俺の名前は御坂美琴   作:はなぼくろ

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プロローグ
1話


 埃一つない、清潔感すら漂わせる真っ白な床に少年は這いつくばっていた。

 肩で息をしている。額に浮かぶ汗は滂沱のように噴き出している。まるで長距離マラソンでも走破してきたような有様だが、実態は違う。

 実は少年は50mも走っていない。ただ数m程歩いただけ。たったそれだけで少年は精も根も尽き果てている。

 理由は明白だ。肋の浮き出るほど細い胴、肉の無い枯れ枝のような骨だけの両腕、削ぎ落ちたように痩せこけた頬は少年の凄絶なまでな貧弱さを物語っている。

 ここは学園都市構内に存在する大病院が保有するリハビリテーション室、その一画。少年は病人だ。病名は筋ジストロフィーという。

 

 踠きながらもリハビリを再開しようとする少年を鏡張りの壁越しに覗き込む小さな影があった。齢十にも満たない少女だ。少女は肩ほどまで掛かった柔らかく木目の細かい栗毛から突出したアホ毛を触覚の如くピコピコ揺らしながら、あどけない丸く大きな瞳で少年をただ見つめていた。

 

「彼は筋ジストロフィーという病気に罹っている」

 

 少女の隣に立っていた白衣の男が呟くように言った。少女は振り返らず頷いて先を促す。視線の先には、手摺をよじ登ろうとして再び床に転がった少年がいた。

 

「筋肉が徐々に低下していく病気でね。彼はそんな理不尽な病を背負って生を受けた」

 

 何が理不尽かは言うまでもない。生まれた時から満足に歩くことも出来ない。人間として当然に出来ることが出来ない。選択の余地なく、彼が悪い事をした訳でもないのに、彼はそういう風に生まれてしまった。

 そんな現実に抗うように少年は手摺に縋り付く。薄っぺらで脆弱な肉体から振り絞った無けなしの体力で彼は立ち上がった。そして小鹿のように震える足を今にも折れそうな両腕で支えながらリハビリを再開する。

 

「執念で彼は病気と戦っている。毎日、ああして努力を欠かさない」

 

 男は言いながら、少年から目を逸らした。現実を知っているから、居た堪れなくなったのだ。

 

「しかし、たとえどんなに努力しても筋力の低下は止まらない」

 

 リハビリをどんなにしても、病の進行スピードの方が早い。焼け石に水、とまでは言わないがそれは現状維持程度のものでしかない。そして、現代医療にも根本的な治療法は無い。

 少年はやがて立ち上がることすらままならなくなる。心筋は弱まり自力で呼吸も出来なくなり、死ぬ。

 どん詰り。それが彼の末路。

 

 少年の絶望的未来を男は努めて、淡々と少女に告げた。少女は振り返らず先程と同じく頷いて先を促す。それを見て男は「だが」と続ける。

 

「君の力を使えば彼らを助けられるかもしれない」

 

 少女は『電撃使い』と総称されるチカラを持っていた。異能開発を進める学園都市でのカリキュラムよって得たチカラ。

 それを解明し、埋め込むことが出来れば筋ジストロフィーの克服に繋がるのだと男は言う。

 

「君のDNAマップを提供してもらえないだろうか」

 

 男の言葉を受けて、ようやく少女は男に振り返った。真っ直ぐで無垢な目を向けて口を開く。

 

「そうすればあの子は歩けるようになるの」

「可能性は高い」

「あの子は死なずに済むの」

「全霊で努力する」

「他の子達は」

「助けてみせる」

 

 そう。と呟いて少女は再びリハビリに励む少年を見やって、何かを納得するように頷くと、男を見やって言った。

 

「だが断る」

 

 少女の名は御坂美琴。学園都市第6位の超能力者である。

 

 

 

 

 ひっじょうに馬鹿げた話なんだが、俺には前世の記憶って奴がある。まあ、テンプレとか言っちゃったら仕様が無い話ではあるんだけどね?どうか清聴して欲しい。

 

 俺が最初にこの世界で目覚めた時はまだ物心がつくかつかないかってくらいの頃だ。つまりベイビー。推定精神年齢が30超えるくらいの俺にとって、おしめを換えるという儀式は何にも耐え難い屈辱であった。くっ殺せ。

 推定。というのも俺自身、前世の記憶ってのもかなり朧気でその当時の人間関係とか出来事とかさっぱりな訳さ。だからいつ死んだとかも分からん。トラックに轢かれたってのはないんじゃないかな。確証はないけど。そうそうあることじゃないし、ねえ。

 

 ただサブカル方面な知識とかは残ってるわけ。残ってるのが俺の人生の事よりサブカルすか、前の俺が如何にしょうもない奴だったかがよぉく分かるな。さっきテンプレがどうとか言ってたのもこの無駄なサブカル知識のお陰だ。やったね。

 

 でだ、問題はそんなとこじゃない。正直言って前世持ちなんてのは現実にもある話だ。いや確かにそうそうは無いけど、眉唾かもしれんが、割と有り得るかもしれない話な訳だ。そういう事にしておく。

 だけど、自分がまさか漫画や御伽噺の世界の住人になるとは思わんだろう?

 御坂美琴。漫画やアニメに詳しい奴なら一度は見聞きしたことがあるであろう有名なキャラクターだ。とある魔術のなんちゃらって作品に出てる。ん?科学だっけ。まあいい。それが今世の俺らしい。

 同姓同名かと思ったけども、幼いながらも俺の容姿にはネットで見かけた彼女の相貌の面影がある。テレビにも本作品の舞台になる学園都市ってヤツのCMあったし。もう確定的に明らかだわ。

 

 話を戻そう。この際、架空のキャラクターになるのはいい。前世の記憶なんてないし、前の世界に戻りたいって気にもならん。寧ろ今世は今世で御坂美琴をエンジョイしてやんよってのが俺の考えだ。

 ただし問題がある。テンプレ通りならばだ、予備知識を駆使してハッピーエンドあぁんど無双ってのが筋だ。予備知識があればな。

 前世の俺の浅学を恨むぜ......。知らねえんだよなあストーリーを。魔術サイドがどうたら科学サイドがどうたら、さっぱりだ。ミコっちゃんが電気ビュンビュン飛ばす自走砲台だってことくらいしか知らん。

 そこそこ不幸な目に遭ってた気もするんだがイマイチ思い出せない。気分としては裸で地雷原にほっぽり出された気分。どこで地雷を踏むかが分からんのだよなあ。怖い。怖いが、何とかするしかない。

 

 問題といえばもう一つある。御坂美琴はそれはそれは可愛い女の子だ。俺の体もその片鱗を表しつつあるちっちゃな女の子。じゃあ俺の精神は?一人称で薄々気付いた連中も多いだろう。おっさんだ。性同一性障害になるんですかねこれ。

 

 ともかくだ、身体は女の子、頭脳はおっさん。はっちゃけオリ主みこっちゃんの冒険はこれからだ!




初投稿です。
勢いで書いた。暫くはやる気があるので書くけどその内失踪する予定。
シスターズどうすんだてめえぶっ〇すぞって方は落ち着いて欲しい。プロットならあるから神妙に待って、どうぞ

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