にじさんじ短編まとめ   作:まむれ

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昨年末にタイムマシンを開発したマシュマロのせいで創作欲が刺激されました(小声)
なお途中で力尽きた模様、ユルシテ


過去⇔未来

 夕陽リリは未来人である。

 未来から過去へ、悪戯好きな彼女はその趣味の範囲で過去の電波を勝手に乗っ取り、面白そうだから配信をやってみようかなと思うくらいはアクティブな人間だ。

 

「行きます逃げます、未来人ですから」

 

 沢山のいかないでコメント、それを無視しえ配信終了のボタンを押す。

 楽しかった。追いきれない程流れるコメント、剣持先輩への歪んだ愛の告白。自分が楽しませる側であるべきなのに、終始笑ってばかりで。

 それでも面白い楽しいと言ってくれるのが何より嬉しくて、悲しい。

 配信に使っていたスマホに指を滑らせる。少ない連絡先の中の一つを選んで呼び出し音を鳴らす。

 通話をかける先は──剣持刀也。これから全てを白状するからか、鼓動が普段より五月蠅く自己主張をしていた。

 

 

────

 

 

 夕陽リリは未来人である。

 ただし、過去に干渉したのは悪戯の一環などではない。

 見渡せば無機質な四角い部屋。あるものはパソコンと机にベッドと二つのドア。それが夕陽リリの世界の全てだった。

 今が何年なのかわからない。少なくとも、夕陽リリが生まれた時から世界は崩壊していた。

 世界のあちこちが虚無の空間に蝕まれ、ただ虚空使いが全ての原因とだけ書物に伝わっていて、それ以外の歴史がなくなった世界。

 

「過去を変えれば未来も変わるはず……君に世界を救ってほしい」

 

 ただそれだけを言われた。そうして過去に干渉するようになってわかった

 どれだけ過去を変えても変わらない。やり遂げたと思って元の時代に戻ってきても、そこで待ち受けるのは変わらぬ白の部屋。

 いや、或いは変わったのかもしれない、ただしその時点でその世界は独立して、私のいる時代に繋がらなくなっているはず。

 それでも、止まらなかった。私の世界はそのままでも、改変する事で跳んだ先の世界が救われるかもしれないから。

 少なくともその瞬間だけは救えたり救えなかったり、いつしか何回目と数えることを止めてから気付く。

 成長が、止まっている。色々な欲求はあれど、身体がまったく劣化する気配がしない。

 

「成長すら虚空に呑まれちゃったかー、あはは」

 

 誰も聞く相手などいないのに。

 誰も成長を見届ける相手などいないのに。

 ただ、いよいよ自分が人間でなくなってしまったことがひたすらに悲しかった。

 

「次で最後にしよう、うん!」

 

 皮肉な話だ。疲れて疲れて疲れきって、跳んだ先に全ての元凶がいたなんて。

 

 

────

 

 

「あぁ、リリちゃん面白い話するんだね」

「いやぁこれがほんとの話なんです! 信じられないかもしれないけど、あははは!」

 

 案の定、通話の先にいる剣持先輩は信じる気配がなく、ちょっと意外そうな声色を出すのだった。

 

「いや信じられないかもしれないけどこれ、本当の話なんだよ?」

「それが本当だとして、どうやってにじさんじに紛れ込んだのって話になるじゃん」

「そんなもの、未来の力でちょちょいのちょいですよ」

「便利ですねえ」

 

 呆れられてもこればかりは説明したところでわからないし、そもそも説明していたら本題に入れない。

 決意はした。それが鈍る前にはっきりと伝えてさよならをしなくちゃ。

 

「で、それを話した本題なんだけどね」

「いや続くんですかそれ」

「まーまーそれでね、大きく干渉しなければいずれは私の時代になるんだけど」

「はいはいそれで」

「多分、剣持先輩からなんですよね。色々調べたんですけど虚空で事象が途切れて時間が消失するって能力」

「いや単なるネタじゃないですか、人を勝手に能力者にしないでください」

 

 そう、最初は単なるネタだった。けれども、そのネタを幾万人がずっと続ければ常識になり、世界に影響を及ぼす。多分。

 何せ原理がサッパリわからない。そもそも過去のことは跳ばないと調べらず、資料も持ち帰れないとなれば研究のしようもない。

 

「まーだから私、剣持先輩をちょっと闇に葬ろうかと思いまして」

「……」

「『コメントしたものから殺していく』だなんて、まさか私の動きを読んでるかと思って吃驚したよね~」

 

 ぎゅっと薄型携帯を持つ手に力が入る。

 落ち着け私、

 

「最初はそのつもりでねー。絶望の中に光を見出したかと思うくらいだったよ? 最後の最後で大元を消せるなんて、考えてもなかったし」

「の割には今日まで僕生きてますけど」

「……まーちょっと皆さんに絆されたというか、久しぶりにこんな楽しい時間を過ごして」 

 

 どうせ最後だと伸び伸びしていたら絆されるくらいには楽しさを感じて、同時に惜しくなってしまった。

 この三日間悩みに悩んで、じゃあ最後に配信だけして終わろうと考えて、その配信を終えたのが今。

 気付いたのだ。 ここでぬるま湯に浸っていてもいずれ別れは来る。光を見出したとしても、絶望に囲まれていることに変わりはない。

 だから、スッパリとここで断ち切る。

 

「断ち切る、つもりだったんだけどなあ……」

「出来なくなっちゃったと」

「うるさいなぁ、でもしょうがないじゃん。皆良い人なんだもん」

 

 信じてくれるかどうかは別として、そのまま話を続けさせてくれるようだ。

 やたらと喉が乾いて水を飲むのは、きっと緊張をしているから。

 

「だから悩んで、今日でおしまいにする。配信もやったしね」

「それで、いいんですかリリちゃんは」

「いいの、これが正解なのさ」

「僕達にとっては正解じゃないですよ、こんなの。次回を楽しみにしてくれる人だって沢山いるのに」

「楽しかったよ剣持刀也君、皆にもそう言っといてね」

「ちょっと人の話を」

 

 何も言わせない。切断ボタンを押したあと、スマホの電源を切ればもう向こうどうしようもない。

 終わってみれば呆気なかった。いや、呆気なくしたと言うべきか。

 あのままだらだらと耳を傾けていたら、今度こそ覚悟が無駄になりそうな気がして。

 部屋にあるパソコンも二度と起動することはないだろう。このまま何をするでもなく、ただ無駄な時間を過ごしていくことになる。

 最初は辛いかもしれない。あの賑やかな日々に想いを馳せて、記憶に泣かされる日々が続く。でもいつか大丈夫になるから。

 

「今日くらいは、泣いて良い、よ、ね」

 

 もちろん離れたくない。ずっとずっと一緒に話して、配信もして色んな人と関わりたかった。

 気の合う人達が傍にいるとこんなにも楽しい物なのかと。ここ最近で今まで生きてきた分以上笑っている気がする程だ。

 でもあのまま続けていたらきっと別れられなくなる。なあなあのまま進んだらきっと未来で不幸になる。

 だったら悲しくても笑ったまま今に別れた方が、きっといい。

 今までで一番楽しくて、そして一番悲しい別れだった。涙が溢れて止まらない。もう皆の声を聞けないと思うと、胸が締め付けられて、掻き毟りたくなるほど苦しくて。

 そうして私がいないまま話す皆を想像して、余計にその痛みが深くなった。

 

 

────

 

 

 どれくらいそうしていたか、泣き疲れて気が付いたら眠ってしまったようだ。

 目をぐしぐしと擦る。今鏡を見たらさぞや酷い事になっているだろうなと思いながら立ち上がる。

 今日から何をしようか。過去に跳ばないと決めた今、パソコンを使うことも出来ない。。

 崩壊した世界を歩いてみるのはどうだろうか。誰もいない、ひび割れた大地か砂の海、それのせいで余計に蒼が映える空だけが広がる世界を、物思いに耽りながら歩くのも。

 それも案外悪くない気がした。今までずっと部屋の中で完結させていたから、これからは外の世界に目を向けてもいいだろう。生き残ってる人を探してもいい。

 

「よっし! 未来で配信しちゃいますか!」

「無駄ですよ、そんな空元気な言葉は」

「いやああああああああ!!!」

 

 不意打ちだった。心からの悲鳴が喉から全力で溢れ出た。それほど異質な光景。

 ずにゅりと空間が裂け、そこから手が飛び出した。

 のっそりと現れたのは剣持先輩その人。良く見れば着ている服はずたずた、片手に持つ竹刀は鍔の先数センチから上が引きちぎられたようになくなっている。

 なんだこれは、どういうことなのだ。理解が追いつかない。そもそも、剣持先輩は過去の人物で、私のいる時代の人間ではないのに。

 

「あーちょっとうるさいですね」

「な、な、なななな」

「いやこれ見ものですね、写真撮って皆に見せたいくらいです」

「ど、どうやって!」

「あれ? 虚空の力舐めてました? いやー僕くらいの才能あると時間を跳躍するくらいちょちょいのちょいですよ」

 

 べ、便利だね。

 かろうじて、その台詞だけが吐き出せた。

 

「さ、行きましょうリリちゃん。過去を変えてどうなったか、自分の目で確かめるんです」

「いやいやいや! 色々突っ込みどころが」

「はい逃しません連れてきます、過去人ですから」

「過去人って何さ……」

 

 人の真似をしやがって。

 でも、そうやって手を差し伸べる剣持先輩の笑顔は凄くかっこよかった。とても悔しいと思うくらいに。

 こんなこと絶対に本人には言ってやらないと決意をしながら、その手を取る。というか取られた。

 

「えっちょ」

「さ、皆待ってますから」

 

 引っ張られ、一部がノイズがかったようなは灰色をしている以外は真っ黒な謎の空間へ引きずり込まれる。

 先導は剣持先輩。「先導は僕がしますから」という言葉の通りに、数歩先を歩いている。戻ろうにも、入って来た穴は閉じてしまった。

 

「どうやったのさ本当に」

 

 逃げられないと悟れば心も落ち着く。

 そうすれば浮かんでくるのは疑問。どうやって私のいる時代へ来れたのかということ。

 いや、来れた理由は分かる。問題は、荒唐無稽な私の話をどうして信じたか、だ。

 

「結局あのあとリリちゃんに繋がらないし、パソコンもオンラインにならないし。なので本当のことかなって思って迎えに来たんですよ」

「頭大丈夫ですか剣持先輩……」

「そこはガク君からお墨付きを貰ってますよ」

 

 つまり、大丈夫じゃないということらしい。

 

「ま、虚空は配信中に時間を飛ばすものって考えたらなんとかなりましたね、凄いですね虚空って。ラノベもビックリなご都合主義能力ですよ」

「それを思い込みで実現する剣持先輩も中々の存在だよね? ふっつーに」

「才能です才能。それにどうですか、これ」

 

 大層大事なものだと言っていた竹刀。無残な姿となったそれを、軽く振る。

 

「図らずも刀を捨てて虚空を飛ぶための力を取った男になったじゃないですか」

「ぶ、あはははは!」

 

 皮肉な話だ。私を長年苦しめてきた虚空が、最後の最後で私を救うなんて。

 

 

────

 

 

 それからのことを記すとなると、特筆すべきことがないと言うか。要するにいつも通りのままに収まった。

 

「そう言えば、虚空の力なんですけどね」

「それ危ない力だから本当に悪用はしないでね剣持先輩」

「僕程の善人がそんなことするわけないじゃないですか。と、いうより出来ませんよ」

「えっ」

「どう頑張ってもあれほどの虚空の力を使えないんです。せいぜい配信時に悪戯するくらいですね、もう」

「私の放送で絶対にやらないでよ!?」

 

 理由は解らないと先輩は言う。私としては過程が大分斜め上だけど、世界を救えたので何の問題もない。

 むしろ、日常生活するうえで欠片も必要ないそれの力が弱まってくれて嬉しく思える。

 

 もう過去を救うこともない。人間じゃなくなった私は夕陽リリという一人の人間に生まれ変わった。

 今ではこの時代の住人になり、配信をするかにじさんじの皆と話すか。そんな毎日。

 これからも、それを続けて行きたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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