ちょっと他の所に浮気してただけだし!
そして時間は飛んで——という様な事は無く。
エヴァンジェリンの家から帰るときの事である。
決め忘れていた決戦場も決まって、さて次はどうするか? という話だが。
「さて、んじゃあこれから……天命を待つ前に人事を尽くすとしようか」
「……どうするの?」
「まあ、具体的には罠しかけるんだけどな。でもそのまえにネギ」
一つ聞いておく事がある、と前置きし。
「とりあえずの方針だけどよ。その、なんだ、ぶっ殺しちゃうのもやむなしって感じなのか、それとも無理を承知で改心させる感じなのか、どっちだ?」
「え、……っと、できればその、改心させる方向で……」
「オッケ。んじゃあ基本的に捕縛系の罠が中心になるな」
おずおず、といった様子で答えるネギ。
別に何か遠慮する様な事は無いんだけどな。
「……ねえ、今更なんだけどさ、どうしてアンタは協力してくれるの?」
「なんだ、ホントに今更だな。信用できないか?」
不意に明日菜が訪ねてきた。
「ううん、そう言うわけじゃないけどさ。この件に関わる理由って言えば、ネギは今回の中心人物だからで、私はほら、いつの間にかもう引き返せない所に来てたからで……そういう風に考えると小太郎が関わる理由ってなんだろうって思って」
「ん、ん〜〜……?」
言われてみて、改めて考える。
……うん、特にないな。
「いや、特に理由はないけどよ」
「えっ?」
俺の返答に困惑する明日菜。
「いやまあ、本当に理由とか無いんだよ。強いて言えば何となく、だな」
「……理由になってないわよ」
「そう言うなよ、本番で手ぇ抜いたりはしないからよ」
まあ、本当は無いわけじゃないが……別に言う必要も無いだろう。
「で、ところで——ネギ。戦う所を決めたのは良いんだけどよ、「学園都市の橋」ってどこだよ?」
「えっ、知らないのに決めちゃったの?」
「いや、そもそも知ってる所が無いんだよ。ほら、ずっと図書館の中に居たから」
今日まで外に出た事が無いというような事は無いが、侵入したときは図書館島まで一直線に進んだから観光とか出来なかったし、以前一回だけ外に出た事はあるが、そもそもこの学園都市は1日で回りきれないほどの広さを持つ。
一応は地図があるが、やはり直接この目で見ないことには、実戦では役に立たない。
「じゃあ、まずはその場所に案内するよ。アスナさんはこの後大丈夫ですか?」
「私は今日は予定とか無いから大丈夫だけど」
「よかった。じゃあ行きましょうか」
というわけで学園都市の橋。
更に言えば学園都市外縁部の橋。
正確にはなんて言うのか知らないが。
「おお〜、結構デカい……ってかスゲェ広い」
「専用の業者さんとかが荷物を搬入したりする為の橋だって話だよ」
「こりゃまあ、おあつらえ向きの戦場だな」
まるでその為に作られたかの様な橋だ。
見る限り頑丈そうだし、これなら相当暴れても問題無さそうだ。
「さて、これから作戦会議と行きたい所だが……その前に」
「その前に?」
「まずはお互い、どれくらい戦えるのか確認しとこうか」
俺が言うと二人はキョトンとした顔をする。
まあ大体予想はしてたが、各々に何が出来るのかも分からないで作戦会議も何も無いだろう。
幸い、辺りに人気は無い。
これなら軽く人払いを掛けておけば見つかる心配は無いはずだ。
「ホレ、ネギ。どっからでもかかって来い」
「……わかった。ラス•テル•マ•スキル•マギステル——」
先手を譲り、挑発すると、ネギが呪文詠唱を開始する。
手に持った魔法発動体——大きな木製の杖に膨大な魔力が奔り、魔法と言う名の破壊力が現臨する。
「
現れる光の矢。数は11、未だ動かぬ光球の状態だが、その切っ先は俺を射抜かんと猛るのを感じる。
「——さあ、来いッ!」
「
風を切って放たれる光の矢。
精霊を召還し、それを以て矢と成す“魔弾の射手”は、シンプルであるが故に使い易く、初級の呪文でありながらも行使者によっては非常に強力な魔法となり得る。
一度扇の様に広がった矢は俺を包み込む様に収束し、光の精霊の持つ属性である“破壊”という属性効果を行うべく、そのまま殺到し——
「フッ——」
俺の振るう拳に打ち砕かれた。
「今度はこっちから行く——ぜッ!」
足元に氣を溜め、それを蹴り飛ばす様にして行う、短距離間高速移動体術、“瞬動”によって一気に彼我の間合を詰めて、その勢いのままにガラ空きの胴体に掌底を叩き込む。
一般人に向ければ間違いなく内臓破裂は免れない一撃だが——
「——
間一髪、咄嗟だったであろう障壁によって防がれる。
だが、まだ終わりではない。
「もいっちょ!」
「っと——!」
狗神を数匹呼び出し、盾を躱す様にしてけしかけるが、ネギは杖を魔女の箒に見立て、空中へと飛び上がる事で回避する。
まあ、ここまではただの挨拶みたいな物。この程度を凌げないならそもそも話にならないし、戦うなんて論外だ。
さて——
「オラ、何やってんだ明日菜! お前もかかって来い!」
「えっ、私も?」
「当然に決まって——いや、ちょっと待て。そもそもお前戦えんのか?」
俺の知る限り、明日菜は一般人だったはず。やる気満々なのは良いが、それに実力がついてこなければ意味が無い。
そう言う事で聞いてみるが、なぜだか自信ありげに不敵な笑みを浮かべる明日菜。
「ふっふっふ……もちろんよ!」
「おお、かませ臭がプンプンするな。こいつは期待できそうにないぜ」
俺の評価をキレイにスルーした明日菜は、これを見なさい! と何か激しいBGMがかかっていそうな高めのテンションで懐から何かを取り出す。
おお、パクティオーカードか。進んでるねえ。
「ほうほう、ちゅーしちゃったワケか? ネギ先生と? やーいショタコン女ー」
「だ、誰がショタコンかーっ!? ああもう怒った! このまえの図書館の時みたいにまたゲンコツくれてやるわ! “来れ
“来れ”……明日菜が叫ぶと手の中のカードがはじけ、光となって再構成される。
“アーティファクト”
本人の才能、あるいは秘められた力を、例外はあるが、主に道具といった形で顕現させたものだ。
それらは総じて特殊な能力を備えており、ものによってはまさしく切り札となり得る程に強力な物である。
明日菜の手に握られたその姿、その手に握られた形は……ハリセン?
「……おい、ハリセンってお前……」
「ハマノツルギって言うらしいわ、っとぉーーっ!」
「どこがツルギなんだよ!? っぶねッ!」
つっこみを入れながら振り下ろされたハリセンを躱す。
今の所はただのデカいハリセンにしか見えないが、俺の予想が当たっていたとしたらあのハリセンは、俺にとっては天敵の様な物に違いない。
“ハマノツルギ”
漢字に直すとすれば、おそらくは“破魔の剣”だろうか。
魔を破る剣。名は体を表すと言うが、その理論で行けば、こういった能力になる。
これを振るう相手、この場合は俺が、正真正銘ただの人間だったのであれば何も問題はなかった。大層な名前だが、所詮はハリセン。打撃力、破壊力は有って無い様なものだからだ。
だが俺は厳密には純正の人間ではない。狗族、つまり妖怪と人間のハーフである俺は、あのハリセンの前に破られる魔であるかも知れない。
故に、下手に手を出せない。
クソ、あの女まさかどっかの退魔師の家柄か何かか!?
「ッチィ……! “ちょっと遊んでろ”!」
「わあっ!?」
狗神を大量に呼び出して明日菜に突撃、体当たりさせる。
パクティオーカードからアーティファクトを呼び出すと、それだけで本人の防御力が上昇する。あの程度であればアザか擦り傷くらいはできるかもしれないが、大事にはなるまい。
それよりも今は。
さっきからおとなしくなっている後衛。魔法使い、ネギに対処しなければ。
「“
横合いから突如として放たれた突風と水平に走る雷……まさしく“雷の暴風”が地面を削り取りながら襲いかかってくる。
「つう……おおおッ!?」
咄嗟に身を投げ出し、直撃こそは免れたものの余波として細かな電気を浴び、身体がしびれる様な感覚を覚える。
しかし、大技は避けた。ほんの少しだけ安堵した瞬間、足下が光を放ち始める。
「魔方陣……! いつの間に!?」
「さあ、いつだろうね……“縛れ
ネギが叫ぶと足下の魔方陣がさらに強く発光し、光が伸びて俺の身体を拘束する。
「もう一度行くよ。ラス•テル•マ•スキル•マギステル——!」
「ク、ソが狗神ィ! “喰いちぎれ”!」
束縛から脱する為、影から狗神を呼び出して光に喰らいつかせる。が——
「させないっ!」
呼び出した狗神全てが、アスナのハリセン——ハマノツルギによって祓われる。
「“
「だった……ラァ!」
震脚の応用を用い、地面を砕く。
拘束を抜けられないのであれば、その束縛を発生させている魔法陣そのものをどうにかしてしまえば良い。
足下の陣を破壊し、自由になったは良い物の……ネギの詠唱は既に済んでいる。
「“
「バカが、さっきも躱されてんだろうが! 何度やったって……」
「無駄じゃないわよ、今回は私が居るんだから!」
ガッ、と後ろからアスナに羽交い締めにされる。
「なっ、アホかテメェ!? これじゃお前まで——」
「さあどうでしょうね! いわゆるチキンレースってヤツよ!」
「——
そうして放たれる“雷の暴風”。
圧倒的破壊力を前に、ともすれば命がけの、絶望的なチキンレースが始まった。
アスナさんがいつの間にか本気出してた……!
アンタ一般人じゃなかったんですか!? とかつっこみ入れて下さい。