インフィニット・ストラトス   迷い龍は空を目指す   作:ガクジン

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注意
 かなり時系列が飛びます。具体的には前話から一か月ほど。留意してお読みください。
 


8 クラス対抗戦

 

 

 結局のところ、今の俺は久方ぶりに平穏な生活をしていて、少々なまっていたのだろう。

 そう考えなければ、アアもあっさりとアリーナへの侵入を許すわけもない。

 クラス対抗戦の第一試合、半月前から一夏と喧嘩中の凰。

 さて、どうなるかと考えていたところ、そこでようやく脳内レーダーが接近する熱源を感知。

 普段の俺なら、もう少し早く確認できたはずの距離。

 だが、その日の俺はずいぶんとなまっていた。

 警報を頭の中で出して、アリーナから飛び出し。

 直後に轟音がアリーナから響いた。

 

 

 

 

 

 

 目の前に迫る甲龍の双天牙月、その刃を雪片で防ぐ。烈火のごとく怒る鈴は、二刀もちの回転力を生かして一気に攻めてくる。叩きつけられる一刀を受け流し、続いて来るもう一撃を防ぐ。

 

「叩き潰してあげるからさっさと落ちろ!」

「だからなんだよ約束って!」

 

 鈴が怒っている理由は単純。中学時代に鈴とした約束を俺が中途半端に忘れていたかららしい。

 ちなみにその約束は、鈴が帰る直前にしたものだったようで、俺も随分混乱していたのは覚えている。

 

「だから毎日酢豚おごってくれるんだろ!」

「っ!内容はほとんどあってるけど違う!この最低男!」

「だからもう一度教えてくれ!」

「ふざけんな!」

 

 俺の当時の混乱ぶりと、内容から察するに大体は分かったが……いやいや、ねーよ。

 まさか、なあ?

 

 白式のパワーに任せて双天牙月を弾き返し、隙を見せた鈴に体当たりをかける。しかしノーモーションで放たれた衝撃砲に弾き飛ばされ、距離が開く。

 

「思いっきり叩きのめした後でゆっくり聞かせてあげるわ!とりあえず落ちろ!」

 

 衝撃砲が乱射され、俺は後退を余儀なくされる。射撃兵装がない白式、近づけなければ話にならない。砲身も発射炎もない衝撃砲は事前に察知するのが困難で、音でかろうじてかわすが避けきれるものでもない。

 みるみるシールドエネルギーが減っていく。零落白夜も残り一回程度。

 仕方がない、突撃あるのみ。ごちゃごちゃ考えてる暇はない。

 

「いくぞ、鈴!」

「はっ、その状態で、なにを、っ!」

 

 全開出力。衝撃砲の射線を鈴の目線から推測、避ける。そのまま一気に突撃。機動力もそこそこ高いとはいえ、甲龍はバランス型。近接戦闘に特化した白式に比べれば遅い。

 それに、大体衝撃砲の感覚もつかめた。空間に圧力をかけて発射するという仕様上、とっさに発砲しようとしてもできないのだ。

 ラグは一秒以内とみたが、とっさに撃てないことには変わりない。

 一気に加速、雪片を構える。零落白夜は使用しない。

 大上段から降りおろし、双天牙月の片方を叩き折る。そのまま地を這うような斬撃を放つ。

 甲龍の胴に雪片の刀身が叩きこまれ、ダメージが通ったのか鈴の顔がわずかに歪む。その顔を見て闘志が少し萎えるが、手加減はむしろ鈴に対して悪いだろう。

 突きの構え。ブースターを全開にして突撃。渾身の力を振り絞って叩き込む。

 

「あまいよ、一夏」

 

 そして、衝撃砲に殴り飛ばされた。

 

「マジ、かよ」

「ふふん。あれくらいのダメージ、何ともないわ。私の集中力を乱すには足りなかったわね、一夏」

 

 斬撃を食らいながらも、衝撃砲の照準を合わせていたらしい。なんてやつだ。

 

「ええい、まだだ、まだ終わらんよ」

 

 何となくそういってから、雪片を構える。再度突撃。

 そして、アリーナの天井とシールドを突き破って、全身装甲のISが降り立った。

 

 

 

 

 

 

 一夏はまったく朴念仁だ。日本から離れる前に、私が勇気を出して言った言葉。

『料理上手くなったら、毎日私の酢豚食べてくれる?』

 まあ、誰がどう聞いても告白だと思う。私自身、そう思う。

 当時の私は、両親の離婚話が決まっていて、険悪な家に疲れてた、と言うのもある。

 生まれたときから一緒にいる両親すら、私から離れていく。なら、確かな物なんて何もない。

 私自身は母に親権があるといわれていたが、この離婚の原因は母だ。

 父は、ただ寡黙な料理人で、だから母があんなことするなんて思っていなかったんだろう。

 不倫。発覚して、母はすがすがしいまでに開き直り、父を責め立てた。

 どれほどひどい夫で父親かと。

 私はそうは思わない。父はいつも優しかったし、一家の大黒柱としていつも泰然としていた。

 だけど、街の中華料理屋の妻は、母には不満だったのだろう。青年実業家と不倫して、離婚まで持ち込んだ。

 女性優遇の世の中だ、親権はあっさり母に渡った。母は私を少なくとも愛していたらしい。

 それはわかる。だけど、私は食べた人が誰もがうまいという、父の料理と、厨房に立つあの背中が好きだったのだ。

 時々、料理も教えてくれたし、乱れなくふるう包丁さばきはかっこよかった。

 でも、離婚話が持ち上がり、険悪な空気が家に流れ始めてからは、私は家に寄りつかなかった。

 父の料理は間違いなくまずくなったし、母はいつも怒っているか、私に新しい男性はどんなにいい人かと説いていた。

 それが、とても醜悪なものに見えて、だから私は家に帰らなかった。

 いつも友達の弾と一夏と三人で遊び歩いて、千冬さんがほとんど家に帰らないことをいいことに一夏の家に無理やり泊り込んでいた。

 お互い子供だったから別に何もなかったけれども。

 そして、私が作る料理はあまりうまくなかったけれども、一夏はいつも残さず食べてくれたし、だから私は一夏なら私と一緒にいつまでもいてくれると思ったのだ。

 それだけと言うわけでもないけれど、中国に帰ることが決まった後、あんなことを言ったのだ。

 今度会う時上手い料理を作れていたら、付き合ってほしいとそういう気持ちを込めて。

 

 結局一夏は中途半端に約束を覚えていて、なんとなく裏切られたような気分になってそれから一夏と喧嘩中。

 ま、こんな奴なのはわかってたし、私も結構恥ずかしいから水に流してもいいかなとか思ったけど一夏が結構頑固だから流されて決闘まがいのことをしている。

 ま、一夏を叩きのめしてからあとのことは考えよう。

 そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アリーナの中央に降り立った全身装甲のISは、俺と鈴をにらみつけると、両腕の砲を構えた。

 

「一夏、試合は中止よ、さっさと逃げなさい!」

「お前はどうするんだよ?!」

「時間を稼ぐわ。アレはアリーナのシールドを突き破ってきた。今逃げたら観客のみんなが危ないわ!」

「なら俺も」

「白式で実戦は無理よ。刀一本じゃ、死ぬわ」

「だからってな……!」

 

 鈴が様子を窺うようにじりじりと動く。それに気づいたのか、正体不明のISは、突如鈴に向かって巨大な熱線を放つ。

 

「あぶねぇっ!」

 

 俺は鈴をとっさにさらい、そのまま離脱。

 

「ビーム兵器かよ。セシリアのバスターモード並じゃねえか。しかもノーチャージ……」

 

 鈴が俺の腕の中で暴れる。

 

「ちょ、あんたどこ触って」

「ち、来るぞ」

 

 放たれる砲撃を一気に躱す。照準は正確だが、規則的で、躱すのは容易だ。

 そう、正確なだけ。セシリアや龍の砲撃とは比べ物にならない。

 

『織斑君!凰さん!今すぐアリーナを脱出してください!先生たちが制圧に行きます!』

 

 通信が入る。山田先生だ。

 

「いや、先生たちの到着まで俺たちが食い止めます。シールドを破ってきたんだ、時間を稼がなくては」

『それはそうですが……生徒さんを危険な目に合わせるわけには』

「これでも専用機もちです。非常時には盾になるくらいは覚悟しています」

 

 そう、それくらいは覚悟しなければ専用機なんて持ってはいけない。全世界で467機、その一機を拝領しているのだ。

 

『………わかりました。極光が2分後にアリーナに突入します。2分間、耐えてください』

「了解です。龍に遅れるなって言ってください」

『わかりました。死なないでくださいね』

 

 通信が切れる。俺は腕の中の鈴に言った。

 

「わりぃ。付き合ってもらうぜ、鈴」

「わかってるわよ。それより降ろしなさい、動けないじゃないの」

「それは……暇がない」

 

 言いながら放たれた砲撃をさらに躱す。

 

「空気が読めない奴だな。女に嫌われるぞ!」

「あんた、鏡見てから言ったら?」

 

 どことなく冷淡な鈴の言葉を聞き流し、白式を加速。規則正しい砲撃を躱し、隙を見て鈴を降ろす。

 

「鈴、とにかく牽制を頼む。隙を見て俺は突撃するから、その隙を作ってくれ。2分凌げばいいけど、観客席に奴が向かわないように気をつけないと」

「2分ね。ま、ブラック・デーモンが来るならあんなの余裕でしょうね、わかったわ」

 

 鈴が言って、衝撃砲を展開。

 

「どっかの誰かさんに双天牙月片方折られちゃったからね。思うさま憂さ晴らしてやるわ」

「悪かったな。今度何か奢るから勘弁してくれ」

「へえ?わかってるじゃない!」

 

 鈴が言って、衝撃砲を撃ち放つ。全身装甲はその砲撃を正確な機動でかわすが、ずらして放たれた2弾めを至近距離で受け、大きく体勢を崩す。

 

「隙あり」

 

 俺はつぶやくと、一気に加速。さらに。

 

「イグニッション・ブースト」

 

 つぶやき、PICの出力を一気に解放。周囲の景色が消えるように動き、一瞬で間合いを詰める。

 龍と山田先生にこの一か月付き合ってもらって手に入れた、この機動。PICの出力を瞬間的に開放して爆発的な加速を手に入れる。

 爆発的にかかるGを凌ぎ、雪片をふりおろす。敵機は掲げた左腕で凌ごうとするが、そこに装備された加粒子砲を一基切り落とす。

 

「鈴!」

「やるわね、一夏。任せなさい!」

 

 離脱する俺を追撃しようとする敵機に、衝撃砲が突き刺さる。俺はその隙に離脱する。

 

「これで火力の4分の一を削いだ。ちょっとはやりやすいか?」

「上出来よ」

 

 牽制の衝撃砲を撃ちまくる鈴。敵機は無様によけながらビームを撃つが、その射撃は俺たちには当たらない。

 

「火力は脅威だが、攻撃も動きも稚拙で単調だな。だいたい、あんなIS見たことあるか?」

「ないわ。どこかの極秘開発機かもしれないけど」

「ま、そうだな。しかし、倒すことは難しいかもしれないが、凌ぐなら……」

 

 俺が言いかけたその時。敵機が胸部の装甲を開く。

 

「一夏、よけ―――」

 

 鈴が言い終わる前に、開かれた装甲から凄まじい砲撃が俺たちに叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 格納庫に俺は走る。今日、この日に限って、極光はある武装を装備するためにハンガーで作業をしているのだ。

 とんでもないミスだ。どこまでなまった、俺は。少し考えれば、クラス対抗戦なんて言う通常行われないイベントがある日が、攻撃するにはねらい目なことくらいわかりそうなものなのに。

 

「クソが、俺のせいかよ、結局……」

 

 平和ボケは、かなり恐ろしいものだ。そう思いながら、格納庫に飛び込む。

 

「RM!」

「極光起動準備完了、システムオールグリーン。時間がないから例の武装は装備したままさぁ。ま、これならアリーナの壁もシールドも何もかもぶち破れるねぇ。ある意味都合がいいのかなぁ?」

 

 極光に取りついていたRMがいつも通りに笑いながら言う。どうやらアリーナの様子をのぞいていたらしい。

 

「知るか。出すぞ」

「ひひっ、いやぁ、久しぶりに見たねぇ、君のそんな顔?」

「なんだと?」

 

 そう思って。ようやく気が付く。俺は笑っている。

 どうしようもなく。笑っている。

 アリーナのシールド、それを貫くほどの敵がいる。

 それに、歓喜している。

 

「ははっ、何も変わらねえな」

「君は変わらないさぁ。変わるものかよ」

「そいつは……いいことじゃないんだろうなぁ」

「世界にとってはねぇ?でもまぁ」

 

 RMが嗤う。

 

「さっさと叩き潰してきたらどうだい?君の、敵を。その暴虐の牙ですべて食いちぎり、薙ぎ払ってきたらいいさ。その先に君の求めるものがあるというならねえ」

「ああ。奴らに教えてやる」

 

 極光を装備。背部に装備された巨大な規格外六連超振動突撃剣。

 コード、GRIND BLADE。

 左腕はあらかじめ外されており、エネルギー供給用のコネクタが左腕のジョイントに叩き込まれている。

 これこそが工業連開発三課が開発した対IS用規格外兵装。その最新モデル。

 どこかのイカレた妹が作った、完全なオーバーキル専用兵装。

 直撃すれば、ありとあらゆるものを終わらせる兵器。

 

「圧倒的な攻撃力、原初において力こそがカミであることを」

 

 唸りを上げながら極光が起動。背部のブースターに干渉しないように装備されたブレードは、しかし恐ろしく重量バランスが悪い。

 

「腑抜けた牙など俺には通用しない」

 

 ISコアが猛りを上げる。凄まじいエネルギーをグラインドブレードに奪われている。それがあたかも力をふるえる歓喜の叫びに聞こえて、俺はさらに笑う。

 

「さあ、始めよう」

 

 重い足音ともに、極光が歩き出す。

 

「すべてを焼き尽くす、暴力を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砲撃をかろうじてかわした俺は、とっさに鈴を探す。砲撃はあろうことか、シールドをぶち抜き、アリーナの天井を引き裂いている。今はシールドは回復しているようだが、あんなものが観客席に放たれたら、阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

 そんなことを考えながら鈴を探す。あれほどの砲撃を放った直後だというのに、敵機はまた俺にたいして攻撃をかけてきている。それを躱しながら、探し。

 見つけた。

 黒焦げの甲龍と。

 赤い染みを広げている鈴が。

 地面に落ちている。

 

「あ……?り、ん……?」

 

 見ている間にも、どんどん染みは広がっていく。ハイパーセンサー越しには鈴がかろうじて息をしているのは確認できるが、その左腕が炭化しているように黒ずんでいるのが見える。

 

「鈴、鈴!」

 

 地面に降り、鈴を抱え上げる。放たれた敵機の砲撃を避けて上がり、回避機動を行いながら鈴を呼ぶ。

 

「おい、返事しろよ、なにやってんだ……!」

 

 俺が抱え上げた直後、甲龍が光になって消える。活動限界。ISの致命領域対応で鈴を生かしているのだろう。

 そうして抱えた鈴は何時かと同じくとても軽く。そのまま消えてしまいそうなほどだった。

 なんで。俺を助けようとして。

 そうだ、俺があんな砲撃から避けきれるわけがない。鈴がかばったのだ。零落白夜を使えば、凌げたかもしれない。

 だが、俺は竦んでいた。だから鈴が庇った。

 これが、結果だ。

 ふざけるな、何が盾になる覚悟だ。

 盾にしてるじゃないか、他人を。

 きれいごとばかりで、何をやった。

 

「殺してやる……」

 

 目の前の敵機。鈴を抱いて、俺は怨嗟のうめきを上げる。

 

「殺してやるぞ……!」

 

 左腕で、雪片を逆手に構える。今は急機動はできない。鈴を抱いているのだ、そんなことをしたらPICの補助を受けれない鈴は死ぬ。

 零落白夜は使えない。そんなエネルギーは白式には残っていない。

 ならどうするか。龍が来るのを待ち、鈴を預け、奴をなますに斬る。

 ああ、それでいい。それだけだ。

 

「だから……さっさと来いよ、鯉淵龍―――――!!!」

 

 そう、俺が叫んだ瞬間だった。

 

『待たせたなぁ、一夏』

 

 通信機から流れた声とともに。

 

 アリーナの壁がはじけ飛んだ。

 

『オォォケェェェッッッッ!!!!!』

 

 黒い装甲が、巨大すぎる剣を構え。

 

『レェェッッツ!!!』

 

 アリーナのシールドを紙屑のように引き裂きながら。

 

『パアアアァァァリィィィィィッッッ!!!!!!!』

 

 現れる。

 

 

 

 

「ハハ、ハハハ、ハハハハハッ!!!!」

 

 俺は笑う。その黒い機体を見て笑う。

 あれなら殺せる。敵を殺せる。

 だが、それは。

 

「やらせねえぞ、龍……」

 

 遅れて飛び込んできた、青い装甲、セシリアのブルー・ティアーズ。

それを見ながら、言う

 

「そいつは、俺が殺す。俺が……」

「一夏さん……?!凰さん、ひどい怪我を!」

 

 近づいてきたセシリア。

 

「セシリア、鈴を頼む」

「そ、それはよろしいですが……一夏さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。俺はちょっと」

 

 雪片を構えなおし、巨大な剣を構えて突撃する極光と、全身装甲を見据える。

 

「あの屑鉄、なますに斬ってくる」

「い、一夏さん?!」

 

 止めるセシリアを振り切り。俺は一気に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 通信機越しに一夏の叫びを聞く。巨大なブレードを構え、アリーナの中の真耶教官に突入ポイント周辺から生徒を退避させるよう指示してから、俺は言った。

 

「待たせたなぁ、一夏」

 

 つぶやき、先ほどの一夏の叫びを。怒りに染まった声を思い出す。

 そして、グラインドブレードにエネルギーチャージ。ブレードが展開、回転を始め、凄まじいエネルギーが解放され。

 

「オォォケェェェッッッッ!!!」

 

 突撃。アリーナの壁をぶち抜き、突入。目の前のシールドも、紙屑のように引き裂く。

 

「レェェェッッッツパァァァリィィィィッッ!!!!!」

 

 吼えながら、アリーナに降り立つ。直後にオルコットもブルー・ティアーズを展開して突入したのが見え、俺は一夏のところに行くように指示してから、敵機に相対する。

 

「さぁ、始めようぜ、アンノウン、いや、篠ノ之束?」

 

 見ている機体は、白騎士と同じデザインが見て取れる全身装甲型IS。と言うことは、おそらく裏には束がいる。

 なら、あの天災が作った機体なら、普通のISではないだろう。見ればアリーナの天井に大穴があいている。

 どれほどの火力か。わくわくする。

 

「この頃、少々なまっててな……」

 

 放たれた熱線を滑るように回避、再びグラインドブレードにエネルギーをチャージしながら吼える。

 

「錆び、落とさせてもらうぜ!お前でなぁッ!」

 

 突撃。まだチャージは終わっていない。だから、蹴り飛ばす。たたらを踏んで後ずさる敵機。俺はそれを追撃しない。

 否、できない。

 グラインドブレードは、使用時に膨大な熱をまき散らす。それはもちろん攻撃力にも転嫁されているのだが、そんなものを至近距離で使用しているISもただでは済まない。

 すでに極光は熱暴走が始まっており、システムが正常に作動していない。できることと言ったら、FCSがとらえた目標に突撃して破壊をまき散らすことだけだ。

 今のけりが留めだったらしく、AMSを通じて極光の各部が機能停止していくのがわかる。

 だが、まあ。ハンデにはちょうどいいだろう。

 そう考えた時だった。

 

「どけよ、龍」

 

 聞き覚えのある声が、した。

 

「どうした、一夏……?」

 

 見れば、白式が突撃してくる。しかし。

 その顔は殺意で染まっていて。それを見て、熱くなった頭が一気に覚めた。

 

「そいつは俺が殺す。俺が殺さなくちゃならない」

 

 全身装甲が一夏に向かって弾幕を張る。動かない俺は脅威ではないと判断したのか、それとも。

 冷めた頭が、急速に回り始める。

 

「そうか、なら冷静になれ」

 

 だから俺は、ただそう言った。

 

「冷静?冷静だよ、俺は!」

「どこがだ。殺すんだろ、そいつを。なら冷静に見ろ、お前、真正面から行って斬れる訳がないだろう」

 

 弾幕を潜り抜けようとする一夏だが、無理だ。今の一夏はそこまでの腕はない。

 なら。

 

「サポートしてやる、隙を見つけろ」

 

 俺はそういうと、敵をにらむ。

 すでに熱暴走は危険領域をはるかに超えている。限界以上の出力を要求されているコアは悲鳴を上げており、稼働時間は残り十数秒。

 十分だ。

 

「俺が突撃する。隙を見つけたらさっさと斬れ。できなかったら、俺が殺すだけだ」

「……ああ。了解だ」

 

 ブースター解放。出力最大。

 

「行くぞ」

 

 直後、弾けるように極光が突撃。敵機がこちらに向き直り、発砲。

 

「きくか、そんなもの」

 

 極光は有澤製重装甲を装備した機体。連続した被弾は危険だが、二、三発ならどうってことはない。すべてを弾き飛ばし、グラインドブレードを突き出す。

 

 いよいよ危険と判断したのか、敵機が胸の装甲を開いて巨大な砲門を見せる。凄まじいエネルギーがチャージされ、発砲。

 

「それも、効かん」

 

 グラインドブレードが、ビームの奔流を切り刻む。もちろん余波は極光を削っていくが。そして、俺に気を取られた隙、敵機の後ろに回り込む白い影。最速の構え、刃の切っ先にわずかに零落白夜の白い閃光を発現させ。

 

「殺せよ、一夏」

 

 迷うな、と俺は言った。奴は、今迷っていない。

 その先はどこまでも続く嫌な道だが、それでも、自分の意思で選んだ結果だ。

 俺はそれを尊重する。

 そして、極光が力尽きて崩れ落ちるのと、一夏が敵機の背中から雪片を叩き込んだのは同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 極光に気を取られた敵機、その後ろに最後のエネルギーを振り絞った瞬時加速で回り込む。

 切っ先に、わずかに発現させた零落白夜を灯して。

 極光が、鈴を吹き飛ばした巨大な砲撃を、構えた剣で切り刻んでいく。装甲から火を噴き、バラバラになりながら。

 

「殺せよ、一夏」

 

 龍がそういって、崩れ落ちる。

 俺は、迷っていない。俺の中にこれほど暗い感情が眠っていたとは驚きだが。

 よくも、鈴を。

 俺が弱いから。

 だから、殺すしかできない。

 俺がもっと強ければ、鈴を守り切りながら、こいつを殺さずに無力化できただろう。

 だけど、俺は弱い。

 だから殺す。

 殺されたくないから。

 

 雪片を叩き込む。正確に左胸の部位に突き刺し、真横に切り開く。

 その感触は、なぜか機械的で、人間を殺したなどと言う感覚はない。

 まあ、これで俺も人殺しだ。

 落ちるとこまで、落ちた。

 そして、真っ二つになった敵機が転がり、その断面を俺は見た。

 機械しか、詰まっていない。

 

「……はは、は」

 

 俺は気が抜けて、呆然と立ち尽くした。

 

 

 

 

 極光から出る。目の前には二つになった敵機の残骸。その断面から除くのは、血と肉の塊ではなく、機械の塊。

 

「自立型IS……やってくれるよ」

 

 俺はつぶやき、一夏を見る、限界を迎えたのか白式はすでに解除されており、一夏は二本の足で呆然と立っている。

 

「とりあえず、殺さなくて済んだな」

 

 俺はそう一夏に言った。一夏は一度頷き、それから黙って泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると、見慣れない天井で、今どこにいるのか意識がはっきりとしない。

 

「……ああ、アリーナで……」

 

 クラス対抗戦の最中に乱入してきたIS、その砲撃に竦んだ一夏をかばおうと前に飛び出して。

 

「……一夏、無事かな……」

 

 そう口に出した時、横から声がした。

 

「ああ、一応無事だ」

 

 見ると、長身の青年が椅子に座って本を読んでいた。鯉淵だ。

 

「あんた……なんでいるの?」

「一夏の代理だ。あいつは少々ショックが大きくてな。今は寝てる」

 

 読んでいるのは、昔流行った小説。監獄宿、だったかな。それにしおりを挟むと、鯉淵は私を見た。

 

「お前が倒れた後、一夏は暴走した。敵ISを搭乗者ごと殺すことまで決めて攻撃した」

「……殺しちゃったの?」

「無人機だった。だが、中身がいたら死んでただろうな」

 

 あの一夏が、殺人まで決意する。私のために?哀しいけど、少しうれしい自分はきっと最低な人間だ。

 

「そっか……」

 

 つぶやいて、感情を持て余す。頭はうまく回っていないし、正直鯉淵が言ったことの中ではっきりと理解できたのは一夏のことくらい。

 我ながら都合がいい脳みそだ。

 

「お前も全治2か月の重傷だ。ま、当分はゆっくりするんだな。傷は残らないように治療すると医者は言ってたから安心しろ」

 

 そういって鯉淵は立ち上がる。

 

「ありがと」

「礼なら医者に言え。俺は何もしていない」

 

 本を片手に立ち去る姿は、いやになるほど決まっている。やっぱ背が高いとそれだけで様になるものだ。

 一夏ももうチョイ背が高いとかっこいいんだろうな、そう思ってあれ以上伸びたら私と完全に釣り合わなくなるんじゃないかと気が付いて、その思考を消した。

 

「一夏が起きたら来させる。今はゆっくり寝ろ」

「ん、そうする」

 

 そういって立ち去った鯉淵。私はそれを確認して、もう一度寝ることにした。

 

 

 

 数刻後、人の気配を感じて目を覚ます。見ればベッドの横に一夏が立っていた。

 

「どしたの?随分ひどい顔ね」

 

 私が聞くと、一夏は丸椅子に座って私の手を取って、ぽつり、ぽつりと語った。

 私が倒れた後、殺意に呑まれたこと、敵を殺そうとしたこと。

 殺したはずなのに、無人機だったこと。

 

「なあ、鈴。俺、弱いな……」

 

 一夏はつぶやく。

 

「龍みたいに強ければさ、お前を守りながら、敵も殺さないで済んだかもしれない。でも、俺は弱いから殺すしかなかった」

 

 それに、一夏は悩んでいるのか。

 

「なら、強くなればいいじゃない」

「……そうなのか?」

「そうよ。今回は殺さないで済んだんだから、次おんなじようなことがあったら、殺さないで済むような力を身につければいいんじゃない?」

 

 そう考えなきゃ、やってられないよ、そういってみる。

 どうやら私は今寝起きだからあんまり恥ずかしいとか思ってないようで。普段なら一夏に手を握られたら顔真っ赤になるかもしれないけど。今は自然に話せる。

 

「そうか、な」

「そうよ。ま、次おんなじことがあったら、守ってくれるとうれしいけどね」

「え?」

 

 一夏が驚いたような顔でいう。

 

「お姫様は女の子の憧れ。一度くらい、夢見させてくれない?王子様」

「……そうとう恥ずいこと言ってるぞ、お前」

「大丈夫、寝起きだから」

「おいおい……」

 

 一夏がようやく笑う。

 

「じゃ、俺帰るよ。門限破ってるし、千冬姉にばれたら殺されちまう」

「ま、がんばりなさい?」

「ああ」

 

 そういって一夏は病室を出ようとして。

 

「なあ、鈴、いつかの約束、俺なんて答えたっけ」

 

 そう、言った。

 

「……先送りよ。この朴念仁」

「ははは、悪い」

 

 一夏は苦笑して。

 

「なら、いつか必ず答えるから。今はまだ無理だけど」

 

 そうつぶやいて、足早に去った。

 

「……バカ」

 

 あとに残された私は、真っ赤になった顔をどうやって鎮めるか考えながら、枕に頭を降ろす。

 

「……どーしよ」

 

 今夜眠れるのかなぁ……

 




 台風恐ろしかったですね。家の前が川になっていました。年々強まっているような気がします。
 亡くなった方もおられるようで、ご冥福をお祈りします。皆様もご無事だといいのですが。

 さて、今回は一気にクラス対抗トーナメントまで飛びました。ちなみに優勝賞品云々のあたりまで書くとなんかグダグダになっていたのですっぱり切り落としました。
 ようは文才がないだけです。
 ゴーレムとの戦闘は大幅に改変。ゴーレムも改変。束が何で一夏に全力攻撃しているのかといえば、零落白夜を見たいからだったりします。最後以外使いませんでしたが。
 
 あと、一夏×鈴音が強くなってきましたが、まあ、波乱もあるでしょう。ラブコメが書けないだけですが。
 さて、次回からは2巻編に突入、鯉淵龍というイレギュラーが最も活躍すると思われます。
 では、次回もお付き合いいただけることを願って。
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