人の造った戦士   作:望夢

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色々とアレなのはメカっぽいライダーで悩んだ結果あんな感じになりました。装着するままでもよかったんでしょうけど折角だし変身させたかった。


人の造った戦士8

 

 杉田が捜査官を連れて渋谷区の捜索を行うことになった中。一条は単独で品川区の捜索に当たった。

 

 B1号が相手ならば複数の捜査官で探すよりも、単独であることで向こうからの接触を一条は期待する形で品川区に向かった。

 

 13年前。あの雨の中でも何かを言い残すように呟いて海中に没した彼女が常々言っていた言葉が鮮明に甦っていた。

 

 リントは我等と等しくなるだろうという言葉。

 

 彼等が言うリントは古代文明の人間と現代に生きる人間を指して言われる。総じて人間という意味だった。

 

 人間が未確認生命体と等しくなる。そんなことはないと一条はこの13年の間思い続けていた。

 

 だが海に落ちる前、B1号が一条に向かって呟いた言葉。それは彼らの言葉であり、一条には理解できない言語だった。それでも一条はこの13年間頭の片隅でいつもその言葉の意味を模索していた。考えても答えが出るはずもないのに。

 

 しかし一条はその答えをもしかしたら得られるかもしれない機会に巡り会えたことでひとつの不安が確信に近い思いを抱いてしまった。

 

 まだゲームは終わらない。自分は決して死なない。

 

 あの時、彼女はそう言い残したのではないかと。

 

 何故九条に接触したのかはわからないが、次は必ず仕留めなければならないと心に誓う。これ以上未確認生命体をのさばらせるわけにはいかない。ひとりの笑顔を犠牲にしてまで勝ち取ってくれた平和を壊さないためにも。

 

 一条は品川区で九条が辿った道を遡る形で歩を進めた。品川駅の周辺を探し歩いたものの、B1号についての手懸かりは掴めなかった。

 

 そして九条の足取りを追い、辿り着いたのはナカケンバルブ製造所だった。

 

 ここで九条はB1号を目撃したという情報を得て捜査をしていた。

 

 車から降りる前にコルトパイソンに納められた弾丸を確認する。杉田と分ける形になったので神経断裂弾は3発しかない。それが充分に思えないのは四十六号に対しては効果がなかったこととB1号が今も生きているとわかってしまったからだろう。

 

 数少ない未確認生命体に通用する武器だ。この3発の弾丸に命を預けるしかない。

 

 車から降りて一条は寂れた倉庫が立ち並ぶ道を歩いた。

 

 ナカケンバルブには別件で目を付けるから警戒させるなと杉田から言伝てをされていた一条はナカケンバルブの事務所からは見えない位置に車を止めて、ナカケンバルブの人間とは接触しない様なルートを地図で確認しながら歩いた。

 

 とはいえ九条が一度調べている道取りを辿るだけではなにも掴めないだろう。そう思っていた一条の視界にふと白い何かが目に止まった。

 

「バラの花びら……?」

 

 駆け寄って地面から拾い上げたのは白いバラの花びらだった。

 

 無意識にコルトパイソンを抜いて警戒を一気に高める。辺りを見渡しても白いバラが咲いているような場所はない。そして今まで歩いた道にしてもだ。

 

 ならば何処からか飛ばされてきたと考えるものだが、それにしては花びらが綺麗すぎる。まるでたった今花から落ちたような、それでいて枯れて落ちたとは思えない不自然さもある。

 

「居るのか? 近くに……」

 

 こうなにかと鉢合わせると因縁を通り越して宿縁めいた物さえ感じるが。彼方からの誘いであるのならば、それに今は敢えて乗るだけだと一条は花びらが落ちていた先を見つめる。フェンスで囲われている私有地だろうか。奥には廃れて久しい工場が見える。

 

 敷地に入れる様にフェンスのドアがあり、鍵は掛かっていない。

 

 あの時の答えを知るために、そしてもう二度とゲーム等というふざけた理由で人の命を奪わせない為に、一条は工場の敷地内へと入っていった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 城南大学から九条は品川区へと向かっていた。

 

「うぇ!? 一条さんに話しちゃったんですか!」

 

 ∑(0w0;)<ウェ!? という感じの顔を浮かべながら、九条は無線で繋がっている杉田に言い返した。

 

『遅かれ早かれバレてたからな。それにB1号を探すなら一条が適任だしな』

 

「それでも一条さんは!」

 

『心配すんなよ。お前が思ってるほど、一条は柔な男じゃねえよ』

 

「そういう問題じゃないですよ!」

 

 九条が一条に対して未確認生命体合同捜査本部の存在を黙っていたのは個人的な思いでしかなかった。

 

 未確認生命体関連事件やその他多くの資料に目を通してきた九条だからこそ、単独でことあるごとに未確認生命体と戦っている一条の身を案じての事だった。あれから13年。身体だって無茶が利かないだろうし、骨を折れば回復に時間はかかるだろうし、なにより次は命を落とすかもしれない。

 

 九条にとって一条という男は最も世話になり、そして父親代わりでもあった。

 

 笑顔に対するトラウマを抱えてしまった自分を引き取り、そのトラウマを克復させようと色々な人と出逢わせてくれた。自分が未確認生命体対策班に所属する事を目指したのもこの時に五代さんが第四号であることを知ったからというのもあった。

 

 みんながするサムズアップ。それはあの夜、第零号から助けてくれた金の黒の四号が自分を落ち着けるためにしてくれた物だった。

 

『生きていてくれてありがとう。もう大丈夫だから』

 

 そう言いながらサムズアップして、第零号に挑んでいった背中は今でも鮮明に思い出せる。

 

 そして資料を見る限り第零号との決着をつける前に自分に五代さんは会いに来てくれた。でもそんな五代さんに酷いことをしてしまった。そしてその後に五代さんは長い旅に出て音信不通。

 

 だからというわけじゃないけれど、五代さんの様ににみんなの笑顔を守れる男になりたかったから警察官になって、未確認生命体対策班に所属した。

 

 話が逸れてしまったが、一条の父親もまた警察官であり、人を助けるために殉職したことも一条の母から聞いている九条からすれば、再び現れた未確認生命体B1号に必ず一条は関わろうとすることはわかっていたからこそ、出来るだけ関わらせたくなかったという事だった。

 

 法廷速度をほんの少しオーバーして出来るだけ速く一条のもとに急ぐ。イヤな予感がする。無事でいて欲しいと強く願い、九条はバイクを走らせた。

 

 品川区に到着した九条は真っ先にナカケンバルブのある工業地帯へと向かった。品川駅の方も考えたものの、最初にB1号が目撃された所を調べるだろうと当たりをつけて九条は全速力で向かう。

 

 途中で一条が乗ってきただろう車を見つける。

 

 ナカケンバルブには余り刺激するなと杉田から言われているだろうと思い、必然的に人と会わないルートを探すだろうと一条の行動を予測する。

 

 捜査の実地を叩き込んだのが杉田なら、捜査に対する考え方を叩き込んだのは一条だ。一条ならこうするだろうというルートを九条は辿っていく。

 

 そしてフェンスの開かれたドアが目についた。踏まれている雑草のあとがまだ新しい。

 

 パスワードを新しく「5066」と入力すると、バイクのフロント部分にクワガタの角の様な物が迫り出してくる。

 

 そのままアクセル全開。ドアを無理矢理こじ開けて工場内に侵入する九条の耳に銃声が響く。

 

「一条さん……!」

 

 聞き慣れたコルトパイソンの銃声は間違いなく一条の物だろう。九条は急いだ。一条の無事を願って。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 工場の中を警戒しながら進む一条。その足は寄り道する事はなく真っ直ぐに工業内を進んでいく。一条を導くように微かにだが空気に甘い香りが混ざっているのだ。工業用品か薬品の匂いとは違う花の香りが。

 

 そしてその香りが途絶えたとき、咽かえる様な甘い香りと白いバラの花びらが一条を襲い、そして気づけば視線の先に探していた女の姿を見つけた。

 

「B1号…!」

 

 そう呟く一条に対して、彼女はあの頃と変わらぬ冷たく感情の読めない視線を一条に向けていた。その表情が少しだけ昔を懐かしむ様な顔になったような気もした。

 

「今度は何を企んでいる! またゲームを始めようというのか!!」

 

 コルトパイソンを構える一条に対して、B1号は変わらずに物怖じせずに対面するだけだった。

 

「ゲリザギバスゲゲルは終わってはいない。だが目覚めの時は近い」

 

「目覚め? どういう事だ。なにが目覚める!」

 

「リントの戦士は、やがて究極の闇と等しくなるだろう」

 

「なんだと!?」

 

 彼等の言うリントの戦士とは警察官などが挙げられる。そして究極の闇とは第零号や黒の四本角のクウガの事だ。

 

 警察官がそんな存在になるというB1号の言葉を一条はそのままの意味で捉えるほどではないが、逆に彼女のいうリントの戦士の意味が予想がつかなくなってしまう。

 

「力を手にしたリントがどうなるのか、見物だな」

 

「待て!」

 

 踵を返して立ち去ろうとするB1号に向けて一条はコルトパイソンのハンマーを起こす。

 

 狙いを足に定める一条の研ぎ澄まされた感覚が殺気を捉えたのと同時に飛び退くと、目の前を人影が通り過ぎた。

 

「っ、第一号…!」

 

「ボギヅパボソギデギギボバ」

 

「好きにしろ」

 

 何かをB1号に向かって話す第一号だったが、一条にはその言葉の意味はわからなかった。

 

 去っていくB1号を追い掛ける為に動こうとする一条だが、その行く手を第一号に邪魔される。

 

「くっ」

 

 先ずは第一号から排除しようとコルトパイソンの銃口を第一号に向けて引き金を引いた。

 

 だが第一号は銃声の瞬間にジャンプして銃弾から逃れた。

 

「ゴンデパブパンゾ」

 

「避けた…」

 

 貴重な神経断裂弾を使ってしまったが、態々此方の銃弾を避けた行動に一条は驚いた。

 

「フン!」

 

「な、くそ…っ」

 

 第一号が口から糸を出してコルトパイソンに絡みつかせる。そして人には抗えない力で唯一の武器を取り上げられる。そして第一号は取り上げたコルトパイソンの銃身をその怪力で折り曲げて使えなくした。

 

 一条は確信する。この第一号は銃に対して危険だという危機感を持っている。

 

 武器を無くしても一条はただ逃げることはしない。どうにか隙を突き、そして応援を呼ぶ。ただでやられてやるつもりはない一条は最後まで諦めずに期を窺う。

 

「ボンバダンバシザ」

 

 第一号が口から糸を吐き、一条の首を絡めようとするが、それを見抜いた一条は糸を避けて踵を返す。工場内とあって打ち捨てられた工作機械も多い。

 

 それらを盾に一条は第一号から逃げる。

 

 だが第一号はスパイダーマンよろしく鉄骨の梁などに糸を絡めてぶら下がりながらターザンの様に空中から一条を追う。こうなると工作機械を避けなければならない一条の方が速さとしては不利な側になってしまう。

 

「ボボラゼザ」

 

「っ、うわっ」

 

 一条の前に着地した第一号は、一条の胸元を掴み放り投げた。

 

「がっ。かはっ」

 

 受け身を取る様な余裕もなく一条は背中から地面に叩き付けられた。

 

「ギベ!」

 

 そんな一条を上から腕の爪で突き刺そうと第一号が襲い掛かる。痛みで悶えている暇などなく避けようとする一条だが、一拍避けるのが間に合わないとわかってしまう。

 

 万事休すかと思った一条の耳にけたたましくバイクのエンジン音が響く。痛みで視点の合わない視線で見えたそのバイクは黒と金の色合いをしていた。

 

「五代……」

 

 そしてバイクは一条に飛び掛かる第一号に対してジャンプしながら体当たりをして吹き飛ばし、一条の横に着地した。

 

「一条さん!」

 

「九条くん…」

 

 バイクから降りてヘルメットを外したのは一条が思い描いていた男とは別のまだ年若い青年だった。まだ垢抜けしていない未熟さを感じさせる青年の手に引かれて一条は立ち上がった。

 

「だから伝えたくなかったんですよ」

 

「それよりも気をつけるんだ九条くん。あの第一号は武器を奪うぞ」

 

「はい。でも、自分の武器は奪えませんから!」

 

 心配する一条を余所に、九条はぎこちない笑みを浮かべながらもサムズアップを一条に送った。その光景に何故か一条は13年前にも感じたある種の不安を感じていた。

 

「だからあとは任せてください」

 

「九条くん! っあ゛」

 

 九条を引き留めようとする一条だったが、腕を伸ばしただけでも身体が痛みに悲鳴を上げた。

 

 そして九条はバイクの後部ボックスからアタッシュケースを取り出し、その中に納められていた銀のベルトを腰に装着した。

 

 そのベルトを腰に巻き付けた後ろ姿という光景は幾度も見てきた背中と被った。そして九条が一度だけ一条に振り向いて口を開いた。

 

「見ていてください。僕の変身…!」

 

 そう覚悟を決めた様に九条は前を向いて携帯を取り出し、折り畳まれたそれを開き「360」の番号を打ち込み三度の電子音が鳴ると、「ENTER」と書かれたボタンを押した。

 

 ――Standing by

 

「変……身ッ!!」

 

 番号を打ち込んだ携帯を閉じ、ベルトのバックルに縦に挿し込み横に倒す。

 

 ――Complete

 

 その電子音共に九条の身体に沿って、ベルトから金色の光の線が走る。

 

 そして足下から稲妻を発してその姿を変えて行った。

 

 金色の縁に蒼い機械質の鎧を全身に纏うその姿は一瞬金の青のクウガを彷彿させた。

 

「ゴラゲパ、クウガ!?」

 

「違う。クウガじゃない」

 

 姿を変えた九条はそう第一号に返しながらゆっくりと歩み寄る。

 

「それでも、笑顔を守るために戦いたいと思った人間だ!」

 

「ポシャブバ!」

 

 第一号の拳に、九条は一歩も退かずに耐えた。その姿に紫のクウガの様だと一条は思った。

 

「バンザド!?」

 

 全く攻撃の効いていない様子に焦る様な言葉を第一号は発した。

 

 籠手に金色で戦士の文字が彫り込まれている拳を握り、そのパンチで第一号を殴り飛ばした。

 

「バ、バンザ、ボンヂバサパ…!」

 

 拳でダメならば爪を伸ばして殴り掛かってきた第一号を、やはり正面から受け止め、その衝撃で逆に第一号の爪がへし折れてしまった。

 

「うおおりゃああ!!」

 

 再び九条の拳が強かに第一号を殴り飛ばした。

 

「氷川さん!」

 

『許可します。九条くん、思いっきりやってください』

 

「了解!」

 

 通信で繋がっている氷川に許可を貰った九条はベルトのバックルに挿し込まれた携帯を開き、「ENTER」を押した。

 

 ――Exceed Charge

 

 ベルトから身体に沿って走る金色の線を光が迸り、右足に集中し、稲妻を発していく。

 

 その稲妻を、やはり一条は13年前に見てきた物だった。

 

「まさか。金の力なのか!?」

 

 金の力で倒された未確認生命体は凄まじい爆発を引き起こす。それを九条が知らないわけがない。だが九条を信じてその戦いを目に焼き付ける事が自分のやるべき事だと、一条は逃げることをしなかった。

 

 走り出す九条の右脚に稲妻が集中していく。

 

「ギベスロボバ!」

 

 走る九条に向けて第一号は口から糸を吐くがそれを九条はジャンプして避けた。

 

 飛び上がった九条と第一号の間に戦士の文字の紋様が現れ、その中を九条が突き抜ける。

 

「はああああああ!!!!」

 

 紋様を突き抜けた時に追加された炎と稲妻を纏った蹴りが第一号に突き刺さる。

 

 着地する九条と、蹴りの威力で大きく吹き飛んだ第一号がよろめきながら立ち上がる。

 

 その胸には戦士クウガの紋様が浮かんでいた。

 

「ダ、ダババ、ビガラゴドビビ…、クウガァァァァァ!!!!」

 

 紋様から溢れた稲妻が第一号のベルトを砕き、そして爆破を起こして粉々に吹き飛んだ。

 

「すぅ……ハァァァァァ…………」

 

 大きく深呼吸をして立ち上がった九条は一条に振り返り、そしてサムズアップを贈る。

 

 蒼い機械の鎧を見に纏った九条が人の姿に戻る。

 

 訊きたいことは山ほどあったが、それよりも一条は九条へとサムズアップを返した。

 

 そんな二人の姿を静かに夕陽が照らしていた。

 

 

 

 

to be continued…

 

  


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