無能と言われる提督が一人ぼっちの時雨を笑顔にしてみせる   作:マスターBT

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へへっ……リハビリと次の展開へと演出兼ねて投稿です。


迫る不穏な影

 なんだかんだと綺麗になった鎮守府を腕組みながら眺める。

 此処に来た当初は、見窄らしい事この上なくその辺の物置の方がまだ綺麗じゃないかな?とか思えるほど、ボロボロだったこの場所も地道な改修と妖精さんの超技術で新築同様に生まれ変わったと思う。

 

「贔屓目とかじゃないよな?……自信ないな、自分で一から何かをやり遂げるなんて初めての経験だし」

 

 周囲の人間の五倍は動いて、漸く一人分という無能っぷりだから、イマイチ自信持てないんだよなぁ……

 

『ボロボロの鎮守府をたった一人で綺麗に出来る人を僕は、提督以外に知らない』

 

 ……そうだな、俺は俺の事を信じる事はまだ出来ないけど、君がそう言ってくれたんだから今、俺の目の前に広がる鎮守府の光景はきっと、贔屓目無しに綺麗なんだろうな。

 

「うしっ!じゃあ、今日もお仕事頑張りますか!えーと……書類仕事は終わってるし、鎮守府周辺の草毟りも先日やったし……深海棲艦は相変わらず一隻も来ない平和な海岸線が広がって……あれ?もしかしてやる事ないな?」

 

 普通のって言うとアレだが、思いっきり寂れている此処とは違う鎮守府なら艦娘の訓練とかもするんだろうけど、前に来た奴以外見る影もないこの鎮守府で、時雨だけを動かしたところで彼女が自由自在に動いているのを俺が、ただ眺めるだけになる……それはそれでアリでは?

 燃料系の資材は使い道がなくて支給分だけでもかなり貯まってるし、時雨が良ければ妖精さん作成の小型船に乗って、時雨と一緒にクルージングなんかしても良いかもしれないな。

 

「よし、そうするか」

 

「何をするんだい?」

 

「うおっ!?いつの間に!?」

 

 いつの間に俺の背後に現れていたんだ?

 というか、仮にも軍人なのに容易く後ろ取られすぎじゃないか俺、そういうところだぞ。

 

「えーと、提督が満足そうに鎮守府を眺め始めた時からかな?」

 

「最初からじゃねぇか……声をかけてくれよ時雨……」

 

「なんか考え事してたしそっとしとこうかなーって……それに、真剣な顔を見れるチャンスだったし」

 

 時雨の言う通り、考え事をしてる人間って話しかけづらいよなぁ。

 後半に何を言ったかは、小声すぎて聞き取れなかったけど多分まぁ、何処となくふやけた顔をしてるし悪い事じゃないのだろうと予測出来るから、気にしないでおこう。

 

「っと、そうだった。時雨、お前も今日、暇だよな?」

 

「え、うん。提督が暇なら僕も暇だよ」

 

「聞くまでもなかったか。よし、海に行くぞ!近海パトロールと銘打って、羽を伸ばそう。あ、一応、武装はしておいてくれ、俺も小型船で後を追いかけるから二人で、太陽の下クルージングしよう」

 

 って、あれ?なんか目を丸くしてないか時雨。

 何かそんなにおかしな提案したか?……んー、艦娘も仕事以外で海に出た方が気分転換になって良いかなと思ったんだが……あっ。

 

「もしかして嫌だったか?」

 

 時雨にとって海とは戦いとそれに伴う嫌な記憶が結びついている事を思い出した俺は、しゃがんで彼女と視線を合わせる。

 またしても俺は安直な考えをしてしまった……そうだよな、時雨にとっては可能な限り行きたくない嫌な場所かもしれない事を失念していた……

 

「そんなに悲しい顔しないで提督?まさか、海に行こうと言われるなんて微塵も考えていなかったから、呆気に取られちゃっただけだよ。きっと、提督が考えてる様な暗い事を僕は、考えてないから……ね?」

 

「……俺に気を遣わなくても良いんだぞ?」

 

「大丈夫だって。そりゃ僕一人だったら怖い気持ちもあるけど……提督が一緒に来てくれるなら怖くないから」

 

 そう言って小さく微笑んでくれた時雨にこれ以上言うのは、野暮ってものだと思った俺は大きくうなづいて、時雨と一緒に妖精さんを探し出し、小型船を造ってくれる様に頼み、了承を貰った。

 少しだけ時間がかかると妖精さんが言っていたので、予想時間を聞くとちょうどお昼ぐらいになりそうとの事だったので、時雨と一緒にキッチンに並び、二人でサンドウィッチを作って、気分はもう完全に遠足気分となる。

 

「方位角45度、ヨーソロー!」

 

「ヨーソロー!」

 

 準備が完了した俺達は、それはもう見事にはしゃぎながら海へと出発した。

 念のため、常にレーダーは起動しており、それを妖精さんが常に見張ってくれると言う安心設計だ……本当に妖精さんに足向けて寝れないな俺達……

 視界一杯に広がる青い海を、時雨は慣れた様子で進んでいるがチラチラと後ろを振り向く姿は、はっきり言ってとても可愛いと思うのは、提督だからだろうか?

 

「風が気持ち良いな、時雨!」

 

「そうだね!ちょっとだけ怖かったけど、やっぱり提督と一緒なら僕も楽しめる!」

 

 鎮守府、近海からは離れてない様に適宜、舵を取りグルグルと俺達は鎮守府の周りをクルージングしていく。

 ある程度したところで、一度時雨に船へと乗り込んで貰い、二人で一緒に作ったサンドウィッチを食べる。

 

「うん、美味いな」

 

「レタスの食感が良いね」

 

「爺さんのとこから買ったものだからな。品質は保証されてるよ」

 

 なんだかんだと買い物に通った事で、すっかり仲良くなった八百屋の爺さんと食堂の息子さんの二人には偶に品質の良い食材や、余った料理をご馳走して貰っている。

 財布が潤ってるとは言えないから、正直助かるんだけど、あの二人は儲かってるのか少しだけ気になるところだ。

 そんな事を考えながら、晴れ渡る太陽の下、時雨と一緒にサンドウィッチをペロリと平らげ食休みとしてたわいの無い雑談……俺が上司にめっちゃ叱られた事や、最近、時雨が撮った写真の事、某名探偵を真似して妖精さんが作ったスケボーの話などをして一通り盛り上がると、今度は用意していた釣竿を二人、肩並べて海へと垂らす。

 

「何が釣れるかなー」

 

「艦娘の膂力ならマグロとか釣れそう」

 

「……多分、それ釣竿が保たないと思うよ提督?」

 

「……」

 

「無言で目を逸らした!?本気で言ってたの!?」

 

 良いじゃん……夢見たって……マグロとか何年も食ってないし……

 そんな楽しい時間をずっと過ごしていたからだろう……この時の俺は自分に脅威が迫っている事なんて微塵も考えていなかった。

 

「霧崎時雨……貴様さえ、居なければ……!」

 

「……」

 

 憎悪に満ち、血走った目で俺を見ている年配の提督と、そんな彼の近くで初めて会った時の時雨の様な目をした山風がレーダーの範囲外に居るのだった。




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