無能と言われる提督が一人ぼっちの時雨を笑顔にしてみせる 作:マスターBT
妖精さんが喋ってるところが、全て平仮名なので読み辛いとは、思いますがご容赦ください。
甘い話が書きたいです(小声)
「イッッ…!?」
「……じっとしててください」
そう言われてもなぁ…なんで消毒液ってこんなにも傷に沁みるんだろうか。
どうにか鎮守府に戻った俺は、現在、時雨による傷の手当てを受けている。と言っても、そんなに大げさなものじゃない。
軽く切って出血してしまった傷と、殴られたりして出来た打撲に湿布を貼るぐらいだ。
「……次は…これを」
まぁ、親身に手当てをしてくれる時雨を見れた事が唯一、喜ばしい事だな。相変わらず、無表情だけど。
どうにか、笑顔とか嬉しそうにしてる表情とか見たいんだけど、上手くいかないものだな。
無表情以外に見たのって、全部マイナス方面だからなぁ。
「……なぜ、やられるがままだったんですか?」
消毒を続けながら、時雨がボソッと聞いてくる。ん?その質問には答えた気がするが。
「軍人が守る市民に手を出すわけにはいかないだろう?」
「…それでも……ここまでされて、どうして恨まないでいられるんですか?
なんで、今もまるで何もなかったように平然とした様子なんですか?」
珍しく長く喋る時雨。
でも、声は震え、手にも力が入っている。俺には分からないが、俺の何かが時雨にとって、ここまで感情を昂らせるものになったのだろう。
無い頭を捻ったところで、答えは出ない。とりあえず、質問に答えよう。
「そりゃ、まぁ、傷付いたのは俺だけだし。
前任が何かやらかした所為で、あの人達は提督と呼ばれる職業を憎んでいる。他の有能な奴が潰れるよりはマシだろう」
有能と言って真っ先に思いつくのは、朱染の奴だがアイツの場合、潰れるよりは潰す側だろう。
きっと、使えるコネ全部使ってあの港町に住んでる人達、全員の弱味を握っても何もおかしくない。
「それに、俺に無関心だった時雨が助けてくれた。今もこうして、手当てをしてくれている。
それだけで俺は満足さ。無能の俺には勿体無いぐらいだ」
此方から何か言わない限り、関わろうとしなかった時雨が自分の意思で動いている。これほど、嬉しい事はない。
時雨の手が止まる。なにか言いたげではあるが、俺に使っていた応急手当道具を片付け始める。
どうやら、手当が完了したようだ。うん、痛みは少しあるが、ぜんぜん動く。
「ありがとう時雨。さて、お腹空いたろ?
すぐに準備するから、待っててくれ」
「……はい」
うーん、相変わらず素っ気ない。
まぁ、美味しいもの食べたら、また雰囲気で分かるだろう。よし、久しぶりにカレーを全力で作るとしよう。
部屋を出て、普段通りどの方向に行けば良いか分からなくなる。
だが、そう何度も迷う俺ではないぞ。
「道案内頼む、妖精」
シーン
あれ?普段ならノリノリで現れてくれる妖精はいずこに?
「くっそぅ…結局迷うしかないのか…」
いつもの様に三十分かけて食堂へと向かうことになった。
時雨SIDE
応急手当に使ったものを片付けながら、提督の事を考える。
前任とは確かに違う。前任の提督は、自己顕示欲の塊でプライドも高く、悪知恵の働く人だった。
あの目つきの悪い眼鏡をかけた人が気づかなかったら、永遠とあいつは此処に居座っていただろう。
「……あの人はそういった感じがない」
僕と同じ名前と自己紹介した提督。
思わず叩いてしまったり、彼が出血するほど爪を食い込ませてしまった。
それでも、彼は僕を罰することもせず、当たり前の様に生活した。
「そして今回の住民との衝突も、権力を振りかざすこともなく、やられたい放題。
自分がどうなろうが気にしない人なの?」
本当になんでもなかった様に「そりゃ、まぁ、傷付いたのは俺だけだし。
前任が何かやらかした所為で、あの人達は提督と呼ばれる職業を憎んでいる。他の有能な奴が潰れるよりはマシだろう」と言える人なんて……
「そうだよ。かれは、そういうにんげんなんだ」
「……うわっ、妖精さん?」
急に聞こえてきた幼い声に驚く。
そもそも、妖精さんの声を聞けるのが驚きだ。僕の様な艦娘と呼ばれる存在は、基本的に妖精と会話ができない。
空母とかの一部は、簡単な意思疎通ぐらいは出来るらしいけど。
「すこしだけ、ていとくさんのことをおしえてあげる」
ふわりと僕の目の前に降りる妖精さん
「ていとくさんが、じぶんをむのうって、いうのはしってるよね」
「…うん」
僕には、どこが無能なのか余り良く分かってないけど、提督はよく自分をそう表現する。
「かれが、ここにくるまで、しゅういのにんげんにずっとずっといわれつづけたことばなんだ。
わたしいがいの、ようせいも、そういってかれをみかぎった」
妖精さんが悲しそうな顔をしながら言う。
きっと、この子はずっと側で見続けてきたんだ。提督が無能と蔑まされるのを。
「かれなりにどりょくをつんだ。でも、だれにもひょうかされることなく、らくいんをおされる。
そうやって、いきていくなか、じぶんでじぶんさえもさげすむようになった」
「…だから、自分は傷付いて良い存在と認識してる」
「うん。かずすくない、ていとくさんのみかたも、かれがちめいてきに、こわれないようにするのがていっぱい。
あとは……じぶんでなかよくなってきいてみて。あまり、ほんにんいがいがいうのもしつれいだし」
妖精さんが再び、宙に浮く。
「しぐれは、みかぎらないでほしいな」
そう言って、開けたままの窓から飛んでいく妖精さん。
どうして、僕に提督の話をしたのだろう。僕に何を期待しているのだろう。
「……僕はまだ、提督を信じ切れてる訳じゃない……前任と違うことぐらいは分かってるさ」
それでも、僕の中にある提督への恐怖心が消えた訳じゃない。
いつ、暴力が振るわれるのか。いつ、解体されるのか。いつ、深海棲艦も関係ない死を迎えることになるのか。
そんな考えは、ずっと僕の頭を支配している。
「……そんな僕に、提督を支えたり、助け出すなんて事を期待しないでよ…」
僕にそんなことが出来るわけがない。
だって、僕はみんなの様に、戦って死にたいと願ってる。死にたがりの艦娘なんだ。
艦娘として、深海棲艦と戦って、せめて死ぬ時ぐらい、自分の価値を感じたい。
「……死にたがりの欠陥兵器に、なにかを求めないで…」
白露、村雨、夕立、春雨、五月雨、海風、山風、江風、涼風。
僕は、どうすればいいと思う?
思い出だけとなった姉妹達に、聞いても返事はない。当たり前だ、彼女達は、生き残ってしまった僕と違って、立派に役目を果たしたのだから。
提督が呼びに来るまで、僕は一歩も動くことが出来なかった。
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