布哇救出作戦   作:フォカッチャ

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米艦を助けるのか。艦娘達がそれぞれの意見をぶつけます


議論

 そのまま非常呼集がかけられ、任務中の者を除く全館娘が食堂に集合した。彼女たちに正対するようにして、長門、大淀ら各艦種の代表たち、それに米艦が並ぶ。説明は大淀がかってでてくれたことに長門は安堵した。こんな状況で説明を任されるくらいなら、潜水艦の待ち構える海域を強行突破する方が遙かにましだ。

 大淀が説明を進めていくに従って、特に駆逐艦娘の雰囲気が変わって来た。大淀が説明を終えると、互いに顔を見合わせ、私語をし始める。普段ならすぐに収まるそれが、今日ばかりはどんどんと大きくなっていった。横目で、長門は大淀と視線を交わした。

「静かに!」

 長門が叱咤すると、ぴたりと静かになった。

「質問があれば聞こう」

 即座に舞風が口を開いた。

「なんだって米国の手助けをしなきゃいけないんですか」

「危機にさらせれている人たちがいます。我々にはそれを助ける力があります。それだけでは駄目ですか」

「駄目だと思います」 

 語尾は震えていた。他の者が口を開く前に、舞風が机に手をたたきつけて怒鳴った。

「私たち、退艦した乗員まで1人も残さず狙われたんですよ! なんでそんな連中の本拠地を助けに行くために命をかけなきゃいけないんですか!」

 予想は出来ている詰問だったが、それでも大淀は返答に詰まった。

 舞風は長門に矛先を向けた。

「長門さんだってクロスロードであんな酷いことされたじゃないですか!それでも助けようっていうんですか!?」

「そうだ。あのときは酒匂も一緒だった。プリンツオイゲンも。そしてサラトガもだ」

 舞風は返答に窮した。長門の言葉を鸚鵡返しに繰り返す。

「酒匂さんも、オイゲンさんも、・・・・・・サラトガも」

「そうだ」

 軽く息をついて、長門は相対する艦娘たちを見やりながら言葉を継いだ。

「あの核実験に使われたのは枢軸の艦船だけではない。むしろ我々は少数派で殆ど、9割以上は合衆国軍艦だった。歴戦艦ですら使われた。彼らの海軍大将の名前を冠した船ですら、だ。狡兎死して走狗烹らる、というやつだな」

 狩る獲物がいなくなれば、今度は猟犬が厄介払いで殺されてしまうという。これは長門の本心である。戦争が終われば軍艦などお役御免だろう。勝者も、敗者も。

 「どういう理由かは分からんが、再び生を受けた。そして再び自分たちを拠り所にしてくれている人がいる。その人たちのために、また私は戦いたい。」

 深海棲艦と互角に戦えるのは艦娘のみである。期待してくれた人たちを失望させず、絶望させずにすむのなら長門は何処であろうと戦うつもりだった。深海棲艦は強大である。味方は多い方がよい。例え昔日の敵軍でも。いつの日か深海棲艦を倒す日がきたら、待っている運命はかつてと同じお払い箱かもしれない。それでもいい。今度は役に立てたのだから。 

 

「わ、私は舞風さんの意見に賛成できないのです!」

 雷が声を上げ、周囲の艦娘がすこし驚いたように見やった。確かに、このような場で発言する艦娘ではなかった。

「今の敵だって出来れば助けたいのです!昔の敵ならなおさらです!」

 雷が拳を握りしめて叫んだ。工藤少尉の薫陶よろしきを得たな。緊迫した場にもかかわらず、長門はほおを緩めかけた。かつて足を負傷した高松宮殿下が靴を借りた男。包帯を何重にも巻いた宮様の足に、その巨大な靴はぴったりと合ったという。長門乗組だった酒好きで大男の新米少尉は、雷の艦長となってあの戦争を迎えた。長門にとっては、雷は教え子の娘のような存在だと言ってもよい。

 同時に口を開きかけた舞風と雷を、長門は手で制した。

「他に意見はあるか?」

 議論させても、感情の対立が先鋭化するだけで、益はない。とにかく艦娘たちに感情をはき出させることに長門は努めた。そして声を出す者がいなくなったことを確認して、長門は艦娘たちを見据えた。

「戦争だったというだけでは納得できない者も多いのは当然だ。それだけ様々なことがあったからな。複雑な感情があることは分かる。だから、今回ばかりは出撃を命令できない。提督には私から話しておくから、席を外せ。その者は本作戦に加えないから」 

 長門が口を閉じるのと同時に、舞風が立ち上がった。

「長門さんの仰りたいことも、頭では分かります。でも、やっぱり米艦の皆さんと隊列を組むことは出来ません」

 はっきりと米艦娘を見据えて言い切った。切り刻まれてしまいそうな緊張感が食堂を包み、その中を舞風は出て行った。

「ごめんなさい。ボクも気持ちの整理が付きません」

 時雨が立ち上がった。

「スリガオではボク以外、みんな沈みました」

 あとは声にならなかった。目を合わせないまま二度、長門とエンタープライズに向かって深々と礼をした後、時雨は背を向けて食堂から出て行った。何人かの艦娘が時雨の真似をして頭を下げた後、食堂をあとにした。

 しばらく待ってそれ以上出て行く艦娘がいないのを確認した後、長門は頭を下げた。

「ありがとう」

 エンタープライズも頭を下げた。ワシントンも、サウスダコタも、他の米艦娘も。

「義を見てせざるは勇なきなり、というからな」

「もやもやが全くないわけではないけれど、今の敵は深海棲艦ですから」

 次々と残った艦娘が口を開く。

「ずっと戦っていれば、敵が味方になったりすることもある。味方だった人たちが敵にならないだけ素晴らしいこと、だと思う」

 響の言葉に、長門は改めて頭を下げた。大淀が退席した艦娘の名前を全て書き取った-残っている艦娘を記すより10倍は早いだろう-のを確認してから、長門は口を開いた。

「編成については追って伝える。解散」

 ハワイ救出作戦は、とりあえずだが、開始の目処がついた。

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