布哇救出作戦   作:フォカッチャ

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かなり遅くなってしまいました。全隊のストーリーはできあがってるんですが難しいですね。
感想・評価いただければ本当に嬉しいです。



対峙

 長門の周囲にはエンタープライズやPOW、大和などが集まっていた。赤城は空母部隊で帰還してきた索敵機の着艦を指揮しているが、作業は難航しているようだ。空母の周辺を駆逐艦たちが走り回っているのが長門からも見て取れる。着艦作業が終わった艦から赤城に報告している。ちなみにエンタープライズは索敵機を搭載して居らず、長門のところにいた。

 深海棲艦の部隊とまもなく砲火を交えるという状態において、額を寄せ合うように集まっているのは事情がある。索敵機の情報を確認しないことには、うかつに戦闘に入ることもできない。普段なら隊内無線ですむのだが、今はほとんど機能していない。間近に稲光が走ったときには強烈な雑音が入り、長門すら耐えかねて電源を切ってしまった。

「ショーカクやソーデューたちが戻っていくわね」

 エンタープライズが呟き、POWがそれに応ずる。

「ソウリュウの所属機が最後に帰還したようだったな」

 報告を終えたらしい二人が定位置に戻り始めるのと同時に赤城がこちらにむかってくる。流石と言うべきか、横波を受けながらも進路がぶれることがない。赤城を見やる長門の耳に、エンタープライズとPOWの会話が入ってきた。 

「あんた、ソーデューのデューってどう発音してるの?」

「うむ、我流だがどうも舌を前にはじくのではなく、後ろに巻くようにするとそれらしく聞こえるようだな。所詮我々にとっては外国語だし、すぐに発音できないのは仕方あるまい」

「そうね。ありがと」

 普通の会話だったことにややほっとしながら、長門は赤城が近づいてくるのを待った。赤城の袴が突風にばたばたと音を立てるのが聞こえる。長門の電探もうなりを上げて震えているが、電探はともかく袴があそこまで風を受けては、まっすぐ立っているだけでもつらかろうに。

「全偵察機の報告をまとめました。前方に視認している艦隊を除き、索敵範囲内に敵影なし。それと、偵察機に損害が出ました。着水に2機、着艦に1機が失敗。妖精さんたちは全て回収済みです」

 長門は黙って赤城の顔を見つめ、続きを促した。

「各艦、航空甲板に損傷はありません」

 長門は一つうなずいて

「それは不幸中の幸いだった。とはいえ、この天候ではな」

「甲板が無事でも航空機は飛ばせないですね。妖精さんからも報告がありました。翔鶴さんの機が一番布哇に近づきましたが、どこまで飛んでも酷い嵐で、我々の周りが一番穏やかなくらい。全機母艦にたどり着けただけでも天佑神助の賜物だと」

 主力として期待した航空隊が無力化されたのは痛い。だが天候は誰に対しても公平だ。水上砲戦での決戦になるだろう。それはそれで戦艦の本懐であるが……。長門は進行方向の水平線あたりを見やった。深海棲艦は、無数の大波を越えた向こうに見え隠れしているが、ごま粒にしか見えない。こちらも可能な限りの速力で向かっているはずだが、思うように距離が縮まっていない。長門の視線を追いながら、赤城とPOWが言葉を交わす。

「先鋒があっという間にやられて、怖じ気つきましたかね」

「思うに水雷戦隊と水上砲戦部隊で同時攻撃をかけるつもりだったのではないかな。計画が崩壊してしまったから、単独で攻めて良いものか考えがまとまらない」

「水雷戦隊が逸りすぎたのでしょうか。もう少し待てば同時に攻撃をかけられたのに」

「兵力の逐次投入は愚策でしかないからな、狙ってやったとは思えんが・・」

 彼女たちも敵艦隊の意図を図りかねているようだ。

「なんて煮え切らない人たちなんでしょう」

 神通が一言感想を述べて、長門は思わず振り向いた。ついさっきまで水雷戦隊をまとめて待機させていたのだが、いつの間に側に来たのだろう。

「戦闘部隊が敵を目の前にして躊躇するなど」

「そう言うな、ジンツウ。貴隊の責任でもあるのだぞ。綿密に建てられたであろう作戦計画が、ニスイセンの余りの強さに一瞬で瓦解してしまったのだからな」

 苦笑しながらPOWが窘める。神通は普段通りの凜々しさと上品さを兼ね備えた態度であるが、心底憤ってもいるようだ。

「長門さん、意見具申します。再度水雷部隊を先行させて彼の行動を拘束すべきです」

 優速部隊によって敵の後退路を塞ぎ、場合によっては戦闘を行う間に、戦艦主力の部隊が追いついて殲滅する。簡単に言えばそのようなイメージである。

「意見具申感謝する。現状取り得る最善の策だと思う」

「ありがとうございます。それでは」

「待て」

 身を翻そうとする神通を、長門が呼び止めた

「この大嵐の中での単独行は負担が大きすぎる。少しずつではあるが彼我の距離は縮まっていることだし、もう少し待った方がいい」

 長門としては水雷戦隊の疲労や補給を心配せざるを得ないし、今は逃してもしょうがないと考えている。無論、各個撃破できるのであればそれに越したことはないが。

「弓は引き絞った方が強い矢が打てる。長門の言うことにも一理あるかな」

POWも口添えする。一理あるという持って回った言い方をしているが、すぐ突撃することには反対なようだ。

「ねえジンツー、貴女出撃前に海兵隊の訓練(ドリル)みたいなことやってたわね」

エンタープライズが話しかけた。神通を引き留めるつもりらしい。

「ええ、色々勉強していく内に取り入れました」

 逸る神通もさすがに無視はできず、きちんと答える。

「じゃあの新兵教育プログラムなんかも取り入れているの」

 エンタープライズしてみればただの時間稼ぎで、意味のある質問ではなかったのかも知れないが、神通は少し答えにくそうに考え込んだ。

「いえ、主な部分は取り入れていません。海兵隊の訓練は生身の人間をして弾雨に飛び込ませるためのものですから」

 銃弾や弾片一つが十分に致命傷になる人間は、恐怖を麻痺させる、ある意味では人間性を捨て去る訓練が最適なのかも知れない。しかし艦娘という存在は違う。砲弾が一発当たったからといって手足がちぎれ飛ぶこともないし、銃弾が通り過ぎる時の、脂身をフライパンで転がすよう音に恐慌を来すこともない。ならばそんな訓練をする必要はないのではないか、そのようなことを神通は一つずつ語った。そして少し語りすぎたと思ったのかもしれない。かすかに顔を赤らめて一言でまとめた。

「例えば、ですね。うちの暁さんが『微笑みデブ』のような目をし始めたらどうでしょう?私はそんなものを見たくないのです」

「微笑みデブ?」

 いきなり出てきた単語にエンタープライズは面食らったようだが、長門も赤城もPOWも、かすかな笑みを浮かべてうなずいた。「微笑みデブ」は映画の登場人物だ。不器用で失敗が多く本名すら呼んでもらえない新兵だったが、狙撃兵としての能力を開花させていくとともに、人間性をすり減らしていく。

 軍人としての長門は、その映画は好きではない。存在を否定されたように感じるからだ。軍人とは人間性と正反対の位置に立たざるを得ないことも理解しているが、それでも哀しすぎる描き方であるように思ったのだ。だからこそ、その方向性を選ばなかった神通に長門は共感した。赤城もPOWも同じ思いなのだろう。しかし、あの映画をPOWに誰が見せたのか。

「おや、その暁さんが」

 照れ隠しからか、よそ見をしていた神通がそう呟いた。先ほど自分がやってきた方向に目をやっている。長門も同じ方向に視線を向けると、暁がこちらに向かって来ている。大波によろけそうになり、波間に隠れた後は、流されて全然違う場所から姿を現す。赤城よりも遙かに苦労しながらも長門の元にたどり着き、長門に向かって声を張り上げた

「長門さん、神通さん、各駆逐隊より意見具申!『突撃命令マダナリヤ』!」

 長門は暁の顔を覗き込み、きらきらとした瞳を確かめたとき、顔が綻ぶのを抑えられなかった。艦娘は人間ではないのかもしれないが、非人間的な存在ではない。そう確信することができたのだ。

「何!?どうしたの!?レディーの顔をまじまじと見るなんてマナー違反よ!」

 暁が両腕で体を抱えるようにしながら長門から後ずさる。もちろん、部隊全体としては嵐の中を前進し続けている。

「え、私なんか間違っちゃった・・・・・・?」

 はっきりと涙目になる暁にPOWが声をかけた。

「心配することはない、アカツキ。貴女は立派なレディーだ。私が保証する」

「ほんと?」

「本当だとも。この私の名誉にかけて保証する」

 胸に手を当てて礼をするPOWに対して、暁が首を傾げた。

「じゃあ、なんで長門さんは私をじろじろ見たの?」

「簡単なことだ。ナガトはアカツキのことが大好きだからさ」

 冗談めかした言葉に、暁は瞬間移動したのかという勢いで、先ほどの数倍の距離を後ずさった。

「ちょっと長門さん!気持ちは嬉しいけど、でも、その、ええと、困るの!!」

「待て!勘違いするな!!そういう話じゃない!!」

「ナガトの言うとおりよ、アカツキ。私もあなたのことが大好きなんだから」

 エンタープライズが膝まづくようにして-前に進みながらどうやってそんな器用なことができるのか、長門には目の前で見ていても分らなかったが-暁を抱きしめた。

「私もナガトも、ヤマトもPOWも、みいんな貴女のことが、だあいすき。貴女のきれいな目は、みんなの希望なんだから」

 母親がぐずる娘をあやすようだったが、暁は平静を取り戻したらしい。

「そ、そう!?私はみんなの希望なのね!当然よ!レディーなんだから!」

 胸を張った暁に、皆がうなずいた。彼女たちには笑顔でいてもらいたい。艦娘は人間ではないのかもしれないが、人間的でない目をする必要はない。それはその場にいた「大人」たちの総意だったろう。

 

「すまないな、あんな勘違いをするとは思わなかった」

「パブリックスクールの文化に浸っているあなたが、それに気づかなかったのかしらね」

 暁を見送った後、本当にすまなさそうに謝罪したPOWにエンタープライズが疑わしげな眼を向ける。英国のパブリックスクールでの同性愛は、幾度も創作の題材になっている。

「私自身がパブリックスクールに通ったわけではないからなあ。今回は信じてくれ。本当に予想していなかった反応なのだ」

「『今回は』……?」

「信じよう。そもそもこの状況では些細なことだ」

 細かいところに反応したエンタープライズを抑えるように長門が言った。敵に向かって進んでいる状況でこんなやり取りをしているのは、あまりにも気が緩んでいるのではないかと危惧したのだった。無駄話をしている間に彼我の距離が急速縮まってきていた。

「神通と暁の具申通り、水雷戦隊が牽制しつつ、水上砲戦に持ちこむ。空母部隊は後方に下がって待機せよ」

「空母部隊、後方に下がり待機します」

 赤城が復唱し、エンタープライズとともに空母部隊に戻りながら手振りで指示を下すと、空母達が隊型を整えつつ、速度を落として距離を取り始める。まるでパズルが組み替えられていくようで、即席部隊とは思えないほどに統制の取れた動きだった。

 神通も敬礼をして水雷戦隊にもどりつつ、右手を大きく左上に払う。それだけで神通の意図を察した駆逐艦たちの歓声が、咆哮する嵐の中でもかすかに聞こえてきた。

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