遅くなりましたが、17話を投稿しました!
それではどうぞ!
◇
「………早く起きないと。ミア母さんに怒られちゃう」
とある一軒家の一室で、少女は目覚めた。
ベットから起き上がり、箪笥の元に行って服を取る。寝巻きと仕事着である制服に着替えて、鏡の前で薄鈍色の寝癖のついた長い髪を直し始める。
薄鈍色の長い髪に同色の瞳に身長は166センチ。神風に言うならば、『良質町娘』というものであろう。
「……よしっ!」
彼女は身嗜みを整え終わり、荷物を持ってその部屋を出る。すると玄関の手すりに小鳥が止まっていることに気付いた。少女がゆっくりと手を伸ばすと小鳥はさえずりながら手に止まった。そして、また空に向かって飛んで行った。
「……なんだか、今日はいいことありそう!」
そう、彼女は笑顔で呟いた。
◇
エオスファミリアのホーム、壊れかけの教会地下。魔石灯で薄っすらと照らされた室内には静寂が訪れていた。
「……五時か」
ルキアは目が覚めたようでまぶたを開け、時計を見るとまだ朝の五時だった。ここにきてからルキアはこの時間帯に起きるのが日課となっていた。
「……またか」
音を立てずに立とうとすると、何かが太ももの上に乗っかっていることに気が付く。それはマナだった。ルキアはいつもソファに座るようにして寝ている。マナが来た時はエオスは前と同じようにベットで、ルキアがマナにソファを譲ろうとしたのだが、マナがめっそうもないと断固拒否して来た。ルキアは渋々マナと一緒に座るようにして寝ている筈なのだが、毎朝気付けばマナはルキアの方は倒れこんで丁度ルキアの太ももに頭が乗るという状況になるのだ。ルキア自身は嫌でもなんともないが、マナは起きて状況を把握した瞬間に気絶するだろう。だが、今までそうはなっていない。ルキアの方が早起きだからだ。
「……」
ルキアはマナをソファに寝かせて、起き上がった。音を立てずに着替え、顔を洗い、歯を磨く。
「……んぅ…?あれ、ルキアさんっ?」
歯を磨いているとマナが目を覚ました。眠そうに目をこすりながらルキアを探す。
「……
「あ、起きてらっしゃったんですね。私も起きなきゃ……」
「
歯を磨きながらルキアはマナに言う。
「大丈夫ですよ。里でもこれくらいの時間に起きてましたから…」
「……
「そっ、それは、その………はぃ」
「……」
マナは朝に弱い。エルフの里ではいつも世話係の少女に叩かれて起きるのだ。
「わ、私も、ダンジョン探索に行くんですから……ルキアさん、よろしくお願いします」
「……ん」
二人はそのままダンジョン探索の準備を整えた。
◇
「エオス様、行ってきます…」
「…行くぞ」
「……はい」
マナはまだ寝ているエオスに小声で挨拶をして先にホームを出ていたルキアについて行く。
「……ルキアさん、ダンジョン探索でのことなんですけど…」
「…?」
「ルキアさんが前衛で私が弓で後方支援…ということでいいんですよね?」
「ああ。それが一番いい」
「わ、分かりました。ルキアさんをしっかりサポートさせて頂きます!」
「……出来るところまででいい。それと、俺に当てるな」
「そっ、それくらいは分かってますよ⁉︎」
メインストリートを二人で会話しながら歩く。その時、ルキアは不自然な視線を感じた。まるで、絡み付いてくるような、無遠慮過ぎる視線。
「……」
ルキアは静かに後ろを振り向く。が、ルキアを見ている人物は誰もいない。
「ルキアさん?」
マナもルキアの行動に首を傾げながら顔を覗いてくる。
その場にいるのは、マナとドアーフの冒険者五人パーティと店のテラスの椅子を下ろしている店員のみ。怪しい影は見当たらない。
「……」
「あ、あの……?」
その時、ルキアとマナに話しかけてくる人物がいた。それは一人の
「どなたでしょうか?」
「…何か、用か?」
「あの、
少女が二人に差し出したのは、小指の爪程しかない魔石だった。
「……袋の帯が緩んでいたか?」
「あ、ありがとうございます!」
ルキは腰巾着の入り口を右手で触り確認し、マナは頭を下げる。
「いえ、いいんですよ。こんなに早くからダンジョン探索ですか?」
「ああ、いつものことだ。それに、こいつは本格的にダンジョン探索をするのは初めてだからな。早朝なら、人が少ないだろうからやりやすい」
「そうでしたか」
「あなたもお店の準備大変ですね」
「いえ、慣れていますから…」
たわいもない会話をしてルキアはさっさとダンジョン行ってしまおう、そう思った時、ルキアのお腹から音が聞こえた。
「……朝ごはん、食べてらっしゃらないんですか?」
「ああ」
「は、恥ずかしながら……急いできたものですから…」
どうやらマナもルキアと同じだったらしい。
「少し待っていてください」
少女は小走りで店まで行き、右手に何かを持って出てきた。
「これ、どうぞ食べてください。まだお店やってなくて、賄いじゃないんですけど…」
「えっ⁉︎で、でも、これはあなたの朝ご飯じゃ……」
「……そう、なのか?」
マナは慌てて、ルキアは不思議そうに少女に聞いた。少女は恥ずかしそうにはにかみながら、続ける。
「このまま放っておいたら、私の良心が痛んでしまいそうなんです。冒険者さん、どうか受け取ってくれませんか?お二人で分けて食べて下さい」
「そ、そんな…」
「……それはお前のだろう?何故そこまでして…」
ルキア達が受け取らずにいると、少女は何か閃いたかのように指を立てて、言う。
「これは利害の一致です。私もちょっと損しますけど、貴方達はここで腹ごしらえができる代わりに…」
「…」
「か、代わりに……?」
「今夜の夕食を私の働くあの酒場で召し上がって頂かなければいけません」
「……えっ?」
「……そう、か」
少女の言葉にルキアは大体の意味を理解したようだ。
「うふふ、ささっ、もらって下さい。私の今日のお給金は、高くなること間違いなしなんですから」
遠慮することはないですよ、と少女はルキアとマナに言う。
「……じゃあ、今夜、来させてもらう」
「ありがとうございます!一緒に行きますね!」
「はい、お待ちしています」
マナはバスケットを持ち、ルキアについて行く。その少女は笑顔で見送ってくれている。その時、ルキアは彼女の名前を聞いていないことに気付き、立ち止まって振り返って少女に問いかける。
「…ルキア・クラネルだ。こいつはマナ。お前は?」
すると、少女はわずかに瞳を見開いた後、すぐにぱっと微笑んだ。
「シル・フローヴァです。マナさん、ルキアさん」
その名前を心に留め、ルキアとマナはバベルへ歩き出す。
そして、ルキアは呟いた。
「……
◇
「………ルキア・クラネルさん、かぁ…これは、報告物かな?」
ルキアが呟いたと同時に、少女は呟いた。
次回《酒場での飲み方》