龍剣物語 ~少年の歩む英雄譚~   作:クロス・アラベル

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祝、ダンまち二期、映画化決定!
そして、《ソードアートオンライン~時を超えし青薔薇の剣士~》約一周年!
ということで、ダンまちのssを書かせてもらいます!
それではお楽しみ下さい。



序章
呪われた少年


 

 

太陽の光が俺の体をポカポカと温める。

誰かが俺を腕に抱き、あやすように揺らす。

その誰かは、陰って見えないが、とても優しく俺に微笑んでくる。

青く、長い髪を左右に揺らしながら、俺をあやす。

 

『 _____ 』

 

優しい声で何かを語りかけてくるがあまりよく聞こえない。

それでも、俺を貶すわけでもなく、蔑むのでもない、何度も聞いた筈の声。

そして、最後に俺の名前を呼ぶ。

 

『…私の愛しいルキア……』

 

俺はその誰かに助けて欲しくて、手を伸ばそうとした。でも、俺の手は赤子のように短くて、小さい。

いくら伸ばしても届くことは無かった。

 

 

 

 

 

重いもので殴ったような鈍い音、そして、強い衝撃で意識が戻った。

目を開けるとそこは『檻』。壁には飛び散った血が、床には壁よりも血で紅く染まっている。無造作に置かれているのは棍棒やナイフ、鞭などの拷問道具だ。

これが俺の見慣れた風景だ。

両手首には手枷がしてあり、手枷から伸びる鎖は天井に繋がっている。足枷もしてあり、それから伸びる鎖は俺の後ろの壁に埋め込まれている。

そして、俺の目の前には三人の少年がいる。俺と同年代か、それより上の連中だろう。先程俺を殴ったのは右手に棍棒持った真ん中にいる少年だろう。

「はっ、やっと起きやがった。」

まるで起きるのを待っていたとも、起きて欲しくなかったとも取れる言葉を俺に飛ばす。

こいつらは俺が物心ついた時からこの牢屋によく来ている。成長するたび俺に暴言を吐き、暴力を振るった奴らだ。

……またあの夢を見たんだな。

ふと思う。

先見た夢は過去何度も見ている。いつもいつも、お前は誰だ、俺は何なんだ……俺の頭の中で渦巻き続ける疑問をぶつけようとするとすぐに目を覚ましてしまう。

所詮、夢か。

「おい!聞いてんのか、馬鹿。」

……うるさい、黙れ。

そう言うことは簡単だ。だが、それが相手を挑発することになることを俺は十分理解している。いや、こいつらはそれを誘発しようとしているのだ。何か言えば、相手の思う壺だろう。

「チッ、なんだよお前!俺達が相手してやってんのにシカトしやがって。なんだよ、その顔!馬鹿にしてるのか⁉︎」

また、一発。脇腹に棍棒が直撃する。

何故俺がここまで無抵抗なのか。それは俺には味方がいる。

この村にはいないが、《オラリオ》とかいう都市でどこかのファミリアに入って俺に仕送りをする、と言ってくれた奴がいる。あいつは今頃、オラリオで働き詰めの毎日だろう。だが、その仕送りが俺の元に来ないことをあいつは知らない。俺に回ってくるのはいつもごみにも似たものばかり。よくて残飯、大抵腐ったものばかりだった。『金』の『か』の字すらない。

二つ目は、俺の右腕にあるネームタグのついた鎖で繋いであるこのリストバンドのようなもの。これは物心ついた時からあったもの。前に聞いたのだが、これは俺が赤子の時からあったらしい。そう、これが親の形見のようなものだ。そこには生まれた年と俺の名前が刻まれている。

そして、最後は俺の首にかかっているネックレス。これもリストバンドと同じく初めからあったらしい。

この一人と二つ………今あるのは二つだけだが、これが俺の存在を証明する、俺の宝物だ。これがある限り、負けやしない。そう決意を固めたのだ。

だが、その希望は今日この日、一つが潰えることとなるとは、思いもしなかった。

「ムカつくな……ん?お前何を見てるんだ?」

その時、不意に俺の右腕のネームタグに棍棒を持った奴が気付いた。いや、俺の視線を追っていたようだ。

知らず知らずのうちに俺はネームタグに目を向けていた。

「なんだよこれ……」

覗き込む少年。そして、俺の名前が共通語(コイネー)で書かれているのが見えたのか……まあ、見えたってどうって事ない。

「……こいつ、なんか腕につけてるぞ。」

「なんだよ、《禁忌》のくせにそんなもん持ってんじゃねえよ‼︎」

直後、右手首に激痛が走った。

「っ!」

今度は、ナイフか何かで刺されたようだ。刺してきた張本人は小さめのナイフを手にしている。

次に俺の右手首を見た瞬間、時が止まった。

俺の右手首はそのナイフで貫かれていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「………ぁ」

長年にわたり手入れなどされておらず、壊れかけの鉄のネームタグは、無残にも砕けていた。

「ふん、《禁忌》が偉そうに装飾品なんかつけてんじゃねえよ!」

心に灯る黒い炎。全てを飲み込み、その炎は俺を包み込んだ。

周りの音もあいつらの声さえも頭に入ってこない。

そして、ここから。

俺の記憶は途絶えた。

 

「……この、クソ野郎があああああああああああああああああああああああッッ‼︎‼︎」

 

悲哀とも取れるそんな呪詛を叫びながら。

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅぁ……?」

意識が戻った。

少し周りが明るく照らされている。魔石灯のような強い光ではない。

優しく、俺を癒すような光。

体を動かして見ると、ガヂャガヂャという音が聞こえる。

血まみれの腕にはあの牢屋でもつけられていた手枷。あの時、あいつらにやられた傷は見えない。腕と同じく血のついた足にも足枷が嵌めてある。が、そのどちらとも鎖の先端に漆喰壁から無理矢理力づくで外したような、そんなコンクリートの塊がある。俺の頭ほどありそうだ。

牢屋ではないどこかに俺はいた。

そして、上を見上げると、そこには丸いものがあった。それは優しく輝いている。魔石灯とはちがう光。俺は遅まきながらその輝くものの正体を察した。

 

「……アレが《月》、なのか?」

 

生まれて初めて見たの月。

幻想的だった。

あんなに優しいものがあるだなんて、俺は知らなかった。

月のことなら、オラリオに行ったあいつから聞いたことがある。

暗い夜を照らすたった一つの光。

月は俺の過去(きず)を癒すように照らし続けていた。

前に聞いた蜃気楼のように揺らめく月。

心を救う、月の光は。

遠く揺らめき、蜃気楼のようだった。

そして、俺は静かに涙を流した。

 

「…………この近くにいるはずだ!探せ!」

 

その時、かすかに誰かの声が聞こえた。

俺を探す声。

俺をあの牢屋に戻そうとする奴らだ。

そいつらに見つからないように俺は走って逃げた。

悪夢(かこ)から逃げるように。

 

 

 




今回は主人公が村を出るだけとなってしまいました。次は戦闘シーンあります。

次回《戦いの降臨~本能はしたたかに~》

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