「激しいんだけどなんか、どことなくしまらないバトル」を持ち味にしたいとか思ったりしてます。
今回のはただ単にしまらないだけですが。
「……聞いてないんだけど色々とぉぉぉぉぉッ!?」
夜闇に包まれた橋の上を逃げ回る俺は今、高笑いを上げながら大魔法を狂った様に乱射するエヴァンジェリンに追い回されていた。
「クソッたれ! 野郎、魔力隠してやがったのか!? なぁにが学園結界だ、アイツ絶好調じゃねえか!」
そういや魔法薬も使っていなかったし、最下級の呪文だからかと思ってたが……そもそも結界が効果を無効化されていただなんて―――
「ふははははははは! どうした半妖の、逃げるだけでは何も出来んぞ!? “
「うひぃっ!? 冗談じゃねえぞどうなってんだ!」
―――
この上なく気分が良いッ!
それが、都市の停電と共に結界の軛から解放された真祖の吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの感想である。
以前にも説明があったが、改めて……真祖の吸血鬼とはバケモノである。
切り落としたはずの首がくっつくバケモノである。
灼き尽くしたはずの灰から蘇るバケモノである。
文字通り、殺した程度では死なないバケモノである。
強大な腕力で鬼すら打ち殺し、膨大な魔力で精霊すら圧殺する。
そんな存在がこれまでは年相応の、10歳かそこらの少女程度にまで力を封じられていたのだ、その封印は常人の想像を絶する。
強いていうならば、「超硬度の鎖・ワイヤーで雁字搦めに縛り付けた後、一切の光も届かない海底に沈める」様なものか。
誇張でも比喩でもなく、実際に肉が千切れる程の呪縛を受けて尚、日常生活や限定的ながらも戦闘行動をとれる程の活動が可能なのは、偏にそれだけ高位の生命体だからに他ならない。
……一見、もはや勝ち目など無い様に見えるが。
―――だからこそ、そこに勝機が隠れている。
……はずだ。この、犬上小太郎の考えが正しければ。
―――
(向こうはなんかすごい事になってるけど……)
ネギと小太郎が必死にエヴァンジェリンの猛攻を防いでいる時の事。
私、神楽坂明日菜は茶々丸さんと対決していた。
(ううん、私には私の役割がある。それを一刻も早く終わらせるのが結果的に勝利へと繋がる!)
この身体がぽかぽかして軽くなる感覚……ネギからの魔力供給の持続時間は180秒、それ以上でも以下でもない。
向こうの様子を見るに、供給が終わっても再供給のための詠唱をするようなヒマはないと思う。
茶々丸さんを倒してエヴァンジェリンと四対一のバトルに持ち込めれば分からないけど……
(このままじゃジリ貧ね。3分なんてあっという間なんだから、勝負を急がないと……!)
3分。それを過ぎれば、私はこの戦いに着いていけなくなる。
まるでウルトラマンね。と、内心に自嘲した。
―――
(なにか、考えがある様だな)
エヴァンジェリンは、解放の歓喜に血を沸き立たせながらも、どこか冷静な目で戦局を見ていた。
流石にこの私が全力を出せる様になるとは思わなかったのだろう。
最初はナギの息子も半妖のガキも、パニックを起こしてみっともなく逃げ回っていたものだが……あるときからその様子が変わった。
半妖のガキだ。
始めは何か違和感を感じている様な表情。
そしてその次に何か決心を固めた様な表情。
その様子を見たナギの息子も、糸口を得たかの様に何かを伺っている。
(気付かれたか……だが)
ああ、間違いない。
奴ら……少なくとも半妖のガキは気付いている。
ああ、その通りだ。
私の秘密に気付いたのなら、それは正しい。
それは私の弱点で、そこを突ければ貴様達の勝ちだ。
しかし、それも突ければ……の話だが。
―――
防戦一方だ。
エヴァンジェリンさんの大魔法の連発で完全に封殺されている。
さっきから僕は逃げ回りながら障壁魔法でギリギリの所をなんとか凌げているだけ で、ロクに“魔法の射手”を撃ち返すことも出来ていない。
正直、勝てる気がしない。
(なのに、何で小太郎君は逃げないんだろう?)
小太郎君には僕の父さんのにまつわる因縁も無いし、明日菜さんみたいにこの都市から出ても行き場がないわけじゃない。
いや、行き場は無いんだろうけども……べつに、生活ができなくなるというわけでもないはず。
もともとはここには調べ物に来ただけだというらしいし。
(小太郎君にも何か、理由がある? あるいは―――)
……あるいは?
あるいは、とは何だ。
―――あるいは、まだ、どこかに勝機がある?
そう思い至ると、なんだか、世界が変わって見えた様な気がした。
否。変わったのは自分だ。
勝機があるとしたらどこだ。見つけたとしたらいつだ。最初は小太郎君だってパニックになっていたはずだ。ならばこの戦いの中で既にヒントは示されているはずだ。
勝機を探せ。チャンスを探せ。ヒントを探せ。違和感を探せ。
負け犬思考は変えたんだ。
戦局だって変えてみせる。
情報を洗い直せ。
敵は狂った様に大魔法を乱射する真祖の吸血鬼。
闇の福音、不死の魔法使い、禍音の使徒、人形使い……やたらと二つ名が多い。
昔は人形達の大隊を率いて暴れ回っていたらしい。
今では日本で言うなまはげみたいな扱いになっていて、子供を躾けるのによく名前を出される。僕も何度か言われ……って違う! そうじゃなくてこの場で起こっていることの―――
……この場で起きている事。なら、ということは、つまり、そういうことなのか?
エヴァンジェリンさんが乱射している大魔法。
大魔法というものは、大威力、広範囲、長射程と、燃費の悪さと呪文詠唱の長さに目をつぶりさえすれば攻撃手段としては非常に優れている。
呪文詠唱にしてもある程度は短縮が可能であるし、それも熟達すればほとんど無詠唱のような短文での魔法行使が可能だ。
現にエヴァンジェリンさんはそんな大魔法を5秒かそこらで完成させている。
しかし。
そんなむちゃくちゃな魔法行使、いかに真祖の吸血鬼であるとはいえ、魔力が保つはずが無い。
ゆえに考えられることは。
エヴァンジェリンさんはこの戦いに時間を掛けるつもりが無いということで。
それは短期決戦を望んでいるということで。
つまり短期決戦を望む理由があるということで。
裏を返せばエヴァンジェリンさんはこの戦いに、時間を掛けることができないということで。
―――時間制限がある?
だからこんな戦い方をして、焦っているのか?
なら、時間を稼いで、自滅を狙えば勝機があるということなのか?
そんな―――
そんな―――!
―――
(戦うからには何としてでも勝ちたいけども、
そんな消極的で、
そんなみっともなくて、
まるで逃げるが勝ちみたいな、「かくれんぼの最中にそのまま公園から家に帰ってしまえば絶対に見つからない」みたいな、
そんな卑怯なマネは―――絶対にできない!
僕は戦う前に、“勝っても、負けても……悔いの残らないようにしましょう”と言った、宣言したんだ。
そんな戦いは、勝っても負けてもお互いの心に痼りを残す。
それはこの夜に集まった皆の“誇り”に対する侮辱だ!
でも―――)
―――それ以外に、勝つ術が見つからない……!
とか、思っちゃってんだろうなぁ……。
この俺、犬上小太郎はネギが心底悔しそうに歯噛みする様子から、そう推測する。
かなり盛ったり偏見を混ぜたりしているが、それほど間違ってもなさそうだ。
(しょうがない……)
きっと、今のネギの頭の中はどうどう巡りになっているはずだ。
早く正してやらなければ凝り固まって気づけるものにも気づけなくなる。
俺は氷の暴風雨を躱しながらネギに近づき―――
「ようネギ。ゲーセン行ったことあるか?」
「う、わっと! ゲ……ゲームセンター? あるけど、おおっと!」
「あそこに格ゲーってあるじゃん。あれと一緒だよ、戦いってのはさ」
「格闘ゲーム? 一体何のこ……とおおっ!?」
「ヒントだよ、ヒント。言っとくけどな、俺は時間切れなんて狙ってねえぞ」
俺のその言葉に目を丸くするネギ。
……って、驚くのはいいが、今は真剣勝負の真っ最中だぞ、意識を逸らすな動きを止めるな!
エヴァンジェリンへの集中が疎かになったネギに氷の矢が襲いかかり、そのネギを蹴り飛ばすことで矢を回避させる。
「げほっ……こ、小太郎君! でもそれ以外に勝ち目なんて―――」
「あるに決まってんだろこのペシミスト! そうでもなけりゃあの懸賞金600万ドルのバケモンがこんなガキの癇癪みたいなケンカするかよ!」
もんどりうって咳き込むネギの言葉にすかさず言い返すと―――
「ガキの癇癪みたいなケンカで悪かったなぁっ! お詫びに札幌雪祭りに出れるようなイカした氷像にしてやる! “
「本当の所突かれて慌ててんじゃねえよガキか! 優位に立ってるからって調子づきやがって、吠え面かかせてやる! “狗神”!」
キレたエヴァンジェリンがぶっ放した大技を寸での所で回避する。
「おいネギ! もう一つヒントだ! ―――エヴァンジェリンは深海魚に例えられる!」
「し、深海魚!?」
さあ、俺に出せるヒントは全部出した。
気づけるかどうかはお前次第だ―――ネギ!
誤字脱字や“文章がキモイ”とかありましたら指摘お願いします。
見直してみたら“氷槍弾雨”の魔法は別に大魔法でも上級呪文でもありませんでしたが、そこはスルーでお願いします。
犬上小太郎は半妖なのになぜか学園の結界の影響を受けている描写がありませんでしたが、そこもスルーでお願いします。