荒れた教会の敷地を、迷うことなく闊歩するユエの後ろ姿を見て、ダンテは思う。
「(二本も、剣を持ってたなんてな。さっきは一本だけを使ってた。敵によって二刀流にすんのか? それに、見たことねぇモンを腰にぶらさげて。魔力の系統がちぃと、ちげーようだが、魔具なのか? んん、それにしてもいい尻だ)」
「lpmplp」
「お? ――……あー、メインディッシュになっちまったか」
「Pyplpmplo mp jpoks Okslstd. Nytdulr vjpypzsyyr」
「おいおい、そんな早くちゃなんも……」
今度は辺りを見回しながら、うろつき始めたので、言葉を続ける事が出来なくなった。ある一定を歩けばしゃがみこんで、また別の場所へ移動し辺りを見回して、幾分経っただろうか、メイベルの元へ案内した時のように一点を目指して、小走りで向かう。
「Lppyo! JsusliLoyr!」
「待てよ!」
手入れがされなくなった庭園の残骸は、入ったら出られない樹海のようだった。不法投棄された自動車が何台もある。
「Mszsrjd?」
彼女は、名乗り合った時のダンテのように、己とダンテを指して、アンドレの写真を指す。
「名前を聞いてるのか?アンドレ」
「ア、ダァ?」
「ア、ン、ド、レ」
「……アンドレ」
「そうそう」
「Lplplstd Dizryrtmoyplptpbu Deozrujsmmpihd stimo.dorehsアンドレmemold Upnolslryr」
彼女は口の横に手を当てて、まるで呼びかけるようなジェスチャーで、ダンテへ意図を伝えようとした。ダンテは、普段が怠けていても、頭はキれる男だ。その意図を汲み取る。
「……あーはぁ。アンドレ! いるのか? お前のお友達三人に頼まれて捜しに来たぞ! アーンドレーー。返事しろー」
ここに到着してから、ダンテとユエは、声をひそめることもなく会話をしているので、存在は容易に伝わるはずである。それでも、茂みから助けを求める声は、上げられなかった。となると捜し人は、ここに居ないか、死亡しているか。そう、ダンテは思いながら、可能性があるならば、とユエの勧めどおりに呼びかけを行った。
「こ、こだ……」
どうやら、敵か味方か判断がつかずにいたため、息を潜めていたようだ。
「おお、生きてる。出てこいよ、もう大丈夫だ」
しかし、足を食われて歩けない、と辛そうな弱々しい声色で返してきたので、ダンテが草木を掻き分けて、すぐ近くにいるはずのアンドレを捜す。草木の丈がダンテの腰近くまであるので、中々彼を見付けることが出来なかったが、ユエが導いてくれて見つけ出せた。
「よお」
「……ども」
力弱く挨拶したアンドレは、ボロボロだった。
食い千切られた足の止血に、着ていたTシャツを使ったらしく半裸で、その上半身も、ところどころ切り傷がある。
「その拳銃で、一晩切り抜けたのか?」
「ああ……」
「ガッツあるな。野郎を抱き上げる趣味はねえんだが、しかたねぇ。まずは病院だ。ユエ、お前も来いよ。―― ユエ?」
ここでお別れ、というのは至極嫌だと思ったダンテは、ユエに着いてくるよう要求したが、当の本人は、先程の拓けた場所を睨んでいた。
さっと剣を抜き、そちらへゆっくりと歩いていく背中を、訝しげに見ていると、見覚えのある円陣が、幾つも宙に現れ始める。あれは、悪魔が人間界へ侵入してくる時の門だ。
「ユエ、俺がやる。おい!」
「dju, djoxulsmu!」
「だぁっ。ったくよぉ」
こちらを向いてくれないので、ダンテが彼女の元へ行き、ジェスチャーを交えて算段を伝える。
「あれは、俺の仕事。お前は、アンドレを護れ。分かったか?」
「Eslldys」
入れ替えに、ユエがアンドレの元で待機。
満身創痍のアンドレの頭を優しく撫でて、不安感を取り除こうとする彼女の表情は、とても穏やかで、釣られてアンドレも笑みを浮かべた。しかし、すぐにその笑みも固まる。微笑む彼女が、人間の瞳孔をしていないからだ。
「あ、く……ま?」
「lpesu? lpihelodjomsutp」
「………」
怯えを見せた彼に気遣い、苦笑いで触れることは止め、体ごと周りの警戒にあたった。
2人が妙な緊張感に包まれている中、
「フゥーイヤッホー! ガンスリンガー!」
ダンテは、楽しみながら悪魔を倒す。二十体ほど居たピエロのような悪魔が、すでにもう数体になっており、その残りも愛銃二丁の連射に依り、あっという間に体を塵にした。
「ヒーハー! ユエっ、見てた? どうよ、この俺の銃さばき」
ガンスピンをさせてホルスターへと仕舞い、芝居じみた動きで両手を広げながら、ゆったりと2人の元へ戻ってくる。彼女も、脅威が無くなったと判断したのか息を、剣を背中に固定している鞘へと納めた。
「pyijstrdsms. dptrku esysdokflptrfr」
「待て待て、着いてこいって」
さようなら、と手を振る彼女の腕をさっと掴むも、肩を回されて振りほどかれる。ふう、と息を吐くとウエストポーチから一枚の紙を出して、ダンテとアンドレの前に広げて見せる。それは、若めの男性の似顔絵だった。
「esysdonp joupepdshsdoofrti. jdudlifunsoyp nokijetstrmdlimdto」
「んーと、……人捜しか? なら、今度は 俺が手伝うよ。な? だからちょっと待っとけ」
「ldtrei Kfiflojokr」
「ん? アンドレ? こいつぁ、これから病院に連れてくから、あ! おいっ、ユエ! ――はあーあ……。しゃあねえ、さっさと行って戻ってくるか」
三、四十分後には、教会の敷地へ再び足を踏み入れていた。
無論、依頼人らには連絡を入れ、メイベルの事や怪物の事は本人たちが警察へ説明するよう言ってある。ダンテの仕事はあくまで『人捜し』。その後は、依頼外なのだ。
早く、彼女とコンタクトを取りたいダンテだが――……。
「いねぇ……」
もともと、見通しの悪い雑木林の中以外は、見晴らしがいい。霧がなくなった今、建物の影になっていない限り、ひとがいるなら簡単に姿を見つけられる。しかし、肝心の彼女の姿は、なかった。
触り心地が良さそうな髪は、後ろで纏められて、染めているのかペパ ーミントグリーン。獣を連想させる瞳孔の瞳は、レモンイエロー。長目の剣を二本携え、無駄のない動き、恐らくその裸体は、とても引き締まっていて芸術的だろう。
「参った」
悪足掻きに、彼女を捜して教会の敷地を探索する。悪魔ではなかった脅威は、塵にならずそのまま転がっており、メイベルもそのまま。
「――……教会ん中に布あればなぁ。さすがに可哀想だ」
蔦で覆われ、無法者のスプレーの落書き――当人達にとってはアートであり、縄張り主張だろう――で、かつて神聖を放っていた教会は、邪悪を醸し出す廃墟と化していた。
廃れた木の扉を開けて中に入り、目的の物を探す。椅子の埃避けの布が辛うじて残っていた為、それを持ち出してメイベルに掛けてやる。
そして、これだけ歩き回っても、ユエの姿を見ないということは、もう此処に居ない確率が高い。
「ま、目立つからなんとかなるか」
その心持ちが当たっていたことが、その夜、早々に判明した。