第3話、どうぞ!
とある病室。
そこに少年は眠っていた。アミッドに運ばれて、諸々の処置を受けて目立った傷は無い。
そして、アミッドがベッドの横で椅子に座っている。
「……あの時、前頭部に岩が直撃していましたから…記憶障害が起こる可能性も、無いとは言えませんね…」
この病室は《ディアンケヒト・ファミリア》のホームのアミッドの私室だ。少年の所持金は無し。ということはアミッドが魔法を唱えて治療した時から借金持ちになったということだ。主神であるディアンケヒトに見つかれば即高額請求されること間違い無しだ。なので、事を自分の
いつもなら都市外からの依頼を終えて少し仮眠をとるのだが、この少年がベッドを使っている。少年をどかして……というような考えは頭に無く、勿論一緒に寝るような考えも毛頭無かった。
「……」
アミッドは疑問に思っていた。勿論、彼の『ゴブリン12体の同時討伐』の秘密である。
そんなことをしようとするならLevel.2ぐらいでなければ到底なしえない。しかし、この少年の背中をどう見てもステイタスがどこにも見当たらない。大抵の神々はステイタスにロックかける。だが、完全にステイタスを透明化することは出来ず、うっすらと見えてしまう(ステイタス自体の解読は不可能だ)。
冒険者でもない少年には到底不可能、Level.1の上位の冒険者でも、一気に相手取るのは至難の技だ。だが、アミッドは少年がゴブリンの頭を吹き飛ばすところも見た。
大昔、
「………」
アミッドは再び黙考する。
◇
温かい。
目が覚めた時、その一言に尽きる。
今まで地下の牢屋の中で生きてきた少年はこんなに温かく、柔らかいものを触ったことがない。
このままずっと寝ていたい、本気でそう思った。
が、少しずつ意識が覚醒して行く中で寝る……いや、気を失う前の記憶が色鮮やかに蘇ってくる。
ゴブリン。戦闘。血飛沫。
「ッ〜〜〜〜⁉︎」
それを完全に思い出した少年は勢いよく体を起こす。
が、その途端に頭に激痛が走る。
その時だった。
『気が付きましたか?』
見知らぬ誰かの声が聞こえたのは。
「ッ‼︎」
少年のすぐ横にいたのは、1人の少女。
白銀の髪に紫色の瞳、華奢な細身。
少年は
『……睨みつけないでください。私は貴方を脅すことも傷つけることもありません。少なくとも貴方の敵ではありませんよ?』
少女は少年の態度を見て即座にそう言った。
「……嘘をつくな。」
少年は拒絶を示す。
『……後頭部の怪我を治療したのは私ですよ?もし私が貴方の敵なら治療はせずにとどめを刺すでしょうが、生憎私は貴方の敵ではありません。』
少女の言い分は確かに的を射ている。それは認めざるを得なかった。
「…じゃあ、お前は何なんだ。」
そう言われて少女は悩むことなく答えた。
『私は《ディアンケヒト・ファミリア》に所属しているアミッド・テアサナーレ。ただの《
「_______ 」
治療師、と少女は言った。そして、ファミリアに入っている……いわゆる冒険者だということ。
「貴方は?」
「……?」
「貴方のお名前は?」
「…………お前に知る権利は無い。」
少女の質問を突っぱねた。すると、少女は眉を寄せて反撃する。
「……私は名乗ったというのに、自分はしないというのですか?通常この場合は答えるべきだと思いますが…」
「……知るか。」
「…貴方の傷を治したのは私なのに…ですか?」
「…」
決定的な一言を呟かれ、黙る少年。
「……」
「………ルキアだ。ルキア・クラネル。」
「ルキア、さんですね?」
「ああ。」
「体に痛みはありますか?違和感なども無いですか?」
「……無い。」
「そうですか。ならよかった。」
「………」
一方的に話しかけるアミッド。
それに対し、勢いに負けて渋々答えるルキア。
「貴方の出身は何処ですか?」
不意にそう聞かれて数秒考えた。
自分がいたあの村の名前すら覚えていないことを思い出した。
「………知らん」
「……そう、ですか…………ですが、まだ聞いておきたいことがありますがよろしいですか?」
「……」
何も言わないルキア。その沈黙を許可ととったのか、アミッドはもう一つの質問をする。
「…貴方はファミリアに入っていますか?」
「……入っていない。言っておくが、入る気は無い」
と、アミッドの考えていたことを予想していたかのように、答えた。
アミッドの疑問は深まるばかりだ。彼はファミリアに入っていないにも関わらず、大量のモンスターを一気に相手取り、あまつさえ殲滅して見せた。これが周りに知れ渡れば、神々からの熱烈な勧誘を受けるのは目に見えている。彼にとっても厄介極まりないだろう。なら、自分のファミリアに入れてあげようという解決方法は本人によって拒否された。
「……少し待っていてください。」
そして、アミッドはあることを思いつき、一度部屋を出て行った。ホームの中の武器庫に入って、無難な片手直剣と最低限の防具を鞄に入れて部屋に戻った。
「……ルキアさん、貴方が成したこと……モンスターを
「……そんなこと出来る奴、山程いるんじゃ無いのか?」
「いえ、いません。太古の時代、神々がまだ下界に降りてきていない時代にいたぐらいです。」
「貴方はファミリアに入らないと言っていますが、いずれどこかのファミリアに入ることになるでしょう。だから、これを受け取ってください。」
そう言って、持ってきたそれと、アミッドの手持ちのお金の約半分……五万ヴァリスを袋に入れて渡した。
「……」
「最低限の必要なものです。使ってください。」
ルキアは驚き、戸惑いながら言った。
「……何故、俺なんかにこんなものを渡す…?」
「………放っておけないから、でしょうか。」
「…」
ルキアはあまり、人とここまで接することがほとんどなかった。だからこそ、今弊害が出ている。アミッドの『心配』という感情が読み取れなかったのだ。友情、愛情などのものを感じたことがほとんど無かった。感じたことがあったとしても、覚えていないだろう。
「ここから出て行くのは明日以降にして下さい。怪我は完治しているとはいえ、疲労で動けないはずです。だから、行くなら明日にして下さい。」
「……分かった。すまない…」
ルキアの本心では今すぐ出て行きたいところだったが、アミッドの言葉通り、あまり自由に体が動かせなかった。
「そこは謝るのではなく、感謝を込めて『ありがとう』と言うところですよ。」
「……あ、ありが…とう」
「安静にしていて下さいね。」
そう言ってアミッドは部屋を出て行った。
次回「放浪少年」