無能と言われる提督が一人ぼっちの時雨を笑顔にしてみせる   作:マスターBT

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時間の経過って早いですね……


雨のちココア

「今日は雨か」

 

いつものように書類仕事を片付けて、休憩がてらキッチンでココアを飲んでいる。

湿気が酷いと思っていたが、今日は雨だったようだ。窓に打ち付ける雨の音が凄い。雷も遠くの方で鳴っている。

この雨だ。いずれ、こっちにやってくるかもしれないな。

 

「…しかし、こう雨が強いと子供の頃を思い出す」

 

俺の子供の頃は、雨が大好きだった。

傘に当たり、反響するあの音が堪らなく好きで大雨が降ると決まって、傘をさして外に出ていた。

カッパも着ないで、傘一本で外に出るものだから、何度も風邪をひいた。それでも辞められなかった。

傘に響く音が、周囲の音を消して耳に聞こえるのは雨の音だけ。そして、雲が太陽を隠すから世界に自分だけがいるあんな感覚が大好きだったんだろう。

ココアを半分ほど飲んで、机の上に置く。

 

「そんなアホな子供が今は、こうして提督をしてるとは……あの時の俺は微塵も考えてなかっただろうなぁ」

 

当時の俺はどんな事を考えて生きてたっけ?

そんな事を考えていたら、片隅に置かれた傘が目に入った。そこまで歩いて行き、傘を見つめる。

そういえば、キッチンは裏口と繋がってたな。………よし、たまには童心に帰ってみるか。

傘を手に取り、外に出る。屋根のないところに行けば、一瞬でずぶ濡れになる大雨だ。

こんな時に目的もなく、外に出るアホはいないだろう。

 

「まぁ、ここに居るんだが」

 

ウキウキ気分で傘を開き、外に出る。

バチバチバチっと傘に雨が当たる。やはり心地よい。外に出ると同時にズボンが濡れて、肌に張り付く不快感を与えてくるが、そんなものは気にならない。

あてもなく、傘をさしたまま歩く。この鎮守府の裏側は、怪しい取引にでも使ったんであろう艦娘が使わない小さな港と、食料とかを置いて置く倉庫があるぐらいであとは、何もない。

 

「〜〜♪♪♪」

 

やはり俺は雨が好きなようだ。

大人になった今でも、この独特の雰囲気はやめられない。

ふと、立ち止まり雨音に耳を傾け、考えに耽る。気を抜くと寝てしまうそうになるから注意をする。

秘書艦を引き受けてくれるぐらいには、時雨とも仲良くなれたが、俺はもっと仲良くなりたい。

あいつが笑っているところを俺は全然見れてない。この鎮守府で笑えるようにするのが俺の最終目的だ。

上司とかの考えは知らん、というか俺が考えたところであの人の考えなんて分からないし。

 

「どうすれば笑ってくれるかなぁ…そもそも、俺は時雨に何があったかは直接聞いてない」

 

書類上では知っている。

嫌がらせや、暴力。戦う事だけに時間を使われ、それ以外の事で時間を使うのは、補給のみ。

修理だって、前任の目を盗んでやっていたらしい。それに、何より許せないのが前任が行なったという史実再現。

艦娘は軍艦だった頃の記憶を持っている。俺にはそれがどういう理屈で起きているのか分からないが、そういうものらしい。

そして、記憶を持っているからこそ自分の終わりだって当然知っている。

悲しい事だと俺は思う。生まれてきたその時から、自分が死んだ記憶を保持しているのだから。

 

「っといかんいかん。思考が逸れてきている」

 

史実再現に思考を戻そう。

奪われているのは人類の海域だ。それは同時に、彼女らの沈んだ場所に行く可能性があるという事だ。

前任はその海域で、沈んだ艦娘をわざと編成しその海域に向かわせたという。

そして、史実と違う結果になれば……書類には書かれていなかったがおそらく精神を折るような発言だろう。

 

「…俺から聞くのはやめた方が良いだろうな。時雨の心に余計な負荷をかけたくない。

でも、あいつが限界…いやもうそんなのは通り越してるだろうけど、誰かに零したくなったら聞けるようにしておこう」

 

そろそろ戻ろう。こういう考え事は時間の経過が分かりづらい。

時雨が俺を探してるかもしれないし、仕事もまだあるな。

来た道を戻って行く。そこまで離れてないから、ここからでも鎮守府が見える。これなら流石に迷わない。

裏口の扉まで無事に戻ってこれた。

 

「ううっ、寒い。またココアでも煎れて暖まるか」

 

ガチャリと手にかけたドアノブから無慈悲な音がする。

あれ?俺、鍵かけてないぞ。あれ?

 

「おーい、時雨ぇー!開けてくれーー!」

 

ガチャガチャしながら、大声を出す。

誰かが走ってくる音が聞こえて、一安心する。

 

「…提督?」

 

「その声は時雨だな!開けてくれ」

 

ガチャリと音がして、扉の鍵が解除される。

傘をたたんで、入る。ううっ、冷えた。

 

「…鍵が開いてましたので不用心だと思って閉めたのですが、まさか提督がこの天気で外に居るとは思わず」

 

時雨が青ざめた顔で謝ってくる。

あれ、もしかして怒られるとか思ってるのだろうか。この場合は何の連絡も無しに外に出た俺が悪い。

 

「とりあえずタオルと着替えを持って来てくれ。傘は差してたが、風も強くてな……ハックシュン!」

 

「…わ、分かりました」

 

たったっと時雨が走って行く。

傘を立てかけ、とりあえず靴を脱ぎ靴下も脱いで素足になっておく。しばらくして、時雨がタオルと着替えを持って来てくれる。

それに礼を行って、全身の水気を取って行く。

 

「向こうで着替えてくるよ。戻ってきたら、時雨もココア飲むか?」

 

着替えを持ってキッチンの入り口まで歩いて行く。

その途中で机の上に置かれた自分の半分までしか飲んでいないココアと、その横に置かれている時雨用のコップに入ったココアが視界に映る。

 

「なんだ、もう飲んでたのか」

 

「…え?あっ」

 

俺の言葉にびっくりした様な顔をする時雨。

というか何か焦ってる?まぁ、良いか。

 

「じゃあ、着替えてくるからお湯沸かしておいてくれ」

 

「…う、うん」

 

時雨がヤカンを設置する。

それを見て、俺は外に出て着替える。ああ、濡れたやつは……取り敢えずこのビニール袋に入れておくか。

近くにあった大きめのビニール袋にさっきまで来てた提督服を入れ、新しい提督服に着替える。

予備が多いと楽だね、こういう着替えるときは。

 

「にしても、時雨何をあんなに焦ってたんだ?」

 

俺の飲みかけココアの横で、自分がココアを飲んでただけだよな?

うーむ、なんも分からん。時雨に限って毒殺とかって訳じゃないだろうし。

 

「まぁいいや。早く暖まるとしよう」

 

キッチンの中に入ると、時雨がさっきまでの位置とは違い、対面に座る様に座っていた。

俺は取り敢えずお湯が沸くまで座ることにした。

 

「なんだ、そっちに座ったのか。別にあのままの位置でも良かったのに」

 

「…いえ、提督の邪魔になりそうですし…こっちの方が自然です」

 

「邪魔とは思わないがなぁ…まぁ、時雨がそう言うのなら良いか」

 

若干、目を泳がしながら時雨が答える。

飲みかけのココアを一気に喉に流し込む。

 

「ううむ、やっぱり冷えたココアは美味しくないな…」

 

粉を溶かして作ってるから、どうしても冷えると粉っぽさが出てきて俺はあんまり好きじゃない。

やっぱり暖かいのをまったり飲むのが好きだ。

 

「…提督は何故、外に?」

 

時雨がココアを飲みながら、俺に聞いてくる。

この天気の中、外に出てたらそりゃ聞きたくなるわな。

 

「雨が好きでな。子供のころは、よく雨の中外に行ってたが、大人になってからはしてないと思って。

ふと、童心に帰ってみたくなったんだ」

 

自分でも分かるぐらい口角を上げながら、説明する。

やはり楽しい話をしていると自然に笑顔になる。

 

「…提督も雨が好きなんですか?」

 

「あぁ!大好きだ。雨音に落ち着くしな」

 

っと話をしているとヤカンがお湯を湧いた事を知らしてくる。

もう少し話していたかったが、ココアを淹れよう。寒い。

自分のコップにココアを淹れ、再び席に着く。

 

「時雨も好きなんだろ?雨」

 

「…何故、それを」

 

「だって、さっき提督もって言ってただろ?違うのか?」

 

ずずっとココアを飲み、ふぅと息を吐く。

時雨は無言だが、小さく頷いた。

 

「じゃあ、今度一緒に雨の中、外に出てみるか!

雨だからピクニックって訳にはいかないけど、暖かいもの持って」

 

「…え?う、うん。それは……少し楽しみかも」

 

「だろだろ!よしっ、次の雨天決行で行こう」

 

いやぁ、楽しみだな。

るんるん気分でココアを飲もうとして火傷をして、時雨に心配されるがそれはまた別の話である。

 




ちなみに、作者も雨が好きです。
あの音が堪りません。

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