間が空きすぎて「あと二話って何の事だ?」って思う人も多いんでしょうね。
そういう人は第十八話のあとがきを読めば良いんじゃないかな!(ステマ
では、どうぞ。
「ね、姉さんって……?」
ふいに駆け出したアダムの言葉は、そのときネギにも届いていた。
ギリ、と杖を握りしめた手から力が抜け、緩んでいく。
「そんな、姉って……ありえないよ」
「言いたい事はだいたい分かるが、とりあえずそれは後に―――」
「兄と妹ならまだしも」
「後にしろと言っているだろうが!」
「そうは言っても、見た目的にねぇ……」
アダムの外見はどう見ても成人していると一目で分かるものであり、一方エヴァンジェリンはいいとこ小学生程度の年齢に見える。
明日菜の言うように、見た目からは姉弟にはとても見えないのだ。
「ふふ、お兄ちゃんって呼んでくれてもいいんだよ……?」
「黙れ! 話と誤解がどんどん面倒くさくなっていくだろうが!」
とは言え、エヴァンジェリンはその幼い容姿とは裏腹に600年近く生きてきた吸血鬼だ。
姿形はすでに当てにはならない。
「……んじゃああれか? アダム、あんたも吸血鬼だってのか?」
「まあ、そうなるね。 僕は姉さんと違ってあんまり完成度高くないんだけどね」
「完成度、ねぇ……」
「吸血鬼の完成度」とは、あまり聞かない言葉だが。
吸血鬼の業界用語のようなものなのだろうか?
理解できたところでなにかの役に立つとは思えないので、今はいいか。
「うん、どうでもいいさ」
口ではそういうが、実はもう凄い気になっている。
しかし、気になるなら勝った後で調べればいい。
幸いな事にこちらの勝利条件は敵の殺害ではないし、相手は吸血鬼だからそうそう死にはしないはず。
さっさと終わらせて聞き出そう。
そういう風に自分を納得させて、心の中に勝ちたい理由を創り出す。
理由とは力だ。
実際には別段、身体能力が上昇したりするわけではないのだが、なんとなくやる気が出てくる。
「よし」
そうして、自分の中のスイッチを押す。
めき、めき、と音を立てて、変わり始める。
―――
小太郎君のいる場所からメキメキと変な音が聞こえるので、そちらを見たら。
「ッあ゛ぁぁぁ~~……久しぶりだな、“これ”も」
小太郎君が人間じゃなくなっていた。
……もうなにがなんだか!?
「ん、なんだ? どうしたネギ、鳩が豆鉄砲喰らったみてぇな顔してよ」
「むしろ君がどうしたんだよ!? ほら明日菜さんもビックリして―――」
「ないわよ?」
「ないんですか!?」
どうやら驚いていたのは僕だけだったようだ。
「だってほら。小太郎の頭、イヌの耳みたいなのがあるじゃない? 魔法とかあるんだから変身くらいは当然かなぁって」
ちなみにいまの小太郎君は灰色の毛を持つ人型の犬といった感じだ。
背も伸びて、これまでは僕よりも少しだけ高いくらいだったのがいまでは明日菜さんと同じくらいになっている。
「ねえ小太郎、そうやって変身するのってどんな感じなの?」
「む、それは私も気になるな」
「そうだな……強いて言えば「ずっと座ってて、数時間ぶりに立ち上がって“んーッ!”ってやる感じ」かね」
「馴染み過ぎじゃないですか!?」
いつの間にかエヴァンジェリンさんも話に加わってきている。
というか、いきなり“けものチック”になった小太郎君を見ても全く物怖じしないとは。
(先入観が無いって怖いなあ……)
しかし、明日菜が小太郎を恐れない理由は先入観の無さ以外にもある。
これは、ネギはまだ知らない事だが、この学園にはとりわけ高い才能を持つ者が多く存在し、そういった者達は他の生徒と同じように学園祭で“ハメを外す”ことが多い。
故に学園祭での仮装、特に表で注目を得やすい着ぐるみ等は非常に、いや言うなれば異常なまでに完成度が高く、まるで本物のような出来映えの作品が発生する。
かつて有志の者達の手によってワイバーンが作成された時には、そのあまりの出来映えに学園中の魔法先生が殺気立ったという。
まあ、何が言いたいかというと―――
ぶっちゃけ、獣人くらい見慣れているのだ。
「ところで、小太郎君。“その姿”が本気モードなんだったとしたら、なんで最初っからその姿にならなかったの?」
「こうなると足も変形するから靴が履けなくなるんだよ。ほら、下凍ってて冷たいじゃん? 俺の可愛らしい肉球が凍傷になったらどうするよ」
「殴るよ小太郎君!? これから僕は君を思いっきり殴りつける!」
「やめろバカ面倒くせえ」
とまあ、じゃれ合いはこの辺にして。
休憩時間も切り上げて。
「やるか」
「行こうか」
大地を思い切り蹴り出した。
―――
踏み込み。
打ち込む。
つまりは近接戦闘。
「つおらぁッ!」
いきなり殴り掛かったとはいえ、欠片も不意を打てた気はしないのだが―――まあ、その辺は要修行ってことで。
大切なのは、持ち味を活かすこと!
「シッ―――ハァッ!」
乱打乱打、拳打に狗神を織り交ぜて。
「ゼエァア!」
とにかく打ち込む、攻め続ける!
しかし―――
「よっ、ほっと」
時に上体をそらし、時に受け流し、場合によってはステップを刻んで、あるいは曲芸のような躱し方で無効化されていく俺の格闘。
(クソが、遊びやがって!)
瞬動。
雑念を孕んだ思考のままに特攻を掛けると。
「それはいけない」
接触した瞬間、“正反対の方向に”はじき返された。
「ぐっ……!」
「スジは良い。でもそのままじゃ持ち味を殺しているよ」
まるで諭すような物言いに若干カチンときたが、それ以上に頭が冷えた。
(……ああそうだ、真っ向から挑んだって勝てねえ)
集中力が高まり、精神は深く沈んで、闘争心が研ぎ澄まされていく。
元々俺は獣化すると身体能力が上昇するかわりに頭に血が上るタチだから、言ってしまえば元に戻ったというだけなのだが。
これまでの絶技、一体いかなる理合によってかはともかく、アダムは非常に高い格闘能力を持っている。
銃の武装なんかでごまかしてはいるが、おそらく奴のホームは近距離だ。
銃というのは、剣や槍等とちがって間接的だ。
引き金を引く。
撃鉄を弾く。
雷管が叩かれ、銃身内部に発生した炎が弾頭を飛翔させる。
あまりに回りくどい。ただ切り裂くより、ただ刺し貫くより、とてつもなく間接的だ。
確かに一般の世界では銃が最強だ。
銃を持った素人と剣を持った素人が戦えば、誰の目にも結果は明らかだ。
しかし、一歩裏の、魔法使い達の世界に踏み込めばどうか。
魔力によって構築された障壁は銃弾を防ぎ切るし、あるいは気によって強化された身体能力は5mの距離から放たれた銃弾を回避する。
裏の剣術の名門、魔払いのハイエンドたる京都神鳴流の謳い文句には「神鳴流には飛び道具は通用しない」とまである。
とまあ、ボロクソに言われている銃だが、ここにきてやっと、この“間接”こそが大きな意味を持ち始める。
ある一定以上の力をもつ戦闘者は第六感が発達している。
彼らは相手の敵意、殺気を己の霊的な部分、言うなれば魂に通じるもので受け取る事で不意打ちを防いだり、戦いを優位に進める術を持っている。
故に殺気に間接、言い換えればクッションのような機構を挟む事が出来る武器、すなわち銃は相手の反応を一瞬だけ搔い潜る力を有するのだ。
もしかすると、アダムは一瞬だけ知覚を遅らせた銃の殺気を体術面の殺気で覆い隠すなんて離れ業も出来うるかもしれない。
(まあ、ンなことが出来たらどんな化け物だって話だが、案外出来そうなのがヤな所だ)
「もしかして……ビビっちゃった?」
そこに内心を見透かしているかのような言葉。
むしろ今のにビビったよ。
「ああ。だからこそ、罠かけて不意打って―――裏かいてぶっ殺す」
―――と、思うだろ?
襲いかかるは、真っ正面から!
「―――、へえ」
即座に感づくアダム。
迎撃の銃弾。
踏み出した足で路面を砕き、吹き飛んだ欠片で銃弾を弾く。
一足、二足と距離を縮め最後の一足。
瞬動、軌道に乗せられた銃弾。
まるで予定調和のように放たれたそれは、だからこそ読み易い。
故に―――
来ると分かっているならば、対処は容易い!
「――――ァッ!」
音にならない咆哮を上げて、かすめるように弾丸を躱す。
人間のままでそれをしたなら、かすめた弾丸が皮膚を切り裂いていたはずだが―――今の俺は正しく獣。お世辞にも手触りが良いとは言えない代わりに、高い強度を持つ俺の毛皮はそんなことではへこたれない。
しかし、それも予定調和の内だというのなら、アダムとてそれを読んでいるはず。
ああ、だが―――俺の最高速は、まだまだこんなもんじゃない。
瞬動の加速の終わる前、更なる瞬動。
こちらから向かうのではなく、世界を蹴り飛ばすことで相手を目の前に持ってくる―――なんて、そんな妄想のような現象を擬似的に再現してみせる。
さあ、脇っ腹を抉ってくれたお礼の時間だ。
(ゲロ吐きやがれ!)
そんな一念を込めて、脇腹へと拳を叩き込んだ。
「ガヒュッ……!?」
肺の空気が全て吐き出される音。
たまらず距離を置こうとするアダム。
追撃のチャンス。
「“狗神”ィッ!」
現れる四つの黒球。
一つ一つが大玉転がしの玉ほどの大きさを持つそれは、何もかもを飲み込んでやろうという餓えた貪欲さを孕んでおり、無条件の不吉さを纏っている。
その正体は球形に圧縮された狗神の塊そのもの。限界圧まで押し固められた狗神はその怨念をさらに純化させている。
触れてはならぬ。まさに接触致死。
「…………ッ!」
これにはアダムも顔を青くする。
全霊での迎撃。迫り来る黒球への制圧射撃、銃弾の嵐。
しかし、その動きは精彩を欠いている。
あまりに時間がない、呼吸が出来ていないのだ。
それでも、一つ二つと打ち砕かれていく黒球。
三つ、そして四つ目。最後の黒球が破壊される刹那。
「今だ、やっちまえ」
黒球に黄雷が迸る。
呼応するかのように発生した雷光は、ボルテージを加速度的に上昇させていき―――
「おう、任せろ」
それは銃弾による破壊が先だったか、それとも自立的な崩壊が先だったのかは、もはや判別のつけようも無いが。
弾け飛んだ黒球から現れた黄雷の主は、既にアダムの鼻先にまで近づいていて。
「電撃☆メガトンアッパァァァッ!」
「ホゲェ!?」
その手に塡められた、黄雷纏う鋼の手甲が、アダムの顎を打ち上げていた。
遥か上空に吹き飛ばされていくアダム。
「―――メガトンよりギガトンのほうが強そうかな」
「そういう問題じゃねえだろ。―――フラン」
そしてどことなく的外れな発現を洩らした下手人、その名はフラン•スプリングフィールド。
ネギの、実の姉であった。
「…………あ」
「ん? どうしたそこのお三方。ほらどうぞ続けて。ふぁいっ」
そう、フランから戦闘続行を薦められたお三方(ネギ、明日菜、エヴァンジェリン)だが、全員呆然としていて反応がない。
「お姉ちゃんもしかして助けに来てくれたの!?」
「いや、もう帰るけど。ああそうだ、ネギお前今度メシ奢れ」
「ええ!?」
「良いじゃねえかよ、お前働いてんだから金持ってんだろ? それにそれくらいの活躍はしたろ」
「き、貴様! この戦いには関わらないんじゃなかったのか!?」
「誰がいつそんな事を言ったよ。っつーか誰だテメェ?」
「真祖の吸血鬼だ!」
「なんか弱そうだなお前」
「よわっ……!?」
いきなり現れたかと思ったらこの物言い。
遠慮無しの傍若無人。
何となくネギの父親、ナギを幻視するエヴァンジェリンだが、すぐに「ナギもこいつ程じゃなかったな」と思い直すのであった。
フランさんチンピラ過ぎワロエナイw
実の弟にタカるとかどういう事なんですかねぇ……?
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