無能と言われる提督が一人ぼっちの時雨を笑顔にしてみせる   作:マスターBT

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後半部分に苦戦しました。
艦これの小説って難しいな思う今日この頃


時雨は優しく波打つ

「さてと、落ち着いたところで話をしようか。霧崎提督?」

 

「時雨を退室させたって事は真面目な話か」

 

朱染の連れてきた天龍に連れて行かれ、時雨は今外に出ている。

艦娘同士の触れ合いも必要だろうと朱染が提案したのだ。まぁ、確かに此処にいるの俺と妖精だけだもんな。

 

「君達の担当する海域は、ほとんど深海棲艦がいない場所なのは流石に覚えてると思うから、それを前提に話させて貰うよ。あの深海棲艦は、僕ら海軍が研究資料として捕えていたものなんだ。結末を先に言うのなら、君を潰すために海軍が計画したことだよ」

 

「俺が無能だからか?だから、時雨ごと消そうとしたって訳か?」

 

「いいや違う。海軍が腐敗しているのは、提督なら誰でも知っている。

だけど、その腐敗を外は知らないんだよ。此処の様な鎮守府の近くにいる住民は、確かに現実を知っている。だけど、今、英雄視されている提督ひいては海軍が腐ってると言って誰が信じると思うかい?」

 

朱染の言葉は今を的確に表現していた。

深海棲艦なんて、よく分からない人類の脅威に命を賭けて戦っているのが提督。それが世間一般の認識だ。

俺としては、提督はただ座って指示を出す。実際の戦いは艦娘に全投げって認識なんだけど。

それでも昔はそんなこと知らず、憧れていた。

 

「俺でも分かる。信じない」

 

「その通りだよ。深海棲艦なんて、人類共通の敵がいるから今全ての国々が表向きは、手を取り合って仲良くやっているけどね。

その裏側は酷いものさ。あの手この手で、艦娘という兵器の確保に躍起になってる。

だから他国に奪われるかもしれない、汚職の証拠になり得る此処を潰したいのさ上は」

 

はぁぁ…俺には理解しきれない壮大な話だ。

どうやって時雨と仲良くなろうと考えてる俺にとって、国規模の策略なんてまっったく、頭が足りない。

たった、一人の少女と仲良くなるのに死ぬほど全力な男だぞ。俺は。

 

「……うん。分かってたけど、全然把握しきれてないねその顔は」

 

「流石、朱染!よく俺のことを分かってる」

 

「これでも長い付き合いだからね。でも、これだけは分かっててくれ。

君とあの駆逐艦時雨は、僕らにとって希望であいつらにとっては絶望だ。またこういう事が起きるかもしれない」

 

「そん時はまた、死ぬ気で頑張るさ。今度は、時雨を泣かさない様にな」

 

「ここで即答する君が羨ましいよ」

 

苦笑する朱染。

別に俺は笑える様な事は言ってないと思うんだけど。

 

「そういえば、疑問だったんだけどさ。君はどうして、駆逐艦時雨をそんなに大切にしているんだい?

此処で初めて会ったんだろう?命すら賭けるなんて、結構な入れ込み様じゃないか」

 

ん?俺が時雨を大切に思っている理由?

考えたことも無かったな……此処に初めて配属されて挨拶して、ずっと暗い底が見えない闇を感じさせる顔をしてた時雨。

だから、満面の笑みで光り輝く笑顔が見たかった。ってとこだろうか。

別に明確に理由が定まってる訳じゃない。ただ、漠然と俺は時雨の笑みを見たいと思った。

 

「んー…改めて考えて言葉にすると難しいな…」

 

「理由なき善意かい?……それはまた、君なら出来てしまいそうだ。

打算でもなんでもない。ただの本当に付属するものがない善意。それを持てるのは、普通じゃないよ時雨」

 

「えっ?そうなのか」

 

誰かの笑顔が見たいなんて、当たり前の事じゃないのか。

 

「多分、君に言っても通じないから言わないけど。

まぁ、死ぬなよ。今の君はただの霧崎時雨じゃないんだから。じゃあ、僕は天龍を探してくるよ多分、そのまま帰ると思うからじゃあね」

 

「おう。またな」

 

手を振って出て行く朱染を見送ってもう一度横になる。

そういや、いつ振りだろうか。こうして、ベッドで横になっていられる時間は。士官学校時代は、寝る間も惜しんで勉学に取り組んでいたし、こっち来てからも時雨の為にあれこれと考えて結局、睡眠時間は少なかったっけ。

 

「そう考えたら……急に瞼が重たくなってきた……」

 

やらなきゃならない書類とかないし、久しぶりにゆっくり寝るとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、隣良いか?」

 

「…あ、はい。どうぞ」

 

霧崎と朱染が話をしている頃、キッチンにてココアを飲んでいる時雨の横に天龍が座る。

飲み物を用意するわけでもなく、少し乱暴に椅子に座る天龍。そんな天龍をチラチラと見ながらココアを飲み進める時雨。

提督と話しているとはいえ、基本的に一人だった時雨は急な来訪に対し、どう話しかけて良いか分からないのだ。

 

「なぁ、此処かなりボロボロだけど、良い所だな」

 

「え?」

 

「ん?だってよ、必要な部分は必ず手作り感溢れる補修がされてるし、普通此処までボロボロならゆっくりでも良いから、立て替えるぜ?

でもまるで、思い出を残すかの様に必要なところだけ直してる。お前、想われてるな」

 

ニヤッと笑う天龍。

此処に来る間に、彼女は朱染から時雨が置かれている環境に対し説明を受けていた。

ゆえに、どんなこの鎮守府が現在、どうなっているのか。もし、また時雨にとって悪い環境になっているのなら友人には悪いが叩き斬ってやるつもりだった。

 

「お、想われてるなんて……」

 

顔を少し赤くしながらココアに視線を落とす時雨。

 

「ははっ、その感じなんとなく心当たりはあるんだな」

 

「あの人は……僕がどんな態度を見せてもずっと笑ってくれるんだ。

とても優しい良い人だって、思う。でも、僕は……どうしても提督って存在に恐怖を無くせない…だから、僕の笑顔が見たいって言う提督の前で素直に笑えないんだ」

 

ぽつりと自分の感情を吐露する時雨。

本当は、提督の前でもっと笑顔になりたい。でも、根付いた恐怖心がそれを許してくれない。

そんな心情を隣に座る天龍へと伝える。

 

「…そうだな、難しいかもしれないけど提督を提督と思わない様にすれば良いんじゃないか?」

 

「そ、それは……その嫌です。提督は提督なんです。

無能って言われ続けても、僕の前に現れてくれた、そこまで努力をして漸くなれた職業なんだ。

彼がそこまで費やしたものを僕は…僕は否定したくない!」

 

時雨にしては珍しく感情を表に出して、天龍の提案を断る。

その勢いに天龍は数度瞬きをした後、優しげな笑みを浮かべる。

 

「ならお前も努力をしないとな。あの提督を提督って呼べる様に。

中々、居ないぜ?艦娘を庇う様な提督は」

 

わしゃわしゃと時雨の頭を撫でまわす天龍。

しばらくそうした後、立ち上がる。

 

「んじゃそろそろ朱染の奴を迎えに行ってくる。多分、話終わってるだろうし。

また、機会があったら話そうぜ。今度は、お前の提督を交えてな」

 

またなーっと言ってキッチンを出て行く天龍。

嵐の様な人だったと時雨は思いながら、少し冷えたココアを飲む。天龍に言われたことを考えながら、ココアを飲みきる。

流しにコップを片付け、鎮守府をあてもなく歩く。

 

「……」

 

気がつけば提督の休んでいる部屋の前に来ていた。

無意識に歩を進めていた様だ。躊躇いながらも、扉を開ける。すると、寝息をたてて眠る提督がいた。

トコトコと歩き、朱染が座っていた椅子に座る時雨。しばらく、提督の寝顔を眺める時間が過ぎて行く。

 

「…僕は何をしているんだろう?」

 

ふと我に返った時雨は自分の行動を振り返りながら呟く。

 

「んんっ……俺は……時雨を…」

 

「ひやっ!」

 

提督の寝言に思わず、飛び退く時雨。

恐る恐る見ると提督はまだ眠っている。ふぅと安心する様に息を吐きながら元の場所に戻る。

 

「夢の中でも僕に会ってるのかい」

 

返事はない。

それでも、時雨はきっとこの人の事だから夢の中でも自分を見ているのだろうと漠然に思えた。

 

「…聞こえないだろうけど、ありがとう。僕を信じてくれて、僕は貴方のお陰で自分が戦える事に気づけたよ。

いつか、いつかきっと必ず恩返しはするから」

 

さっき天龍にやられたのより、優しく震える手で提督の頭を撫でる時雨。

 

「…今はこれで満足してくれると嬉しいな」

 

穏やかな寝息を立てる提督とそれを優しく見守る時雨。

戦いの後の優しい時間はゆっくりと彼らを癒していった。

 




次回からまた、主人公と時雨のまったり日常に戻ります(予定)

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