インフィニット・ストラトス 迷い龍は空を目指す 作:ガクジン
感想はオブラートに包んでいただけると嬉しいなと思うチキンです。
昔、俺の原風景ともいうべき光景。
航空自衛隊の航空ショーで見た、俺の親父の乗る戦闘機が飛ぶ姿。
何よりも自由に見えた。
憧れた。
だから、俺も空を目指そうと、そのとき思ったのだ。
だけど。
篠ノ之束。
やつが作った、IS、白騎士。
やつが起こした「白騎士事件」
白騎士の迎撃に上がった親父は、白騎士に撃墜された。
死ななかった。親父は死ななかった。
だけど、そのあとのIS優遇政策において、大勢の自衛官が退職を強要され、白騎士を止められなかった親父もまた、その責任を取って自衛隊をやめた。
親父から、空を飛ぶ翼は失われた。
それは、俺以上に空を愛していた親父から、何か大事なものを取り去るのと同じだった。
翼を失った鳥は生きていけない。
それと同じだ。
表面上、親父は自衛隊をやめても俺達に対しては何も変わらなかった。
もともと父子家庭で、母もいなかったから、家族は何も変わらなかった。
俺と、妹と、親父。
三人の家族。
だけど。
俺は、妹は。
絶対に感じていたのだ。
もう、親父は死んでいると。
魂を、あの空においてきたのだと。
そして、その通りだった。
なんてことない、事故だった。
親父の判断力が昔のままだったら、三人とも助かった筈の事故だった。
暴走トラックが、歩道に突っ込んだ。
でも、前兆はあったし、見えてもいた。
なのに、助かったのは俺と妹だけだった。
俺たち兄妹は、傷一つなかった。
親父だけが、死んだ。
表面上、俺たちをかばったように見えたけど。
周囲はそう見ていたけれど。
俺たち兄妹だけは知っている。
最後の瞬間親父が見ていたのは、命を奪うトラックでも、俺たち兄妹でもなく。
ただ、蒼い空だけを見ていた。
そして、そのまま死んだ。
だから、というわけではない。
だけど、俺の空への思いは、妄執となって俺を苛む。
空へ、空へ、空へ!
誰も見たことのない空へ。誰も上がったことのない空へ。
そこに、親父の魂は置き去りのはずだから。
そこに、俺の魂も連れて行かれたから。
だから、俺は、ひたすらに空を目指す。
そのためなら、どんなものもくれてやる。
だから。
「後悔するよ?今この瞬間、決意したら、もう戻れない。人間をやめる。子供は残せない。君の血を継ぐ者はいなくなる。精神を病む可能性だって高い。寿命だって短くなる。機械の助けなしに生きることすら不可能になる。それでも。それでも君は空を目指すのかい?」
やつはそう言った。それは悪魔との契約を迫る奴の言動ではありえない。本心からやめろと言っている。やめろと。そんなことをしなくても生きていけると。
でも。それでも。
行かなくてはならない。いや、行きたいのだ。
この俺が、わずか10年しか生きていない鯉淵龍というガキが。決めたことだから。
誰も飛んだことのない空。誰も行ったことのない空。
親父がたどりつけなかった、あの空に。
俺が継いで行くのだ。
そして、願わくばその途中に、あの白い騎士が居ることを願って。
「よろしい、契約は成された。君を、AMSの被検体として迎え入れよう。ようこそ、如月へ、鯉淵龍。君を歓迎する」