龍剣物語 ~少年の歩む英雄譚~   作:クロス・アラベル

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大変遅くなりました、クロス・アラベルです!
今回はアイズ達《ロキ・ファミリア》視点です。
それでは、どうぞ!


強者の宴

 

 

迷宮都市(オラリオ)の西のメインストリートにある酒場『豊穣の女主人』は賑わっていた。太陽はすでに沈み、昼間ダンジョンに篭っていた冒険者達が帰還し、酒場で飲み明かしているのだ。酒場にとっては冒険者からの金が稼ぎの大半を占める。それはこの『豊穣の女主人』も例外では無かった。

「アーイズ!もっと食べようよ〜、全然食べてないよ?」

店の中央の大きなテーブルでゆっくりと食事をしていたアイズは隣の同僚、ティオナ・ヒュリテに声をかけられた。アマゾネスである彼女はアマゾネスの中では珍しく性にあまり興味を持たない一人だった。そういうこともした事は無いらしい。アイズは理解出来なかったが。

「……大丈夫、食べてるよ…?」

「もう、アイズは元気が足りないなぁ!ほら、このお肉食べる?」

「……じゃあ、ちょっとだけ」

「はい!ちょっとだけ!」

出された肉料理はアイズの予想を超える量だった。ちょっとだけと言ったが、ティオナにとってはこれが『ちょっと』らしい。

「あ、アイズさん…食べ切れますか…?」

アイズの左隣にいた一人のエルフ、後輩であるレフィーヤ・ウィリディスが不安そうに聞いてくる。たしかに、アイズ一人では無理だ。彼女自身、少食であることを自覚しているのでどうしたものかと考えていたところだった。

「…多分、無理……」

「えっと、私、お手伝いしますね!」

「…ありがとう」

アイズは彼女の優しさに甘えることにした。

「さ、団長。お注ぎしますね」

「ティオネ、君さっきからずっと間髪入れずにエールを飲ませてるけど、僕が酔っ払った後何をする気か、教えて欲しいな」

「他意なんかありませんよ♪ささ!」

アイズから見て向こう側には団長であるフィン・ディムナがティオナの実の姉であるティオネ・ヒュリテにエールを注がれている。

「ガレスー!ウチと飲み比べやー‼︎」

「ふん、いいじゃろう。返り討ちにしてやるわい」

その左隣ではこのロキ・ファミリアの主神であるロキがファミリアの中でも最古参の重戦士であるドアーフのガレス・ランドロックに飲み比べを仕掛けた。

ティオネの反対側のフィンの隣席には王族妖精(ハイエルフ)であるリヴェリア・リヨス・アールヴが静かにアルヴの聖水を飲んでいる。

アイズはこの時が一番楽しくて、好きだ。過去に両親を失った時にぽっかりと空いた穴が少しずつ治っていくのが、そして____心の奥底で燃え続ける黒い炎が弱まっていくのが分かる。完全になくなるわけでは無いが、アイズはこの時間が____ファミリアのみんなと一緒にいる時間が好きだった。

ファミリアの後輩にここぞとばかりに酒を勧められることもあれば、自分が酒を飲んでは行けない理由で盛り上がる。その時ばかりは顔を赤くしてしまっていたが、アイズはこの一時の幸せを心の底から味わっていた、その時だった。

 

「そうだ、アイズ!お前、あの話を聞かせてやれよ!」

ロキを中心に遠征の話題で盛り上がっていたベートが頰を赤くしながら何かの話の催促をしてきた。彼にしては珍しく上機嫌だ。思わず首をかしげるアイズにベートは言葉を続ける。

「あれだよ、あれ!帰る途中で何匹か逃したミノタウロスだよ!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ⁉︎それでよ、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

その言葉を聞いてアイズは彼が何を言おうとしているのかを悟った。

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたらすぐ集団で逃げていった?」

「それそれ!アホみてぇに上の階層に登って行きやがってよ、俺達が大慌てで追っかけてった奴!疲れてるっつうのによ、余計なことしやがって……ヒック」

ティオネの言葉にベートが相槌を打った。ファミリアの団員が聞き入っている中、彼はアイズが予感していた事を口に出した。

「それでよぉ、いたんだよ!いかにも駆け出しみてぇなひょろくせぇ女がよ!」

止めて、と心の中で呟くもののそれが彼に届く訳もなく。

「ったくよ、勝てる訳ねぇっつうのに立ち向かって返り討ちにあってやがって……」

「ちょっとベート!いくらなんでもそれの言い草はないって!その子、駆け出しだったんなら普通そうでしょ?」

「そうよ、ベート。あんた、レベル1の駆け出しの頃にミノタウロスに立ち向かったことある訳?勝てるとでもいうの?ないなら止めて。こっちの品位が下がるわよ」

そんなベートの言い方に腹を立てたアマゾネスの姉妹はベートを集中攻撃した。

「うるせぇよ、バカゾネス!」

「ちょっと!バカはティオナだけにしておいてくれない?」

「ティオネー!ちょっとはあたしのことも否定してよー!」

「…アイズ。その子は何歳くらいだった?」

「……私と、変わらないくらい…だと思う」

言い合う3人を見て、フィンが不意にアイズへ質問をする。その答えを聞いて、やはりベートは酔っているらしいとフィンは思った。

「それでそいつ、あのくっせー牛の血を全身に浴びて………真っ赤なトマトになっちまったんだぜ!ひーっ、腹いてぇ…!」

「ホントサイテー。これだから駄犬は…」

「俺は犬じゃねぇ‼︎狼だっ!」

二人と言い合うベートに誰もが引き気味な目線を送る。

「なあ、アイズ。あれ、狙ったんだよな?そうだよな?頼むからそう言ってくれ……くくくっ…!」

「……そんなこと、ないです」

笑い過ぎて目に涙を溜めるベートにアイズはたった一言しか言えなかった。

「だからよ、そん時からずっとトマト野郎って言ってんだけど……いや、あいつ女だから『トマト女』か?どちらにせよ笑えるぜ……!」

「……ベート、お前さん、儂の『龍殺しの火酒』を飲んだんじゃな?」

一人盛り上がるベートの側には二つジョッキが置いてある。片方は普通のエール。もう片方は真っ赤な酒だ。間違ってガレスのジョッキに入っていた『龍殺しの火酒』を飲んでしまったようだ。因みに『龍殺しの火酒』は龍に飲ませたら一瞬で酔っ払ったというか昔話からその名がついた世界一酒気(アルコール)の強い酒だ。飲めるのは大抵ドアーフやアマゾネス、獣人などの体の強い種族くらいで他の種族が飲むと堕ちるらしい。レベル5のステイタスのお陰で『めちゃくちゃ酔う』程度に収まっているベートはさらに言葉を続ける。

「ったく、女が調子乗りやがってよ。巣穴に戻ってろってんだよ」

「いい加減その煩い口を閉じろ、ベート。そのミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。私達がその少女に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利など無い。恥を知れ」

今まで静観していたリヴェリアがとうとう口を開いた。かなりお冠のようだ。その言葉には怒気がこもっている。

「そーだよ!言い過ぎにも程があるよ!」

「おーおー、流石は誇り高いエルフ様だな。でもよ、そんな弱え奴を擁護して何になるってんだ?それはてめえの失敗をてめえの勝手な言葉で誤魔化すためのただの自己満足だろうが。ゴミをゴミと言って何が悪いってんだよ?」

「これやめぃ、二人とも。ほんなこと目の前でされたら、うまい酒も不味なるやろ」

仲裁のために言ったロキの言葉もベートはほとんど聞いていないようだ。ベートへの周りの視線が酷くなる。

「なあ、アイズ。お前はどう思うんだよ」

「…?」

「モンスター目の前にして、何にも出来なかった奴をだよ。あれで俺たちと同じ冒険者を名乗ってんだぜ?」

「……あの状況じゃ、仕方がなかったと思います…」

「んだよ、いい子ちゃんぶっちまってよ。ならどうだよ、お前はあいつと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

突拍子も無いことを言い出したベートに皆呆れ返った。

「…ベート、君、酔ってるね?その子は女の子…」

「いいから答えろよ、アイズ!どっちの雄に滅茶苦茶にされてぇんだ?」

「全く、呆れて物も言えないわ」

ベートの破茶滅茶な話に呆れるティオネ。ベートに珍しく嫌悪感を覚え、はっきりとアイズは言った。

「……そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

「無様だな」

「よっ!流石アイズ!そこに痺れる憧れるぅ‼︎」

「黙れババア、絶壁‼︎」

「ちょっと!今なんて言った⁉︎」

アイズの言葉にティオナがわざと声を大にして言うとお返しとばかりにベートが言い返した。

「じゃあなんだよ、お前はあんな奴を『深層』に連れて行けんのかよ?」

「……」

「お前はあの女を心の底から戦友として受け入れるか?」

「……っ」

「んなわけねぇよな!あんな雑魚、アイズにはミリセンたりとも似合わねぇ。何よりお前は強さを求めてる!あんな雑魚に構ってなんかやれねえだろ?」

「……‼︎」

「結局あの女は上層で朽ち果てるような雑魚なんだよ‼︎なんなら今にでも野垂れ死んでんじゃねえか?そう思ったら笑えるぜ!ギャハハハハハハハハハハハ‼︎」

ベートの認めざるを得ない言葉に口は動こうとしない。心の底では分かっていたのかもしれない。だが、目を背けていた。自分の悲願の為に、全てを____

 

その時だった。ベートの頭の上からバシャッと水が落ちてきたのは。いや、それは間違っている。正確には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

びしょびしょに濡れだベートは不機嫌そうに後ろを向く。

「……ああ?」

ファミリアのみんなも驚いてその水をかけた犯人を見る。その正体は____

 

空色の長い髪に蒼紫(タンザナイト)の瞳の少女だった。アイズが命を救い、そしてベートが散々侮辱した___その本人だった。

 

 




次回《酔いどれ狼の躾》
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