無能と言われる提督が一人ぼっちの時雨を笑顔にしてみせる 作:マスターBT
艦これはそこまで詳しいという訳ではないので、色々突っ込まれるポイントが出てくるかもしれませんが、許してください。
深海棲艦。
突如として現れ、人類から海を奪った存在。既存の兵器では太刀打ちできず、瞬く間に人類の制海権は無くなった。
発生理由や行動目的など一切不明であり、分かることは人類に対し、異様なまでの殺意を向けてくるということのみ。
深海棲艦の中には、人類と近い形をしているものもいるが、コミニケーションは取れず、話し合いによる解決は出来ないと判断された。
そんな深海棲艦に対抗する存在。
艦娘。
かつて実在した人類の兵器が少女や女性の姿となり現れた存在。
彼女達の攻撃は今までどんな兵器も通用しなかった深海棲艦にダメージを与え、撃退もしくは轟沈させる事が出来る。
人類の敵を討つことの出来る艦娘は、可憐で美しい見た目と共に人類の希望となった。
そんな彼女達を指揮し、妖精と呼ばれる存在を見る資格を持つ者。
提督。
艦娘に指示を出し、その性能を引き上げることの出来る存在。
艦娘と絆を紡ぎ、人類の敵である深海棲艦を共に討伐する役目を持つ。艦娘と絆を紡いだ結果、その艦娘と結婚することもある。
見目麗しい艦娘に囲まれて仕事が出来るということで、男性達に人気と嫉妬を集める職業でもある。
しかし、提督と艦娘の関係は美しいものばかりというわけではない。
提督の中には、艦娘を兵器としか見ておらず、休息を与えず前線に投入し続ける奴や、提督という絶対数の少ない職業ゆえに国や政府が払う給料や特権に目がくらみ、腐って行く者、艦娘への絶対的命令権を持っているために、見目麗しい彼女らを性的に辱める提督など。
これは訓練時代から無能と言われ続けた提督が、配属された元ブラック鎮守府で一人ぼっちの艦娘に出会い始まる物語。
雨の降る梅雨のある日、とある提督が自分の上司に呼ばれる。
提督の名前は、霧崎 時雨(きりさき しぐれ)海軍学校歴代一位の無能である。
何をさせても覚えが悪く、人の10倍こなして漸く一人前という、当時の教官達を呆れさせた存在である。
同期はどんどん提督して花開き、後輩達にすら抜かれて漸く卒業した彼。
そんな彼が配属される鎮守府への説明を聞くために、上司の部屋に訪れたのだ。
「……一時間。遅刻した事はこの際不問にしておく霧崎」
「あはは……」
漸く訪れた晴れ舞台すら、彼は寝坊と運の悪さを発揮し、遅刻していた。
唯一、幸運なのは上司が彼の性格を理解しており、呆れただけという事だろう。
「笑い事ではないぞ全く……さてと、君の担当する鎮守府を簡単に説明するぞ」
彼はのちに語る。自分に運命の転換期が存在していたとしたら、この瞬間であっただろうと。
霧崎SIDE
車に揺さぶられながら、配属先の鎮守府を思い出す。上司に馬鹿にされつつの説明だったけど。
えーと、確か前任が無茶な進軍と運用を行い、その結果、たった一隻の駆逐艦しか残っていないんだよな。
決して物覚えの良いとは言えない頭を必死に働かせながら思い出す。
前任はブラックな運営をしていたらしく、艦娘達に支払われる給料や鎮守府運営の資金を懐に入れ、艦娘達には非道なことをしていたという。唯一、残った駆逐艦も心を閉ざしその鎮守府から離れなくなったらしい。
「だからって、その鎮守府を再び戦えるようにしろって……」
資金を懐に入れていた為に、鎮守府の設備はボロボロ。非戦闘艦ですら、前任の無茶な進軍により轟沈。
まさしく、一隻の艦娘と俺のみで再建しろと言うのだ。どう考えても、窓際部署ですねありがとうございます。
大方、俺のような無能を送って成果が出ないから鎮守府ごと消えろってやりたいんだろうな大本営は。
「はぁ、深海棲艦もなんで、提督を優先で潰しにかかるなんて習性があるんだろうなぁ」
提督の消えた鎮守府には、艦娘が残っていても深海棲艦はほとんど攻撃してこないと言う。
連中は自分達の脅威を真っ先に消そうとでもしているのだろうか。まぁ、俺のような無能が考えたところで答えは出ないだろう。
「もうすぐ着きますよ。降りる準備を」
運転手が話しかけてくる。俺の様な無能の送迎などやる気ないのだろう。
淡々と死んだ魚の様な目で告げてくる。
「分かりました」
降りる準備と言っても、大半は既に鎮守府へと送ってある。
私物がほとんどない俺は小さな旅行鞄を膝の上に乗せる。真っ白い提督服に黒い鞄というのは、少しミスマッチ感が強かっただろうか。
窓から鎮守府が見えてくる。
「…はっ?」
見えてきた鎮守府はボロボロで古臭い印象を感じる。
鎮守府近くには、港町と言うのだろうか。それが存在しているが、鎮守府の様子に釣られているのか物静かで寂しい雰囲気が漂っている。
「これがこの街と鎮守府の状況ですよ。提督という職業はこの街では侮蔑を受けます」
車が止まる。
目の前に先ほど見えていたボロボロの鎮守府がある。車から降り、鎮守府を見上げる。
「……写真で見るより酷いな。まぁ、俺はやるしかないんだが」
「では、私はこれで失礼します。貴方がただの無能ではない事を祈りますよ。無能提督殿」
「なんで最後に嫌味を……無視して行きやがった」
俺の言葉を最後まで聞かずに、車を走らせていった。
いやね?確かに無能だって自覚してるけど、はっきり言われて傷付かないわけじゃないんですよ?
……鎮守府に入るか。
ボロい扉を開ける。すると、ボサボサの髪に死んだ魚の様な目。
「……お待ちしていました。提督」
覇気どころか生気を感じられない声で力なく敬礼し、俺を見ているこの鎮守府。
唯一の、艦娘。駆逐艦、時雨。
彼女がいた。
「…あぁ。よろしく、それと言葉は気楽で良い。
敬語を使われるほど、有能な提督じゃないから俺」
「……」
無言かよ。
握手しようと出した手をスッと、戻す。
「駆逐艦、時雨。で、あってるよな?」
「…はい」
端的に返事される。訓練生時代に習った時雨の性格と違いすぎる。
確かに環境によって差異は生じるとは習ったが、そういう次元じゃないだろうこれ…
まぁ、でも唯一残った艦娘が時雨で助かった。俺は、名前を覚えるのすら苦手だからな。
「俺の名前は、霧崎時雨だ。同じ、『時雨』どうし仲良く出来ると……」
ばちん!と頬を叩かれる。
驚いて正面を見ると、憎しみに満ちた目で時雨が俺を見ている。
あー…そうだよな、こいつからしたら、提督なんてそういう存在だよな。
自分を雑に扱い、仲間を死なせ、挙句自分は私財を蓄えて……あぁ、やっぱり俺は無能だな。
きっと、俺の同期の連中なら、すぐ分かった事だろう。叩かれないと気づけないとはね。
俺に華麗なビンタをかました時雨の右手を掴む。
「ッツ」
驚いた表情を浮かべるが、掴んだ俺に怒りを感じているのか時雨の爪が食い込むほど、力を込めてくる。
当然、血は流れてくるが……こんなの時雨が受けた痛みに比べれば大した事じゃないだろう。
「かなり雑だが、握手できたな時雨。
俺の落ち度だったな。だが、俺は無能と言われ続けた人間でな、上手いコミニケーションなんかすぐに分からないんだ」
振り解こうと暴れる時雨。
当然、俺の出血はさらに悪化する。
「だから、俺はお前が笑える様になる為に尽力しよう。
お前は俺を見て、判断してくれ。俺がお前の信用、信頼に値する提督かどうか」
時雨の動きが止まる。俺も手を離す。
五本の指の爪が俺の皮膚をしっかりと貫いていた為、めちゃくちゃ痛い。
時雨と目を合わせる。相変わらずの目をしている。
「執務室に案内してくれ。俺は方向音痴でな、簡単な場所でも迷う自信がある」
どうにも説明を聞いただけでは俺は辿り着けない病気を患っているらしい。
そもそも、ちゃんとした道を進んでいても気がつくと横道に逸れている。そんなことは、俺の人生でざらだった。
だから、時雨に案内されないと俺はおそらく、鎮守府で餓死するくらい迷子を極めるだろう。
「……分かりました。こちらです」
相変わらず様子で歩き出す時雨。
幽鬼のようにフラフラした足取りは見てて不安を覚えるが、今俺が言ったところで聞かないだろう。
「……」
「……」
歩く俺たちに会話はない。俺は基本的に受け手が多いし、時雨が提督という存在を憎悪している事もビンタされ、理解したので話しかけない。まぁ、単純に話題がないだけなんだが。
ちらりと横目で時雨を見る。
ふと、疑問を覚えた。なぜ、この鎮守府に固執するのだろう。
提督もなく、他に在籍する艦娘もいないのなら、他の鎮守府に異動するか、退役するだろう。
頭をひねっているうちにどうやら、執務室に着いたようだ。時雨は案内は終わったと言わんばかりに姿をくらましている。
「…一言ぐらい言って欲しかったぜ……入るか」
ギィィィイとボロい音を立てて、執務室に入る。
まず目に入ったのは、無駄に豪華な装飾のある家具たち。売ればいい値段になるだろう。
そして、乱雑に置かれた書類の山。
憲兵達が調べ上げ、罪状を明らかにしたから必要なくなり置いていったのだろうか……いや、あの上司の嫌がらせに近い何かだろう。
「何が起きたか書類上でぐらい確認しておけって事か」
書類を手に取り、趣味の悪い豪華な椅子に座る。
クッソ居心地悪い。決まり切った定型文は流し読む。重要点だけ手帳を取り出し書き写して行く。
「ふぅ…」
書き写していた手を止める。
裏ルートの流れや、汚い官僚との繋がりなど色々分かった。ますます、俺の上司以外のお上の方々は俺ごとここを潰したいらしい。
はぁ、こんな無能を潰すためにここまで労力を割く必要なんてあるのかね?
「まぁ、そんな事はどうでも良いか。
ここに所属していた艦娘は、不思議なくらい時雨に縁のある連中だったな。少しばかり時雨がこの鎮守府に拘る理由が分かった」
携帯を取り出し、数少ない俺の友人に連絡を取る。
『こんな時間にどうした?霧崎』
「ん?もうそんなーーーあぁ、もう深夜か」
『またかい……全く。まぁ、お前のそれは今に始まった事じゃないからね。
そっちの鎮守府で僕が手伝える事でもあったのかい?』
「あぁ、朱染。お前に頼みたいんだがーーー」
『ーーーははっ、それぐらいやっておくさ』
俺の同期、朱染征十郎。
能力は高いが、愉悦を何よりの楽しみにするある種の外道。
お上の方々すら、手玉にとる奴だが、なぜか俺の友人をしてくれている。
『報酬は……また、君と飲みに行った時に苦労話しを聞かせてくれよ。
君の苦労話しは、おもし……楽しいからね』
「そんなんで良いならいくらでも。じゃ、これで失礼する」
『あぁ。じゃあね。昼頃に届けるよ』
通話が切れる。
さてと、あとやる事は…この無駄に豪華な家具を売って金に換えて鎮守府をまともに機能できるように、大工とかに依頼して……
妖精達も少ない。多分、施設がボロボロだからだろうか。
「とりあえず、風呂の修理をして、時雨に入ってもらおう」
そう決まれば早く動こう。
適当に工具を持ってきておいて、良かった。
そんな事を考えながら、執務室を出た俺は一時間ほど迷子になりつつ、修理に向かった。
「……」
そんな俺を虚ろな目で見ている時雨が居たことなど全く、気づかずに。
こんな感じになります。
戦闘シーンなどは、ほぼ書かない予定です。基本は、ボロボロになった時雨と無能提督が関わっていく話になります。