「俺、敦、太宰の出番だ……。 以上。 何か質問は?」
資料から顔を上げた国木田さんが、そう問いかけた。
「あのぅ……」
僕____中島敦は、恐る恐る声を上げた。
「何だ? 敦」
国木田さんの眼鏡が、光できらり、と反射した。
「その……“櫻田 慶悟《さくらだ けいご》”という男は何故、女性ばかりを狙うのでしょう?」
僕がまた恐る恐る尋ねると、にやにやした顔の太宰さんが僕の顔を覗き込んできた。
「そりゃあ君……ねぇ?」
にやける太宰さんを一瞥して、国木田さんは言った。
「俺には到底理解出来んが、淫らな事でも頭にあるんじゃないのか?」
「みっ……!?」
そういう事か、と僕は理解した。
ただ、あまりにも淡々と放たれた言葉だったので、僕はおかしな反応をしてしまった。
我ながらなんて質問をしたのだろう……。
「……」
僕の隣に座っている鏡花ちゃんが、僕の事をじろり、と見つめているような気がした。
国木田さんの話が終わって、自分の席に戻る。
今日の依頼は、異能力者“櫻田 慶悟”の確保だ。
国木田さんの話によるとその男は、自身の異能力を使い、
(冷凍保存……)
「ねえ、敦君?」
僕が顎に手を当てて考えていると、太宰さんに声をかけられた。
「はい?」
僕は首を傾げる。
「今回の依頼。 女性ばかりを狙う男……。羨ましいよぅ! 私なら冷凍保存などではなく、一緒に死ぬと言うのにねぇ〜!」
そう言うと太宰さんは、クネクネ踊り始めた。
「はは……」
未だ楽しげに語っている太宰さんに向けて、苦笑いを浮かべるしかない。
___
僕達は、ヨコハマの隅の廃墟へ来ていた。
こういった場所には何度も足を運んでいる為、不気味な空気にも慣れたというものだ。
「太宰、敦、相手は異能力者だ。 手を抜くなよ」
国木田さんが声を潜めて言い放つ。
「分かったよぉ〜」
が、太宰さんはいつも通りの声の調子で、スキップをしながら進んで行った。
「あ、ちょっと太宰さん!」
「太宰ィ〜!」
僕達は慌てて、注意力、慎重性の欠けらも無いように見える(実際、そんな事は無かったりするのだが)彼の元へ駆けた。
国木田さんは太宰さんの首根っこを掴み、激しく揺らす。
「太宰! この唐変木! 奴に見つかったらどうする気だ!」
人気のない廃墟の廊下に、国木田さんの怒鳴り声が響いた。
僕は思わず耳を塞いでしまった。
「見つかるも何も……彼、目の前にいるじゃないか」
これまたいつも通りの調子で太宰さんが指さす方には、資料で見た“櫻田 慶悟”の姿があった。