001
——いや、出会った、というのは少し違うのかもしれない。
怪異というものは何処にでもいるし何処にもいない。俺がその存在を知る前から俺の周りに居たとも言えるし居なかったとも言える。そんな存在なのだから。
——だから。そう。鬼も、猫も、蟹も、蝸牛も、猿も、蛇も。俺が認識するずっとその前から、確かにこの世に
ずっと、前から——。
002
「一宮くん」
五月八日の昼休み、教室に居るのがなんとなく億劫で廊下を目的もなく歩いている最中だった。
後ろから急に掛けられた声に振り返る。
「
「ん。別に用事があるってわけでもないんだけどね。せっかくのお昼休みにフラフラしてたから、どうしたのかな、って」
どうした、——と言われてもな。
「別に。なんとなく教室に居づらくて出ているだけさ。わかるだろ?俺あのクラスに友達少ないから」
そんなふうにして少し自虐をこめて彼女、——羽川
羽川翼。
俺の所属するクラスの委員長であり数少ない俺の友人の一人だ。中学が同じだったというのもあり結構仲良くやっている。
……まあ春休みやゴールデンウィークの事件も仲を深めるきっかけにはなったのだろうが。あの時は良い事ばかりではなかったのであまり思い出したくはない。
「そんなこと言ってないで。せっかくのお昼休みなんだから勉強しようよ」
考えごとをしていたら羽川さんからそんなことを言われる。
「……いや、そのせっかくの昼休みに何で勉強をしなくちゃいけないんだ。俺は午前の授業を寝ながらもこの昼休みを心の支えに頑張ってたんだぞ」
「頑張ってたって……。もう、一宮くん頭は良いんだからちゃんと勉強しなきゃ」
「 いや、確かに俺は頭は悪くないがお前に言われても皮肉にしか聞こえんぞ」
というのも羽川さんはめちゃくちゃ頭が良いのだ。彼女がテストで一位以外になったところを俺は見たことがない。それに比べて俺はだいたい上位三十人くらい。良いはずなのだが彼女と比べるとどうしても見劣りしてしまう。
「まあ、なんだ。俺はテキトーに時間潰すよ。午後の授業に備えてね」
「——うん。そっか。じゃあ、私は職員室に行くから。午後は寝ないようにするんだよ?」
彼女のそんな委員長って感じの言葉に俺は「へいへい」なんて返事をしながら背を向ける。まあ、注意されたんだしわざわざ背くこともないだろう。午後は寝ないように気をつけてみますか。
003
放課後、部活に入っていない俺は終礼が終わった後に寄り道をしてから目的地に向かって自転車をこいでいた。
なんというか昔から目的に向かって真っ直ぐ、というのが苦手なのだ。ついサボったり寄り道をしてしまう。これはもう性分なのだと諦めているのでいいのだが。
そんなことを考えていると俺の目的地である廃墟へと到着した。フェンスの穴の空いている場所から廃墟へと入り階段を登り、三階に着くと部屋を一つずつ見てある人物を探す。
あの人どの部屋に居るのか未だによくわかんねえんだよな。
三つ目の部屋の扉を開けたところで彼を見つける。この廃墟は元々は塾であり、部屋——と言うより教室——の中にはたくさんの机があった。その机を積み上げ紐で縛りつくった簡易的なベッドの上で胡座をかいているオッサンこそ俺が探していた人物である。
「やっと来たのかい一宮くん。待ちくたびれたよ」
そんな見透かしたようなことを言って俺を見る男こそが怪異の専門家。妖怪変化のオーソリティ。羽川さんや
「おや、今日は一人なんだね。阿良々木くんと委員長ちゃんは一緒じゃないのかい?」
「あいつらは文化祭の出し物について話し合ってますよ。俺はクラス委員でもないから仕事はないんです」
阿良々木というのは俺のクラスメイトであり羽川さんと俺の唯一の共通の友人で、怪異関係の問題を今も抱えている人物だ。変態でチビである。
「へぇ、文化祭。良いねえ、学生って感じで。青春じゃないか」
なんて、いかにもオッサンみたいな発言をする忍野さん。
サイケデリックなアロハ服に火の着いていないくわえ煙草、人を食ったようなニヤケ顔と怪しさ満点である。これで声が櫻井孝宏似じゃなかったら通報してる。
「で、忍野さん。彼女は何処に?」
俺が尋ねると忍野さんは「ん?ああ、居るよ?そこに」と教室の隅を煙草で示した。……行儀わりいな。
果たして、そこには金色の眼に金色の髪をした幼女がいた。
—— 吸血鬼の成れの果て。美しき鬼の搾りかす。今の彼女を説明するならばそんなところだろうか——。
とにかく、そこには彼女がいた。
今まで全く気がつかなかった……。なんというか、存在感がない、というのか、存在力がない——というのか。
「よっ」なんて挨拶してみるが勿論反応はない。ガン無視だ。春休みからこっちろくに話さなくなった彼女だが元はお喋りだったのだ。よく笑い、よく動く、そんな女の子だった。
忍野さんなら「完全体の彼女のことをそんなふうに呼ぶのは君だけだよ」なんて言うだろうが——。
すると、忍野さんが今思い出したかのように声を出す。
「——ああ、そうだ。一宮くん。君には言っておこう。実は彼女に名前を付けてあげたんだよ」
「名前?」
「そう。名前。彼女にも名前がないと不便だろう?いつまでもアレとかソレ呼ばわりじゃあね」
「——ふぅん。で、どんな名前にしたんですか?」
「忍野
「忍。——忍野忍、か。うん。良いんじゃないですか?俺も気に入りましたよ。採用です」
「何で上から目線なんだよ。不採用の可能性もあったのかい?」
「そりゃそうですよ。もし忍野
「一宮くんは一体僕を何だと思っているんだい」
「怪しいオッサン」
なんて、そんなくだらない話をしていると教室の扉が開いた。そこには少し前に話に出た少年、阿良々木
「
戦場ヶ原ひたぎ。中学の元クラスメイトで高校の現クラスメイトである彼女がそこにいた。
初めて書いたのですが結構大変ですね。一話で何千字も書ける方を尊敬します。