SPEAR AND SHIELD   作:べいあん

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001 プロローグ

轟 槍一とは、ごく普通の男子高校生である。

特別頭の出来が良い訳でも無く、他人から褒められる程の〝何か〟がある訳でも無い。他とは違う特徴を強いて挙げるとするなら、彼の極端な飽き性だろう。多少なりとも彼自身は、その分野において充分やっていけるだけのセンス自体は持ち得ているのだ。しかし、飽き性ゆえに彼はその競技で大成、或いは自らの才能が開花し始める頃には「この競技には向いていない」、と断じる。

そしてまた、違う〝何か〟へ手を付けるのだ。その〝何か〟へのキッカケは漫画、テレビ、友人からの勧誘、等といたって何ら変哲も無い物なのだけれど。

 

そしてもう一つ。彼は一度手を付け、自ら投げ出した物へは二度と手は出さないきらいがある。サッカー、バスケットボール、バレー、水泳、多岐に渡るスポーツを既に経験した。正邦高校へ入学し、それ等に続く次の何かを捜す、はずだったのだが。

 

 

 

轟 槍一は現在、正邦高校バスケットボール部に新入部員として在籍している。

 

 

 

何故、そんな飽き性な彼が正邦高校のバスケ部からの勧誘に(半ば強引で)応えたのだろうか。それには、そもそもの諸悪の根源たる彼。嬉々として練習に臨んでいる隣の〝くそハゲ〟の所業から、まずは説明せねばなるまい。

 

 

 

正邦高校では、入学式を終えた次の日の放課後から新入生の部活動勧誘が始まる。

 

元々、何がしたくてこの高校に入学したという理由は無い (理由のある生徒が少ないだろう) 轟は、何という事も無く自らに合う部活動を探しつつ、入りたてで馴れない校舎の散策を始めた。

 

「 なーんか、いい部活が見つかればいいけど。……っと、ゴメンな。 」

 

前を見てなかった轟は、走っていたとある男子生徒と肩が当たった。

 

「 ってて。…あ、ワリーな!怪我は無いみたいだし…ごめんオレ、急いでっから!!」

 

髪型が特徴的、今時の高校生には珍しい五厘刈りの生徒は一言だけ謝ると、そのまま人混みを避けつつ校舎の裏へと足早に駆けていく。……本当に急ぎの用だったようだ。気を取り直し、散策の続きをーーーーふとその時、脚元に落ちていた見覚えの無い生徒手帳に気づく。先程の彼が落とした物だろうか、名前はーーー。

 

「 …津川智紀、ねえ。」

 

生徒にとって欠かせない物だ。見て見ぬふりをする訳には行くまい、彼が向かった後を追う様に校舎裏へと足を運んだ。

 

向かった先には大きな体育館があった。掛け声、シューズのきゅ、きゅ、と小気味が良く、耳触りの良い音が少し離れた此処からでも聞こえる。

先程ぶつかった彼は此処にいるのだろうか。更に近付き、厚い扉の隙間から顔を覗かせて中の様子を伺う。

 

「 う、わぁ。思ってたよりも凄いなコレ。…確かウチのバスケ部って結構強いんだっけ。」

 

「 おい、ウチへの入部希望者か? 」

 

掛けられた声に振り返れば、思わず息を呑む。自分より遥かに体格の良く、強面の男がいた。

ともあれ入部希望では無いのと、落とし物を届けに来たのだ、という旨を説明せねばなるまい。彼に粗方の事情を説明すると、思わぬ答えが帰ってきた。どうやら先程ぶつかった津川という男、中学ではそこそこ名の知れたプレイヤーだったらしい。

 

 

「 へぇ、彼はバスケをしていたんですね。てっきり野球か何かかと。あ、だったらコレ。渡して頂けませんか? 」

 

「 フ、あの頭じゃ無理もないだろう。…構わん、が。………なぁ、お前。既に入る部活は決まったのか? 良いガタイをしているし、お前ならウチでも上手くやれるはずーーーー悪い、言い忘れていた。俺は正邦のバスケ部で主将をしている、岩村だ。まだ決まっていないなら、お前もアイツと一緒にウチを覗いて行くと良い。」

 

嬉しい言葉ではあるのだが、その競技において経験の薄い己が強豪校のハードな練習に付いて行ける筈も無い。その上、強豪ともなれば休日も間違いなく減る。僅かなれど期待していた華の高校生活も部活一色に染め上げられる事になるだろう。……まぁ、一番の理由はとうにバスケットボールなぞ飽いている、がソレなのだが。自分が見学した所で冷やかしにしかならない、悩む余地すらなく断りを入れる事にした。

 

「 お気持ちは嬉しいんですけど、オレはーーーー「 あれ!?さっきの人じゃん、君もバスケ部だったの!? 」 ーーッつ〜、 」

 

言葉は途中で遮られ、耳元でキンキンと喚かれた。津川は横槍を入れておきながら話も聞かないので、負けじと轟も彼に合わせて声を張る。

 

「 ……な、オレは入る気なんざ更々ないって!!お前が学生証を落としてたからわざわざ届けに来ただけだ! 」

 

津川はその言葉を聞くと、僅かに眼を見開いた。

 

「 助かったー!失くしたと思って、練習に参加出来ないって焦ってた所だったんだ。わざわざ来てくれたのか、ありがとな。………… だが、まあ!!それはそれとして!!…今、ゲームの人手が足りてないんだ。もう少ししたら先輩方と試合するんだけど、ベンチの交代含めたら如何にも人数が心もとなくて。何かの縁だし、参加だけでもしてみてくれない?人助けと思ってさ!! 」

 

「 いや、今しがた人助けした所なんだが。オレ。」

 

すかさずツッコミを一つ。どうにか轟を引き込もうとする彼の様子に見かねたのか、岩村が津川ヘ助け船を出した。

 

「 ……あ〜、轟だったか?人数足りてない訳だし、要は歓迎会みたいな物だから勝ち負けは関係ない。お前が仮に未経験でも笑う奴は居ないだろう。事実、一人増えるだけで大きく負担が減る競技だ。何か用事でも無いなら参加してみないか? 」

 

ウ、と詰まる轟。二対一、それも見ず知らずとはいえ、先輩にあたる人の誘いを二度も三度も無碍に突っぱねる程、非情な訳でもない。渋々と首を縦に振った。

 

「 …………分かりました。体操服なら、授業で使ったのでそれに今から着替えて来ます。」

 

「 やっりぃ!!岩村先輩!部員ゲットしましたよ!! 」

 

「 お前はもう黙ってろ津川!!さっさと準備運動して来い! 」

 

向かう更衣室の道中にて、何やら自分が不本意な認識をされている会話を耳にしたが、聞かなかった事にした轟であった。

 

と、いった思わぬ経緯を経て、轟は試合に臨む事となる。相手は先程の岩村先輩を含めて、五人。バスケットボールという競技はサッカーとは違い、五人しか一度に出れない。故に轟は自分が試合に出るのは数分で済むはず、と踏んでいたのだがーーーー。

不可解な疑問が一つ。相手側のベンチには何人か控えの選手が座っているのだが、此方には一人しか居ない。訝しげに思いながら、横にいる津川に訊ねた。

 

「 なぁ、津川。さっき言ってた話と違うんだが……。他の控えは何処に居るんだ? 」

 

「 あー、その。あの。居るんだよ。ほら、よく見てみろ?眼には見えない程影がうすーい奴が五人くらいさ。」

 

太腿を抓った。

 

「 痛っ!?!?ごめん!!何か皆、今日は外せない用事があるみたいでさ!!残ったのは五人だけー……あはは。」

その言葉に瞬きを二、三度。そして轟は津川の嘘に乗っかっていた岩村を半目で睨んだ。

 

「 ハハハ、悪い。じゃないとお前は断るつもりだっただろう。ま、お詫びに後で何か奢ってやるよ。」

 

調子の良い様子の彼に憮然とした表情を浮かべたままの轟だったが、もう観念した様だ。適当に準備運動を済ませると、指定された立ち位置につく。

 

コート脇に座る監督とおぼわしき男が声を掛けた。

 

「 試合の審判をする、監督の松本だ。アー、新一年生の諸君。別に変に気負わんで良いから、今日はキミらの先輩達とのバスケットボールを楽しんでくれ。それじゃあ岩村、俺は見てるから後は頼むわ。」

 

「 …分かりました。では、今から二、三年対一年の試合を始める!礼!! 」

 

厳粛な声と共に、互いに礼を一つ。目の前に立つ選手と握手を終えた後、自陣へ戻る。此処は一番の経験者である津川の指示を仰ぐのが一番だろう、轟を含めた他の四人は直ぐに出すであろう彼の指示を待った。

 

「 …えーと、ゾーンディフェンス。比較的体格が良いキミとキミは後ろ二つ。で、轟とそこのキミは前二つ。オレは真ん中に立って抜かれた時のフォローをするから!轟とキミはボール持ってる人が自分の方に近付いて来たら張り付いてくれ!」

 

先程のおちゃらけた雰囲気と打って変わって真面目な表情を見せる津川。指示も簡潔で分かりやすい。

 

身構える轟の方にボールを持って寄って来たのは何処となく軽い印象を憶える、金髪の男。彼はあっさりと轟を躱し、そのままシュート。余りにも前線で轟が付いていた所為か、津川のフォローが入る前に決められてしまった。

 

「 !?…くそっ。」

 

僅かに悔しがる轟へ、先程の男が声を掛けて来た。

 

「 ヨッ。岩村から聞いたよ、轟チャンだっけ?俺は春日って言うんだ、宜しくな。…………あ〜、ちょっとしたお節介だが。守る時はもちっと腰を落としてみ。そそ、基本的な所は分かってるみたいだし、後はフィーリングで〜。それじゃあ、頑張ってな。」

 

轟にはどうにも軽い印象を憶えてしまう春日だったが、助言はありがたく受け取る。攻守交代、次は一年生が攻める番だ。

 

余談ではあるが、津川という選手は守りに長けている物の、本来ボールを運ぶ様な役目では無い為、まだハンドリングに幾分か拙さが見える。しかし彼以上に運べる者も此方側には居ないので、津川に頼る他に手段は無いのだが。加えて、他の一年生も余裕の無い彼を助けられる様な動きが出来ている訳ではない為、どうにも攻めあぐねる場面が多い。

第一Qももう終わりに近付き、気づけば点差は10点以上離れていた。

 

 

 

「 …ふいー、やっぱ先輩達強いわ。 」

 

ベンチについた津川が汗を拭いながら口漏らす。ほかの一年生も同じく頷いている。しかし、各々が次のQに向けて水分補給等をしている中、先にそれらを済ませた轟は一人で熟考していた。

 

「 ( 津川の言う通り、確かに先輩は強い。…………だけど、何だろうこの感覚。知らず知らずの内に他の競技で反射神経が鍛えられたのかーーーーーー春日先輩のドリブル。本当に全く手も足も出ない訳では無い、のか?) 」

 

そうだ。どうせ、遊びで終わるのだからーーー。試合に入る前、轟は津川へ声を掛けた。

 

「 なぁ、津川。ちょっとやってみたい事があるんだが。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 ……………で、コレかい?確かに轟チャンに助言はしたけど、流石に思い切りが良すぎるというか。ちと、無謀じゃないかと思うがねえ。キミ、一応経験者らしいけどバスケは齧った程度なんでしょ? 」

 

第二Qの開始直後。右手でボールを付きながら、眼の前で構える轟に思わず苦笑いを浮かべる春日。同じく他の二、三年生も「正気か?」と言わんばかりに訝しげな表情でその様子を見守る。無理もあるまい。そう、一年生達は轟を春日にだけマンツーマンで付ける、〝ボックスワン〟と言われる戦法で第二Qを臨んだのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




個人的に冒頭はとても気に食わないので、ちょこちょこ変える予定です(だったら投稿するな)。あと、誤字が無いように見直したつもりでしたが、もしあれば。勿論感想も随時受けておりますが、何分私はメンタルが強くは無いので。柔らかい言葉でそれとなく指摘を頂けると。

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