西住さんちの今日のごはん   作:瞬瞬必生

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なんか最初って筆進むよね




二話 カレーライス

「いらっしゃいませー」

 

 なんとかスマイルを浮かべながら接客をする俺。

 高校に上がり、親の許可も貰ってようやくアルバイトが解禁された。学校によってはアルバイトが禁止されているところもあり私立とかは特に厳しい気がするが、俺の通っている高校は許可さえ取れば別にアルバイトしてもいいよーという感じの学校。

 将来のため、欲しいもののため。俺は今日も店の歯車となって働く。

 

「いらっしゃいませー。ご注文お決まりでしたらコチラでお伺いしまーす」

 

 客は俺なんかのことは気にせず店内で自由にする。メニューを眺めては帰ったり、お持ち帰りで何かを買っていったり、中にはトイレを借りに駆け込んでくる客も。クーポンのチラシを持ったおばちゃんは昼間に大量発生している。希少種として「アレくれ」なんて言う猛者も来る。

 接客する立場、なんとかあくびをかみ殺し、俺は時計を気にする。時計の針は確実に時を刻んで、短い針はもうそろそろ夜の8時を指そうとしている。

 

 この時間ともなろうと、さすがに客足も減ってきて暇な時間帯へと突入する。まぁそもそもこの店が8時で閉店なんだけど。

 土日の昼間はピークの時間帯ということもありバカ混みだが、平日の夜なんて正直そんな来ない。来ても学生や仕事帰りのおっちゃんたち。

 

「いらっしゃいませー、ご注文をどうぞー」

 

 客をぎこちない笑みで迎える。耳をイヤホンで塞いでスマホを弄る客、財布の中を確認しておどおどする客、期間限定で今は取り扱ってない商品を注文して、ないことに逆ギレする神様。正直神様なら頼むから俺の願い事を叶えてほしい、2度と来るな。ハッ○ーセットを注文して、可愛いがま口の財布から小銭を出す小さくて可愛い女の子の「ありがとう」に癒されて次のお客さんにだけ120%の笑顔を振りまく。

 

 決してロリコンだからとかそういう理由ではない。相手が天使なだけ。純粋な子って癒される。

 

「店内で召し上がりでしょうか? お持ち帰りですねかしこまりましたー」

 

 お持ち帰りということで、ビニール袋を準備して紙袋に商品を詰めて客に商品をお渡しする。早く渡せば渡すだけ、客の表情は明るくなる。俺がバイトしてて楽しいのはこの時間をいかに短くするかだが、まぁそんな簡単に早くなったら苦労しないよね。

 常連ならみんな普通に気にしないし、早いことに越したことはないがたった数秒を気にするする人間は稀有だからだ。

 

 そうやって、ほぼ無心で仕事をすること数十分、あと少しであがりという所まで時計の針が進んだ頃だった。

 俺は持ち帰りの時間短縮するのが楽しいと言った、しかしそれ以上に楽しいのは美人ウォッチングだ。他のレジに入った美人、もしくは自分のレジに入ってきた客を品定めするように眺め回すのがまた密かな楽しみ。変な意味じゃないよ?

 

 あの女の人、美人だな~ただその友達はものすんごい太ってるな、とか。

 

 うわぁあの人おっぱい大きいなって思ったら、隣に彼氏いんのかよ、とか。

 

 なんだよあの露出高い服ありえねーだろ、やっぱ彼氏持ちか爆発しろ、とか。

 

 いろんなことを思いながら、通り過ぎていく女の人を観察していく。稀に神がおまかせじゃなくてちゃんとキャラエディットしただろ、ってくらい美人やイケメンがやってくる。特に長身イケメンがやってくるたび、俺の心臓が一つずつ壊されていく。かれこれ二十個以上は心臓を消費したんじゃなかろーか。

 反面、美麗な女性客がやってくると笑顔120%増し、声の可愛さメーター振り切り(当社比)で接客させてもらう。しかし悲しいかな、やはりそういう美女はだいたい唾付きでスマートフォンの向こうの彼氏や2次元の旦那に夢中、俺なんかは目に留まらない。

 誰か俺目当てに来てくれないだろうか。無理ですね知ってた。

 

「閉店時間になったら、今日はあがっていいぞ」

「あざっすなっす」

 

 なんか日本語じゃなくなってきた、仲のいい店長だし許してけろ。まぁ本日最後のお客さんだし120%の笑顔で接客しよう。スマイルは無料で提供するのがこの店のモットー。しかし、タダより高いものはないってばっちゃが言ってた。

 

「いらっ……いらっしゃいませ、こんばんは」

 

 そう思っていた矢先だった。レジに飛び込んできていたお客さんはなんかめっちゃ見たことある顔。一瞬固まりかけたが、なんとか耐えた俺を誰か褒めて欲しい。いや、俺が褒めよう。良くやった、俺。

 この時期は学園艦にいるはずと思っていたのに、なんで陸にいるんだよ。他人の空似か、はたはまた幻覚か。疲れているのかもしれない。

 

「なんだ、カズマじゃないか。ここでバイトしているとは知らなかった」

 

 俺はまほが陸にいるなんて知らなかったよ。

 店内を見渡せば、まほ以外の客は見当たらないし店長は裏で洗い物。

 ……まぁ、今なら会話しても大丈夫か。

 

「……なんで陸に来てんの? 退学にでもなったか?」

「そんなわけないだろ。学園艦が寄港する日だっただけだ。それで……」

「家に帰る途中と」

「そういうことだ」

 

 そういえば寄港することもあるんだっけ。普段まほとかに会う時にタイミングなんて意識したことなかったから気づかなかった。

 しかし、まさかバイトの日に寄港とは俺も運がない男らしい。知人にバイトしてるところを見られるのはなんか恥ずかしいというか、嫌というか。

 

「てか、よくここに来たな。おばさん、ファーストフードとかに五月蝿そうな人なのに」

「今日はお母様は仕事でいない。菊代さんも用事があるとか」

「……その様子じゃ、親父さんもいないだろ」

「よく分かったな。今日は私とみほの二人きりだ」

 

 この家族、忙しすぎではなかろうか。せっかく娘二人が帰ってくるのに出迎えなしとは仕事の都合とはいえなんか寂しいものがある。

 ……娘二人?

 

「あれ、みほはどったの? 一緒じゃねーの?」

「中等部と高等部じゃ授業が終わる時間が違うんだ。みほなら先に帰っているはずだ」

「さいですか」

 

 しばらく俺をじっと見つめていたまほは、何を思ったのか手をポンと叩き、

 

「そうだ、夕飯。カズマが夕飯作ってくれないか?」

 

 いきなり何を言い出すのかこのおたんこなすは。

 

「んな無茶言うな。バイトはあと少しで終わるけどよ、そこから帰ってお前ん家で料理はかったるいわ。第一、材料とかどうすんだよ」

「家にあるものを使えばいい」

 

 なんて無茶を言うのだろうか、この戦車娘は。砲弾が頭にでも直撃しておかしくなったんじゃなかろうか。

 だからあれほど頭を出すなと言っていたのに。

 

「ダメか?」

「……分かった分かった、なんかあるもので適当に作るよ」

 

 そんな目で見つめられたら断れんわ。その返事に満足したのか、まほは上機嫌そうに店の外で待ってると言って出ていった。

 ……あれ、注文は?

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「あ〜、マジ疲れた」

 

 やっぱ働くって疲れる。明日がまだ休みだからいいが、次の日学校とかマジ死ねる。

 楽して稼げる仕事でもあればこんな苦労しないのだが、どうやら世の中そんなに甘くないらしい。

 

「お疲れ様。しかしまさかアルバイトをしているとは知らなかった。親に借金でもしたのか?」

「するか。欲しいもんがあるから頑張ってんだよ」

「欲しい物とは?」

「それはもちろん……内緒グフッ!?」

 

 呟いた瞬間にまほは俺の足を踏んできやがった! 一応加減しているようで足が卵のようにゴシャアって感じに潰れることはなかったが、それなりに痛い。思わず押していた自転車を放しそうになったわ。

 

「足踏むなよ……欲しい物は買ってからのお楽しみだ」

「……変なものは買うなよ?」

 

 オカンか。

 第一、変なものって何だし。わざわざエロ本とか買うのにバイトなんてしねーよ。いや、余ったらワンチャン……しょうがないね、男の子だもん。

 

「そ、それより夕飯どうすっか。食材何あるか分からんが、一応リクエスト聞いとく」

「そうだな……カレーライス。カレーライス作ってくれないか?」

 

 そういえば。昔からまほはあんまり何食べたいとか注文するタイプじゃなかったが、カレーライスだけは別だった。よくしほおばさんにカレー食いたいって頼んでたっけ。

 まぁそうと決まれば夕飯のメニューは決まりだ。せっかくだからお嬢様のご期待に応えるとしよう。

 

「よし、ならとっとと帰るぞ。2ケツだ2ケツ」

 

 せっかく自転車があるのに押して帰るなんてもったいない。まほは歩きだが、後ろに乗せて走れば大丈夫だろ。ノープロブレム、ゴーハウス。

 

 

 

「……大丈夫か?」

「……すまん、やっぱ無理」

 

 まほを後に乗せたらフラフラし過ぎてめっちゃ怖かった。思わず重っ!って言いそうになったがなんとか堪えた。言っていたら今度は足を踏まれるだけでは済まなかっただろう。

 ……その後は普通に歩いて西住家に向かった。

 

 

「ただいま」

「おかえりお姉ちゃん!」

「お邪魔しまーす」

「あれ、こんばんはカズマさん。どうかしたんですか?」

「どうかしたんですよ。そこのお姉ちゃんに拉致されちゃってさ」

 

 え、え、と混乱しているみほを置いてまほと二人スタコラと台所に向かう。

 さて、肝心の食材は……

 

 ふむ、この材料から作ることが出来る料理となると……もうアレしかないだろう。

 まぁ別に悪くない。寧ろ良い。

 俺も好きだし、得意料理と言っても過言ではない。

 

 小さい頃から練習しているアレは、日々の研究の成果により昔とは比べ物にならないぐらいに上手く作れる自信がある。

 何せ俺の母親から太鼓判を貰えるまでに上手くなったのだ。不味いわけが無い。

 まほも分かりきっていることではあるが、敢えて俺は言ってみた

 

「ああ。夕飯を作るのは構わないが──別に、カレーライスを作っても構わんのだろう?」

「ムダ話せずに作ってくれ」

「うい。まぁ、せいぜい期待には応えるさ」

 

 そう言いながらも、彼女の口元には隠そうとしても隠しきれていない笑みが浮かんでいた。

 

 俺は、昔からこんな時間が好きだった。




次も最終章を観ながら頑張るぞい
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