にじさんじ短編まとめ   作:まむれ

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世界線からして違うので100%捏造です
設定忠実派のお兄さんゆるして


あるいは有り得たかもしれない世界線(ギルザレン様ともいもい)

 かつてその吸血鬼は人間に恐れられていた。

 当時、敵のいなかった彼は欧州で暴れに暴れ、時の権力者が恐怖のあまり夜に寝付けない程で、各国が討伐隊を結成するも帰って来たのは同数の死にかけた存在。

 ハンガリーを縦断し、ワラキア公国に入ったのは1400年。そうして他の国でやったように、全てを蹂躙しようとして──そこで彼の足跡は途絶える。

 ワラキア公国で起きた彼による殺戮事件、0。

 霧のように消えた彼に当時の人類は首を捻るが、誰も探そうとはしなかった。

 

 それから600年。

 

 

────

 

 

「あー、いいですねぇ~~……」

 

 かつて恐怖の象徴であった吸血鬼は、Vtuberと言われる存在に首ったけだった。

 画面の向こうに広がる様々な世界との交流、そして、復讐すべく(・・・・・)引きこもっている間に変わった現実世界。

 600年かけて貯めた力を日々Vtuber追跡のために使う事に関して、本人もどうかと考えているがこれはこれで良いと思っていた。

 欧州から恐れられた男──

 

「ふふ、ギルえもんは本当に楽しそうで良いですわね」

「……モイラ殿、か」

 

 ギルザレン三世は上から聞こえた声に表情を険しくする。

 人間が立ち入ることのない秘境の奥深くにある自身の居城。自分とシモベ以外の声が聞こえることはあり得ないのだが、事実として声が飛んできた方へと彼は顔を向ける。

 青空のような色の髪、次に目に入るのは純白の翼と同じ色のドレス、鈴を転がすような声。

 人間であれば誰もが魅了される容姿端麗な彼女の名前を、苦々し気に呼ぶ。

 

「そーんな不味い血を飲んだような顔しないでー」

「モイラ殿は血を飲んだ事、ないでしょうによくそんなことが言えますねぇ」

「比喩ですわよー比喩。ギルえもんはいつも女神を見てネガティブな顔するの、結構悲しいのよ?」

「……ふん」

 

 心にもないことを、と思う。そんな殊勝な感情を自分に向けて抱く存在ではないと彼は知っていた。

 

「600年ぶりに顔を合わせた私を一目で思い出せなかった自分を恨むように」

「それに関しては女神が謝ったじゃないの~」

「吸血鬼は執念深いんですよぉ」

 

 ギルザレンは手元の画面に目を落とす。こんな女神の相手など、するだけ無駄なのだ。どうせ自分のところに来たのも気まぐれ。誰と誰の組み合わせが如何に素晴らしく尊いものかと語りに来ただけかもしれない。

 たまに頷けることはあるが、せっかく力を消費するのならばそれよりは追いたいものを追うのが良い。大体は向こうの方が勝手に喋って気が済んだら勝手に帰る。

 しかしてその常は今日に限り、別のようだ。

 

「そうねぇ、出会い頭にいきなり牙を剥かれた時はビックリしたのだわ。ねぇ?」

「──この性悪女神が」

「あらぁこわいこわい」 

「もうその話はいいでしょう」

「ふふ、ちゃんと思い出した女神を誉めて欲しいな~。そうね600年前、可愛いペットを虐める存在が確かにいたのだわ」

「人の話を聞きませんね?」

「ふふ、無理矢理黙らせても良くて? 出来るなら、だけどね?」

 

 ギリッと歯が鳴る。それを誓ったのが過去のギルザレンだった。

 ワラキア公国に入って姿を消した彼。理由は単純明快。目の前にいる青い存在。それに片手で捻られたのが理由であった。

 思い出すのも忌々しいと思考を吐き捨てる。しかし、それを読んでいるかのように女神は言葉を綴る。

 

「えぇ、あの時のギルえもんは本当に本当に面白くて、なんで忘れていたのか本当に不思議」

「一生の不覚でしたね当時は」

「でもあれはギルえもんが悪かったのだわ。大事な大事な私のこいぬ達を無駄に傷付けていたのだから、本当に酷いっ」

「……」

「あんなぼろぼろにしたのにまた女神に歯向かうのも、また面白くて」

 

「そろそろ黙ろうか? 私としては別に、ここで女神を騙る悪魔を倒してもいいんですがねぇ?」

「出来るならやってみるのだわ、坊や?」

 

 近くに潜んでいたシモベが蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。

 空気が重苦しいものになり、並の存在ならば強制的に平伏するような、そんな重圧が城内を満たす。

 ギルザレンは配信を映していた画面を閉じて女神を睨め付ける。

 女神はそんな彼を見下ろし、あざ笑うように坊やと呼んで憚らない。

 

「……」

「……」

 

 まさに一触即発。十数秒のにらみ合いの後、

 

「辞めましょう。私の眷属達が悲哀に包まれてしまう」

「えぇ、女神も子犬達を悲しませる趣味はないですもの」

 

 お互いにその矛を仕舞う。

 二人を抑えたのは誰でもない、二人を慕う有象無象の存在であった。

 かつて虐げた存在。矮小なニンゲンという種族が、配信を行う彼にとって大事な存在に変わるまで時間はそうかからなかった。

 配信を急かす声に応えられないことを申し訳なくすら思っている。かつて見下していた人間に、である。

 女神にプライド諸共粉砕される前では考えられない。600年という歳月とそれによってもたらされたカルチャーショックは、ギルザレンの在り方を真逆に変えていたのだ。

 

「ふふ、ギルえもんの配信楽しみなのだわ」

「別に貴方を楽しませはしません、。で? いつ帰るんですかねえ?」

「……あまり不機嫌にしても配信で何言われるかわからないから、そろそろお暇しようかしら」

「出来れば二度と──もういない……ほんと困った女神だ」

 

 居城と彼の精神に安寧が戻る。

 

『──化け物が』

『子犬達の住処より長く生きてる女神にとって、3000年ちょっと生きてるだけで自分を最強と驕り、力のままに動く存在は滑稽に見えるのだわ』

『この恨みは必ず、必ず晴らしてみせます』

『遺言はそれでいいのかしら? じゃあね、坊や』

 

 瞼を閉じれば、その裏にあの時を鮮明に映し出すことが出来る。当時の全力を以てしても届かなかった白の翼。

 人間に化け物扱いされていた彼が、初めて誰かを化け物扱いした日から数百年。

 シモベからは良く牙が抜けたと言われるが、それもいいのかもしれないと彼は考える。

 

「さて、次の配信は……」

「あ、聞き忘れたことがあったのよー、ギル子もっと出して欲しいのだわー」

「帰れ!」

 

 他人から血を吸う側だった彼。今では他人から時間を吸う様になり、そして他人に時間を吸われるようになった。

 血液問題も、開発されたVirtualBloodと呼ばれる飲料で解決したために人間を襲う意味もない。

 

 何より、時間を持て余していた過去と違って今は時間が足りないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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