君の知らない物語   作:ライトハウス

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リアルが忙しくてなかなか書けない。


さくまモンキー 其ノ壹

 

 

 

001

 

 

 

神原駿河は有名人だ。

 

俺の通う高校——私立直江津高校で彼女の名前を知らない人はおそらくいないだろう。それくらい彼女は有名だ。スターと言ってもいいかもしれない。

 

それこそ羽川さんや戦場ヶ原さん、ある意味有名な阿良々木にも引けを取らないくらいに。凡人は俺くらいである。

 

特に神原は後輩女子からの人気が凄い。と言うのも彼女は弱小と言っても過言ではなかった我が校のバスケットボール部を全国大会まで導いたのだ。勉強に力を入れ部活はからっきしだった我が校からしたらまさに快挙である。

 

思えば彼女は中学の頃からそうだった。足が速くコートの中で追いつける者は誰もいない、そんな選手。

 

だから戦場ヶ原さんとも気が合ったのだろう。二人とも変態だし。

 

戦場ヶ原さんがエロ方面での神原の師匠だというのは俺しか知らないだろう。他の奴に知られたらイメージが崩れるわ。

 

——まあ、だから。

 

神原が戦場ヶ原さんに抱いた感情は——当然の感情だったのかもしれない。その結果、怪異に願ったとしても。

 

それは、きっと——彼女の本当の気持ちなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

002

 

 

 

「あ、一宮くん。そこ間違ってるよ」

 

羽川さんにそう指摘された俺は進めていた計算を止める。

 

「そこはこのページの公式で解くんだよ」

 

そう言って数Ⅲの教科書を見せてくる羽川さん。あれ、それだったっけ?微積に極限とか入ってくるとごっちゃになるんだよなあ。しょーもない凡ミスだ。

 

「なあ、羽川さん。そろそろ休憩しないか?」

 

「ん?そんなこと言って、一宮くんまだほとんど進んでないじゃない」

 

そう。かれこれ一時間ほど一緒に勉強しているのだが俺はほとんど手が動いていない。なんか気合い入んねえんだもん。しゃーない。

 

八九寺ちゃんと出会った五月十四日から約二週間後、俺と羽川さんは実力テストに備えて図書館で勉強をしていた。俺は勉強なんてするつもりなかったのだが彼女に押されてここまで来てしまったのだ。

 

羽川さんと二人きりってのは最高なんだがいかんせん勉強がめんどくさい。

 

「だから休憩するんだよ。このままやったって効率悪いだろ?リセットすることで励めるようになるんだよ」

 

「もう。しょうがないわね」

 

許しが出たのでシャーペンを置き伸びをする。体いってえ。

 

「一宮くんはもっとできるんだから。勉強しないともったいないよ」

 

そんなことを言っている間にも彼女は手を動かし続けている。こいつほんとずっと勉強してるな。

 

羽川さんは本気で誰でも頑張れば勉強ができるようになると思っているような人間なのだ。俺の中で唯一彼女と一緒にやりたくないことが勉強だ。不真面目な生徒には厳しいぜ。

 

「今頃阿良々気は戦場ヶ原さんとイチャついてんだろうなぁ…」

 

妬ましくてつい声が出てしまった。爆発すればいいのに。

 

「ああ。あの二人お付き合いしてるんだよね」

 

そう。阿良々木と戦場ヶ原さんはあの母の日から交際しているのだ。今日は俺たちと同じで実力テストに向けて戦場ヶ原さんの家で勉強会を開くらしい。阿良々木に自慢げに聞かされた。爆発しろ。

 

「羽川さんが公園で会った時にはまだ付き合ってなかったけどな。羽川さんの妄想が現実になったって感じ。ほんと羽川さんは何でも知ってるね」

 

「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」

 

そう言って苦笑いする。当たり前っちゃ当たり前だが含蓄のある言葉だ。彼女が言うからだろうか。

 

「公園と言えば。一宮くん、真宵ちゃんのこと私に隠してたでしょ」

 

「ぐっ……」

 

痛い所を突いてくる。確かにあの時テキトーなこと言って羽川さんを帰らせたのは事実だ。だが羽川さんはゴールデンウィークのことを覚えていない。怪異のことは知っているが自らの猫のことはそうではないのだ。

 

だから帰らせた。なるべく怪異と関わってほしくないから。

 

「ま、まあ。八九寺ちゃんなら元気にしてるよ。今でも会ったら話すんだ。阿良々木も仲良くしてるみたいだぞ」

 

「ふーん。そうなんだ」

 

ジト目でこちらを見てくる。可愛い。

 

「うん。まあ、そっか。それなら良かった。それじゃあ勉強の続きしよっか」

 

「へーい」

 

そこから何時間か勉強して時刻は九時より少し前。俺は羽川さんと八時に別れたのだが一人でフラフラと自転車を走らせていた。女の子を一人で帰すのもなんなので送ろうと思ったのだがやめておいた。あまり家まで来られるのも嫌だろう。いや、一回行ってるんだけどな。しかも勝手に。

 

などと帰り道から外れた道を進みながら思い出しているとふと違和感を感じる。なんというか——この感覚は。

 

『怪異』。それも、蝸牛や蟹のように危害がないタイプではない。猫や鬼のような——明確な危害を与えてくるタイプだ。わずかだが殺伐とした雰囲気というか、血の匂いを感じる。

 

だがこれはどうやら残り香とでも言うべきものらしい。今近くにいる感じはしない。さっきまでこの周辺にいたのだろう。

 

…………待て。それならすでに危害を加えられた人物が——襲われた人がいるんじゃないか?

 

「クソっ!」

 

全速力で自転車を走らせる。感覚の赴くまま、血の匂いのする方向へ。

 

すると、そこには————。

 

血塗れで仰向けになりながら戦場ヶ原さんのスカートの中を覗く阿良々木がいた。

 

「………………」

 

まあ、うん。なんというか。性癖は人それぞれだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

003

 

 

 

翌日、土曜日。

 

週休二日制が浸透した現代においても土曜に午前だけ授業があるクソみたいな進学高である直江津高校から俺は学習塾跡の廃墟を訪ねていた。例のごとく寄り道していたせいで遅くなったが相手があのオッサンなら別にいいだろう。本屋って何も買わなくてもしばらく見ちゃうよね。

 

今日俺が来たのは忍ちゃんの様子を見るため、というのと後は忍野さんの話を聞くためだ。

 

忍野さんは怪異譚の蒐集を仕事としていてそりゃもう色んな怪異を知っているのだ。いくら専門家と言ってもここまで知識があるもんなんかね。何でも知ってるお姉さんとアロハのオッサンしか専門家を知らないから比べようがない。絶対二人とも異端児というか普通じゃないし。ヴァンパイアハンターであるあの三人は知っているという程でもないし。

 

ともかく、忍野さんのそんな他の人だったら何の役にも立たなさそうな怪異譚を忍ちゃんの頭——というよりヘルメットを撫でながら聞いていると、後ろから扉の開く音がした。

振り返るとそこには阿良々木と一つ下の後輩、神原駿河が立っていた。なんかデジャヴ。あいつは俺の知人を連れてくるのが趣味なのだろうか。

 

「やあ、やっと来たのかい。阿良々木くん。それにしても阿良々木くんはいつも違う女の子を連れているねえ」

 

忍野さんがそんな見透かしたようなことを言う。阿良々木は「人をそんな安いキャラにするな」なんて言っているがあながち間違っていない気がする。いっつも違う女の子連れてるじゃん。

 

「む、一宮先輩か?」

 

「おう。久し振り、神原」

 

こちらに気づいた神原が声をかけてくる。神原とも高校に入ってからはあまり話していなかった。戦場ヶ原さんとの間で何かあったのだろう。向こうから俺に話しかけてくることもなかった。

 

「あ、そっか。一宮は戦場ヶ原と同じ中学だったって言ってたもんな。神原と知り合いでもおかしくないのか」

 

そんな阿良々木の言葉に神原が反応する。

 

「ああ。一宮先輩は私が猥談をする唯一の男の子だったのだ。懐かしいなあ」

 

「そんなことで昔を懐かしむな。もう少しまともな俺とのエピソードはなかったのか」

 

呆れながらも俺は彼女のことを観察する。直線気味に切り揃えられた前髪。きりりとした眉と目。スカートから覗くスパッツと健康的なスラリとした脚がまさにスポーツマンといった感じだ。

 

だが、まず一番に目につくのは。

 

ぐるぐると、白い包帯で巻かれている左手。ただの怪我では——ないのだろう。昨日の夜に感じた、あの怪異の気配を感じる。春休みの鬼には遠く及ばないし、ゴールデンウィークの猫にも劣るが、確かに感じる、怪異の脅威。

 

なるほど。阿良々木があんなことになっていたのはこれが原因か。あの後なんか色々めんどくさくなって帰ってしまったので事の顛末を知らないのだ。パンツ見てる余裕あるなら大丈夫だと思うよね、フツー。

 

まあ、阿良々木はともかく。

 

神原にはどうやら事情がありそうだ。こりゃまた長い一日になるな。

 

 

 

 

 

 

 

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