あ、最終章は映画館でしっかり観てきました。
「えぇ……やだよ。めんどいし」
「えぇー、いいじゃないですか。せっかくだし、やりましょうよ」
時は夏休み。それは我ら学生にとって最大かつ最高の休み。今日も今日とてそんな夏季休暇中の我々俺と西住姉妹は悠々自適な夏休みライフを過ごしていた。そんな素敵な時間を過ごしているからこそ、俺としてはみほの頼みを承諾したいのは山々なんだけど、残念ながらすることはできない。
「やりませんか、流しそうめん」
いきなりどうしたというのか。本当にいきなり過ぎてわけがわからない。
そうめん……それはまだいい。夏に食べると美味しさは倍増だし、夏の暑さを軽減してくれる夏の逸品だ。
が、そのそうめんに枕詞で『流し』がつくとなると話は変わってくる。
流しそうめんとは、流れてくるそうめんを誰がいち早く手に入れられるかという熾烈なバトル。奪うか奪われるかの仁義なき戦い……というのは真っ赤な嘘、とまでは言わないが大袈裟過ぎたか。
そんな冗談は置いといて、流しそうめんか……
「確かに楽しそうだけどよ……キツくね?」
「え、何がですか?」
「いや、何がって……色々。そもそもうちに流しそうめんが出来る道具なんて無いぞ」
そこが一番の問題だ。
流しそうめんに必要なのは勿論そうめんだが、それを流す為の道具も必要となってくる。なにせ流しそうめんなのだから。流さなければ流しそうめんなんて呼べなくなってしまう。
やるならやっても問題ない広い土地、そのための道具が必要不可欠となってくる。
だがあいにく、うちにはその両方とも無い。そんな広い庭はないし、道具も無い。これではやろうにもやることが出来ない。
「ん、それなら問題無いぞ。うちの庭なら流しそうめんをやるだけの広さはあるし、道具も倉庫にあったはずだ。それを組み立てればやれなくはない」
「なんであるんだ……」
恐るべしお嬢様。俺んちに無いものを二つも持っているとは……
まぁ戦車があるくらいなんだし、流しそうめんの道具くらいあるか……いや普通あるのか?
「はぁ、まあいいや……よかったなみほ。これで出来るぞ」
「うん、楽しみ!」
しかし、そうめんだけではちと物足りない気がする。となれば、アレしかあるまい。
確かまだうちにあったはず……
玉ねぎ
万能ねぎ
にんじん
釜揚げ桜えび
ホタテ貝柱
卵
うむ、問題なし。そうめんだけというのも悪くないないが、せっかく料理が上手くなってきたんだし、ここら辺で何か作らねば俺の名が廃る。
☆
「ただいま戻りました」
「あ、どうも。お邪魔してます」
西住家の台所を借りてたところ、しほおばさんが帰宅してきた。なんか、めっちゃ久しぶりな気がする。それにこの人、夏休みなのに忙しそうだな……
「あら、久しぶりですねカズマさん。この暑さで天ぷら? よくやりますわね」
「……俺もそー思います」
この暑さで天ぷら作りは中々に辛いものがある。油の熱さで顔が死ぬ。
まぁそれでも。こういうのは料理の醍醐味かなって最近は思うようになってきた。作り終えた時の達成感は中々にグッとくる。
「そういえば庭が騒がしいけど、あれは何?」
「あー、あれは流しそうめんの準備です。みんなでやろうかって話になったんで」
「え、流すの?」
ですよね。やっぱそう思いますよね。
俺もしほおばさんと同じ感想になったが、あの姉妹がやる気になったらもう止められまい。
やはり大きくなっても、みほの行動力は凄いものがあるわ。
「……あまりはしゃぎすぎないように」
「……気をつけます」
「お、カズマ。そうめん出来たか? こちらは準備万端だ」
「ほいほい、出来てますよ」
「あ、かき揚げ! カズマさん、かき揚げも作れるようになったんですか?」
「なんとかなー」
これでそうめんだけ持ってきていたら、まほに
「やはりカズマに料理は期待しすぎていたか。いや申し訳ない」
なんて挑発をされたに違いない。いや、この前実際にやられたけどさ。
カレーライスに隠し味とか付けないのか? なんて聞かれたもんだから、隠し味は俺の愛情だーなんて冗談言ったらマジでドン引きしやがって。それも姉妹揃って。
……忘れよう。あれは悪夢だ。
☆
「それじゃ流すぞー」
「「はーい」」
やっぱ流すのは俺ですよね。知ってた。
まぁ、それでは第一投。そうめんを流せば、なんとまほがシュパッと取っていきやがった。てっきりみほに譲るかと思ったのに。
「ひっどおいお姉ちゃん! こういう時は譲ってくれても良くない!?」
「甘いなみほ。これは……戦いだ……!」
何をやってるんじゃこの姉妹。
「しかし、なんで急に流しそうめんなんて」
「ああ、それはな。カズマがやりたいって言ったのを思い出してな」
え、俺?
はてさて、この姉妹にいつやりたいって言ったっけ。全く記憶にござらん。
「……いつ言ったっけ?」
「たしか、カズマさんがこれくらいの時」
「そうそう、たしか小学校低学年だった」
「あのなぁ……」
みほが手で大きさを示したが、そんなちっちゃい頃かよ……
流石にそんな前のことは覚えてないわ。てか、よくこの姉妹は覚えていたな。
「それに約束していたからな、必ずやろうって。遅くなってしまったが、果たせてよかった」
「また三人でやりましょうね!」
……まったく、この姉妹にはかなわない。
劇場版を何度観ても『piece of youth』のところで涙腺が緩むのは俺だけだろうか。
あの映像がたまらん