俺の名前は御坂美琴   作:はなぼくろ

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幻想御手
42ボルトの報復


 第7学区は学園都市において最も学生人口が多い学区といえる。学園都市のほぼ中央に位置し、多くの学生寮や学校、病院などのインフラを擁するこの学区は大抵の学生らの生活拠点だ。

 

 そんな7学区に店舗を構える『Joseph's』は何かと物入りで財布を気にする学生らにとっては気軽にお茶を楽しめるファミリーレストランだ。元々は学園都市外部の大手飲食チェーン店なのだが学園都市と提携し、こうして幾つかの支店を出している。

 

 そんなレストランの一画に陣取って一人の少女がティーカップを傾けていた。白い半袖のシャツに学校指定の茅色のブレザーに身を包んだその少女は、腔内を満たした黒い液体の香りに快活そうな顔立ちを歪ませた。

 

(そういえば私、珈琲苦手だったわ)

 

 小腹を満たすために店に立ち寄った彼女は店員に食後の飲み物を聞かれ、流れでホットコーヒーを頼んだもののそもそも彼女は珈琲然り紅茶然り、その手の飲み物が苦手だった。

 飲めない訳じゃないが、どっちかというとソフトドリンクのような甘い飲み物が好きだった。早い話、舌がお子ちゃまなのだ。

 

 無表情でカップをソーサーに戻すと、サービスの砂糖やらミルクやらを手当り次第に放り込み始めた。

 そして、もはや珈琲ではなくカフェオレといっても過言ではない色合いになった液体に再び口をつけようとした時。

 

 机を隔てた対面のソファに見知らぬ男がドサりと腰掛けた。

 食事を取るにも中途半端な時間だ。少女のように間食を摂る学生はポツポツいるが、席は他にいくらでも空いている。つまりこの男は彼女に用があって来た人間だ。

 

「あなたが第6位の御坂美琴さんで間違いないでしょうか」

 

 こんな暑い日だというのにご丁寧にスーツ調の学生服に身を包んだ男は慇懃な笑みを浮かべて少女___美琴の様子を窺った。

 男の言葉は確認というよりは美琴自身にある意識を持たせるための宣告の意味合いが強い。要約すれば即ち、俺はお前の情報を握っているぞ。

 

「.........その質問に答える義理も、相席を許可した覚えもないけど。取り敢えずまァ、」

 

 美琴がスカートのポケットから何かを取り出す。

 男が美琴の手元に注視する。学園都市製にしてはオーソドックスな形状の携帯だった。

 

「これ写真に撮っていいかな。イン〇タに上げるから」

 

 少々男の思考が停止した。この状況で何を悠長な、とか。超能力者もイ〇スタやるんだな、とか。数瞬の空白の後、諸々の疑問や感情を飲み込んでそれでも笑みだけは崩さず「いいですよ」と男はにこやかに了承した。

 

 美琴は「さんきゅ」と短く告げると、手元に置かれたほぼカフェオレな液体の入ったカップを角度をつけながらパシャリと携帯の写真機能でもって撮った。

 

「オーケェイ。それで?なんの用件かしら」

「端的にいえば、貴女に我々の業務の手伝いをお願いしたく参りました。我々は所謂___」

「あーあー、皆まで言わなくていいわ。すっごいどうでもいいから。要するに暗部組織ってヤツなんでしょ、あなた達は」

 

 すっかり冷めたカフェオレもどきを啜りながら美琴が微妙な顔で言った。その表情は不味い珈琲に対してか、現状に対してか。敢えて言うなら両方だろう。

 

「他の奴との取り決めでその辺のコトで私らに関わらないってなってんだけど、そこのとこどうなの」

「我々も一枚岩ではないのでね、よその組織との取引に関してはなんとも」

 

 飄々とした態度の男に美琴は頭を抱えた。やはり電話の男のコトは信用ならない。報復してやろうかな。

 

「因みにシカトしたらどうするの」

「ご友人の入院先くらいなら把握しているんですよコチラは。それともルームメイトのお嬢さんの方がいいですか?」

「あまり図に乗るなよ泉光貴クン」

 

 泉光貴。男の本名だった。胡散臭げな表情が初めて崩れる。

 狼狽する男に美琴は手元の携帯の画面を見えるように掲げてみせた。画面の中には男の顔写真及び個人情報がびっしり。

 

「知ってるだろうが、学園都市製の電子機器は無駄に性能が凝っててね、こんなチャチな携帯のカメラだって結構な高性能。画面端に写ったアンタの指の指紋がくっきり確認できるくらいには画質もいい」

 

 そもそも美琴にイン〇タ映えを気にするほどの女子力なんてない。写真を撮りたがったのは男の身体の一部分を個人情報の検索にかける為だった。

 学園都市は能力研究や兵器開発を行っている都合上外部に敵が多い。そのためセキュリティ関連にはかなりの力を入れている。その過程で個人識別技術も進歩してきた。顔パーツや指紋はもちろん、耳の形状や骨格まで様々な照合方法を兼ね備えたセキュリティプログラムが学園都市の上層部で利用されている。

 それとは別に『書庫』といわれる能力者のデータベースがあるが、どちらかというと『表』向きのシステムであるため、荒事に用いるには情報操作が行われている可能性のある『書庫』よりはこちらの方が信用できる。

 美琴がそれに接続出来ているのはぶっちゃけ違法な手段を用いたからだが、今はそのことはいいだろう。

 

「妹さんがいるらしいな。アンタが養っているのか?」

「.........だからなんだというんです」

「やられたらやり返す。そう言っているんだ」

 

 人質交渉というのは如何にアングラな組織とて好まれる手法ではない。何故なら報復されるリスクがあるからだ。それでも誘拐犯のような存在が強気でいられるのは彼らの情報が知られていないという強みがあるからだ。そういう意味では、男の目論見は現時点で失敗しているといえる。

 

「あなたに出来るんですか?所詮『表』で安穏としているだけのあなたに」

 

 最初の余裕はどこへやら、怒気に染まった面持ちで泉なる男は吐き捨てるように嘲った。

 

「42ボルト」

 

 美琴はマドラーでカップの中身をかき混ぜながらぶっきらぼうに呟いた。言葉の意味が分からず訝しむ男に構わず美琴は続けた。

 

「人間が感電死する最低限の電圧だよ。冬場のコートとかの静電気が数万ボルトだと考えると、割と呆気なく人は死ぬ」

 

 美琴の手元でボコりと何かが噴き出すような音が溢れ出す。冷めかけていたはずのコーヒーが沸騰して、底から沸き上がる水泡で覆われていく。

 

「問題はアンペアだけど、私の能力からすれば特に問題ない。ほんの遠目に眺められるくらいの距離でも、チョチョイと弄ればすぐに済む。労力なんていらない」

 

 「でだ」と、ゆっくりと美琴は伏せていた顔を上げて男を見やった。寒気がするほど暗い瞳で男をただ見ていた。どうしようもないものを見る呆れた目で。

 

「お前は私がそんな簡単なことも出来ないと本気で思ってるのか?」

 

 

 

 

「お姉様、さっきの殿方は......」

「ありゃ。いたの黒子」

 

 熱いコーヒーをフーフー冷ましているといつの間にやらいたルームメイトの存在に美琴は大して驚いたふうもなく反応した。このツインテールの小柄な後輩は凡そ神出鬼没で、一々驚いていると身が持たない。

 

「別になんでもないわ。ただの私のファンよ」

「もう。ファンサービスもいいですがいい加減少しは『超能力者』としての自覚を持ってくださいな。一々俗人に応えていては、いずれ集られて身動きが取れなってしまいますわよ」

「はいはい。いつもありがとうねお母さん」

「誰がお母さんですの!?」

 

「そんなことよりもホラ、知り合いなんでしょ?後ろの娘。紹介しなさいな」

 

 




幻想御手のプロット練る為に超電磁砲の一期見直してるんだけど、プールで黒子に電撃浴びせてんの見てクッソ危ないなと思って書いた

原作キャラとの本格的な絡みは次回から。

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