誤字が在ったらごめんなさい。
吾輩はアイルーである。名前はメメント・モリ。全身を黒い毛で覆う、カギ尻尾が自慢のオトモアイルーである。
モガの村にご主人が住み着いてから既に幾星霜。今は毎日を農場の手伝いと、定期的な村周辺の調査で過ごしている。
吾輩の主人は実に変な奴だと思う。他の猫から見ても、そしておそらく人から見ても変人に見える事だろう。
戦いの最中でも敵の目前で平気で刃物の研ぎを始めたり、食べ物や薬品を摂取すると絶対にガッツポーズ(そのあと攻撃をもろに喰らってぶっ飛ぶ事もある)をしたり。たまに同じ場所で突っ立って半日ぐらい動かなくなったり、夜も寝ないで只管同じクエストを繰り返し受けに行ったり。
今日は常日頃から変人だと思っているご主人の一日を、吾輩の目線から紹介しようと思う。
毎日、日が昇ると共に起き出してきて、朝食も食べずに真っ直ぐに農場へと向かう。農場を管理する竜人族の老人に挨拶し、農場アイルー達にも手を振ってから畑仕事を手伝い始める。
蜂蜜の採集と、薬草やキノコの栽培を依頼し、後は只管に雑草取りや水撒き、新しい畑を耕したりして過ごす。
日によってはそのまま日暮れまでぶっ通しで作業する事もあるが、今日は気分ではないのか昼頃にはやめてしまった。
それから向かうのは、ギルドから派遣された受付嬢の居るクエストカウンター。適当な依頼を見繕い、気に入った物がある時はそれを受ける事もある。気に入った物がない時は受付嬢と適当に雑談を交わしてから、依頼も受けずにモガの森へと探索に出かける。
今日はクエストを受けなかったので、受付嬢と雑談してから探索に向かう様だ。
聞いていると頭が痛くなる様な独特の言い回しを多用するこの受付嬢と、数十分も会話できるご主人はやはりどこかおかしいと思う。
そもそも、吾輩がご主人の元に赴任する前は、オトモとして戦っていたのは二匹の奇面族だったと言う。攻撃的で粗野であり、人を見かければ襲い掛かる様な奇面族を配下にするとは、やはり変わり者に違いない。
だが、ご主人の腕前は確かだ。その奇面族と共にこのモガの村の危機を一度ならずに度までも救っているのだから。
大海龍ナバルデウス。そして煉黒龍グラン・ミラオス。片や大地震で島を沈め掛け、片や大陸を一つ消し飛ばしかけたと言う。
そんな大物を狩った英雄は、今はその片鱗を見せる事無くほのぼのと日々を過ごしている。正直、戦っている姿を一度見るまでは信じられなかった。
一旦家に帰り装備を整えてから、村の囲いの一部を開閉させてモガの森へと繰り出す。森と言っても森林ばかりではなく、崖や浜辺、洞窟や川原、草原地帯まであり様々な顔を持っている。
今日は適当に島の風景を眺める事にしたらしい。こういう気分の時、ご主人はあまりかさ張らない片手剣や双剣を持って来る事が多かった。基本的に敵に合わせて武器を変えるご主人は、たくさんの武器を集め、そしてそれを使いこなしている。
今日の気分は双剣だったらしい。
草原で草を食むアプトノスの群れを横目に通り過ぎ、蜂蜜を美味そうに頬張るアオアシラの後ろを素通りする。そうして辿り着いたのは、風食で作られた高い高い天井を持つ洞窟の中だ。
洞窟と言っても、天井や壁面の穴から日の光が差し込むので、暗さとは無縁だった。ここは虫が多く居るのであまり居心地のいい場所ではないのだが、ご主人は何をするつもりでここに来たのだろうか。
黙って後ろを付いて歩いて居ると、ご主人はおもむろに隅の方に生えているキノコを採取し始める。今日はキノコ狩りの気分だったのか、何時もあまりしゃべらないし無表情だが、キノコを狩る背中はどことなく嬉しげに見えた。
しょうがないので、吾輩も隣に立ってキノコを採取する。仮にも、先達の奇面族達の後を任されたオトモアイルー。主人ばかりをはたらかせる訳にはいくまい。
洞穴中のキノコを採取し終える頃、ご主人の纏う雰囲気がピリリと緊張した。そして次第に力強い羽ばたきが聞こえ出し、短い吠え声と共に洞穴の横穴から赤い鱗を持った飛竜が入って来るのが見えた。
空の王とも言われる事のある飛竜リオレウス。体格から見て上位相当の個体であろう事が窺えた。緊張した雰囲気のご主人が立ち上がり、じっと降り立ったレウスを見つめる。
先に動き出したのはリオレウスであった。翼を大きく広げて首を高く持ち上げ、吠え声を上げる為に口を大きく開きだす。あいさつ代わりの威嚇のつもりだろう。
そして、その鼻面に向けてご主人が握りの付いた筒を投擲した。吠え声が今まさに響かんとした瞬間、辺りに強烈な閃光が溢れかえる。
ハンターの基本的な道具、閃光玉は確実にレウスの出鼻をくじき、両の目から視力を剥ぎ取った。
そのまま戦闘開始かと吾輩は身構えたが、ご主人はスタスタとその場を後にしてしまう。肩透かしを食らった気分だったが、置いて行かれて視力の戻ったレウスにつきまとわれても面白くない。吾輩もまたその後に続く。
向かった先は洞穴の奥にある、切り立った崖に作られた飛竜の巣であった。竜骨や木の枝などで形作られた巣の中には、幾つかの卵の姿も見える。なるほど、先程のレウスは巣に近づく物を威嚇するつもりだったのだろう。
ご主人は卵が幾つあるかだけを数えて、それを素通りして崖際へと向かう。そしてそのまま、まるでベッドに倒れ込むようにぽーんと崖から飛び降りてしまった。下は海面とは言え物怖じしない物なのだろうか。濡れるのは好きではないが、これもオトモの定め優に。吾輩もまた崖を飛び降りた。
温暖な気候のモガの村周辺の海は、外気温に比べると少し冷たく感じてしまう。吾輩は海に潜れぬゆえに、浮き輪を使って上半身だけ海面から出している。着水もこの浮き輪のおかげで上手く行った。
ご主人はどこまで行ったのかと周囲を見渡すと、ちょうどすぐ近くからざばんと飛沫を上げて顔を出す。水中戦をする時はザボアギルの猫装備の時だけにして欲しいものだ。
たまに水に潜ったまま数時間海中散歩を楽しむ時もあるが、今日は素直に砂浜へと向かってくれた。どうやら今日は、吾輩一人で釣りをして砂浜で待ち惚けしなくても済むらしい。
砂浜から上陸してご主人はじっと一点を見つめる。この砂浜には陸地の方から小川が続いて居るのだが、その川をのっしのっしと黄色い生き物が下って来たのだ。
水獣ロアルドロス。同じ水獣ルドロスの成長した、スポンジ質の立派な鬣を持つ大トカゲである。
暫し、ロアルドロスとご主人が見つめ合う。だが、ご主人はそのまま無造作にロアルドロスの隣を素通りした。今更、ロアルドロスに用など無いと言う様に。
ロアルドロスはじっと、只管じっとご主人の事を見つめ続けていた。怪しい動きをすればいつでも襲い掛かるぞと、その警戒する相貌が語っている。
結局ご主人は何もせずに通り過ぎてしまった。吾輩もまた同じ様に、素知らぬ顔で横を通り過ぎようとする。何故か吾輩には威嚇する様に吠え声を上げられてしまった。解せぬ。
小川を遡り続けて行くと、また草原地帯が見えて来る。ここはもう村の囲いの近くで、比較的安全な地域だ。草食の大人しいアプトノスやケルビが、もしゃもしゃと怠惰に草を食んでいる。
このまま何事も無く村に戻ろうかとした時、サッと視界を影が横切った。聞こえてくる風切り音に上空を仰ぎ見ると、今度は緑の鱗を持つ飛竜が上空から真っ直ぐ降りて来るのが見える。陸の女王リオレイアに間違いない。
レイアは真っ直ぐに降り立って、草を食んでいたアプトノスに肉薄。そのまま空中で縦に一回転して、勢いの乗った尻尾を獲物に叩きつけた。
尻尾を喰らったアプトノスは即死したのか地に倒れ伏して動かなくなる。例え息があったとしても、レイアの尻尾にある毒で直ぐに息絶える事だろう。
獲物をしとめた彼女は片足の爪で獲物をガッチリと抑え込む。と、そこで初めて視界にご主人と吾輩の事を入れた。狩りに集中するあまり、小さい我々の事などまさしく眼中に入って居なかったのだろう。
暫しまた、ご主人は飛竜と見つめ合う事となる。だが、武器を構える事は無い。じーっと目を逸らさずに見つめ続けるだけだ。
そんな状況に飽いたのか、リオレイアは両足で獲物を掴んで一鳴きし、翼をはためかせて空へと昇って行った。正直、こんな村の近くで暴れ出されずにホッと詰まっていた息を吐き出してしまう。
その後は、ご主人も吾輩も何事も無く村に帰った。
村に帰った後は、モガポイントと交換できる特産キノコを村長の息子さんに引き取ってもらう。そうして貯めたポイントを使って、ビストロモガで本日初めての食事を作ってもらった。吾輩は合間合間にきちんと食事を取っていたが、今日のご主人は夕食だけしか食べ無い様だ。
ご主人がしっかりと食事を取るのは、クエストで狩りに行く直前だけ。それも偉い勢いで、大量の料理をぺろりと平らげてしまう。なんでも狩りの前にはそうやって力を付けるのだそうだ。
そんな食事時に、今日の不思議なモンスター達の邂逅を思い出し、気になった事を尋ねてみた。どうして今日は何匹ものモンスターに出会ったのに、一匹も狩らずに見逃したのかと。
こうして思考するときは標準語にきちんとできるのに、いざ発音するときは訛りが抜けなくて気恥ずかしいのだが仕方ない。
ご主人はもぐもぐと口を動かして、きちんと飲み込んでから答えてくれた。
「ロアルドロスはぶち殺してもよかったけど、別にポイントに困って無かったから見逃した。レウスとレイアは繁殖期の様だったから、子育てを終えた辺りにクエストを受けてから狩った方がお金になると思ったから」
ああ、やっぱりポイントとお金の為だったか。あまり期待はしていなかったが、やはりご主人は優しさや尊重で行動した訳では無かったらしい。
子育てを終えた辺りと言うのは、子供が巣立ってくれないと次の分が狩れないからと言う理由らしい。
吾輩が見て来た限り、ご主人は狩りの為に金を稼ぎ、狩りの為にポイントを溜めている。溜めた資金とポイント、そして剥ぎ取った素材で狩りの準備を整え、そして更に強大な相手を狩りに行く。
ハンターとしてそれは実に理想的なのだろう。だが、英雄になる為に戦ったのではなく、ただハンターとしてあるべく戦ったと言うご主人の事が、吾輩はやはりまともだとは思えないのだ。
まるで、歯車の様にただ只管に狩り続ける生き物。モンスターを屠る事を義務付けられた存在。
そんな風に思ってしまう吾輩は、間違っているのだろうか。究極の仮面を見つける為に旅に出た前任のオトモ奇面族たちよ、どうか教えてくれないだろうか。
きっと明日も、吾輩は心の中に浮んだこの疑問を抱えて過ごすのだろう。う。
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