布哇救出作戦   作:フォカッチャ

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気がついたらかなりの時間が経っていました。
一応最後までのプロットは立っているので、続きをすぐに書けたらいいなあ・・・・・。
一言でも感想頂けたら幸いです。


先陣

 艦娘が次々に飛行艇に乗り込んでいく。艦娘自体が鎮守府から敵根拠地まで自力で航行する事は余り現実的ではない。もし本物の艦で行くならば、乗員は交替で休みことが出来る。しかし艦船であり人でもある艦娘は交代もできず疲労がたまるばかりである。従ってある程度の距離まで輸送船なり飛行機を使い、そこから出撃するという形態が多い。勿論、途中で会敵すればその時点で下船し迎撃する。

 長門は出撃する艦娘を全て見送ってから乗船するつもりだった。その長門の眼下で神通が水雷戦隊を整列させていた。芍薬のような淑やかな表情のまま、神通は問いかける。

「私たちは何者ですか?」

「水雷戦隊です!」

「水雷戦隊の役目は何ですか?」

「雷撃です!」

「雷撃でなにができますか?」

「戦艦も一撃で沈めます!」

「遠くからうってもはずれませんか?」

「一発必中の距離まで近づきます!」

「そんなことができますか?」

「そのためにで猛訓練を重ねました!」

「そのとおりです。水滸伝に曰く、『兵を養うこと千日。用いるは一朝にあり』。我々が艦娘として第二の生を得て以来、長きにわたって猛訓練をこなしてきたのは、まさにこの時のためです。皆さんが、私と共に、訓練の成果を発揮できるよう祈ります」

 駆逐艦が一斉に敬礼し、神通が答礼する。彼女の右手が降ろされると同時に嚮導役の陽炎が「出発せよ!」の号令を発した。駆逐艦娘が一斉に駆け出していく。彼女たちを見送った後、いつから気づいていたのか、神通は長門へ振り返ると、鮮やかな敬礼を決めた。

 神通も変わったな、と長門は答礼しつつ思う。昔はもう少しピリピリとしたしたものが感じられたものだが、今は余裕がおっとりとした印象となって現れている。水雷戦隊の指導についても海兵隊の訓練から、小学校教師を対象にした教育書まで読みあさって参考にしているようだ。神通は進み続けている、自分はどうなのだろうと思いつつ長門が手を下ろすと、一拍おいて神通も手を下ろし、きびきびとした動作で駆逐艦娘の後ろに続いた。

 長門が桟橋まで出ると、エンタープライズ、POW、大和らが既に集まっていた。何も言わずに長門に並び、あるいは続くようにして主力艦隊の面々は飛行艇に向かう。

 

 

「長門さん?」

「私だが」

 飛行艇の中で長門に声を掛けたのは金髪で筋肉質の白人だった。手にしていた地図を一部分だけ器用に広げて、長門に見せる。

「先行している無人偵察機との通信が途絶しました。連中、予想よりかなり手前に警戒陣を敷いていたようです。直ちに着水しないと撃墜される恐れがあります」

 男は手際よく長門達を下ろす地点を説明した。

「私は生まれも育ちも布哇です。いつの間にかこんなに日本語が上手くなってしまいましたが・・・。故郷のこと、お願いします」

「分かった。任せてくれ」

 他に言うべきことはなかった。 

 

 飛行艇が着水する。時速100キロというゆっくりとした着水速度のため、衝撃は思ったほどではなかった。ハッチを開いて艦娘達が次々と飛び出してゆく。こういうとき艦娘は便利だな、と長門は思う。艦だったら隊形を整えるのにどれだけ時間がかかることか

 すでに陽炎と夕雲が指示を出し、駆逐艦を中心として対潜・対空の警戒網を敷いている。暁も進行方向に向けて飛び出していき、前方の索敵を図っている。

「こちら陽炎。敵影なし。探信儀にも感なし」

「夕雲です。こちらも敵影なし。探信儀も感なし」

 報告を確認して、先ほどの男が飛行艇から声をかけた。

「深海棲艦とはすぐ会敵すると思います。当機は一旦避退した後、可能な限り機体を洗浄した上で離陸、帰還します。ご武運を!」

「そちらもな」

 するすると動き出した飛行艇に背を向けて、艦隊は動き出した。見送って時間を無駄にするよりも、すこしでも飛行艇から離れたところで迎撃したい。無人偵察機が消息を断った位置に向かって、東北東に進む。

「敵艦隊発見!」

 先行させた暁が、ほとんど進まないうちに報告した。距離を稼ごうと、欲を出して飛行艇に乗り続けていれば本当に撃墜されたかも知れない。

「敵艦隊に戦艦、空母らしきものなし。小型艦多数。水雷戦隊と認む」

「水雷戦隊、突撃する。我に続け」

 即座に反応した神通の声に駆逐艦達が応答し、増速して本隊からみるみる離れていき、新たな艦隊を形成する。先行していた暁も列に加わった。まるで一つの生き物のような艦隊運動だった。

「神通に任せよう」

 空母に向けて長門は言った。海が荒れ始めている。嵐がすぐそこまで来ていた。

 

 快速を生かして荒波の上を飛ぶように奔る水雷戦隊は、ぐんぐんと深海棲艦に近づいていく。人型や深海魚のようなグロテスクな敵の姿がはっきりと見えてくる。こちらに砲を向けているようだ。不意に、洋上に小さな火の玉が現れた。

「敵艦隊、発砲!」

 2番艦―ここでは神通の副官役だ―の陽炎が即座に報告する。発砲音が聞こえてくる。神通はまだ攻撃命令を出さない。

―ここで撃っても命中は期待出来ません。勿論敵も。

 遠くの方に水柱が上がった。ゆっくりと、音もなく空に伸びていくそれを、神通は苦笑しつつ確認した。

「敵弾、右舷後方遙か先に着弾」

 3番艦の夕雲の報告も苦笑交じりだ。上手下手を論じる以前の段階だ。

「発砲待て。もうすこし距離を詰めます」

 確認の為もあって口に出したが、駆逐艦娘は砲塔を持ち上げてすらいなかっただろう。もともとこちらから砲撃を開始する距離でもなし、慌てて撃ち返すような状況でもない。

 

 深海棲艦が第二射を放ち、水柱が上がる。諸元を修正したようにはみえなかった。

「その気になれば、こちらが相手に触るまで当たらないで済むかも知れないですね」

「握手しに行くわけじゃないですから、贈り物を渡したらさっさと帰りましょう」

 陽炎が軽口を叩いて、神通もそれに応じた。緊張感がないかとも思うが、正直そこまで気を張り詰める必要性を感じなかった。深海棲艦の砲撃が繰り返され、照準は少しずつ正確になるが、まだ当たる気配はない。水雷戦隊は波間を疾走していく。敵艦隊が第三射を放った。

 ―はて

 神通が懸念したのは砲撃の速さだった。その間隔は神通が訓練した駆逐艦娘達よりも明らかに早い。全砲門を半分に分けて撃つ交互射撃ならば間隔が速いのもわかる。しかしそれを考慮したとしても、砲撃精度から練度を考えると計算が合わない。

 機器の能力ですね。神通は結論を出した。おそらく揚弾・装填機構が段違いなのだ。距離が近くなればなる程―言い方を変えれば下手でも当たるくらいになれば―、深海棲艦が圧倒的に有利になる。

「各艦、左砲撃戦」

「!? ひだりほーげきせん!」

 各艦の復唱が遅れた。敵の下手ぶりをみて、こんなに速く命令が出るとは予想していなかったのだろう。神通は密かにため息をつく。判断力にまだ改善の余地ありですね。他人のことは言えませんが。

 実艦だったころのコロンバンガラ海戦での奮闘ぶりが知られている神通だが、彼女自身はその戦いに忸怩たる想いを抱いている。彼女は二水戦の最精鋭、すなわち帝国海軍の水雷戦の最精鋭をその身に乗せて米海軍の矢面に立ち、沈んだ。二水戦のエキスパート達もほぼ全員が彼女と運命をともにした。

 臆病と言われても探照灯の照射を他艦に任せていれば貴重な海軍の財産を失わずにすんだのではないか。そもそも先頭に立つ嚮導艦に人材を集中させる必要は無かったのではないか。彼女は迷い、試行錯誤しながら駆逐艦娘を鍛え上げていった。その間戦術だけでなく、コーチングや青年心理の教科書まで読みあさりながら、如何に水雷戦隊を築き上げるかに心血を注いだ。それはかつての自らの行動、二水戦の指揮官の行動を否定的に見つめ直す作業でもあり、時として吐くほどに辛い作業ではあったが、神通は誰にも話したことがない。川内や那珂にも。それは「二水戦の神通」としての矜持であった。

 

「皆さん。敵の射撃は下手です。しかし射撃速度を思い出してください」

 一拍おいた。

「このまま近づけば練度が機械の性能にどんどん勝てなくなっていきます」

 神通は通信に載らないよう注意しながらも呟かずにはいられなかった。

「『人の練度対機械の性能』?昔聞いた構図ですね」

 私たちは結局その構図から抜け出せないのでしょうか。

「相手に有利になるなる前に決着をつけます。訓練の成果を見せてください」

「陽炎準備よし」

「夕雲準備よし」

 その他の駆逐艦からも次々に報告が上がる。妖精達が照準を計り、装填し、艦娘が発砲する瞬間を待つ。

 今までよりはかなり近いところに水柱が上がった。水上を駆ける足の裏に、蹴られたような衝撃が伝わってくる。

「撃ち方始め」

「うちぃかたぁ、はじめっ!」

 復唱と同時に各艦が発砲する。砲弾はかすかな尾を引いて海面に突っ込んでいく。敵艦の手前にほとんどの水柱が立つが、数本向こう側に立つ。初弾狭叉を出した艦があるらしい。戦闘中でありながら後ろを確認する深海棲艦が見える。かなり動揺している。前の砲撃の結果によって照準を修正するのだから、一度姿勢を崩してしまうと、同じように撃つのはかなり難しい。一度照準を定めた二水戦に対し劣勢を挽回することは不可能だ。必殺の魚雷を使うまでもなかった。

 

「敵艦隊撃滅しました」

 戻ってきた神通の報告を長門は受領した。駆逐艦達は艦隊の航行序列に戻っていく。

「了解した。早かったな」

「練度が低かったですね。機材は良かったのに」

 肩を並べるようにして話していたのに、長門が神通を見上げるように相対位置が変わり、今度は見下ろすようになっていった。波がかなり高くなってきた。お互いに髪が風で流れないよう手で押さえている。雨はまだ降り出していないが、すぐにでも大降りになりそうな空模様だった。

「すこしでも布哇に近づきたいな」

 長門は神通にそう言うと、進撃の指示を出した。だが、長門の願いはすぐに裏切られた。帰還途上の索敵機が大型艦を複数含む艦隊を発見したのだった。

 

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