主人公が先生やってる中、俺達はアウトローだった   作:クレマ

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いつのまにか明けてましたね、新年。


予感がするとかそれ自体が既にフラグ

「……なあ、その場のノリでついヤっちゃった、ってのはまだ分からなくも無いけどさ。わざわざ脱衣場に追いかけて来てまでボコるってのはやり過ぎじゃね?」

「あーはいはい、そいまそんでしたぁ」

「反省してねえだろテメェオラァ! 何で二発殴った! 一発目はともかく二発目はどういう意味があったんだ!? 引っ込みがつかなくなったのかアアン!?」

 

 風呂場での騒動から少しして。

 全員がある程度おちついてからの一幕。

 要するにフランからの一撃を耐える事が出来たのでそこから逃げ出せたが、電撃の影響で身体が痺れて逃げ切れずにトドメを刺されたという事だ。

 

 サイドテールの女――桜咲刹那、完全に置いてけぼりである。

 

「まあいつもの事だし、もう良いけどよ」

(いつもの事なんだ……)

 

 そして、半ば諦め混じりの小太郎の言に驚きというよりも呆れを感じるネギ。

 

(……そういえば、僕はこの二人の事を何も知らないんだな)

 

 姉であるフラン。その相棒である小太郎。

 二人はどこで知り合ったのか、麻帆良に来るまではどんな所にいたのか。

 どうして麻帆良に来たのか、麻帆良から何所に行くのか。

 フランはどうして故郷からいなくなったのか。

 小太郎はそもそも何所の誰なのか。

 

(……なんだか、僕だけが除け者にされてるみたいだ)

 

 嫉妬のような感情。

 ネギ•スプリングフィールドは優秀な人間だ。

 裏社会――魔法関係者であるとはいえ、十に満たない年齢にして教職に就き、周りからの手厚いサポートがあるとはいえ、きっちりと職務をこなし、特殊な方法を使った結果であるとはいえ、クラス全体の学業成績の順位を最下位から引き上げた。

 頼れる仲間から力を借りたとはいえ、かの真祖の吸血鬼を撃破した。

 

 しかしそれでも、未だ十にも満たない、子供である。

 精神年齢こそ、少なくとも他の同年代の者よりは上だろうが……しかし、それでも。

 ただの、遊び盛りの、子供である事には変わりない。

 

 母がわりの歳のはなれた姉がいたとはいえ、両親の愛を知らず、一つ年上の友達の女の子がいたとはいえ、その女の子は魔法の学校に通っている為にあまり長い時間は会えず、村全体が家族のようなものであったとはいえ、いつのまにか悪魔の軍勢に滅ぼされ、歳が上がり魔法の学校に通えるようになったとはいえ、持って生まれた才能から他の生徒たちに妬まれ、友達が増える事はなかった。

 一つ年上の姉がいるとはいえ、故郷が滅びた次の日に、姿を消した。

 

 まるで呪いのように、予定調和のように――ネギ•スプリングフィールドは置き去りにされた。

 

 少年、ネギは家族を追いかけている。

 それは父の背中であり、姉(フラン)の見据えているものであり、友達(小太郎)の立っている場所である。

 今度こそ共に歩いていけるように。

 もう置き去りにされる事の無いように。

 

 

 

―――

 

 

 

 そして、置いてけぼりにされた桜咲刹那はいま、湯に浸かっていた。

 大きい露天風呂を独り占めに、夜景と夜空を満喫する。

 くっきりと輝く月が、まるで海に浮かんでいるかのように感じるのは、月に酔っているからか。

 

 ホテル内で繰り広げられているであろうクラスメイト達のバカ騒ぎも、露天風呂には届かないことになんだか可笑しくなり、自然と顔がほころび。

 おそらく明日あたりだろうか、壮年の鬼教師、新田先生から「あまりハメを外しすぎない事」等とクラス全員にお叱りが来るのだろうなと少し憂鬱になり。

 そんな未来が簡単に想像出来てしまう事にまたも可笑しくなり、笑顔がこぼれた。

 暖かい湯に心がほぐれてゆく。

 

(ああ……少しくらいなら、“羽を伸ばしても”良いかもしれないな――)

 

 ――まあ、そんなわけ無いのだけれど。

 

 一人ごちて。

 次に考えたのは見知らぬ二人の事だった。

 以前一度、意識迷彩を被って教室の中に入ってきた黒髪の少年。

 その少年に名前を呼ばれかけていた金髪の少女。確かフランとか、そんな感じの名前なのだろう。

 どちらもネギ先生と同じくらいの年齢だった。

 

(敵……では、なかったようだが)

 

 金髪の少女の、出会い頭の魔法攻撃。

 だというのに空気がひりつくわけでもなく。

 まるで祭りのような、底抜けに明るく、騒がしい雰囲気。

 それは自分の所属するクラスのものにも似たような。

 

(知り合いだったのか……?)

 

 だとしたら味方なのかもしれな――いや、それならば直接間接を問わず、何らかの形で私の所にも連絡がこなければおかしいのではないか。

 ……考えても埒が明かない。

 

「何にせよ、確認をとれば良いか」

 

 …………。

 ……………………――。

 

「まあ……少し位、後回しにしても構わないかな――」

 

 そうだ。少しくらい構わないさ。今夜はこんなにも月が綺麗なのだから――。

 

 ――悲鳴。

 

「――っ!?」

 

 一目散に飛び出した。

 

 方向は女性用更衣室からだった。

 声の質からするに、これはおそらく恐怖、というよりは驚愕の叫びだった。

 虫にびっくりしたとか、急に物が落ちてきたとか。

 そういった、そこまで緊急性の高く無い事柄。日常の延長線上にある他愛の無い出来事。

 

 そうであって欲しいと願う、狂気の域にも届かんとする想い。

 

 密かに持ち込んでいた愛刀、夕凪を掴んで薄い戸を蹴破り、悲鳴の下へ。

 

 この身を盾に。この身を壁に。この身を刃に。決めたのだ。あなたを守ると、この心に!

 

「――お嬢様……っ!」

 

 たった一つ打ち立てた、この誓いすら守れぬのでは、生まれた意味すら無いではないか――――!

 

「――お嬢様ぁあああーーーーッ!」

 

 

 

―――

 

 

 

 しゅるしゅる、と服を脱いでゆく。

 お風呂場の前、脱衣所での一幕。

 

「なーんか、ヤな予感がするのよねぇ……」

「ヤな予感ー?」

 

 私、神楽坂明日菜のそんな独り言に、気の抜けるような間延びした返事をしたのは親友である近衛このかであった。

 ネギが教師として真帆良にやってきて、魔法なんていう非日常の権化みたいなものに首を突っ込んでしまってから、私の世界は一変してしまった。

 まあ、それを後悔しているかといえば、それはそうでもないんだけど……しかし、思っていた以上に魔法が危険なものだとわかってから、周りの味方を変えるようになった。

 

 そう、例えばこの子、近衛このか。

 

「うーん……」

「……? なにか顔についてる?」

「いや、このかはアレね、誘拐とかされるわね。」

「へ!?」

 

 なんでもこの子、実は京都出身なんだそうだ。

 あとたまに刹那さんからお嬢様とか呼ばれてるし。

 その刹那さんはなぜかいつも武器みたいなのを袋に入れて持ち歩いてるし。

 

(あれ、前に一度持たせてもらった事があるけど、やたら重かったのよねー、……本人は木刀だって言ってたけど、ホントは本物の刀だったりして)

 

 おじょーさま、ねぇ? と、口の中で転がすように考察を続ける。

 一見ぽややんとしていて、お嬢様などと呼ぶには自動的にハテナマークがくっついてくるような、第一印象がアホの子に固定されている天然さんだが、少しつきあっていればそういうわけでもないことが分かる。

 天然、というものは聞こえ良く、異性から見れば可愛らしく見えるかもしれないが、同性から見れば少しイライラさせるところがある。

 しかし、近衛このかにはそれがない。

 その理由としては本人の雰囲気とか、言動とか、いろんな要因があるのだろうが……一番はやはり、気品だろうか。

 歩き方とか、焼き魚の食べ方とか、笑い方とか、見ていて人を不快にさせない。何となく育ちの良さが分かるのだ。

 後はまあ、一目見て「あ、これ上等な物だ」と分かる着物を普通に着こなしてたり。

 その格好で黒服のお兄さん達から逃げ回ってたり。

 後になって何で逃げてたのか聞いたら、「望まぬお見合いをさせられるから」だったり。

 

「……いや、ぴったりじゃない」

「え、なにが?」

 

 いわゆる、「フラグが立ってる」というやつか。

 現実には一切適用出来ないマンガ的思考だが、自分が思っているよりも現実はマンガ的だった。

 ならばいっその事、そういう考え方にどっぷり浸かってしまった方が良いのではないかとも思えてくる。

 参考になるかと思ってそういうマンガを読みあさっていたら、最近上がり始めていた成績を落としてネギに怒られてしまったけど。

 

(うーん、どうしよう……適当に言ってたけど、なんか本当にこのかが誘拐されそうな気がしてきたわね)

 

 京都っていえば妖怪とかたくさん居そうだし、陰陽師とかも居そうだし。

 そんなところでお嬢様なんて言われてたらもう、ほぼ決まったようなものじゃない?

 

(それで実はこのかには隠されたチカラがあって、それを巡って悪の組織と大バトル……なんて、さすがにそれは妄想が過ぎるかしらね)

 

 まあでも、きっと何かしら起こるんだろうなぁ。と思い、内心少しだけワクワクしていて。

 そんな事を考えているうちに脱ぎ終わった服をカゴに入れて。

 

「さあて、温泉! このか、いくわよ!」

「うき?」

 

 いや、うき? じゃなくて。

 

「っていうか! 誰がおさるよ!?」

「うきぃ!」

「あすな、それ私じゃなくておさるやえ」

「おさるじゃないったら!」

「いや、あすなの事じゃなくておさるやて」

 

 軽いパニック。図書館島の英単語ツイスターでおさる呼ばわりされたことは割とトラウマになっているのだ、主に恥的な意味で。

 

「――って! そもそも何でここに猿が!?」

「さあ? なぁキミ、どっから来たんやー?」

 

 気を取り直す明日菜。

 どこからか紛れ込んでいた猿に向かってしゃがみ込んで話しかけるこのか。

 どうでも良いが、二人とも全裸である。

 ――寒くないのか。とかは、聞いてはいけないのだろう。きっと。

 対する猿はうきー、と気の抜けた声を上げた。

 

「うきー?」

 

 その猿に呼応するかのように、背後からまた猿の声が上がる。

 

「――え?」

 

 振り向く明日菜。

 その先には猿。――それも、複数。

 

「なに、――これ?」

 

 否。振り向いた先だけではない。振り向く最中にも、天井にも、着替えを入れるカゴを乗せるための棚にも、視界の中、意識の外――おそらくはあらゆる場所に。

 包囲されているのだ。それがたった今されたばかりなのか、これまでもされていたのを、気付けなかっただけなのかは分からないが。

 

(少なくとも今、確かなのは――これは魔法がカラんでるってこと!)

 

 ならば、やる事は決まりだ。

 

(このかを守る! 猿って言ってもちっちゃいし、蹴っ飛ばしちゃえば楽勝でしょ!)

「このか! 伏せ――」

 

 ――て。と、言うや否や。

 口火を切ったかのように殺到する猿の群れはいつかの夜、橋の上で見た狗神を思わせる。

 

「ひゃあああーーーーっ!?」

 

 突如として牙を剥いた――という形容をするには少々可愛らしすぎるが、さっきまで見つめていた猿に、急に飛び付かれたこのかは驚いて尻餅を突き、悲鳴を上げる。

 

「お嬢様ぁあああーーーーッ!」

 

 風呂場につながる戸を蹴破って、桜咲刹那が飛び込んできたのは、それからすぐのことだった。

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