすれば友情という名の絆が芽生えるわあ!!」
ダーブラは満面のドヤ顔である。
尊敬しきったラディッツ以外の皆は、戦闘大好きの悟空も含めて血の気の引いた顔をしていた。
16号VS悟空のガチでの殴りあいが今始まる。