無能と言われる提督が一人ぼっちの時雨を笑顔にしてみせる   作:マスターBT

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お久しぶりです。って、毎回言ってる気がするなぁ。
漸く新しい話が書けたので更新です。思ってるよりこの二人の距離感って近づいてるよね?作者だけが思ってるのかしら。


新しく想い出を残す

 今日も今日とて、平和な霧崎が所属する鎮守府。執務室では、提督と艦娘である時雨が仲良く机を並べて書類仕事を行なっていた。碌に戦闘もしない鎮守府に書類仕事が必要なのかという点に関しては、現状まともに戦闘行動が行える設備状態ではないからこそ必要だと答えを提示しておく。色んな設備を自力で修理したり、購入したりして立て直しつつある鎮守府だが、それでも提督一人と艦娘一隻が暮らしていくのに精一杯なのだ。

 

ピロン♪

 

「ん?」

 

 ペンの音しか聞こえてなかった部屋に携帯の通知音が響く。霧崎が携帯を手に取り確認すれば、友人である朱染からであり内容は、以前頼んでおいた時雨専用のカメラがそっちに届くからというものだった。前もっての連絡がなかった辺り忙しいんだろうと霧崎は思いながら感謝のメールを送る。

 

「(んー……どうせなら届くまでサプライズで時雨には秘密しておくか。そっちの方が喜びそうだし)」

 

「提督?随分と楽しそうな顔をしてるけど、そんなに良い連絡だったのかい?」

 

 提督の微妙な表情変化を見破る辺り、時雨の観察眼の良さが分かる。もしかしたら、ずっと彼を見ているからなのかもしれないが、それは考えるだけ野暮というものだ。

 

「うぇ!?い、いや、朱染からいつも通りの連絡が来ただけだ。前に頼んだのが思ってたより高く売れたらしい」

 

 咄嗟に嘘を吐く霧崎だが、明らかに慌ててからの返答。嘘をついていますと白状する様なものだ。案の定、時雨はジトっとした視線を霧崎に向ける。冷や汗を流しながらニッコリ笑顔を返し続ける霧崎とそれを無言で見つめる時雨という表現の難しい時間が暫く流れた後に、時雨のジト目が解除され仕方ないなぁと言わんばかりにフワッと目元が緩む。

 

「そういう事にしておいてあげるよ提督。ほら、早く仕事を片付けよう」

 

 そう言って仕事を再開する時雨を見て、ほっと息を吐く霧崎。そういう事するから、バレるんだよーっと時雨は内心で思いながらも、手を止めず書類を処理していく。霧崎も業務に戻り一時間ほど経過すると、インターホンが誰かが来た事を告げる。本来なら、憲兵がいるのだが生憎こんな寂れた鎮守府に憲兵はいない。ゆえに、霧崎が自らの足で向かう事になるが、類まれなる方向音痴であるこの男は、一人では玄関にすら辿り着けない為時雨が付き添う。

 

「どうも!宅急便です。判子かサインをお願いします!」

 

「サインで」

 

 黒猫マークが特徴的な元気な配達員から差し出された紙に霧崎はサインをして荷物を受け取る。送り主には朱染の名前が書かれており、霧崎は中身を理解した。本当にギリギリの連絡だなと思いつつ、横で首を傾げている時雨に箱を渡す。

 

「ほい。開けてみな」

 

「え?僕宛てじゃないけど良いのかい?」

 

「もちろん。きっと喜ぶと思うよ」

 

 ウキウキが隠せていない霧崎に疑問を覚えながら、時雨は丁寧に段ボールを開けていく。中身を守る為に大切に梱包された奥にソレは、確かな存在感と共にあった。黒一色に統一された美しいフォルムに、被写体をしっかり収める為の突出した一眼レフ。そう、時雨が望んでいた様々な景色を撮る為のカメラ、それも品質が約束された一眼レフのカメラだ。

 

「わぁ……!」

 

 突然のサプライズに時雨は驚きながらも、一眼レフカメラに心を躍らせる。本でしか見たことのなかった実物が目の前にあり、少し手を伸ばせば憧れたものに手が届くのだ。心が躍らない訳がない。ゆっくりとカメラに手を伸ばし、持ち上げる彼女はワクワクが溢れ出ておりそんな様子の時雨を見て、霧崎は満足そうに頷く。そして、同時に梱包されていた取扱説明書を一心に読み取扱方法を頭に入れる時雨。それだけの行動すら楽しそうな彼女を、これまた楽しそうに見つめる霧崎。やがて、読み終えたのかテキパキと一眼レフカメラを操作しカメラを霧崎に向けたところで、ハッと我に変える時雨。ゆっくりゆっくりとその頬が赤くなっていく。

 

「ん、どうした時雨?早速、何か撮りに行くか?」

 

 そんな時雨に全く気がつかない男。完全にはしゃいでいたところを見られただけではなく、それを心底楽しそうに優しい顔で見られていた事実に時雨の心臓は煩く鼓動するが、ずっと黙っていては提督を心配させると無理やり落ち着かせ口を開く。

 

「う、うん。約束通り、提督を最初に撮ってあげる」

 

「覚えてくれてたのか。じゃあ、ちょっと身だしなみとか整えてくる」

 

 そう言って霧崎は近くの洗面所に入り、髪や服装を整える。その時間を利用して、時雨も自分を落ち着かせた。そして、失敗しない様に頭に入れた取り扱い方を反芻させながら霧崎を待つ。暫くして、霧崎が戻り何処で撮るかという話になり、二人が初めて顔を合わせた鎮守府入口にしようとなった。霧崎が着任した時より、観れるものにはなったがまだボロいという印象が抜けない場所で本当に良いのかと霧崎は思ったが、目の前の時雨が楽しそうに準備しているのを見て、野暮なことだなと呟いた。

 

「えーと……ここをこうして……ちゃんとピントを提督に合わせて……よしっこんな感じかな」

 

「……楽しそうでなによりだ」

 

「よーし。それじゃあ、撮るよ提督!」

 

 手を振りながら時雨が霧崎を呼ぶ。しっかりと彼女が手に持つカメラを見つめながら、薄く笑顔を浮かべる霧崎だったが、時雨には不評なのかうーん?っと首を傾けられる。

 

「提督もっと、自然に笑える?」

 

「難しい事を言ってくれるな……」

 

「ほら、何か楽しい事を思い浮かべるとか」

 

「楽しいことか……」

 

 うーんと、考えながら霧崎の脳裏に一つの光景が思い浮かぶ。それは、楽しそうにカメラを持って色んな景色を誰に縛りれる訳でもなく、はしゃぎながら撮る時雨の姿だった。あぁ、彼女がこんな風に写真を撮れる光景を自分が見れれば良いなと思うと、自然に頬が緩み時雨が望む笑顔となった。

 

「あっ!良いね、撮るよー」

 

 その瞬間を逃すことなく、シャッターを切る時雨。確認をすれば、そこには少しだけブレてしまったけど優しく微笑む霧崎の姿があった。少しブレてしまったのは残念だけど、あまり見れない霧崎の表情が写真として残せた事が時雨にとっては堪らなく嬉しい。

 

「お?よく撮れてるじゃないか」

 

「うわぁぁ!?いつの間に近くに来てたの!?」

 

 覗き込む様に写真を確認して感想を言う霧崎。時雨の手元にあるカメラを見ているのだから、当然顔は近く時雨はあまりの近さに驚く。その拍子に手から勢いよく飛び上がったカメラを霧崎はしっかりキャッチして時雨に返す。

 

「危ねぇ……ごめんごめん。気安く近づき過ぎたな」

 

 あらぬ勘違いをしながらススっと距離を取ろうとする霧崎を時雨は空いている片手で服の裾を掴み、阻止する。

 

「えと……その……今度は、一緒に……撮っても……良い、かな?」

 

「お、おう。分かった」

 

 二枚目として撮られた写真は二人とも、顔が真っ赤で固まっていたのは仕方のない事だろう。

 

「へへっ」

 

 後日、二人で撮った写真を自室で、眺める時雨はとても満足そうだった。

 




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