「お、お姉ちゃん!?」
「あ〜……こう来るか……」
ウチのアウトローが頭を抱え、名実共に子供な先生が困惑する。
「アホ言ってねえでおとなしく勉強してろよ」
「うう……ごもっともです」
いつかの無表情系女子が反省し、俺は呆れる。
一体、なぜこうなったのか。理由はともかく、まずは始まりから話す事にしよう。
「今日も今日とて読書三昧だぜ……」
「ごちゃごちゃうるせえ」
「独り言くらい許せよ! 見ろこの積み重なった既読済みの本の山! もうそろそろ崩れてきやしねえかって最近不安になってんだからな!?」
「自業自得じゃねえか」
とまあ、この時はまだ、俺にとっては普通の日常だった。崩れそうな本の山に一抹の不安を覚えるのが日常とは、我ながら情けないとは思うが。
「……あ、ヤベ。もう無くなっちまった」
気付けば持ってきた本を全て読み終えてしまったので、また本棚から持ってこなければならない。ちなみにこういった魔導書、魔法書の類いはすべからく大きくて分厚いハードカバーなので、複数持ってくるのは一苦労なのだが、それを横着して一冊読むたびに本棚と今居る場所を行き来するのは更に面倒くさい。
溜め息をつきながら行って戻ってくると、ちょうどフランの奴も一冊読み終えた所の様で。
「あ〜あ、これにも載ってねえよ永久石化の解除魔法。状態異常系じゃヤバさダントツでトップなんだからウィキペディアにでも載っけとけよクソが!」
「まあたしかに“魔法の隠匿”とかかったりい事言ってんじゃねえよって感じだよな……ほら追加で持ってきてやったぞフラン」
ちなみに、今フランが言った通りで、俺達が探しているものは石化魔法の更に上位、永久石化魔法からの回復方法。
俺とは直接の関わりはないのだが、聞く所によるとフランの故郷が悪魔の大軍勢に滅ぼされ、そこの人達が石にされてしまったのだとか。
なので、その人達を元に戻そうとがんばっている……という事だ。
……説明もこの辺にして、少し時間を飛ばす事にしよう。
しばらくすると、どこからか騒ぎ声が聞こえてきた。
「……なんだ?」
音の発生源を探して辺りを見回すと、自然と視線は上に向かう。
今自分たちが居る空間は地下にある。まあ、「どれくらい深い所にあるのか」と聞かれると「凄く深い場所」としか答えられないのだが。
とにかく、地上から深い場所に居るという事は、それだけ地上の音が聞こえづらいという事で。
「上に誰か居るのか?」
声自体は幽かなもので、一人なのか複数人なのか、男なのか女なのか、騒いでいる内容も聞き取れない。それでも、幽かでも聞き取れるという事はここからほど近いと言っていい程度には、近くに居るのだろう。
「……なんだ小太郎? 上なんか見上げて」
「ん、ああ。なんか騒がしくて——」
瞬間。破壊音。
強大な威力がなにか、頑丈な物を砕く様を連想させられるような、硬質な響き。
「なっ——!?」
連日、本を読んでばかりですっかり緩んでしまった危機感が、瞬時に張りつめる。
拳を緩く握り、全身に魔力を奔らせ、あらゆる危機を想定して集中する。
まず降り注ぐ、元は石盤かなにかだったのではないかと思われる、所々平べったい岩——ガレキの様な物。
誰が来たか。なぜここに来たか。
先手を打つか。様子を見るか。
思考は“疑念”から“戦闘理論”へと移行し。
(……どうする)
俺は、答えの出ないまま——
「アスナのおさる〜〜!!」
全力でズッコケた。
「なんだってんだ……フラン?」
「オレも知らねえよ。ここに来てからずっと引きこもってたの、お前も知ってるだろ?」
「それもそうだな……」
改めて耳を澄ませば、まだ上から「いやああああ」だの、「キャアアーッ」だの、「みんなゴメーン」だの、様々な声が徐々に大きくなりながら続いてくる。
ってかコレ、普通に墜ちてんじゃね?
「やっぱり、助けるべきか?」
「見殺しにすんのも気分悪いだろうが」
「ま、それもそうなんだよな……」
改めて、意識を集中させる。
ズボ、ズボッ、と天井を覆い隠すかの様に折り重なった木々の枝葉を音を立ててくぐり抜け、合計して七人、連続して人が墜ちてくる。
「……“行け”」
そう、静かに呟く。独り言などでは断じて無い。確かに語りかけているのだ。
「“狗神”!」
命令を下す。
呼応するかの様に俺の影が盛り上がり、そこから漆黒の狼が姿をあらわす。
それも一匹や二匹ではない。墜ちてきた人数と同じく七匹。
漆黒の軌跡を描いて七匹——七人を救いにその場から飛び出した。
「“連れて来い”!」
指示に従い、狼達は七人を背に乗せて、又は服を噛み銜えて帰ってくる。
「おし、よくやった」
ねぎらいの言葉をかけてやると狗神達の体躯は黒い粒子となって霧散し、その粒子が俺の影に還っていく。
さあこれで一件落着……といきたい所だが、まだそういうわけにもいかない。誰だコイツら。
さてどうしたものかと七人を見る。全員気絶とはいかないがまだ惚けている様で、ボーっとしている。内訳は学生服の女子が五人、チャイナの女子が一人、そしてパジャマの子供野郎が一人。何とも個性的な奴らだ。
と、その時、学生服のうちの一人が目を覚ました様だ。
「……ハッ!? わ、私は一体……て、アナタはあの時の!」
「え。なに、俺?」
そう言って慌てた様に掴み掛かってくる。
まあ俺もコイツの事は何となくだが、どこかで見た事がある様な気がする。
「そうです! アナタとは以前この図書館の裏門で会っているはずです。まさかあの開かずの扉はこの場所につながっていたんですか!?」
ん? 図書館裏門で開かずの扉ってーと……
「ああ! アンタあの時の無表情系か! 無表情じゃなかったからまったく気付かなかったぜ」
「む、無表情系……? よく言われますが私は綾瀬夕映です。姓でも名でもかまいませんが普通に呼んで下さい」
俺ののんきな物言いに気勢をそがれた様に嘆息する綾瀬。
まあそれはそれとして。
「で、綾瀬某? お前ら何しにきたんだよ?」
「夕映だって言ってるじゃないですか!」
「ああもう、名前なんてどうだっていいんだよ。お前らは何をしにきたんだ?」
「…………そ、それより! アナタはここで何を? ずいぶんと馴染んでるみたいですけれど」
「質問に質問で答えるとテストで0点なの知らねえのか? 今聞いてんのはこっちだぜ」
……やれやれ、何でか知らないが、どうにも答えたくないらしいな。
どうしたものか、と考えていると。
「お、お姉ちゃん!? なんでこんな所に……居るなら教えてくれれば良かったのに!」
また、気がついた奴が出たみたいだ。
そうして綾瀬から目線を向けるともう全員が立ち上がっていた。どうやら俺が話し込んでいて気付かなかっただけみたいだ。
ちなみに今の言葉はパジャマっ子のものだった。
しかし、お姉ちゃんって言うと……誰だ?
「イヤ、オレも知らなかったというか……あ〜……こう来るか……まあ、何だ。元気だったか?」
パジャマっ子の視線の先に居たのは——フランだった。
まあ、一緒になって落ちてきた六人に今更驚くのも変な話だし、こっちの中で女性なのはフランだけなので、人員的にそうでなければおかしいのだが。
しかしアイツ、弟なんて居たのか。
「……ネギ先生に姉が居たとは」
「なにハナシをボカそうとしてんだ」
感心した様に呟く綾瀬に再三の軌道修正をかける。
何だってそんなに言いたくないのだろうか。
「とっとと言えよ。別に裏家業にいそしんでて守秘義務があるってワケでもあるまいし」
「う……その、もうそろそろテストが近いので、読めば頭が良くなるという『魔法の本』をさがしに来たのですが……」
「ハァ? 頭が良くなる『魔法の本』? アホ言ってねえでおとなしく勉強してろよ」
「うう……ごもっともです……」
それにしても、普通……ではないにしろ、魔法とは無関係の一般生徒にしか見えないんだが……
なんだって学園はコイツらをここに招いたんだ?
やっと原作に入れたよ!(泣)
ところで、一切関係ありませんが、
感想を見ていてどう返信しようか悩んでいると、
返ッッッ信ッッッ! シャキイィィーーン!
と、どっかのライダーがキーボードを超カタカタやっているのを妄想してしまいます。
間違いなく俺だけですね!(泣)