綺麗になった魔王様   作:寅好き

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愛と正義で憎しみを晴らせ

「ガハッ!」

一つの断末魔が広大な大地に木霊して、再度幾つもの岩山が吹き飛ばされた悟空によって、粉砕された。

「クリちゃん…何度目かしら?」

「これで五度目だよ…悟空…」

クリリンは唇を噛みしめ苦しそうな表情を浮かべて呟いた。

「そう…じゃあヤムちゃん仙豆を頼める?」

「任せとけ」

ヤムチャは仙豆を壺から一摘まみすると悟空が吹き飛んだ所に向かった。

 今何が起こっているかというと、悟空と16号の因縁の戦い(16号の一方的な)が起こっていたのだ。

 しかしながら力の差は歴然であり、もはや戦いとは呼べる代物ではなく、16号の一方的な暴力に変わっていた。

 だが驚くべきことに、悟空は死んではいなかった。

 5度ほど死にかけはしていたがだ。

 なぜか?

 それは今までの経緯がそれを雄弁に語ってくれる。

「悟空ちゃんったら~」

「グハッ!」

「もうヤダー!」

「ウギャー!!」

そう、今までダーブラの照れ隠しやらなんやらで、幾度となく、容赦ないダーブラの打撃を受けており、悟空の防御力(耐久力)はもはや戦闘力ではかれる範疇を遥かに超えていたのだ。

「ダーブラ様…」

ヤムチャが向かう背中をながめていたダーブラに声が掛けられる。

眉間にしわをよせ、険しい顔をしたラディッツだった。

「貴方の言いたいことは分かるわ。凄いわねサイヤ人って。死にそうになるたびに悟空ちゃんの戦闘力が数倍にはねあがっているわね」

「はい。しかし……」

ラディッツの険しい表情は変わらない。

 ラディッツは弟の成長を喜びながらも、内心悔しくてしょうがなかったのだ。

 だが、ダーブラもそれは容易に看破していた。

「大丈夫安心なさい。ラディちゃんも悟空ちゃんと同じように強くしてあげるから」

「だ、ダーブラ様」

暑苦しく信頼しあう師匠は笑顔を浮かべ、弟子は師匠にすがって涙を流していた。

(暑苦しいのう…)

そのさまを亀仙人は遠巻きに見ていた。

「なあダーブラ。そろそろ止めてくれねえか。これじゃあ悟空があまりにも不憫だ」

一方的な暴力へと変わっていた、悟空と16号の戦いを見かねたクリリンがダーブラに直訴する。

「そうね。そろそろ止めたほうがいいわね」

「お待ちください。ダーブラ様」

白いマントをはためかせてダーブラが飛び立とうとした時だった。ダーブラはゲロによって呼び止められた。

「私の憎しみが生み出した結果なので言いづらいのですが。まだ16号の憎しみは晴れてはおりません」

「そんなこと言ったって、悟空が可哀想だ。戦いとは呼べない代物だぞ!」

クリリンの怒声が響く。

親友を思いやってのクリリンの本心であった。

「……」

その心の叫びは、ゲロの心にも深く響き、反論することは愚か、口を開くことさえできなくしていた。

「わかっているわゲロちゃん。私が甘かったわ。汗を流して戦えば仲よくなると思っていた私が。でも大丈夫。もう一つ私にはいい案があるの。彼の心を揺り動かすね。皆集まって」

ダーブラは集まった仲間に概要を話、皆が納得したのを見て満足し、皆を伴い16号のもとへ向かった。

――――

「どう16号ちゃん。悟空ちゃんへの恨みは晴れた?」

ダーブラは16号の憎しみは晴れてはいないことを承知の上で問いかける。

 話の起点が必要だからだ。

「いや、まだだ……やはり悟空を殺さねば……」

(やはりか)

皆も予想通りの答えだった。

だが皆の希望は潰えてはいなかった。

 まだダーブラの作戦があったからだ。

「16号ちゃん。今はその憎しみを抑えてもらえないかしら」

「無理だ」

「貴方の大事な自然や動物に関わることでも?」

「!?」

16号の動きが止まった、明らかに動揺したさまで。

「どう言うことだ!」

16号の語気が強くなるのを聞き、ダーブラは作戦が上手く行き始めたことを肌で感じ、密かに笑みを浮かべた。

 それは、ダーブラだけでなく、皆も同じであった。

「後1ヶ月後に、ラディちゃんのブラック企業に勤める、DQNの友達がこの地球にやって来るの。その子たちの目的がこの地球なのよぉ!」

「な、なんだと!!」

(行ける!)

皆が16号の表情の変化を読み取り、確かな手応えを感じた。

 そして、ここぞとばかりにダーブラが更に深く斬り込む。

「その子たちはかなりつよくてね、16号ちゃん貴方も協力してくれないと勝てないぐらいの相手なのよぉ。貴方が協力してくれないと、地球上の自然が、動物の命が失われることになっちゃうのよぉ!」

16号への効果は抜群だった。

 16号の中では悟空への憎しみ以上に自然や動物への愛情のほうが強かったのだ。

 そう、これこそダーブラが16号の性質を上手く利用した、共通の強大な敵に対して共に戦うことによって仲よくなろう作戦であった。

「分かった…手を貸そう……」

一応ここで16号が加入した。

◆◇◆◇◆◇

こぼれ話

 ただここで皆が難色を示した部分があった。

それは「1ヶ月後にくるサイヤ人は本当に16号の強敵に成りうるか」であった。

すでに悟空と16号の戦いを見て、その強さが桁違いであることが分かったため起こった疑問である。

 下手すると次にくるサイヤ人でさえも噛ませになってしまうのではないか?と思うのも当然である。

 考えたくはないが、来襲するサイヤ人が16号と戦っただけで一発KOだったり、心を折られて

「もうおしまいだ……」

などとなったらこちらの作戦がもうおしまいになってしまう。

 だがここでダーブラが断言した。

「ラディちゃんから聞いたけど大丈夫よぉ。なんたって今度来る子の一人は戦闘力4000キリでもう一人はなんと18000キリらしいのよぉ!!」

あまり戦闘力というものにピンとこないクリリン、亀仙人、ヤムチャであったが、ダーブラが凄そうに断言するので納得したのであった。

◆◇◆◇◆◇

さらにここで戦闘力講座

ダーブラがいっている暗黒魔界での戦闘力『キリ』とこの世界の戦闘力では大きな違いがあった。

この世界では戦闘力には単位がないが、暗黒魔界ではこの世界で5万に対応する戦闘力が1キリとなる(注:1キリ=5万というのはVジャンプ調べ。戦闘力超公式版では1キリ=100万らしく、私もそのほうがしっくりきて、理論も正しいと思うが、この物語の構成上1キリ=5万とさせてもらいます)

つまり、ラディッツはナッパ4000、ベジータ18000といったのを、ダーブラはナッパ4000キリ(戦闘力で言えば2億)ベジータ18000キリ(戦闘力で言えば9億)と勘違いした結果により、ダーブラはナッパとベジータを強敵と思いこんだのである。

まあ、9億あったとしても16号には歯が立たないのだが、16号は気を持っていないため、ダーブラの目測が少し外れたことになる。


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