無能と言われる提督が一人ぼっちの時雨を笑顔にしてみせる   作:マスターBT

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想像してたのとは少し違った感じに。
まぁ、こういう展開もこの小説は発生していくと思います。


悪意はどこにでも潜む

「時雨ぇ!留守番は任せたぞー」

 

上司が好意でマップ付きのバイクを購入してくれたので、それに跨りながら声をかける。

当然のように返事はない。うーむ、まだ心を開いてくれてはないか。

とりあえず、マップを起動させて港町までの道を表示っと。入力に答えて道順が表示される。

 

「おっ、ラッキー。直進してれば着きそうだな」

 

俺みたいな方向音痴はマップがあっても迷う。流石に、直線なら間違えないがリアルタイムで位置を教えてくれるのな有難い。

エンジンをふかし、出発する。呑気に自然を観察しながら走る。

もともと、港町と鎮守府はそこまで離れているわけではない。30分もあれば到着する。

 

「……にしても、寂れてるなぁ此処」

 

人はいる。だけど、やってる店は少なく、活気もない。

ついでに言うなら、さっきから視線が凄い。人数は多くないはずなのに、針の筵にされてる気分だ。

と、とりあえず買うものを買おう。バイクにはそんなに多く載せれないから、一週間分ぐらいにするか。

 

「えーと…」

 

数少ない開いてる店を見ていく。

物凄い睨まれつつも、漸く目的の店、八百屋を見つける。

 

「おっ、あったあった」

 

店内に入り、野菜を見ていく。カレーでも作るか、保存が効くし、美味い。

米は持ち込んだ物があるから、妖精が作った器具の中に炊飯器もあったな…んじゃあ、必要なのはジャガイモと人参、玉ねぎか。

ひょいひょいと材料を手に取っていく。あ、ルーあるじゃん。便利だな此処。

 

「店主、会計をお願いする」

 

「……」

 

無言で野菜を受け取り、レジに値段を入力していく。

総額で、1000円ちょっと。ピッタリ支払い、外に出る。

 

「痛っ!?」

 

額に飛んできた石を避けれず、直撃する。クッソ!?なんだいきなり…

困惑が解決するより早く、次の石が飛んでくる。これも避けれず、直撃する。

 

「…なんで、提督なんて屑が来てんだよ!!仕事もしねぇで良いご身分だなぁえぇ!!」

 

ちらほらと白髪の見える男が怒鳴りながら、石を投げてくる。

頭に直撃したそれは、俺の皮膚を切るには十分だった。

 

「貴方が真面目に仕事をしてくれれば……主人は!」

 

主婦だろうか。涙を流しながら、此処に来たばかりの俺を弾糾する。

心が痛い。俺が一体、何をしたと言うのだろうか。

暴動というのは、次から次へと広がっていく。ましてや、この街は提督に対する憎悪が強いのだろう。

そのうち、全員が石や言葉の暴力を俺に振るう。

 

「いって……」

 

頭から流れる血が白い提督服を汚す。血の汚れって落とすの大変なんだよなぁ…

 

「あんたらに捨て駒にされる艦娘や、亡くなった人達の痛みはこんなもんじゃねぇぞ!」

 

痛いと思って口に出すのすら、許されていないようだ。

苛烈になる投石行為。身体中のあらゆる場所に直撃していく。避けられない訳じゃない。

だけど、避けてしまえば八百屋の商品に傷を付けてしまう。

それは見過ごせない。既に、俺の身体を狙わずに飛んで来ている石もあるが、それが当たらないようにするのは無理だ。

すまない、店主。それぐらいは許してくれ。

 

「澄ました顔してんじゃねぇぞ!!」

 

「がはっ…」

 

遂に我慢の限界がきたのか、ガタイの良い男の拳が俺の鳩尾に突き刺さる。

意識が一瞬、途切れるが慣れた感覚だ。戻し方も知っている。

少し、強めに自分の舌を噛み、痛覚で意識を繋げる。せっかく、買ったものをボロボロにする訳にはいかないからな。

舌を噛んだから、血が流れただけだが、それを見て満足そうな男。

前任者も歪んでいたが……街の人もなのか?いや、前任者が酷すぎただけか。

 

「はっ!これで少しは痛みが分かったかよ」

 

威張るような顔に思わず、殴りたい衝動にかられる。

だが、此処で手を出す訳にはいかない。彼らは、俺や時雨が守らなくてはならない一般人だ。

決して、虐げて良い存在じゃない。こうやって、俺をボロボロにして気が済むのならそれで良い。

痛いし、血も出るし、服は汚れるしで散々だが、もう慣れた。

ふと、視界に見覚えのある姿が映る。

 

「(時雨?……いつの間に着いてきてたんだ?

とりあえず、俺は大丈夫だ。そのまま、鎮守府に戻れ)」

 

目線と少しのハンドサインで時雨にそう伝える。時雨はそれを見て、驚いた顔をする。

助けを求めないのが不思議か?

時雨に助けてもらうのは、確かに事態の解決には早いが、それでは意味がない。

俺が俺の言葉で解決しなくてはいけない。

 

「…ゲホッ、満足しましたか?なら、こちらから言いたいことが……あります」

 

「あぁ?提督の屑野郎がなんだよ」

 

ガタイの良い男が離れながら、聞き返してくる。攻撃はされない。

石も飛んでこないことから、どうやら一定量までは鬱憤をぶつけて満足したらしい。

 

「まず……一つですが…私は貴方達の知ってるであろう提督とは別人です。

新米で、此処の鎮守府に来たばかりですから」

 

「だが、提督なんて屑の集まりだろう?」

 

「それは前任者を含むごく一部ですよ……少なくとも、俺は艦娘を虐げるつもりも辱めるつもりもありません。

そして、此処に深海棲艦が来たらやれる事を精一杯やる所存です」

 

上も腐ってる気はするが、此処は言わないでおく。

 

「はん!そんなもん誰が信じるかよ。なぁ、みんな!」

 

男がそう言うと、周囲の人たちが賛同するように声を上げる。

まぁ、そう簡単に分かってくれないよな……どうしたもんかね。正直、血が流れてるからフラフラするんだよな。

 

「…提…督!」

 

時雨が俺をらしくないぐらいの大きな声で呼ぶ。

なんだよ、そんな大きな声出せるなら出かけるときに返事してくれよな。寂しいだろう。

周囲の人間の視線が時雨の方を向く。

 

「ひっ……えーと」

 

大勢の視線が向けられ、怯んでしまう時雨。

街の人達は、時雨が俺を呼んだことに困惑しているのか、はたまた艦娘が現れた事で自分たちの優位性が消えたのか固まっている。

 

「…ほれ、今の内だ。早く行かんかね」

 

八百屋の店主がボソッと背後から声をかける。

 

「え?あぁ、はい」

 

「…こいつも持って行きな。商品を庇ってくれた礼さ」

 

林檎が投げられる。ふらふらとそれをキャッチし、お辞儀をしながら時雨の方へと向かう。

何かされたり、罵倒されると思ったが何もされず時雨と合流できる。

 

「ありがとう、時雨」

 

「……提督、その、怪我が」

 

「気にすんな……慣れてるから。それより、バイクを頼む。乗る気力も押す元気も残ってないや」

 

歩いて戻るのは辛いんだけどなぁ…まぁ、仕方ないか。

ゆっくりと鎮守府へと歩を進める。どうにも、前任者は港町にまで問題を残してくれやがったらしい。

 

「……どうして、手を出さなかったのですか?」

 

歩きながら、時雨が質問してくる。

 

「そりゃ……軍人が一般人に手を出す訳には行かないだろう。それに、あの人らが言ってる事だって嘘ではない。

時雨も知ってる通り、屑は幾らでもいる。俺がそうじゃないとは言い切れないしな…」

 

屑というのは他者が下す判断だ。自分で区別のつくものじゃないと俺は思っている。

無能の俺が言うのもアレだが、仕事が出来ても屑という奴にはなりたくない。

 

「……提督は……僕から見たら……屑ではないと今のところ思います」

 

時雨が小声で呟くように言う。前任者のトラウマだってあるだろうに、わざわざそんな事を言ってくれるとは。

 

「…ありがとうな。時雨」

 

嬉しさと恥ずかしさから俺も小声になる。

時雨に聞こえてるかは分からない。でも、俺の心はすっきりした。

 

「そういや、僕って言うんだな」

 

「あっ……えっと…」

 

なぜかやってしまったと言う感じで慌てる時雨。

これはまた前任者の影響か?

 

「俺は良いと思うぞ。僕っ子、可愛いじゃないか」

 

中々、女性がそう言ってるのを聞かないから新鮮味もあるし。あと、可愛い。

趣味全開で悪いが、可愛ものは可愛い。

 

「……か、可愛い…」

 

このふらふら状態じゃなければ、時雨が照れてる珍しい姿でも見れたのだろうか。

ううむ、残念だ。少し、ボヤけて見えてる。まぁ、嬉しそうな声を聞けただけ良いと思っておこう。

 




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