GATE 大日本帝国 彼の地にて、斯く戦えり 作:人斬り抜刀斎
狭隘な帝都の一角を占める森に建つ瀟洒な宮殿 それが帝国の迎賓館たる翡翠宮である。市民の立ち入ることの許されないこの森は自然に溢れ 帝都の中とは思えない景観を滞在する国賓一行に与えていた。現在 宮殿は、大日本帝国外交団の宿舎に割り当てられ 式典や園遊会に供される広大な前庭には警備にあたる薔薇騎士団の天幕が整然と並んでいた。そんな天幕で休息を取っていた薔薇騎士団の団長代行のボーゼスが何やら外から聞こえて来る騒音に気づいた。
「番兵 あの音はなにかしら?」
「ハッ 報告します。ボーゼス様 先刻より南西から東へ異常な騒音が移動中 音は大きくなりつつありこちらへ接近中の模様」
「ふぅん・・・わかりました。幹部全員を呼集 終了後は当直下士官に復命し任務に復帰」
「ハッ」
その後薔薇騎士団の幹部クラスが集められた。
「みんな夜半に申し訳ないけれど あの騒動が何か調べなさい」
「もう斥候を放ったぜ。ボーゼス騎士団長代行」
「助かるわ ヴィフィータ白薔薇騎士隊隊長。帝都中が不穏な情勢ですから暴動の恐れもあるし とりあえず当直は全員待機させてちょうだい。状況如何では全隊に非常呼集をかけます。そのつもりで、何か質問は?ありませんね では解散」
解散の号令がかかって騎士団全員が退室する中白薔薇騎士隊隊長ヴィフィータが残った。
「・・・なあ ボーゼス」
「なあに?」
「この中 やけに甘酸っぱい香りがするんだが・・・」
「そう?」
「ボ ボーゼス様は最近よく柑橘をお召し上がりになりますので・・・」
「なんだか無性に酸っぱい物が欲しくなっちゃって」
「ま まさかと思いますが・・・」
「どうしたの?」
「いえ その あの・・・」
そんな時ヴィフィータは、ニヤニヤしながら冗談かしこに言う。
「この子達はなあ お前が身ごもったんじゃないかって言ってんだ。んなことあるわけないのになあ」アハハハハ
「・・・そうかもしれないわね」
「ハハハハハ は!?」
ええええっ
「そんなに驚くことかしら?私とて乙女よ?別におかしくないでしょう?」
「いやいやいやいや そういう問題じゃないんだ」
「大変!まずはお湯を」
「お医者に診せないとっ」
「落ちつけっ」
「そうよ まだお腹も膨れてないのだから まだ 七〜八ヶ月先の話よ」
「いやいやいや そうじゃないって言ってるだろ。問題はお前が未婚だってことだ。もしかしてあれか?あの男か!?トミタとかいう馬の骨!」
「神々の一柱が臥所に忍んで参られたのでなかったら 身に覚えがあるのはあの方だけですわ」
「少しは慌てろーーっ 名門パレスティー家の娘としてそれでいいのか!?」
「いいの 一度は望まない相手に身を任せる覚悟を決めたわたくしが『この方』と心に決めた方の子を授かったのだから もし父上の不興を買うのならば家をも棄てる覚悟です」
「なっ おっ え!?」
「そうだわ 今のこのフワフワした感じ これが幸せというものかしら」
「す すてき・・・」
「おめでとうございます。ボーゼス様」
「報告しま・・・お お邪魔だったでしょうか?」
「いえ ごめんなさい 報告を聞きましょう」
「ハッ 斥候によりますと騒動は『掃除夫』が逃亡者を追い立てているためのもの 翡翠宮を包囲するように接近中とのことです」
「包囲?ニホン帝国使節への嫌がらせか?今晩の当番隊は?」
「私の隊です。お姉さま」
「ではニコラシカ ただちに黄薔薇隊全隊に非常呼集 臨戦態勢を整えて警戒配置 ヴィフィータの白薔薇隊はそのまま待機 多分 長丁場になるわ」
ボーゼスの命令の元各員に招集がかけられ臨戦態勢に入る。
ブオーー ブオーー
「黄薔薇隊非常呼集!第二種装備にて騎士団長天幕前に集合ー!!」
「非常呼集!非常呼集!」
黄薔薇隊はすぐさま甲冑を身に纏い武器を手に集合する。
「退役するまで楽できると思うなあっ 急げ急げ急げ!!」
「黄薔薇隊総員整列完了しました!」
「よろしい これより防衛陣を敷く下士官は集合!」
一方翡翠宮への正門の少し前の辺りで身を潜めるカーゼル侯とシェリーがいた。
「・・・正門も脇も警備厳重だのう・・・ピニャ殿下の騎士団は儀礼専用で兵も退役前の老兵と聞いとったが さっきのラッパは非常呼集の合図のようじゃったし・・・」
「・・・侯爵様 こうなったら堂々と名乗って正門から乗り込みましょう 宮殿に入れるかどうかはニホンの方々次第ですから」
「それもそうだな・・・君の言う通りにしよう」
そう決めたカーゼル侯は警備厳重の正門に堂々と姿を現した。
「誰か!?」
「帝国元老院議員 カーゼル・エル・ティベリウスである」
「カ カーゼル侯爵閣下・・・!?」
「うむ ニホン帝国の使節殿に急ぎ取り次いでもらいたい」
「し しかし閣下 翡翠宮は現在 皇帝陛下の勅命で立ち入りが制限されております」
「使節殿に重大な要件があって参ったのだが・・・」
「乗り物も供もなく お嬢様とお二人で?」
「あー うむ あの騒ぎであろう?」
「わかりました しばしお待ちを」
しばらくして許可が降りたのでカーゼルとシェリーは翡翠宮に向かう。
「ピニャ殿下は皇城におられるのか 今騎士団の指揮は?」
「ボーゼス・コ・パレスティー騎士長が代行を務めております」
「ほほう パレスティー家の娘御がのう」
そして見えてきた翡翠宮では騎士達が陣張り臨戦態勢を整えているのが見えてきた。
「翡翠宮・・・」
「こちらでお待ちください」
するとシェリーは日章旗と旭日旗が掲げられている宮殿に近づこうとしていた。
(この兵士さん達は帝国とニホン帝国の境を守っているのですね・・・その境はどこに・・・)
「お嬢さん そこから前に出てはいかんよ」
「キャッ!?」
「おっと びっくりさせてしまったかい?」
すると兵士が槍で芝生を指してシェリーに境界線を教える。
「そのあたりからが翡翠宮ニホン帝国とのみえない境界線だ」
「芝生が始まるところですね・・・」
「俺達の仕事は 許可のない者にこの線を越えさせないこと わかるね?」
「は・・・はい」
「シェリー!」
と天幕からカーゼルが出て来てシェリーを天幕に連れて行く。
「ご無事でなによりです。カーゼル閣下」
「儂はな・・・だが身を寄せていた家の者はだめだった。ようやくここにたどりついたのだよ。このまま眠ってしまいたいほどだ」
「ところで先に取り次ぎの件ですが・・・残念ながら『お会いする理由がないのでお断りする』との返答で」
「・・・にべもなし か」
「やはり亡命するおつもりだったのですか?」
「やはりということは 他にも来た者がおるのだな」
「はい 先方はそれをだいぶ警戒されています。我々としましては密かに城壁の外までお連れすることしか」
(それではだめ 私が来たこともちゃんと伝えたの?)
「そうか それで充分じゃよ」
(スガワラ様なら 違うお返事をーー)
「従卒 お二人に何か食べ物を」
「あ あの せめてスガワラ様にお会いできないでしょうか。わたくしが来たことをお伝えすれば・・・受け入れてくれるかもしれません・・・!」
「無茶言っちゃだめだ あいつが君を受け入れるわけでもあるのか?」
「ス・・・スガワラ様はーーいずれわたくしの夫になられるお方です」
「は?」
「で ですから・・・」
「あー 君いくつだ?」
「十二です!」
「さすが早婚すぎないか?」
「そ それは当人同士の気持ち次第ですわ!」
「帝国ならね。だけどアルヌスで読んだニホン帝国の法令では、女子は十五歳以上でなければ結婚できないそうよ」
「じゃあ 正式な結婚は 十五になってからすればよいだけです!!」
「わかったわかった スガワラを名指しで話してくればいいんだな」
「お願いできるかしら?」
「ああ」
と言ってヴィフィータは大日本帝国使節のいる宮殿に向かった。
一方大日本帝国の使節団は、
「きのうからあのドラの音でかくなってるな」
「奴らやりたい放題だ。粛清だよ粛清 交渉どころじゃないよ もう」
「政治屋の決断がいつも遅い上に手ぬるいんだよ せっかく我が軍がいるんだし今は帝国と戦争中だろ?爆撃するなり当初の計画通り帝都侵攻するなり・・・」
「お おい菅原・・・!」
と菅原は吉田茂の方に向き直り謝る形で頭を下げる。
「かまわないよ こんな状況だ。愚痴くらい」
「本省にもう一度連絡を取ってみてくれないか?」
「軽挙を控え待機せよ さっきといっしょだ。一人を助ければ二人 三人と際限がなくなりますからね。オプリーチニナを刺激するなということでしょう」
「菅原さん 名指しで伝令が来ましたよ」
「また?俺に?」
と入って来たのはヴィフィータだった。
「また亡命希望者ですか?」
「いや 先程の要件だ」
「それならばお断りしたはずですが 我が帝国政府の通達は変わりません」
「それはわかってる。だがな今回は 侯爵の同行者たっての望みだ」
「同行者・・・?」
『スガワラ様 シェリーでございます!』
と窓の向こうから聞き覚えのある声が聞こえて来て菅原は窓の外を見るとシェリーがこちらに向かって叫んでいた。
『スガワラ様 シェリーが参っております』
「俺が持ってきたのは彼女からの伝言だ」
『スガワラ様』
「シェリーの?」
「ふぅん?なるほどあのコを知ってるのか。彼女が言うにはあんたは未来の夫だとか?」
「まさか」
「だよな 俺にもあれくらいの頃経験がある。思い込みがつい暴走しちまうんだよな ちょっと優しくされただけで頭の中がお花畑になっちまう。俺なんか守ってもらったりするとダメだったな」
「ご ご理解いただき幸いです・・・」
「けどよ 貴兄にあの娘をそう思い込ませる言動がなかったと言えるか?あの娘はあんたのそんな優しさにすがってここまで来た。文字通り命がけでな どうだろう?ここは一つ 男としての甲斐性ってやつを見せてくれないか?それができないなら目をつむって耳を塞いでてくれ いずれどっか行く」
「どっか?どこかとはどこに?」
『スガワラ様!せめて せめてお声をお聞かせください!』
「さあな ああ そうだ。ご迷惑は承知しておりますが ぜひお情けを それがだめならお前なぞ知らぬと言ってくださいませ・・・だとよ」
「ホント・・・けなげだよねえ」
伝える事を伝えるとヴィフィータは退室していた。その間もシェリーは菅原を呼び続ける。
『スガワラ様 スガワラ様 お願いです。お顔をお見せください!』
(やめてくれ!俺は一介の外務省職員なんだ。くそっ どうする・・・)
その頃翡翠宮の正門では、
「伝令!ボーゼス様に報告しろ!急げっ」
正門に向かって掃除夫が隊列をなしてやって来たのだ。
帝国の国歌を描こうと思うんですがどれを参考にしたらいいですかね?
-
『廃墟からの復活』
-
『皇帝陛下万歳』
-
『神よ、皇帝フランツを守り給え』
-
どれでも良い