にじさんじ短編まとめ   作:まむれ

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育ち盛りの三人

「「「かんぱーい!」」」

 

 明るい店内に三人の声が響く。今日はその三人が予定を合わせて夜ご飯を食べようとなった日。

 その中の一人、金髪の少年が二人へ紙の招待状を送るという古風な方法で招いた。「高級料理店に」と強気で。もう一人の少年と先に合流し、その後若干遠い場所にいる少女を金髪の少年が呼びつけたリムジンで迎えに行く。それゆえに、レストランに着いた頃にはとっぷりと日もくれた頃だ。ただし、レストランと呼ぶには大変苦しい場所だった そのお店は、ファミレスの中でも特に安いと評判のチェーン店だったからである。

 高級料理店とは真逆の場所。しかし招待された二人は何も不安などない。大事なのは三人で集まることなのだから。──もちろん、高級料理店のネタで弄りはするが。

 

「なんだかんだ、こうやってゆっくりご飯食べるのは久しぶりじゃない?」

 

 飲み放題のドリンクバーコップをぶつけて鳴らしたあと、喉を潤してから真っ先に少女が口を開く。肩まで伸びる黒い髪は左に細い三つ編みが一本伸びていて、それ以外は伸ばしたままにしていて、毛先はやや跳ねている。

 そんな少女は学校指定のグレーと白の制服の上に濃紺のカーディガンを羽織り、枕を抱えながらご飯をつついていた。

 

「そうだなー、俺も忙しくて中々合わせられない」

「……なんか俺様が一番暇みたいだな」

「何言ってんの、もぐもぐ君は実践組なんだから」

 

 次に、二人の少年がそれに同意をする。

 一人が金髪の少年。リムジンを持ち出したのでわかる通り、割と名の知れた財閥のお坊ちゃま。黄金のような煌めきを持つ短髪の中性的な顔立ちで、それらしく着飾れば女の子に見えなくもないが男だ。

 もう一人は変声期を迎えていない少年。黒のコートに黒のロングシャツ、黒いズボンに黒のブーツと黒一色のコーディネートをしている少年。中学二年生と言えば全てが通じるだろう。──実際に力を持ってしまったとの注釈がつくが。

 

 前述の少女を足して三人。ファミリーレストランに集まった内訳がこれだった。

 

「つい最近も一人とやりあったが……あれは助けられてしまったしな」

「同い年の三人組で動いてるのに、一人で突っ走るもぐもぐ君はいつまでも語り継いでくね」

「卯月家の力をもってすれば歴史書に記すことも出来るが」

「やめろ!」

「遠慮するな、『おなえどし』のよしみじゃないか」

「そうそう、卯月の言う通り」

「……くっ!」

 

 おなえどし、という単語に黒の少年……もぐもぐ君と呼ばれた彼の表情が歪む。もぐもぐ君と言われた彼の名を鈴木勝。『同い年』を『おなえどし』と、二人の前で致命的な言い間違えをして以降それを散々ネタにされていた。挙句の果てに三人組のグループ名にしようとすら言われる始末。端的に言ってうんざりしていた。

 その様子をにやにやして見る二人。少年が卯月コウ、少女は出雲霞。それが中学二年生で『同い年(おなえどし)』な三人の名前だった。

 

「勝がこんなんだし霞はほわほわしてるし、御曹司の俺がリーダーなのは自然の流れだな」

 

 ところで本日三人が集まった理由は久しぶりに三人でゆっくりしたかったこともあるが、三人の仲で誰が一番偉いかを語り合うためでもあった。

 先手はコウ。勝の言い間違えを利用した形での先制攻撃。

 

「コウの下になるのだけは嫌だ!」

 

 真っ先に反応したのは利用された勝。霞はどこ吹く風でイカスミパスタを頬張って幸せそうに頬を緩ませていた。

 対局的な二人の反応。その理由は単純で、この言い争いが起きるのはこれが初めてではなく、定期的にコウが言いだしてその度に勝が反応する。三回目辺りから霞はスルーすることを覚えた。

 

「でもこうやって今日は俺様の招待状で集まったわけだろ?」

「あのミミズが這ったような不細工な星マークがついてる紙のだな」

「は? 全身黒でキメてるくせに目は白くなっちまったのか? ミミズが這ったは言いすぎだ!」

「汚いのは認めるのか」

「前衛的って言葉を知らないらしいな?」

「知ってますうううう! 前衛的って前に行ってる様だろ! それくらいわかる!」

「はっ! 語るに落ちるとは正にそのこと!」

「二人ともうるさい! ご飯くらい静かに食べれないの!?」

 

 ……この言い争い、終始こんなものである。二人がヒートアップして、周囲を考えた霞が叱りつける。しかし少し経てばまた二人の声が大きくなり、霞が喧嘩両成敗と言わんばかりに止める。霞が三度目はないと警告しているからか、二度怒られれば二人はその日はもう争わない。

 楽しさの過剰摂取はともかく、霞に怒りの過剰摂取をさせるのは仲間としても友人としても、本意ではないのが二人の共通の思考であった。

 

「でももう一ヶ月か」

「そうね、本当にあっという間だったけれど」

「俺様もこれ程濃い一ヶ月は初めて経験した……」

 

 実はこの三人、出会ってまだ一ヶ月しか経っていないのである。しみじみと呟く面々。同じ学年であれどそれまで全く面識のなかった三人が、ここまで急速に仲を深めたのは特殊な環境に身を置いているのが大きい。

 そんな世界に身を置き、慣れようと必死に過ごせば毎日があっという間に終わるのも当然で、こうして改めて確認してやっと実感として月日の経過を感じられる。

 

「最近大きなことと言ったら勝が負けかけたのと、ドーラ様がこっち来た事だろ」

「ちょっと待って、ドーラ様がこっち来たって私聞いてないんだけど」

「おい勝」

 

 信じられないものを見るかのような目が向けられる。それに対して、勝の表情は完全にやらかした人のソレだった。

 

「……ご、ごめんちょっと俺様も慌ててて言うの忘れたんだ」

「ねぇ」

「ごーめーんって!」

「いきなり勝から女物の服を何か用意しろって言われてついに目覚めたのかと思ったぞ」

 

 霞が勝に詰め寄る。ドーラと呼ばれるのは女性で、彼らの所属するチームの一員であり、異世界に存在する現実に会えない仲間、であった。過去形であるのは彼女がこちら側への通行手段を偶然手に入れたためにいつでも会えるようになったからだ。

 それを二人が知っていて、自分だけ知らなかったのが霞は詰まらない。もっと早く教えてというか、さっさと連絡してその日に会わせてくれと言いたかった。

 

「そんな大事な事言ってくれないとか泣くよ私?」

「待って! ごめんほんとごめん」

「勝ぅ! お前ほんと女泣かせるなんて酷いな!」

「卯月も私には連絡くれなかったよね」

「いやちょ」

 

 蚊帳の外からこれ幸いと友人を攻撃したコウだが、残念ながら当日会っている以上飛び火は避けられない。

 

「いや俺は服渡しただけで当日めっちゃ忙しくてそれ以上居れなかったんだよ!」

「でも連絡くらい、できたでしょ?」

「いやだって勝がしてるもんかと」

「会った後も連絡なかったけど」

「いやそれは忙しくて」

「……」

「……」

「…………」

「きょ、今日は俺の奢りだ!」

 

 卯月コウ、轟沈。ちなみに鈴木勝はとっくに出雲霞へ屈している。ただし対価は「なんでも一回言う事を聞く」とありきたりな約束だ。何か買うかお出かけに誘おうとしても、持ち合わせがほとんどない。

 むすっとしている霞も奢りと聞けば多少は気が晴れる。パスタ以外にもう一品と、オマケでデザートも、だ。

 

「コウがこう言ってるし、勝も御馳走になったら?」

「えっいやそれは」

「いやどうせ奢るなら勝のもいいだろう、御曹司だからな……!」

「無理しなくても」

「いやマジでこれくらいなら問題ないからな」

 

 こうして勝も奢られることになった。金銭的に余裕のない彼にとっては大変有難く、相手がコウなので遠慮なく注文を追加するのだった。

 ちなみに三人合わせて4200円分。いくら育ち盛りと言えよく食べるな、とコウが震えるまであと十数分。

 

 

────

 

 

 会計も終わって帰り道。ふと勝が立ち止まる。数歩先、あるべき姿がなくなったことに気付いて止まったのが二人。

 

「どうした?」

「まあ待て、少し聞け」

「何だよ」

「おなえどしと言うのは、言い間違いじゃない!」

 

 何を言い出すかと思えば、『おなえどし』に関することだった。実はこの日に備えて勝はずっと考えていた。考えて考えて、身近な人を頼り辞書を引き、そうして答えを見つけた。これならば納得させられるのではないかと自信すらある。

 しかし、右手を顔にかざしてしたり顔で宣言する勝を見る二人の目は冷たい。今更何を取り繕ってんだとその目は言外に語っていた。

 だがこれは彼にとって予想していたこと。ちょっと怯みはせども止まることはない。

 

「俺様達が所属してるチームはSEEDsだろ?」

「確認する事でもないな」

 

「SEEDsは種、俺達はこれから花に至る未来の途上、やっと芽吹いた苗なんだ。ほぼ同時に芽吹いた苗。だから『おなえどし』なのさ」

 

 決まった。そう思ったのは勝だけである。

 

「へーそう」

「本気だぞ俺様は!」

「おーすごいな勝、よく考えたんだな」

「だーかーらー!」

 

 相変わらず変わらない目に平坦な声。抗議の声をあげるも霞の反応は変わらず、コウはさっさと歩きだす始末。

 しかしこれ以上の問答は時間が許してくれない。現在時刻、22時を過ぎて少し。

 

「ま、いいんじゃないか! 霞、勝、帰っぞ!」

 

 コウの声に二人も慌てて歩みを早める。どんな世界に身を置こうと彼らは中学生、どんな敵よりも今は警察に補導される方が怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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