学園都市。東京西部を切り拓く巨大なこの街は、外部より数十年は進んだ最先端技術が研究・運用されている研究施設の集合体であると同時に教育機関としての面も兼ねている。
そんな科学の街での教育テーマはずばり『超能力開発』だ。
サイコキネシス、パイロキネシス、テレキネシス。過去に存在を指摘されながらも、誰ひとりとしてその存在を確証できる証拠を掴めなかったそれが学園都市内においてはさも当然のように行使されている。
今まで夢物語であったそのチカラを求めて、実に180万人もの学生達が学園都市で日々アタマの開発に取り組んでいるのだ。
だが、誰もがスーパーヒーローのような力を手に入れられる訳では無い。何事にも才能と呼ばれるものがあるように、超能力も例外では無い。寧ろそれは顕著で、スプーンを曲げる程度の能力からビルを吹き飛ばす程の能力まで、能力者の実態はピンキリだ。学園都市ではそれらの質をレベル0から5までの六段階で評価している。
中でも最上級の能力を持つレベル5は学園都市においても未だ6人しか存在しない。
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そんなかなりシビアなことを教壇の先生にかなーりオブラートに包んで言われた。
変なとこで現実味があって説得力があるが、難しいことのよく分からない小学生キッズ達は「分かりましたかー」と聞く先生に対して元気いっぱいに「はーい」と叫んだ。きっとこのガキ共は先公の言ったことの一割も理解出来てないだろう。取り敢えず返事しとけの精神だ。
お察しの通り私は学園都市構内の小学校にいる。親がそこそこ金持ちなおかげで結構上等な学校に入学できた。殆ど家にいない様な親父だったが結構稼いでるらしい。何の仕事してんだか。
ああ、前もって一人称は『私』に変えた。だって自分のこと俺とか言っちゃう女子ってなんか痛いじゃん?別にその手のアイデンティティを否定する気はないが三十路のおっちゃんはやっぱ周囲の目とか気にしちゃう訳なんだ......。
「ねえねえ、みこっちゃんはどんな能力が欲しい?」
先生の長ったらしいお話そっちのけで、隣の席の幼女が先公に聞こえないよう口元に手を添えながらこっそり声を掛けてきた。
彼女は佐藤花子ちゃん。ショートボブの黒髪と人懐っこい笑顔が可愛らしい女の子だ。
彼女と出会ったのは、学園都市内の学校への入学に当たって能力開発を受けてもらうとして小難しげな施設に押し込まれた時だ。そこでは何かしら検査されたり頭に謎の装置を取り付けられたりしたわけだが、当然そこには私以外の入学希望者いたわけだ。それも大量に。
やっぱり異能の求心力というのは凄まじいらしい。自分の番がくるまでかなり時間が掛かった。彼女と仲良くなったのはそんな折だ。暇な連中同士、馴れ合った訳です。
「んーとねぇ。ビリビリをビュンビュンしたい」
「なぁにそれぇ」
クスクスと鈴を転がすように笑う花子ちゃん。わ、笑わなくたっていいじゃない。子供にも分かるよう頭を振り絞って意訳したんだぞ!
「じゃあ花ちゃんはどんなのが欲しいわけ?」
「あたしはねぇ、プリ〇ュア!」
いや、流石にプ〇キュアは無理じゃねえかな......。
先公の話を聞く限り、能力というのは決して望んだものを手に入れられる訳では無いらしい。ぶっちゃけランダムだが、取得した能力に不満を持つ人間は少ないという。というのも超能力開発で得られる能力というのは本人の気質、先公は『自分だけの現実』と呼んでいたが、それに影響されるらしい。要は本人にとって適した能力が発現するということだ。
それを聞いて私に一抹の不安が過ぎった。私の精神は本来の御坂美琴のものではないからだ。本来のモノからとは逸脱した『自分だけの現実』では、上手く能力が発現しない可能性だってある。はっきり言って、この先生きのこるには最低でも本来の御坂美琴以上のチカラがいる。地雷がどこにあるかも分からねー状況では自身の戦闘能力が生命綱だ。
とはいえ、実はそこまで不安というわけでもない。何故なら私には御坂美琴の頭脳があるからだ。才能と言ってもいい。ソフトが杜撰でもハードが良ければある程度のパフォーマンスが見込める筈だ。
最悪、能力が発動しなかったとしてそれが逆にフラグ回避に繋がることだってあるかもしれない。
まあなんにせよ、人生で思い通りになることは少ない。重要なのは、あらゆる想定をしつつ、偶然を活かすことだ。
なんやかんやコソコソと花ちゃんとお喋りしていると、他の子供達が俄にざわつき出した。
どうやら今から『身体検査』を行うため体育館に移動するようだ。『身体検査』といっても身長とか体重を測るわけではない。言ってしまえば能力の検査だ。系統とかレベルが分かるらしい。そりゃ盛り上がるわな。
*
終わってしまえば『身体検査』の内容は悪くなかった。といっても能力系統の診断が終わっただけで、まだ『身体検査』自体が終わった訳では無いが能力の発現自体は上手くいったようでホットした。
やれることをやってみろって言われたんで本来の御坂美琴をイメージして能力使う自分を強く想像すると出来た。
といっても、いきなり大技を出せたとかいうのではなく手元でスタンガン宜しく小規模な放電を起こせたくらいだが。
まあ、能力が御坂美琴と同じく発電能力であることは喜ばしい。今のままでも護身用程度の実用性があるしね。
後日、もっと精密な検査があるらしい。そん時に自分の今んとこの能力スペックが分かるという。レベル判定はそこで行われるんだと。診断を行ってくれた担当のおっさんが渋い顔してたのが気になるけど、まあなんとかなるだろ。
花ちゃんにせがまれたのでビリビリを見せてやると喜ばれた。
花ちゃんは今回の『身体検査』では能力は発現しなかったようだ。一応、診断では透視能力の系統だという結果が出たらしいが。要するにレベル0__『無能力者』相当の能力強度だったということだろう。
『無能力者』といっても本当に無能力ということは稀だそうだ。ただ能力の影響力が弱過ぎて表面上は発現しているように見えないだけで、鍛錬次第ではレベル2とか3相応まで引き上げることも可能だ。
だが、見えない成果のために努力を続けられる人間は少ない。能力の発現にはある程度、自信が必要になってくる。能力を当たり前に使えるという確信、無能力者ではその確信を得ることは普通は無理だろう。だから一般的に無能力者は無能力者のままで終わってしまうという。
花ちゃんにはそうなって欲しくないが、私が例えどんなに言葉をかけても結局のところ、それは花ちゃんの問題だ。
頑張って。そう言うのは簡単だが、実際に能力を発現させている私が言うのは彼女からすれば皮肉にしか聞こえないかもしれない。小学生相手に考え過ぎかな?でも友人として大人として、責任のないことは言いたくなかった。
結局、私は残念がる彼女に対して曖昧に笑うことしか出来なかったのだ。
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その研究者の男は目の前に示された見知らぬ数値に眉を顰めた。不快というわけではない、寧ろ興味深い。眉を顰めたのは深く考え込むときの男の癖だった。
能力の系統は能力者の発する脳波領域、『AIM拡散力場』の数値から推測することが出来る。というのも同系統の能力者の発する力場は似たり寄ったりの数値であるという統計があるからだ。
しかし目の前の数値は男の知る限りのどの数値とも類似性を見い出すことが出来なかった。
稀にだが、この手の能力者はいる。どの系統にも属さない、特有の力場を持つ能力者。
手に負えない。能力開発のカリキュラムは能力系統に応じた適当な内容を能力者ごとに割り振らなければならない。だから、こういう未知の能力を持った能力者にはカリキュラムを決めるに当たって面倒な手順が必要になる。
優秀な科学者が必要だ。能力開発に深い理解を持ち、未知に対してあらゆる理論を用意できる人間が。
男は人選を慎重に決める必要があると思った。事は重大だ。
彼が臆病になるのも無理はない。実は個人のAIM拡散力場の数値からは、能力者の成長指数も分かる。ただし、あくまでもそれは順当な成長を遂げた場合の期待値だ。指導を誤れば、それは机上の数値と成り果てる。
ならば、7人目のレベル5となるかもしれない人材を前にして慎重になるのは科学者として当然のことだろう。
適当な科学者ならいることにはいる。いや『一族』というべきか。彼らは科学者として優秀な職能集団だ。ただし、人間性を除いて。
科学には時として負の側面が存在する。戦争を糧として急激に成長するように、科学は発展の為に多大な犠牲を要求してくる。そこに倫理や道徳は存在しない。あるのは、人間を素材としてしか見なさないような徹底した合理性だ。
だが当然のことながら、科学者とて人の子だ。如何に合理的思考に染まった科学者とて人間性がストッパーとして働いて『最後のライン』を越えることは無い。
そんな人間としての最後のラインを、その一族は嗤いながら越えてゆく。人間として最低限度の矜持すらも踏み躙り、血と肉と骨を要求する。
負の科学。その権化のような一族。
人間としての男の理性が決断を躊躇させる。未来ある少女の将来を、悪魔に明け渡していいものなのか。
同時に、科学者としての男の合理性がそれを正しい事だと告げる。
男は手元の資料に載った栗毛の少女の写真を見た。
数秒の逡巡。
そして、男は整頓された鏡張りのデスクにある受話器を取った。
この科学の街では、割り切りが重要であるということを男は知っていたからだ。
初投稿です(挨拶)
能力も性格も違うとかどこに美琴成分あんだよぶっ〇すぞと思ったあなた!ホンへ突入までもちっと待って欲しいのじゃ。あと数話だから
感想と評価どしどし待ってるぜ!(自己顕示欲)