「ではこれわかる人ー」
「ハイ、ハイ、ハーイ」
「ハイ佐々木さん」
「35です」
「正解でーす」
「「お〜〜!」」
生徒六人に先生が一人。あわせて七人が授業を行っている。
机は適当な木箱で代用、ノートやペンなどの筆記用具はどこからか拾って来た様だ。
「……まったく、よくやるね」
遠目から見る。
まわりに魔導書を積み上げ、幾つもの塔にまた一つ本を重ねながらつぶやく。
彼らがここに来てから、二日目が過ぎようとしていた。
手持ちの魔導書を読み切ってしまい、新たに持ってくるついでに通常口の様子を確かめる。
「変化無し、と……」
開いていてくれればと思っていたが、そんな事はなかった。
しょうがない、戻るとしよう。
とまあ、戻ったはいいんだが。
「……いや、何でだ」
ネギの生徒六人がまさかの全裸。
いや、内二名は胸にタオルをまいてスカートを履いてたりするのだが。……まあ似た様なものか。
まったく、意味が分からない。
「ああ、裸族か。先生も大変だな、こりゃ」
「「「ちがうっ!!」」」
何か言ってる様だが聞く耳持たん。
最近若者の性の乱れとか聞くがなるほど、こういう事だったのか。
ショタ喰いとかマジかんべんだし、さっさと逃げるとしよう。
「ちょっ、ちょっと待って! ここにきてから一度もお風呂とか入ってないからせめて水浴びしようっていうだけで裸族なんかじゃないから!」
「追ってくんな変態恥女! この年齢差じゃ何でもかんでも男が悪いって理論は通用しないんだからな!?」
「せめて話を聞いて!?」
俺がその場から逃げ出すと明日菜が追いかけてくる。
くそっ、貴様なんぞに俺の初めてをくれてやるわけにはいかないんだよ!
「あれ? 小太郎君そんなに急いでどうしたの……ってアスナさん!? どうして裸なんですか!?」
そうして逃げ続けていると、子供先生と出くわした。
「ネギ先生助けてくれ! 変態に襲われているんだ!」
「だれがヘンタイよ!?」
「そうです、アスナさんは変態なんかじゃ…………?」
「ちょっ、言い切りなさいよ!」
「だ、だって! 僕も今の所アスナさんは変態にしか見えないんですもん! 裸だし!」
「ううっ……!? そ、それは……!」
おお、さすが先生! 生徒の相手が手慣れてるぜ!
さて、このまま俺はとんずらさせてもらおうか……と考えていると。
「キャーーーーッ!」
どばっしゃーーん! と水の轟音と共に誰かの悲鳴が聞こえて来た。
「何だ……?」
いくら何でも尋常じゃない。
今の悲鳴は少なくとも遊んでる最中に出る様なものじゃない。
俺を含めてその場の全員が話をやめ、声の聞こえて来た方向を見る。
「大変やアスナ、小太郎君ー!」
走って来たのはこのかとか言う女。
ここからさっきの所まではたいして離れては居ないはずだが、急いで来たのだろう、すこし息が荒くなっている。
「どうしたんですかこのかさん! さっきの悲鳴は!?」
「あ、ネギくん。と、とにかく大変な事に……」
そのまま話を聞いてみるが、どうにもまとまりがない。
要約すると、“なんかよく分からない大きなものが襲って来た”とか。
……いまいち想像がつかないな。実際に見に行った方が早いか。
という事でひとっ走りすると。
「うおぉッ!?」
ドゴォッ!
襲って来たのは巨岩の拳。
もちろん躱す。
このかの言う“なんかよく分からない大きなもの”とは動く石像、つまりゴーレムだった。
「ふぉふぉふぉ」
「た、たすけてーーーーッ!?」
「チィッ——!」
ああ、クソ、面倒だ。
ゴーレムの片手には、おそらく先の悲鳴の主と思しき……たしか佐々木とか言ったか、そいつが握られていた。
っつーか笑い声が凄まじくムカつく。なんか以前どこかで聞いた事がある様な気がする所が特に。
「まったく、面倒だ……!」
「助太刀致すでござるよ、小太郎」
「カエデか」
どうしたものかと攻めあぐねていると、いつぞやの忍者女が声をかけて来た。
「……腕を落とす。助け出すのはまかせる」
「承知」
短く言葉を交わす。別に口下手ってワケじゃない。ただ、それだけで充分だってだけだ。
ゴーレムの手は佐々木をがっしり掴んでいて、無理に引っ張り出そうとすれば色々千切れて血が出る可能性が高い。
だからまずゴーレムの腕を落とす事で手の力を抜き、助けやすくする必要がある。
しかしゴーレムは石像。当然腕だけでも凄まじい重量がある。
俺やフラン、カエデと言った“関係者”であれば気にする必要のない程度の重さだが、あいにくとつかまった佐々木は一般人だ。下手に一緒に落ちればつぶれて死んでしまう。
手段を選ばなければそこは解決できなくもないがその場合、本末転倒な結果を生み出す事になってしまう。
ただまあ、俺一人だけでは、だが。
「せいっ!」
素早く近づき、掴んでいる方の二の腕辺りに蹴りを放つ。
石の灰色にビキリ、と罅が入り、そのまま落ちるとともに力を失った手から、カエデが佐々木を救い出す。
まあ、これくらいなら秘匿とかに大した影響はないだろう。
「(後は任せても大丈夫でござるかな?)」
「(ハッ、コナゴナにしてやるよ。それよりどっかに離れててくれ)」
むしろ、ここに居られると派手にぶっ壊せない。そういった意図を伝えると、カエデはあい分かったと佐々木を抱えて跳び去り、他の生徒に逃げるよう伝える。
「な——!? 一人置いて逃げられるわけ——」
「(大丈夫でござるよ。小太郎もネギ坊主と同じ、関係者でござるからな)」
「そ、そっか……なら……」
「ホラ、コッチでござるよ」
二枚舌というか口が達者なもので、最低限の短い言葉で言いくるめ、先頭を切って滝がある方に逃げていく。
それに続き、ネギや他の生徒も一緒に逃げていった。
「ま、待つのじゃ!」
「ったく……なんだアイツ、魔法バレてんのかよ?」
それにしても、逃げる時佐々木が何か本の様なものを持っていったような気がするのだが……まあ、気のせいか?
しかし、それにしても。
「逃げられるとでも——思ってんのかよッ!?」
七人を追うゴーレムの片足を殴り、粉砕する。
どうやら俺が今まで消極的にしか戦ってこなかったから調子に乗ってるのかも知れないが……
「ナメやがって……“砂”にしてやる」
「や、やめるのじゃ小太郎君!? 儂じゃ、儂じゃよ!」
「ああ!? ワシワシ詐欺かオラァ!」
足と腕を片方ずつ失って倒れ込んだゴーレムにガスガスと蹴りを入れる。
「ちがう、学園長じゃ! いや、それどころではない! 大変なのじゃ!」
「……まあ学園長が生徒を襲ったなんて知れたら大変な事になるよな」
「そうではない! いや、それはまあそうなのじゃが……そうじゃなくて、メルキセデクの書が盗られてしまったのじゃ!」
「は?」
……正直、今言った事の意味が分からなかった。
え? メルキセデクの書?
「……えっ、いつ」
「今さっきじゃ」
「どこにあったの」
「首の所に引っかかっておった」
説明すると、メルキセデクの書とは、文字通りメルキセデクさんが書いた本である。
メルキセデクとはキリスト教の天使の事で、平和と正義を司るものとされており、本来はエルサレムの王、また司祭でもあったとされている。
すなわち、人間でありながら天使に匹敵する力を持ち合わせた実在の人物という事だ。
他の天使と違ってその存在には信憑性がある。
つまり、そのメルキセデクの記した本にも同じく信憑性があり、その力は確かな物として確認されている。
簡単に言えば、凄い人が書いた凄い本だと言う事だ。
逃げていった彼らの目的、魔法の本の正体がメルキセデクの書だというのなら、確かに頭を良くする事など簡単な事だろう。
ぶっちゃけ超欲しい。喉から手が出るくらい欲しい。
っつーかそれをあんな一般人程度の奴らに盗まれるって何なの?
「……………………」
「しょ、しょうがなかったんじゃ! ゴーレムだと感覚が鈍るし周りとかもよく見えないんじゃもん!」
「なぁにが“もん”だこの老害がァッ!」
「ふぉ!?」
「しょうがないもクソもあるか! そもそも何でアイツらはこんな所に落ちて来たんだよ!? まさか学園側が連れて来たってんじゃないだろうな!」
「それはないぞ! ネギ君達はきちんと迷宮を通り抜けて来たからの!」
「アホぬかしてんじゃねえぞクソジジイ! きちんとって何だきちんとって! っつーかそれ以前にあんなトラップ満載の危険な迷宮を堂々と公開してるってどういう事だ! 何で封鎖しない!」
「ふぉおおー!?」
俺がヒートアップするのに連れて蹴りを入れるのもだんだんと激しくなっていく。
既にゴーレムの四肢はどこかへ吹き飛びダルマの様な状態になっている。
「ああもう付き合ってらんねぇ! 本取り返しにいってくる!」
「それなら滝の裏の非常口に向かうと良いぞ。あそこはもう解放される手はずになっておるのをカエデ君に伝えておるからの」
「グルだったのかあの糸目女ァ!」
「ふぉおおおおおおおおーーーー!?」
ついにイライラが頂点に達し、ゴーレムを蹴り飛ばしてお星様にする。
すこしスッキリしたがそれよりもやる事が残っている。本を取り返さなくては。
「クソッ、結構遅れた! もう外に出てるかも知れねえか……?」
愚痴を言っているヒマはない。
言われた通り非常口に急ぐ。
が。
「え〜っと、これは……?」
「アスナ分からないならその本貸すアル!」
「いえ、今度は私が……!」
「わ、私もやってみたいかな〜……?」
…………
「……あれ、案外近い」
そんなに進んでなかった。
地上への直通エレベーターにつながる螺旋階段。その途中に行く手を遮る様に壁から石盤が迫り出して来ており、それらに邪魔されていたからか、七人が居る所はまだ螺旋の三段目と言った所だ。
「……そんな急ぐ必要もなかったか?」
というか走らなくても良かった感じ。
普通に歩いて来ても余裕で間に合ったんじゃないだろうか。
「……おや? そこに居るのは小太郎ではござらんか?」
「え? あ、ホントだ。おーい! だいじょうぶだったのー!?」
まるで今気付いたかの様に俺を発見するフリをするカエデ。気のせいかセリフが棒読みに聞こえる。
ええい白々しい……! お前最初から仕掛人だったんだな……?
「言いたい事はいくつかあるが……とりあえずお前ら、その本寄越せ」
階段を上って七人に近づき、何はともあれまずは本の返却を求める。
口調とか言い方とかはこの際気にしない事にする。
「いきなりなんでよ?」
……まあ、当然の疑問だな。
こんな所までやって来て、約三日閉じ込められてやっとの事で手に入れた物だ。言われただけでハイそうですかと渡せる程度の執着しかないのならそもそもこんな事態になどなっていない。
つまり、今ここで必要なのは“納得”だ。
それなら渡してもしょうがない。そう言う事なら渡すしかない。今ここで必要なのはそういう説得力だ。
さて、どうしたものかと考える。
ふと、気になる事が出来た。
そういえば、コイツらはこの石盤をどうやって排除してるんだ?
そう思って七人の前を塞ぐ石盤を見ると。
問題があった。
いや、別に何か大変なことが起きて大問題だとか、そう言った意味ではなく、まるで学校のテストに出てくる様な問いが石盤に彫られていた。
……なるほど。この問題に正解を答えると扉がどうにかなって先に進める……と言った所か。
また、さっきの会話から察するにコイツらはもういくつか問題を解いて本の効力を認識できていると思われる。
なら——
「そいつが危険な物だからだよ」
「えっ?」
どういうウソをつけば良いかは、容易に見いだせる。
「どうやら見た所……その本がどういう力を持っているかはもう理解できてるんだろ?」
「まあ、持ってると頭が良くなるって事くらいは」
「はあ……その時点でおかしい事に気付けよ」
「……おかしい事?」
「そうだよ、そもそも頭……つまり脳ってのは、人にとって最も重要な機関だ。だからこそ頭蓋骨なんていう人体で一番頑丈な骨に守られてんだしな」
「つまりどういう事よ?」
「頭を良くするってのは、つまるところ記憶のインプラントに他ならない。その大切な脳を弄くり回すって事なんだよ」
「……で、でも、言い方は悪いけど、結局頭は良くなってるんだから——」
揺れては居るが、まだ決定的ではないか。
でもまあ、大詰めはここからだ。せいぜい怖がらせてやるさ。
「本当にそう思うか?」
「ッ——?」
「そうだな、じゃあ詳しく説明してやるよ。まずは明日菜。その本がどうやってお前の脳に接続してるかだ。まさかうさんくさい不思議な魔法でとか思ってるんじゃないだろうな?」
「ち……違うの?」
「アホ言ってんじゃねえよ。そいつは夢も希望もない純粋科学の代物だ。まず、人に限らず生き物の体を動かしてんのは体内の微弱な電流の力に依る物だ。ここまでは良いな?」
「まあ……それくらいは」
「続けるぞ。んでもって、脳の働きも同じく電流の流れだ。脳内のシナプスのネットワークをビリビリがかけずり回ってるワケだな。ここまで言えば分かるな?」
「……電気?」
「その通り。この本はその電流を介してお前の脳につながってるんだ」
「でも、そのつながりがどうだって言うのよ?」
「まあ、実際にはそんなに悪いもんじゃない。人間の無意識の部分につながってるから大量の知識が脳に流れ込んで来て暴走するとか言う事もない」
「なら……!」
「ただし。……もちろん、デメリットがないわけじゃない。まずいのはお前の脳がその状態に慣れてしまう事だ」
上げて落とすってのは基本的なテクニックだ。
しかしまあ、真剣に聞いてくれてるけど怪しいとか思わないのかね? 素直というかバカというか……こっちとしてはやり易いからありがたいけどさ。
あくまで大仰に、出来る限り大げさに言う。
「何もしなくても大量の、多種多様な情報がお前の脳に流れ込んでくる。満足してしまうんだよ。満足して、お前の脳は外界に興味を持たなくなる。自分の中で完結してしまうから、何事に置いても自分の言う事は正しいと思い込んでしまう。……今でももうその兆候が出てるかも知れないな」
「そ、そんな事……」
「そんな事は無いか? 本当に? 自信を持って断言できるのか?」
「そうよ! 私はまだ……!」
「そいつは良かった。……ところで、さっきから気になってたんだけどよ。」
これで終わりだ。
「お前、なんか意地になってないか?」
「……え?」
「自分の意見が否定されたからムキになって反抗する子供みたいにさ」
「うそ……そんな……」
「……なんかショック受けてるみたいだけど、もしかしてお前——」
「嘘よ!?」
「今のホラ話、本気で信じてんの?」
とまあ、それなりに怖がらせた所でネタばらし。
「……へっ?」
「隙ありっ」
一瞬意識が飛んでいる明日菜からメルキセデクの書をかすめ取る。
「大体よ、俺みたいないかにも不真面目そうなガキの言う事なんざ話半分に聞いとけよな。信じる物は救われるとか聞くけど実際すくわれるのは足下だけだぜ?」
「…………」
「っつーかホント、お前信じ易すぎ。いつかマジで取り返しのつかない騙され方すんぞ」
「……………………」
「……あの、明日菜さん?」
やばい、なんか固まってる。ちょっと追いつめすぎたか?
「い、いや〜、なんつーか、ごめんな? 俺もここまでなるとは思わなかっ——」
「……こ」
「——た。え?」
「このクソガキーーーーッ!!」
「うおおブチ切れた!? いや俺も悪かったっていうかごめんなさいっつーかヤベェ逃げるっ!」
「まちなさいこのぉーー!」
まずい完全に激昂してる。
こりゃなだめんのは無理だと判断し、素直に階段の下、図書館の方に逃げる事にした。
「ぜえ、はあ……」
それから、アスナさんが息を切らして戻ってくるのはしばらくしての事でした。
「……おつかれさまです」
「はあ、はあ……ま、まあなんて言うか……すごい疲れたわ……ところで夕映、さっきからはどれくらい進んだの?」
「問題二つ分といった所でしょうか。今はネギ先生に教えてもらいながらなんとか進んでいる所ですが、やはり本があった方がスピードが早いですね」
何となく本を話題に出した所、アスナさんの表情はそんなに暗くはありませんでした。
彼と何か話したのか聞いてみると。
「あはは……ほら、若いうちの苦労は買ってでもしろって言われちゃってさ。まあがんばってみようかなって」
「……和解したんですか?」
「まあね。頭にゲンコツ落として、それでチャラにしてあげたの」
そういうとアスナさんは「さーて、今の問題は何ー?」と石盤の前に向かって行きました。
「そう言えばアスナさん」
「ん、どうしたの? 夕映」
「小太郎さんの話が全て嘘だというのなら……あの本はどうやって私たちの頭を良くしていたんでしょう?」
渡すの疑問を聞くと、「んー」と少し考えてから。
「さあ? 夢(不思議)も希望(魔法)も、少しくらいはあったんじゃない?」
そう、笑って答えたのでした。
たかが六千文字強の文量で長文とか思ってしまう俺(泣)
二週間くらい間が開いてしまいました。あーでもないこーでもないと書き直しまくってたんですごめんなさい!
それにしてもキャラの口調を維持し続けるのって大変ですね。変だったりしたら指摘お願いします。
……フランさんどこ行った?