主人公が先生やってる中、俺達はアウトローだった   作:クレマ

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いつも通り遅くなりました。
ペンが進まないよペンが!

なお、エヴァンジェリンは爆撃機さながらに空中に浮かびながら魔法を撃ちまくっています。描写が足りなくて申し訳ありません。


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 さて。

 時間は、ほんの数十秒だけ遡る。

 

「くっそ、足場が……!」

 

 吹き荒ぶ吹雪、降り注ぐ氷塊によって完全に氷結した路面を駆ける。

 靴を脱ぎ、足の爪を路面に立てる事によって滑るのを防止しているが、いかんせん不自然な走り方だ。本来の最高速を封じられて、かなりやりづらい。

 

(でもって、さっきからアイツは散々一方的に攻撃してきている。俺たちを防戦一方に封じ込めて、俺たちに一切の反撃を許さずに)

 

 しかし、物事には何にも逆説というものがある。

 

(だが、それは反撃一つできない防戦一方な状態なら、俺たちは一撃も喰らわずに凌げるって事だ)

 

 エヴァンジェリンの行使する大魔法はその一つ一つが一撃必殺だ。故に小太郎たちがまだ戦っていられるという事は、つまりまだエヴァンジェリンは小太郎たちに一つも魔法を当てられていないという事になる。

 

(当たれば落とせるってのに一つも当たらないんだ、相当イラついてるだろうな。

いくら真祖の吸血鬼といっても、その精神的構造は人間と変わらないはずだ。

これは結構なメンタルダメージになるだろ)

 

 刑罰、あるいは拷問の一つに徒労刑というものがある。

 簡単に言えば、繰り返し繰り返し、何度でも無駄な事をさせるというものだ。

 骨折り損のくたびれ儲け、楽屋で声を嗄らす、灯心で竹の根を掘る、労多くして功少なし……どれも徒労という意味のことわざだ。

 人間は徒労を嫌う。

 それはことわざの数に表れる。

 すでに同じ意味のことわざを四つ揚げさせてもらったが、これで全てな訳ではないし、少しニュアンスの変わったものも含めれば、おそらく十や二十では足りないだろう。

 

 それほどに人類から忌み嫌われる「徒労」だが、犬神小太郎には、それよりもさらにつらいと考えるものがある。

 

「後少しで手が届くのに、いつまでたってもそこに手が届かない事」だ。

 

 徒労を感じた者は、それをなんとかしようとする。

 怠惰な者は、その徒労を感じる行動をやめてしまうだろう。

 勤勉な者は、別の方法に切り替えてしまうだろう。

 

 しかし、後少しで届くのであれば。

 怠惰な者は、もう少しだけ続けてみようと思うだろう。

 勤勉な者も、もう少しだけ続けてみようと思うだろう。

 

 いつまでたっても手は届かないのに。

 

 諦める事すら出来ないのだ。

 

 やがてストレスが蓄積していき―――

 

「―――あ゛あああああァァァァッ! もう面倒だ! 全て吹き飛ばしてやる!!」

 

 エヴァンジェリンが炸裂した。

 

 

 

―――

 

 

 

「ッシャァッッ! おいネギ、さっき言った通りだ。合わせろ!」

「え、何だっけ? ごめん聞いてなかった」

「死ね! お前この戦いが終わったら勝敗に関わらず死ねよマジで!」

 

 ウィットに富んだジョークを返したら割と洒落にならないキレ方をされた。

 

「じょ、冗談だよ冗談。英国紳士はどんなときもユーモアの心を忘れない……。ラ•スキル•マ•ステル•マギステル―――!」

 

 そう言って飛び出していった小太郎の後を追いかけるように呪文を詠唱する。

 

 “魔法の射手•戒めの風矢(サギタ•マギカ=アエール•カプトゥーラエ)”。

 初級の攻撃魔法に属する“魔法の射手”の中で唯一、物体を破壊する能力のない魔法だ。

 これにある魔法具を乗せて放つ。

 わざわざ攻撃力のない魔法を選んだのはそれが理由だ。

 他の、例えば光属性のものを使えば魔道具が壊れてしまう可能性があるのだ。

 

 さて、「ある魔法具」についてだが。

 

 その名を、“術式阻害具”という。

 

 

 

―――

 

 

 

 激情のままに魔法を構築する。

 行使するのは“永遠の氷河(ハイオーニエ•クリュスタレ)”。これまでにも何回か発動させてきたが、今回は規模が違う。呪文の完全詠唱に加えて溢れ出る魔力の盛大な無駄遣いによるブーストで本来150フィート四方の攻撃範囲を320フィートにまで増大させる。

 

 その分隙も大きくなるが―――その程度、障壁で防ぎきれる。

 

……と、その時、柄付きの手榴弾のようなものが飛んできた。

 

(フン、この程度の魔法具で今の私の障壁を抜けるとでも思っているのか?

その驕り、千倍の痛みにして返してやる!)

 

 その時私はそれを、安易な攻撃系の魔法具と思い警戒しなかった。

 

 まさしく―――油断である。

 

「“契約に従い、我に従え、氷の女お”―――ッ!?」

 

 警戒するに値しないと思っていた柄付きの手榴弾が炸裂し―――詠唱によって完成しつつあった術式が暴走した。

 

「なん―――クソッ! “還れ(エクス)”!」

 

 反射的にその術式を放棄すると、案の定爆発的な反応を起こして衝撃波をまき散らす。

 

「チッ……術式阻害具だと!? あんな骨董品がまだ残っていたか……!」

 

 “術式阻害具”。

 効果は名前の通り。術式の構成を阻害し、不安定な状態にして暴発させるというもの。

 暴発した術式は魔法の種類に関わらず純粋な衝撃波のみを発生させ、その衝撃波の激しさは使用した魔力の量に比例する。

 

 今回発生した衝撃波はエヴァンジェリンの膨大な魔力もあり、発生地点の至近距離に居たとはいえ、その障壁に罅割れを起こすほどの破壊力があった。

 

 しかし―――

 

(いや、それでも。さっき飛び出してきたあの“半妖のガキ(犬上小太郎)”はまだ―――!)

 

 

 

―――

 

 

 

「やっと、ここまで―――」

 

 裂帛。

 衝撃波を突破して現れたのは漆黒の歪な塊。

 

 否。

 複合装甲のように狗神を纏う犬上小太郎だ。

 

「届くぜ、ここから―――」

「しまっ、障壁の修復が追いつかな―――!」

「―――お前までッ!」

 

 纏う狗神を一匹だけ残して右拳に集中、収束。その拳に牙を宿す。

 

「狗牙ァ―――」

 

 残した一匹は足場として瞬動による加速。

 

「―――憑拳ッ!」

 

 みしっ、と。妙に耳に残る音が聞こえた。

 流石に回避は間に合わなかったのだろう、両腕にガードされた。

だが。

 

(“喰らいついた”。胴体に当てることはできなかったが、確実に障壁を打ち抜いて生身に牙を突き立てた)

 

 獣の噛み付きというのは、仕留めるという事と同義である。

 喉元に噛み付けば即死をもたらし、それ以外の箇所だったとしても出血や筋繊維の断裂など甚大なダメージをもたらす。

 そして、その最たる特徴は―――決して、一度噛み付けば絶対に離さない事だ。

 

 見れば、エヴァンジェリンの腕が黒ずんでいる。

 

 この時発動した効果は二つ。

 

 一つ目は治癒の阻害。

 二つ目は命中した箇所への重力的な束縛。

 

 理屈としては、「獣に噛み付かれているのだからそのままでは治療ができないし、動こうとするのであれば噛み付いた獣を引きずっていかなければならない」というものだ。

 

 唐突だが、二つ目の効果、「命中した箇所への重力的な束縛」について論じる。

 これは、狗神に噛み付かれたのでその分の重量を対象に加算するということなのだが、実際に噛み付いているのではなく、正確には呪詛に近い。

 故に噛み痕が付くことはないが、かわりに狗神の顎を無理矢理開いて効果を打ち消す事もできない。

 ここで重要なのはあくまでも「牙」という概念なのだ。

 

 さて、この「牙」だが、犬上小太郎は複数の狗神を収束させることで創り出していた。

 ならば、加算される重量もその狗神の数だけ倍増する事になるのではないか?

 ここで使用された狗神は3999匹。

 狗神一匹が60kgとするならば、エヴァンジェリンはこの時、約24tもの負荷を負うことになる。

 

 

 

―――

 

 

 

「ッチィ! “氷爆(ニウィス•カースス)”!」

「ぐおぉっ!?」

 

 犬上小太郎を橋の外へと吹き飛ばす。

 もうこいつを半妖のガキなどとは呼ばん、こいつはまぎれも無い戦士だ!

 

(チッ、左腕の骨を折られたか。感覚がない。

 右腕はまだマシだが、左と同じく異常に重い。

 そして、なによりもそれがいつまでたっても治らん……真祖の治癒力をこうも無視するとは、奴め、一体何をした?)

 

 両腕の重さに引かれてか、だんだんと高度が下がってきた。

 飛行にすら影響を与えるとなると、この重さは神経系への異常ではなく、重力系の効果か?

 

 だが、まあそれはともかく。

 

(しかし、今仕留められなかったのが貴様の運の尽きだ。

 戦士と認めたからにはもう油断はしない、ここで着地する前に死んでもらう!)

 

 ここは空中。

 虚空瞬動や浮遊術など、空中で自由に動く方法は無い訳でもないのだが、エヴァンジェリンはこの時、犬上小太郎はそれらの術理を習得していないと判断していた。

 

(奴は私に向かって空中で再加速するときにわざわざ狗神を足場にしていた。

 たったの一匹とはいえ、攻撃に使うダメージソースを減らしてまでそうしたということは、そうしなければならなかったという事だ!)

 

 まさか奴も私に対し油断していたなんて事はないはずだ。

 油断を誘い、激情を煽り、ここまでの策を弄してくる者が油断などするはずがない。

 

(だからこそ、全霊の策を破られたお前は今、限りなく無防備だ!)

「リク•ラク•ラ•ライラック―――!」

 

 時間は与える事はできない。

 しかし生半可な攻撃でもいけない。

 確実に仕留めるためには―――

 

「“えいえんのひょうが(ハイオーニエ•クリュスタレ)”!」

 

 魔法薬を利用した完全無詠唱。

 

 先ほど術式阻害具で暴発させられた魔法と同じだが、今回はスピード特化で組み上げた。

 効果範囲は50m四方もないし、本来絶対零度(-273.15℃)近くまで下がる温度も-180℃程度までしか下げられない。

 

 しかし、人体を破壊するだけなら、その程度で十分だ。

 

「これでぇっ!」

「チクショウがぁ!」

 

 さて。

 

 最初に「時間は、ほんの数十秒だけ遡る」と言っていたように、いわばこれは回想のようなものである。

 これまで長々と書き連ねてきたが、これら全てはほんの数十秒の事だったのだ。

 

 だいたいこの辺で―――時間が追いつく。

 

(―――ん?)

 

 なにか、ヘンなものが見える。

 

「―――おお?」

 

 どうやらそれは、自分だけではない。

 犬上小太郎にも見えているようだ。

 

 しかしなぜ―――我が従者、絡繰茶々丸がこちらに飛んでくるのだ!?

 

「ありがとよ足場ァ!」

「私を踏み台にっ……!?」

「あっ、まっ……!」

 

 そして犬上小太郎は茶々丸をを足場に橋の上へと瞬動。

 

 クソ、もうここからじゃ止まらないぞ!

 

「マスター……申し訳ありません」

「何やってるんだお前ぇぇぇーーーー!?」

 

―――氷漬けのロボが出来上がった。




“狗牙憑拳(クガヒョウケン)”
使うと手が真っ黒になる。

以上、描写してなかった設定。
はい、どうでも良いですね!

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