先生ご一行が帰ってからしばらく経った。
俺達に成果は無い。
まったく、イヤになる。
「小太郎く〜ん! お姉ちゃ〜ん! 助けてぇ〜!」
「ひさしぶりね」
「何でまた来たんだよ! 帰れなくなっても知らねえからな!」
ああ、本当。まったくイヤになる!
「……おお? ネギじゃねえか。それにアスナも。今度はどうしたよ」
本に集中していたフランも気付いた様で声をかける。
「それが真祖の吸血鬼とたたか——」
「あきらめろ」
「そんなぁ!?」
「ちょっと!?」
「大体なんでそんなのがこの学園に居るんだよ? 人外魔境かよ」
まあ確かにフランの言う事ももっともだ。
吸血鬼ってだけでバケモノなのに真祖ともなれば手に負えない。
っつーかなんでそんなのがこんな所に居るの? この学園なんなの?
「まあ元気出せよ。ホラ、神様は乗り越えられる試練しか与えないらしいし?」
「神様に敵対してる吸血鬼にそんな理論通用しないよ……」
「あきらめるんだな。あきらめて真祖討伐クエストにソロで挑め。心配しなくても骨は拾ってやる」
「無理だよ! 見捨てないでお姉ちゃん!」
励ましては見るが、話が進まないな。
フランは完全に信じていないし、ネギはネギでパニクってる。
しょうがない、ここは俺が一肌脱いでやるとするか。
「……よし。じゃあここはこの俺、犬上小太郎が助けてやろう」
「ほ、ほんとう!? ありがとう! 僕一人じゃどうしようもなかったよ!」
「ああ本当だとも。それでその吸血鬼はどんな奴なんだ?」
さわやかっぽい笑みを浮かべて助け舟を出してみる。今の俺はまさしく頼れる兄貴分——っておい、フランさん? その果てしなく微妙な物を見る目はやめてくれませんかね。
「うん、でも僕が知ってる事なんてそんなに無いよ? 分かってるのはせいぜい名前くらいで」
「いや、構わなないさ。なんて名前なんだ?」
「えっと、それが——闇の福音なんだけど」
「へえ、エヴァ(ンゲリヲン)か」
「エヴァ(ンジェリン)さんの事知ってるの!?」
「ああ、この前外に出た時にな。それにしてもまさか闇の福音が相手か、大物だな。それで他には?」
「あとは僕が副担任を受け持ってる生徒だって事くらいかな」
「ちょっと待て」
明らかにおかしい情報が入って来た。
「あれ、言ってなかったっけ? 実は僕この学園で先生やってて」
「知ってるよ! この前ここで授業やってたの見てたから! なんで真祖の吸血鬼が平和に中学生なんてやってんだよ!」
「いやまあ、私たちのクラスでは微妙にハブられ気味だけどね」
そういえばこの前見た時明日菜達と同じ制服来てたな……
え、マジなのか!? 見た目はガキだから怪しまれない為の変装じゃなかったのか!?
「ああクソ、なんか俺頭痛くなって来た……おいフラン。お前も話に加われよ。……って、なにやってんの?」
俺一人じゃ手に負えないとフランの方を見ると、片手にジタバタと暴れる小動物を掴んでいつの間にか水を張った鍋を火にかけていた。
……なぜか凄まじい怒りのオーラを纏いながら。
「見て分かんねえか? 湯沸かしてんだよ」
「ネ、ネギの兄貴ー! 助けてくれぇー! 吸血鬼の前に兄貴の身内に喰われちまうー!」
「おいやめろフラン!? その小動物なんか喋ってる!」
「わああ!? やめてお姉ちゃん! カモ君を放してあげて!」
その後、俺とネギの必死の説得によりフランに小動物をその手から放させる事に成功する。
しかしコイツなんなんだろう? イタチなのかフェレットなのか……
「いやあ、助かりましたぜ小太郎の旦那。俺っちはアルベール•カモミール。由緒正しいオコジョ妖精でさ」
オコジョだったらしい。
「……まあいいか。おいカモとやら、なんかフランのやつすげえ怒ってんだけどお前なにやったんだよ?」
「そうだよカモ君。僕も一緒に謝ってあげるから。教えて?」
「それが……俺っちにもよくわかんねえんでさ。ネギの兄貴の姉さんってんで、いつも兄貴に世話になってるのを挨拶しに行ってたんですが、本に集中してんのか、それとも単に無視してんのか、どうにも反応がねえんで……」
「そんでしつこく声をかけてたらああなったってか? それくらいでキレるようなやつじゃないハズだけどな……」
たまたま虫の居所が悪かったのか? いや、さっきネギや明日菜に話しかけたときはそんな感じはなかったんだが……どうしたんだ?
「いや、ちょっとムカついたんで服の中に忍び込んだんでさ」
「おいフラン。 さっきの鍋また火にかけろ。水がグツグツに沸騰するまでな」
「ぐぎっ、ギブギブ! 小太郎の旦那手の力を弱めて下せえ! 俺っちからいろんな物がこぼれちまう!?」
「…………」
「小太郎君落ち着いて! お姉ちゃんも無言でお湯沸かさないで!?」
「黙りやがれこれが落ち着いてられるか! フランの服の中まさぐるとかうらやましい事しやがってこの淫獣が!」
「テメーはテメーで何ぶっちゃけてんだ。おら喰らいやがれ」
「うお熱っつう!? おいフランおま、何で俺にも熱湯を!?」
「ぎゃああ俺っちにもかかったぁ!」
とまあ、散々騒がしくしていた時、空気を読まずと言うか良いタイミングでと言うか、明日菜が一言零す。
「……話が脱線してない?」
「「…………あ」」
「そ、そうだよ! エヴァンジェリンさんをどうするか真面目に考えなきゃ!」
「まあそう焦んな。そんなガチガチに緊張してちゃうまく行くもんも行かなくなる。さっきまでの騒ぎはお前のその緊張をほぐす為にやったもんだ。なあカモ?」
「そ、そのとおりでさ兄貴! 俺っちと小太郎の旦那はその為にあんなバカ騒ぎをやってたんですハイ!」
「嘘おっしゃい。さっき「……あ」とか言ってたくせに」
「ゴホン! まあ、まずやるべきは相手の戦力の分析と、自分の優位性の確保だな。相手はどんな戦いが出来て、こっちはそれにどう対抗すればいいのか。そもそも相手の方が強いんだ、それが分からなきゃ戦いにすらならない」
要は敵を知り己を知ればってやつだ。
というわけでまた聞いてみると。
「そ、そうだね……そうだ。そういえば、一度戦った事があるんだけど、その時気になったのが、なぜか魔力が全然弱かったんだ。ただの武装解除に魔法薬を使ってたくらいに。」
「ふん……魔力が弱いねぇ……だったら、その最初の時に倒せたんじゃないか? っつーか今おびえる必要なんて無いだろうに」
「それが……従者にやられちゃって」
「従者……“魔法使いの従者(ミニステル•マギ)”か」
魔法使いの従者(ミニステル•マギ)。
従者といっても、この場合は戦友やパートナーという意味で、付き従うものという意味ではない。
もともとは呪文詠唱の間まったくの無防備になってしまう魔法使いが自分の身を守る為に契約を結んだ者の事で、今では恋人探しの口実になってしまっているらしいが……結局の所は金の代わりに魔力を対価とした、傭兵の様なものである。
従者と聞いて、俺の脳裏にエヴァンジェリンをマスターと呼んでいたロボットの事が思い出された。
なんて言う名前だったか……吸血鬼の方は有名だったから知ってたけど、ロボの方は聞いてなかったな。
「……でも、その時負けた原因はただ1対2だったからなんでしょ? これで小太郎が一緒に戦ってくれるって言うならそれも無くなるわけだし、もう心配なんて無いんじゃないの?」
「いや、そうとも限らない」
「なんでよ? 1対1ならネギの方が強いって言うんだし、まだ他に何かあるの?」
「まあな。まあ、ここからは長い上に仮定の話になるんだが……まずはこの学園を包む結界の話をしようか」
「結界?」
ここで明日菜が不思議そうに聞いてくる。
まあ、こういうのは俺やネギといった異能者特有の感覚がないと気付くのは難しいだろう。
「ああ。悪い奴が近寄れなくなったりするアレだな。この学園には三つの効果を持つ結界が張られてんだ」
「へえ、そんなのが……ねえ、ネギは知ってたの?」
「いえ、結界があるのは感じてましたけど、それがどんな物かまでは……」
「で、だ。その結界の効果の中の一つに“魔性の弱体化”ってのがある。こいつはその名の通り魔性……魔物だの妖怪だのを弱くする力だ。おそらく、エヴァンジェリンの変な弱さはそれが理由だろう」
「つまり相手にハンデがあるって事でしょ?」
「まあ、それで正しいんだが……ここで重要なのは、その力の制限がロジックに因る物だって事だ。これが昔に受けたダメージが原因とかなら良かったんだが……」
「……そうか、もしかしたらエヴァンジェリンさんは制限を解く事が出来るかも知れないって事?」
「正解だ。ネギ、エヴァンジェリンはどれくらいこの学園に居るかは分かるか?」
「十五年だって言ってた。十五年前に僕の父さんがこの学園に封じ込めたって。……本人が言ってたから、間違いないはずだよ」
十五年か……間違いないな。
真祖の吸血鬼とは文字通り不老不死のバケモノだ。
太陽を克服し、十字架•聖水を意に介さず、心臓に打ち込まれた白木の杭をものともしない。
一応、殺す方法が無いわけではないが、実践するとなると現実的ではない。だからこそネギの父親とやらも封印という方法を採ったのだろう。
しかし、それはエヴァンジェリンとしても重々承知のはずで、間違いなく研究、対策を考えていたはずだ。
それでも結局は封印されてしまっている辺りはまあ、その父親の方が一枚上手だったのだろうが……いかんせん十五年だ。それだけの時間があれば解呪は出来なくとも、少なくとも封印をある程度弱めるくらいは出来る様になっていてもおかしくない。
「……って、父親? っつー事は……」
「うん。エヴァンジェリンさんの目的は、僕の血を吸ってこの学園から解放される事」
……なるほど。
呪いなどといった、相手に永続的に影響を及ぼすタイプの魔法は、基本的にかけられた本人が自力で解く事は非常に難しい。
呪いを実行させている精霊には、術者の強い思念によってそういった力が持たされているのだからして。
そりゃそうだ。せっかくかけた魔法を簡単に解かれてはたまらない。
ゆえに、術者のかけた呪いはまた、術者の思念によって簡単に解く事が出来るのだ。
おそらく、エヴァンジェリンは術者自身と非常に近しい存在である息子の血を使い、呪いの精霊に自分を術者と誤認させる事で解呪するつもりなんだろう。
なぜわざわざ自身が弱体化してしまう様な場所に留まっているのか不思議だったが、これで合点がいった。
きっと、十五年間こんな時が来るのを待って来たのだろう。
「はあ……本当。イヤになるね」
間に挟む話は無い!(泣)
伏線をぶっ込みました!
まあすぐに回収する予定ですが。
カモ君が出てきましたが何となく口調が難しい……
ただ語尾に「でさ」をつけるだけにならないか心配です。
か、感想くれたって良いのよ?