無能と言われる提督が一人ぼっちの時雨を笑顔にしてみせる   作:マスターBT

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新年もよろしくお願いしますね


任せたよ

 今日も今日とて書類仕事……ではなく、久しぶりの掃除だ。というもの、今海軍全体で深海棲艦に対する大規模な反抗作戦を準備しているようでうるさい書類達が回ってきていない。それならすぐにやる事も無くなる。時雨には休みをあげて、自由にさせた。俺に着いてきたそうにしてたけど、それじゃ休みにならないからな。

 

「さてと、やるか」

 

 今回は軽い物置部屋になっている場所の片付けだ。何か高価なものがあればまた朱染経由で売れば臨時収入になるし、そうじゃなくてもいらない物は妖精にあげれば材料にしてくれるかもしれない。つまり、此処は宝の山なのだ。なお、物置部屋なのに俺の私物は一切ない模様。前任の罪状を明らかにするのに必要なものとかなかったんかな?

 

「ま、良いか。さてと、まずは近いところから」

 

 いきなり大きいものを動かすと雪崩の如く荷物が押し寄せてくるから小物から外に運んでいく。本は時雨の目に入っても大丈夫なものか確かめてから外に出す。万が一、こう大人な本が時雨の目に入ると宜しくないからね。そういや、艦娘って外見年齢=実際年齢で良いんだろうか?うーん、確かに外見相応の振る舞いを見せる子が多いらしいけど。

 

「過去もあるだろうけど……時雨は見た目より落ち着いてるよな」

 

 手近なものを片付けながら教本で読んだ時雨という艦娘の情報を思い出していく。白露型二番艦時雨、基本的に物静かで謙虚。しかし、ここぞという時には芯の強さを見せる。確かに港町で俺がボコボコにされてる時は、大声を出してくれたっけか。提督を憎んでるだろうに俺のために恐怖と戦って。思えばきっと、あれが本来の時雨なのだろう。恐怖に震えて、小さくなり今にも泣きそうな弱々しい姿は此処で形成されてしまった彼女なんだろうな。

 

「……うん?何だこれ。アルバムか?」

 

 それなりに分厚く、そして丁寧な表紙の冊子を見つける。手に取り開くと、そこには優しい光景が広がっていた。

 

「ははっ、そんな顔で笑えるんだな時雨」

 

 まだ綺麗なこの鎮守府を背景に提督と思われる初老の男性と共に『笑顔』で写る時雨。近くには、彼女の姉妹艦達も居てとても嬉しそうだ。俺が見ることが出来ない過去の時雨。それがこのアルバムには沢山居た。前任がいない頃はきっと、楽しくそして幸せに暮らしていたのだろう。今じゃ、雑草が生えまともに使うこともままならない中庭で、戦艦比叡が作ったと思われるカレーを引き攣った笑みで食べようとしている姿。当時の西村艦隊の面々と談笑している姿。空母雲龍と共に頬いっぱいにおにぎりを詰め込んでいる姿。

 

 他にも沢山の幸福に満ちた光景が広がっていた。彼女がこの鎮守府に拘る理由が分かった気がする。此処は沢山の余りにも沢山の思い出が詰まった場所。前任のせいで苦しい事も辛い事もあった場所だけど何もかも失った時雨に唯一遺された幸せな場所なんだ。

 

「ズッ……おかしいなぁ…涙腺が緩くなるには早いぞ…俺……」

 

 鼻をすすり涙を拭う。今の時雨を知っているからこの光景はとても綺麗だ。上を向き、アルバムを汚さない様にして鼻水と涙が治まるのを待つ。暫くすれば落ち着いてくる。アルバムを優しくそっと閉じて俺は手を合わせる。

 

「…約束する。必ず俺は時雨が君達の居た頃の様に笑顔で過ごせる鎮守府にしてみせるから」

 

 よしっ。そうと決まれば片付けは辞めだ。時雨と交流する時間にしよう。そうだ、簡単なおやつにおにぎりと沢庵を用意して持って行こう。雲龍と一緒に頬張っていたしきっと彼女も好きだろう。そんな事を考えて立ち上がり部屋を出る。

 

フワッ

 

 窓もない荷物置き場代わりの部屋からなんだかとても暖かい風を感じた。思わず振り向きたくなるけど、なんだかそれは望まれてない様な気がしたから片手をあげ肩を回しその場を離れた。

 

「よぉし!時雨、ちょっとお茶にしようぜ!!」

 

「うわっ……びっくりするじゃないか。あれ?提督、なんだか目が赤い気がするけど……」

 

「え!?あー、大丈夫。さっき、片付けしてたから埃が目に入ってな。でも、もう痛くないから平気だよ」

 

 残っていたご飯をレンジで温めながらお茶と沢庵を用意する。沢庵はどれくらいの大きさに切れば良いだろうか……まぁ、適当で良いか。

 

「本当かな……あれ?今日は随分と和風なんだね」

 

 準備している姿を見ていた時雨が声をかけてくる。普段はココアとかケーキが多いもんな。しかも、和菓子ですらないおにぎりと沢庵。いきなり変えすぎたか?

 

「ちょっと食べたくなってな。嫌だったか?時雨」

 

「ううん。僕も好きだから構わないよ」

 

 振り返った俺の顔を見ながら僅かに口角を上げて伝える時雨。あぁ……これだけでも効果はあったな。

 

「なら良かった。座って待っててくれ、すぐに持っていくよ」

 

 レンジからご飯を取り出し、塩をかける。シンプルだけど妙に美味い塩むすびにする。よくかき混ぜて、塩が一部分に固まらない様にして、引いておいたラップにご飯を乗せる。余り力を入れすぎず、さりとて弱すぎずといった力加減でおにぎりを握っていく。それを繰り返し4つのおにぎりが出来る。お茶を注ぎ、おにぎり、沢山をお盆に載せてリビングへ。

 

「綺麗だよね。僕もいつかこんな風景を撮ってみたいよ」

 

「お待たせって、妖精さんなんで時雨の頭の上に居るんだ?」

 

「疲れたんだって。艦娘の近くにいると回復が速いとかなんとか言って僕の頭の上に」

 

 時雨の頭の上で気持ちよさそうにしている妖精さんに呆れながら、机の上におにぎり達を並べる。

 

「わぁ…」

 

「食べて良いよ」

 

「いただきます……あむ……うん、美味しい」

 

「それは良かった」

 

 満足そうな時雨を見ながらお茶を飲む。ふと、机の上にある本が目を止まった。日本の絶景100……あぁ、色んな風景を収めた雑誌か。時雨は写真が好きなのだろうか?

 

「んっ……綺麗だよね。僕は海の景色はよく知ってるけどそれ以外は詳しくないんだ。だから、本で勉強してる。と言っても、また読む様になったのは最近だけどね」

 

「そうか。じゃあ、今度朱染の奴にカメラを頼んでおくよ。それで色んな物を撮ると良い、風景でもなんでも」

 

「無理はしなくて良いんだよ提督?仲が良いとはいえ、他所の提督に頼むのって……その大変でしょう?」

 

「大丈夫だよ。色んなの売ってそこそこお金はあるから」

 

 前任の忘れ物が高価な物で良かった。お陰で売れば結構な金額が手に入る。まぁ、鎮守府の再建に充てればなんて事なく一瞬で消えていくんだけどね。

 

「じゃ……じゃあお願いしようかな」

 

「任された。ところで、最初に何を撮るんだ?やっぱり、見晴らしが良いところからの景色か?」

 

 そう俺が質問すると顎に手を当てて一瞬、時雨は考えたあと少し顔を赤くしながら俺を見る。手が忙しなく動いているがどうかしたのだろうか。

 

「て、提督かな」

 

「俺?良いのか俺なんかで」

 

「なんかじゃないよ。提督だから撮りたいんだ」

 

 頬を緩め優しい顔で告げる時雨。そんな顔で言われたら逆らえないな……俺なんかいや、さっきなんかじゃないと否定されたか。俺で良いのなら撮らせてあげよう。納得がいくまで。

 

「分かった。その時はよろしくな時雨」

 

「格好良く撮ってあげるよ」

 

 どことなくドヤ顔で宣言する時雨の姿に笑みが溢れる。この後も楽しく会話を進める事に成功した。朱染に電話すれば妙にニヤニヤとした声でカメラの件を了承してくれた。すぐに届けるそうなので約束が果たされる日は近いだろう。

 なお、この日以降おにぎりと沢庵を用意する頻度が増え、流石にと時雨に呆れられるのだがそれはまた別のお話。

 




サブタイトルがどこの場面かは言わなくても大丈夫ですね。

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