無能と言われる提督が一人ぼっちの時雨を笑顔にしてみせる 作:マスターBT
良ければ読んでくれると嬉しいです。
「うーん…なに作ろう」
「……」(じー)
療養も終わって、ある程度は動けるようになったある日、俺は冷蔵庫を開け腕を組んでいた。
朱染が色々と物資を運んできてくれた。費用は、ここの前任が買っていた無駄に豪華な家具を全て売って得たお金だ。
色々と世話になってるし、一杯奢った方が良いんじゃないだろうか?あいつは、俺の苦労話をしてくれればそれで良いって言ってるけど。
って、考えが逸れた。そんな訳で、冷蔵庫には現在豊富な食材が入っている。
しかも、賞味期限が短いやつが手前にあるから一々、調べる手間がない。完璧か?
「何が良いかな……煮込みとかをするには時間がないしな…」
「……」(じー)
……うん。煮物はやめよう。
となると、簡単なものが良いか。無難に野菜炒めとかにしようかな。
「……」
「……」(じー)
………あ、そうだ。肉も入れよう。
「……」(じー)
お、落ち着かない!!
必死に気づいていないフリをしてたけど、背中に刺さる視線が気のせいじゃなければ痛い!
一体、俺に何を求めているんだ時雨……
「……」(じー)
ああもう!よしっ、声をかけよう。
ずっと俺を見てるし何か大切な用事かもしれない。時雨のことだから、俺が材料見てるのを見て、話しかけるタイミングを見失ってるだけだ。それなら俺から話しかけた方が良いだろう。
「あー…時雨?どうした」
「ひやっ!き、気づいてたんだ…」
「流石の俺もずっと見られてれば気づくぞ?それで、どうしたんだ。何か急用でもあったか?」
一応とはいえ、ちゃんと動けるようになったから大本営から仕事が回ってきたのかもしれない。
そう考えた俺は驚いて固まっている時雨に問いかけた。
暫く視線が彷徨いに彷徨った後、ゆっくりと俺に視線を合わせて口を開く。
「えっと、料理をするなら…僕もその……提督の手伝いをしようかなって……駄目、かな?」
恥ずかしそうにしながら、小首を傾げる時雨の可愛さよ。
しかもその内容が、俺の手伝いをしてくれるなんて。しかも、つい最近まで自発的に提案してくることなんて無かった時雨が。
料理か、せっかく時雨が手伝ってくれるって言うなら炒め物とかやめよう。
「…えっと」
おっと、無言で喜びを噛み締めていたら時雨に不審がられてしまった。
「大丈夫だ。手伝ってくれるか?ハンバーグを作ろうと思ってるんだ」
「出来れば作り方を教えてくれると嬉しいかな?」
「もちろん」
時雨の返事を聞いてから冷蔵庫から材料を取り出す。
玉ねぎを一つ取り出し、時雨に渡す。
「玉ねぎの剥き方は分かるか?」
時雨がこくんと頷く。それなら、話が早い。
「切るのは俺がやるから頼んだ。時雨が剥いてる間に他の準備をしておくから」
えーと、まずは料理酒とコショウを取り出して。
牛乳とパン粉も用意しておこう。入れすぎには注意だ、べちょべちょで成形できないハンバーグとか食べたくないからね。
「そうだ、時雨。ニンニクは大丈夫か?」
「…あ、うん。大丈夫だよ」
真剣な眼差しで皮を剥いている時雨。
そんなに真剣にならなくてもと思わず、微笑みながらペーストのニンニンを取り出す。
個人的にはニンニンが香るハンバーグが好きだが、今日は隠し味程度にしておくか。
気にも止めず女性にニンニクたっぷりのハンバーグを出したときに盛大に怒られたのを俺は忘れない……
「わっ…」
「どうし……本当にどうした!?」
時雨の声に振り向いたら、確かにたまねぎの皮はむいてあった。
問題はその全てがひっくり返ったボールとともに時雨が頭から被っており、包丁が台に突き刺さっていた。
いや、本当になにがあったのこれ…
「えっと……虫が…」
「虫……っておおう。流石は艦娘か」
台には包丁によってその身が台と縫い付けられてるにも関わらず、凄まじい生命力の元いまだ動こうとしている黒い方がいた。
いや、これを一瞬でする艦娘の反射神経と力よ。そしてまだ残党がいたのか。
「あー、時雨。風呂入って着替えておいで。外食にしよう」
「……うん。ごめんね、提督」
とぼとぼ背を向けて歩いていく時雨。
その寂しい背中に罪悪感が沸く。流石にこれの処理をやらせるわけにはいかないとは言え、せっかくの時雨の頼み事を断ってしまった。
おっと、そうだった。ずっとこんなことを考えている時間はなかった。
「さて、Gよ。今度こそ、お前らを駆逐してやる」
まずはお前だ、哀れなGよ。出てくるタイミングと場所を間違えたな。
ゴム手袋とビニール袋を用意し、Gを回収。念の為洗剤を泡立出せ、ビニール袋に入れておく。
これで万が一にもこいつが出てくることはない。
時雨がぶちまけたたまねぎも回収しておく。さて、あとはこの辺の電子機器全てを別のビニール袋とかで全て囲っておいてと。
あとは、対G最終兵器を起動させて指定時間入らなければ大丈夫だ。
「着替えて俺も準備しないとな……って外食行って俺、殺されないかな」
買い出しに行っただけでボロボロにされたのは良い…いや悪い思い出だな。
あー…全く私服ないな俺。そういや、提督服あるしと思って用意してなかった。
「流石にまた汚すわけにも…ん?」
そういや、朱染がなにか置いて行ってたよな。これか?
がざごそと段ボールを開け、漁る。中身は服だった。やったぜ、これで着替えが手に入った。
適当に黒のパンツに白のワイシャツ、その上から紺のカーディガンを着る。
「まぁこれでいいだろう。さて、時雨の方はどうだろうか」
流石に覚えた道順に従い、台所の入り口まで戻る。
まだ、いないか。良かった、時雨を待たさなくて済む。スマホでゲームをしながら待つこと、10分。
「…お待たせしました。提督」
完全に時雨にテンションが落ち切っている!!
さっきまでのわくわく感がどこにもない。
「ほら、折角の外食だぞ。もっと喜べって」
「…提督の手伝い出来なかった。それにまた提督がボロボロになったら…」
心配してる事は最もだし何も言えねぇ…
「…今度は自衛ぐらいはするから。心配すんな。
これでも軍人だそ」
「……軍人だから黙ってボロボロになった人の発言なんて信用できません」
「ぐふっ…だ、騙されたと思って行こう。な?お腹空いたろ」
タイミング良く時雨のお腹からクゥーという可愛らしい音が鳴る。
時雨はお腹を押さえ、目を逸らす。可愛らしい誤魔化しかただが流石に騙されないぞ。
「よし。行こうか時雨」
「…はい」
俺が歩き出すとトボトボと後ろを歩いてくる時雨。バイクで二人乗りになってしまうが仕方ないか。
スピードを出し過ぎない様に港町へと向かう。道中に会話はない。くそ、俺に話術があれば!
必死に話題を考えても俺の残念な頭に名案なんて思い浮かぶ事はなく、無言のまま港町に到着してしまった。
「…ん?お前さんは……あんな目にあってよく来れたな」
街で俺たちに真っ先に話しかけてきた老人。
確か八百屋の店主だ。呆れる様などこか申し訳無さそうに俺を見ている。
引け目を感じているのだろうか?あの時、何もしなかったのも深海棲艦と戦ったのも俺の役目なのだから気にする必要は無いと思うが。
「どうも。この辺りで食事が出来るお店って知りませんか?
時雨と一緒に食べに来たんですが」
「知っているが……お前さん、この街で食事をする気かね?
あの日、あれだけボロボロにされたのをもう忘れておるのか?嬢ちゃんも何故、止めなかった?」
店主の言葉に時雨は視線を俺と店主の間で彷徨わせる。
…大丈夫だ。お前は俺を気遣ってくれた。
「時雨に無理言って来たのは俺ですから。それと、あなた方は軍人である俺が守らなければならない人達です。
何をされてもそれは変わりませんし、不手際があり恨まれるのならそれも受け止めます。ですが、あの時はこちらを誤解していた模様。
仲良くなれる可能性があるのなら、俺は歩み寄っていきたいのですよ」
確かに嫌われていた。ボロボロにもされた。
だけど、そんなの無能な俺にはいつもの事だ。もう慣れた。今は人類で争ってる場合じゃないのだから仲良くなれる可能性を捨て去る訳にもいかない。
「………あの日、わしの商品を庇ってくれたお前さんはわしの知る提督とは確かに違うんだろう。
分かった。案内するから極力他の連中と目を合わすんじゃないぞ。面倒事は嫌だからな」
「ありがとうございます!」
「……ありがとう、ございます」
俺のお礼の後に時雨のお礼が続く。
それを聞いた店主は再び、眉を下げ申し訳無さそうな顔を浮かべる。
「…こっちだ」
俺たちに背を向け歩き出す。
老人の足取りに軍人と艦娘である俺と時雨が遅れを取るわけもなく問題なくその背に続く。
港町はあの時と同じく、活気はない。それらを眺めつつ店主との約束通り、人の近くを通る時は視線を下げる。
「…何故、こんなに寂れているんだ?」
建物が少ない訳じゃないのに人がいない。そんな疑問が無意識のうちに言葉として現れる。
「お前さんの前任のせいじゃ。深海共が現れてもろくに守る事もせず、施設が壊され続けた。
街の予算が尽きかけた頃に奴は、傷ついた艦娘達を連れこう言った「守ってやるから金を出せ」とな。
結果が今の惨状じゃよ。街のために使われる金は提督に奪われ、目の前でわしらを守るために沈んでいく艦娘を見る事になり、自分の大切なものを失っていった。……今ここに居るのは大切なものを失ってここに縛られた連中ぐらいじゃ」
「そう…だったのか…」
余りの事に言葉を失う。どう返せば正解なのかが分からない。
「着いたぞ」
店主の足が止まる。
目の前にはそれなりに立派な定食屋があった。
俺が無言でいると店主も無言で店内に入って行く。慌てて続く形で時雨と共に入店する。
「らっしゃい……って親父か。店はどうした?」
「飯休憩じゃ。ついでに客を連れてきてやったんだから感謝せい」
「ほー、誰を……あぁ?おい。親父、そいつは提督じゃねぇか」
俺を見た瞬間に憎悪に満ちた顔になる。
「そうじゃ。外食に来たらしいぞ」
「そうだじゃねぇよ!!親父、ついにボケたのか?
こいつら提督はお袋の仇じゃねぇかよ!!なぁ!!なんで、よりによって親父が提督を連れてくんだよ!!」
「勘違いするんじゃない。幸の仇は深海共じゃ、提督じゃない」
「こいつらが仕事してたら死ななかったかもしれないだろ!」
「戦争はそんな簡単なものじゃない。軍人が動いても全力を出しても被害はゼロにはならない。
恨むなら軍人ではなく、戦う要因になった存在だと何度言えば分かるこのバカ息子。良いから早く作らんか。わしらは客じゃぞ」
そう言って店主は席に座る。
俺はここに居て良いのだろうか?
「何しとる。はよう座らんか」
「あ、はい」
店主に促され、席に座る。
息子さんがすごい顔で睨んでくるが、やがてため息を吐き目の前にメニュー表を持ってくる。
「……何食うんだ?」
「わしはシャケの塩焼き定食」
「あ、えっと俺はこの麻婆飯で。時雨は?」
「……えっと、この日替わり定食で」
注文を受けた後は厨房に戻って行く。
音からして調理を開始した様だ。……完全に流れで食事を取る事になったけど、店主と息子さんは俺なんかの為に良いのだろうか。
「お前さんが気にする事は何にも無い。わしらがいつでも過去に縛られてるだけだ」
「ですが……」
「考えてる事が顔に出過ぎだ。もっと隠さんと世の中生きていけんぞ。
まぁ、筒抜けだからこそわしや嬢ちゃんの様な奴には警戒されんのだろうが」
どういう事だろう?というか、俺の顔は素人の人にもバレるほど分かりやすいのか。
そりゃ、軍で怒られるはずだわ。
「そこの嬢ちゃん、時雨っていう艦じゃろ?
今はめっきり弱りきっておるが、ここに配属になった直後はあの前任に一番食ってかかってたから覚えておる」
店主は慈愛で満ちた顔で時雨を見る。
時雨も目を逸らさずに店主を見る。
「…悪かったなぁ…なんの力にもなってやれなくて」
「……大丈夫です。……今ならよく分かりますから。あの提督の恐ろしさを」
「それでもじゃよ。なぁ、嬢ちゃん。今の提督は信に値するか?」
店主の言葉で心臓が煩くなる。
俺なりに時雨には接してきた。だけど、信用されるのかは分かってない。話をしてくれるけど、そういう話は俺から聞く訳にはいかなかった。
「……はい。僕の心に根付いた恐怖はまだ消えないけどいつか、いつか提督の前で笑える様になりたいです」
その言葉にひどく安心する。
あぁ、俺は嫌われていなかった。鬱陶しいと思われていなかった。時雨は時雨のやり方で俺に向き合おうとしてくれている。
こんな無能な俺とまっすぐ向かい合ってくれようとしている。それがたまらなく嬉しくて俺は。
「ぐすっ…」
「て、提督!?」
「かははっ、よほど嬉しかった様じゃの」
ボロボロと泣いていた。
涙腺の制御が全く効かなくなるぐらいには大泣きした。
「心配だった……時雨に嫌われてないか、俺は提督として上手くやっていれるのか……でも、時雨は提督って職が嫌いだから…
あぁー良かった!俺は時雨の提督をやれてたんだな!」
「うっ……確かに心配かける様な素振りをしてたと思うけど……そんなに悩んでたの提督?」
「当たり前だろーー!!初日に約束したじゃないか。俺はお前を笑える様にしてみせるって!」
この日、初めて俺は時雨の提督になれた。
正しく言うなら自覚できたなのかもしれないが、細かい事は置いておく。
「…ほらよ」
そんなタイミングで料理が届く。
どれも全て美味しそうだ。
「「いただきます」」
時雨と一緒に手を合わせ食べる。味?言うまでも無いだろう。
「「ご馳走様でした」」
黙々と食べ進め、手を合わせる。
お腹も満たされ、俺たちは満足する。お金を払おうと財布を取り出すと、店主が止めてくる。
首を傾げると店主が口を開く。
「あの日のお礼にわしが払っておくよ。来た時と同じように誰とも目を合わすなよ」
「何から何まで……ありがとうございます!」
「良い良い。また、深海共が来たら頼むな」
店主に頭を下げながら時雨と共に店を出る。
なんだかんだあったが、良い一日だった。帰り道、時雨と料理の味を話したり、次なんの料理をするか、好きな食べ物は何かと来た時とは打って変わって話に花を咲かせながら鎮守府に戻った。
「…その激辛麻婆飯。自分で食うんじゃよバカ息子」
「わーってるよ。はぁぁ、あんな話聞かされたらこんなの出せるか…かれぇ!!」
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