京都。
薄暗くなった道に響く、二人分の足音。
犬上小太郎とフラン•スプリングフィールド。
あまり人ごみを好まない気質の二人は、そのため、おそらくは人が少ないであろう夜分にここを訪れたのだが――
「――ふう。思ったより人多いな」
「…………」
ぽつり、と誰に言うでも無く零す少年。
不機嫌そうな眼でぼんやりと辺りの景観を眺める少女。
流石は日本の名所と言うべきか、それとも他の要因も手伝ってか。暗くなってからも尚、京都は人気を保ち続けていた。
古の都と呼ばれるその地は、この現代にあってなお、未だ数多くの神秘を残している。
日本でも屈指の霊地ゆえ、数多くの妖怪が集まってくるし、幽霊等は存在するだけで力が高まり、一般人にも目視できるようになる。
むしろあまりにもくっきり見えてしまうため、逆に幽霊だと気付けないほどだ。
「……たしか、このホテルだったよな」
当然、半分妖怪である犬上小太郎も、真帆良にいた時よりも調子が良くなっている。
「にしても、まんまだな」
ホテル嵐山。
分かりやすいと言うべきか、あるいは捻りが無いと言うべきか。
まあかなりの老舗旅館という話だそうだし、あまりチャラチャラした横文字まみれのタイトルじゃあ風情が無い。
ここは聞こえよく、古き良きと現代の合一と言っておこうか。
「おいフラン。行くぞ」
「ん、ああ? ネギ達がいるってのがここか?」
「情報が嘘でなけりゃな」
軽口を叩き合いながら、目当てのホテルに入っていった。
―――
「京都?」
「うむ。修学旅行で京都に行ったネギ君達の護衛に行ってもらいたいのじゃ」
その前日の事。
突然呼び出された小太郎は麻帆良校長室で依頼の話をしていた。
小太郎としては、どこの馬の骨とも知れない自分やフランを追い出さないでいてくれるのだからなるべく相手の意に然うようにしたいのだが――
「フランも、かぁ……」
それには自分だけでなく、相方であるフランも連れて行ってほしい。というのが少し問題になる。
「難しいかのう?」
「まあ、な。アイツの「故郷を元に戻す」ってのはもうほとんど強迫観念みたいなもんだしな」
だから、動かすには「故郷を元に戻す」ための旨味で取引しないと。と、伝えつつ。
「つーわけで、そっちからも何かしら出してもらわねえとな」
そう、笑顔で交渉に入った。
―――
そして今現在。
ホテルの一室。
中にいたネギは小太郎達が来た事にたいそう驚いていたが、相部屋になっていたアダムは元々知っていたようで特にこれといったリアクションは起こさなかった。
というか、元々学園もこれを見越していたようで、ネギ達に用意されていた部屋は四人部屋だったし、その他にもいろいろと準備が整っていたりと、もう小太郎達がここに来るのは予定に組み込まれていたようだ。
男女七つにしてとはよく言ったものだが、所詮はことわざ。現代人は未来に生きるのだ。気にする事もあるまい。
「で、まあ結局、旅費経費全部学園持ち、加えて帰ったら修学旅行と同じ期間、学園から5人の人材貸し出しってことで落ち着いたんだよ」
「大変だったんだねえ」
「誰が来るかはまだ決まってねえが……まあ、せいぜいコキ使ってやるさ」
交渉の成果を自慢する小太郎。
適当な相槌を打つアダムは適当に聞き流している。
「まあ、そんなわけだ。現時刻をもって、犬上小太郎とフラン•スプリングフィールドはこの修学旅行及び親書引き渡しの任における護衛任務に合流する。……よろしくな、ネギ」
「え?」
「……ん?」
いや、え? じゃなくて、よろしくなって。
「あ、ああうん。こっちこそよろしくね、小太郎君!」
「聞いてなかったろテメェ!」
いや、聞いてないのは分かっていたが。
フランに夢中になっているのを咎めなかった俺に非が無かったとは言わないが。
どうせ大した事を話していたわけではなかったとは言え流すなよ!
「まあいいさ、とにかくそういう事だ。それで、明日からの予定とか打ち合わせておきたいんだけどよ」
「ああ、それなんだけど……」
言い淀み、急に時間を気にし出すネギ。
「これからお風呂に入るところなんだ。話はその最中で良いかな」
「へえ? そいつは豪勢だな」
是非も無い。
―――
かぽーん。
いや、獅子脅しなんて無いが。
とにかくお風呂、正確には露天風呂。
「なあ、何で杖なんて持ってんの?」
「備えあれば憂いなしって言うしさ」
「取り留めねえなぁ……」
なぜか小さい杖をネギが持ち込んでいたり。
「うわ何だアイツでっけえ!」
「ふふ、僕の本気はまだまだこんなものじゃない……!」
「やべえなコレ日本人勝てねえわ……ん? じゃあ俺人間じゃないから大丈夫か」
「考えてみたら僕も吸血鬼だから今ここ人外率凄い高いね」
外国人の圧倒的な戦闘力に愕然としたり。
「それにしても人から尻尾が生えてるのって変な感じだね。……これ何所から生えてるの?」
「ああ、なんつーか腰の下辺りから……ってオイ触んな弄んな引っ張るな! ホモ呼ばわりしてやろうか!」
「あ、ごめん。ところでその尻尾何で洗ってるの?」
「TSU○AKIだよ」
「おお。俺っちと同じか」
「あれだとサラッサラになるよな」
最近出番が無かった小動物と意気投合したり。
野郎三人と一匹でそれなりの盛り上がり方を見せていたわけだが。
「……え?」
ガラリ、と戸が引かれる音と共に聞こえてきた女の声。
見れば、そこには中学生くらいの歳だろうか、黒髪をサイドテールにした女の姿が。
「…………」
全員、そろって言葉も出なかった。
OTOKOYUとかONNAYUとか、もうなにがなにやらである。
肌が白いな、とか開き直ったり、まさかこれが噂のKONYOKUか!? と現代日本に混浴文化が残っていた事に驚愕していると。
「――おい。ンなところで突っ立ってんじゃねえよ、通れねえだろ」
聞き覚えのある声がサイドテールの女の後ろから聞こえた。
よく見れば女の後ろにも誰かが立っている。
前の女より背が低いのか、顔こそ見えないものの、そのぶっきらぼうな物言いはフランに間違いなく。
「ちょ、待て! フラ――」
「ん?」
サイドテールの女を押しのけたフランがこちらを見て。
「よ、よう」
そのキョトン、とした顔が見る間に赤くなっていき。
「――アデアット」
「おぁッ、皆逃げ――って、あれもう俺しかいない!?」
何所からか取り出したパクティオーカードを握り潰し、出現させた鋼のガントレットを激しく帯電させ。
「全部忘れろぉぉぉーーッ!!」
「ぎゃァァァーーッ!?」
振りかぶった拳を叩き付けた。