無能と言われる提督が一人ぼっちの時雨を笑顔にしてみせる   作:マスターBT

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今回は主人公陣営と、上司陣営に分けてます。
かたや平和。もう片方は…


会議はサボるもの

「…あぁ…行きたくないぃぃ…」

 

大本営から届いた書類を片手に、机に突っ伏す。

前任が買っていた無駄に豪華な家具は全部、朱染伝いに売っぱらい、普通の家具に置き換えた。

漸く、この鎮守府もまともに活動出来そうだと言う時に、面倒なお知らせが手元にやってきた。

 

「なにが悲しくて、提督が集まる会議に行かなきゃ行けないんだ…」

 

上司から聞いたが、この手の会議は上層部連中に取り入る為のものだったり、自慢話を語る場だったり、賄賂が行き交う場所だったり…

つまり碌でもないらしい。あの人、屑は大嫌いだもんなぁ…

 

「…どうかしました?」

 

書類仕事を手伝ってくれてた時雨が、俺を心配する。

 

「いや、これにね。行きたくないんだ」

 

ペラっと時雨に書類を渡す。

しばらく、それを眺めていた時雨は無表情のまま、書類を机の上に置く。

 

「…護衛に艦娘を付けろと書いてありますが」

 

「時雨しかいないしなぁ…うちの鎮守府」

 

「…僕はここから離れたくないですよ」

 

震えるように声を紡ぐ時雨。

港街に来るぐらいなら、平気だけどやっぱり基本的にここから離れる気はないみたいだ。

 

「分かってるよ。だから、どうしようかなって悩んでたんだ。

この鎮守府を空っぽにする訳には行かないし、そもそも時雨は出たくないだろうし、俺は行きたくないし」

 

え、俺が出たくないのは関係ないだろって?

いやいや、重要だよ。

まぁ、そん事より最も重要なのは、時雨が出たくないって事なんだよな。深海棲艦から雑魚認識されてるのかこの鎮守府は狙われてないが。

提督に良い感情を持ってない時雨を無理やり連れ出したくないし。

 

「…提督。その、僕以外の艦娘は増やさないんですか?」

 

視線を彷徨わせながら聞いてくる時雨。

 

「今のところはその気はないかな。増やすにしても、時雨の中で整理が着いてからだな。

ほんとはこんな悠長な事を言うなって、怒られるんだと思うけど、たった一隻の艦娘にすら向き合えない提督じゃ、大軍を率いても意味がないと思うんだ俺は。幸い、ここは前線から離れてるしね」

 

朱染や優秀な提督達のいる鎮守府は、人類の最前線だから大変だろうけど。

俺のところは、穏やかな海が見えてる。逸れた深海棲艦すら、来てない。

なら、戦力を増やさなくて良いだろう。上司も時雨を頼むって言ってたし。彼女の心の安寧を優先するべきだ。

 

「…僕のため?」

 

「ん?まぁ、そうだな。

俺は、前任が君にした事を書類として残っていることしか知らない。それに、その時、君が感じた気持ちも分からない。

だけど、ここに来た時も言ったがお前を笑えるようにする。その目標だけは絶対に成し遂げるさ」

 

書類の出席不可に丸をつけ、理由のところに、一身上の都合と記入。

ハンコを押して、封筒にしまう。

 

「さてと、時雨。ポストがある場所まで案内してくれ。

そのあと、飯にしよう。何か希望はあるか?」

 

ぼーっとした様子の時雨に声をかける。

だが、返事はない。おかしいな、考え事か?でも、俺お腹空いたんだよなぁ。

 

「おーい!し・ぐ・れ?」

 

肩にトンッと両手を置く。

 

「…え?あ……て、提督?」

 

「おう、提督だ。ほら、行くぞー時雨の案内がないと、俺、迷子になるんだから」

 

思考の世界から帰ってきた時雨に安心して、部屋を出る。

トコトコと走ってくる音が聞こえて、時雨も少し遅れて廊下に出てくる。

 

「よしっ、どっちだ?」

 

「…こっちです」

 

自信満々にどっちか分からない俺に、少しだけ呆れた様子の時雨を追いかける。

ううむ、移動のたびに時雨に苦労をかける訳にも行かないし、道を覚えたいんだが……見たところから忘れてくからなぁ。

もはや、呪いだろ。この方向音痴。

 

「……♪♪♪」

 

鼻歌か?

何やらご機嫌だな時雨。よく見れば、足取りも軽いな。

なんとなく、スキップしてる様に見える気がするなぁ。なんだ、時雨も腹減ってたのか。素直じゃないな。

これは少し気合を入れて、料理を作るとしよう。何が、良いかな……材料はそれなりにあるから、ステーキとかにするか。

あぁ、でも仕込みに時間がかかるな。でも、まぁ、元々食事をするには早い時間だし仕込みをしても大丈夫か。

となると、パイナップルがあったはずだから、果汁を絞ってジュースと、肉に漬ける様に用意して。ニンニクは軽く炒めてから、スライスして肉に振りかけて、あぁ、ポン酢を下味にするか。肉は弱火でゆっくり火を通して、アルミで包み、肉を休ませながら余熱で熱を通すか。

ううむ、スープも作りたくなってきたな。どんな風にしようか。

何やら、ご機嫌な時雨の後を料理で頭いっぱいにしながら、俺は着いて行く。

 

「これで、むじかくとは……しぐれはもっと、あいじょうをしるべきです」

 

二人を眺めていた妖精の言葉は、届くわけもなく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン

ある部屋の扉がノックされる。

 

「入れ」

 

「失礼します。少将」

 

目つきの悪い眼鏡をかけた男のもとに、時雨が書いた書類が置かれる。

部屋に入ってきた兵士は長いはせず、即座に部屋から出て行く。

 

「…やれやれ、嫌われたものだな」

 

書類に目を通し、男は笑みを浮かべる。

彼が送った書類の中には、臨時に兵を貸し与える旨が書かれていたりするものがあったのだが、その全てが不要に丸されている。

しかも、女性が書くような綺麗な丸でだ。

 

「あいつにこんな綺麗な丸は書けん。と言うことは、あの子が書いたか。

くくっ、時雨よ。ちゃんと距離を詰めているようで何よりだ」

 

男以外誰もいない部屋で笑みを浮かべるのは、些かいやかなり不気味である。

 

「ん?やはり、会議は欠席か。まぁ、時雨しかいない奴は来るわけがないか」

 

「ま、だろうね。ほら、僕たちは僕たちの仕事をするんだろう?」

 

「……朱染。ノックぐらいはしろ」

 

「はっははは、これで許してよ」

 

ぽいっと朱染が投げた書類。

そこには、海軍上層部の汚職の証拠が山ほど書かれている。

 

「全く、末恐ろしい口だ」

 

「それを利用してるのは貴方だろう」

 

書類を見ながら、悪い笑みを浮かべる。

椅子から立ち上がる男。

男は、机の上にある写真と指輪を見る。

 

「行ってくる。陸奥」

 

仲睦まじく映る男と陸奥。

二人の指にはお揃いの指輪が光っていた。

 




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